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「久しぶりじゃなぁ、エミリ。おまんは相変わらずかわいいのぅ」
木島玲は2メートルを超えるほどの長身の男だった。
格闘漫画の登場人物かな?と思うほど、筋骨隆々でもあった。
イルマは、そういえばこんな人も村にいたなと思った。
「ありがと。木島も全然変わってない……え?てか、何?そのおかしな言葉遣い。N弁ならまだわかるけど、なんでエセO弁なの?」
どうやら、姉の知る木島は比較的標準語に近い話し方をする男だったらしい。イルマが知る彼も、ときどきこの地方特有のイントネーションが出る程度のはずだった。
「木島さんは最近ガ○ニバルを観て大ハマリしはったんじゃ。俺たちの作業場のテレビでも1日中かかっとる。あれはいいドラマやぞ」
木島の舎弟のような小男が言う。
「ハマるの遅くない?因習村の村民が因習村のドラマ観てどうすんの?後藤家みたいに猟銃ぶっぱなすの?」
その男は、木島の肩に乗りそうなほど背の低い男だった。それくらい木島は大きかった。仮に木島が彼を肩に乗せたりすれば、別の漫画の実写ドラマになってしまいそうだったが。
「猟銃なんかこの村のもんは誰ももっとらんわ。まわりをよう見てみい、どこにも山なんかあらへん。最近流行りの熊どころか狼もおらんわ」
どうやらその小男は、ドラマの中で小人症の俳優が演じていた役回りを演じているようだった。
だから、小男と言っても150cmくらいはある。
「熊は流行ってるわけじゃないから。動物愛護団体がうるさいせいで熊狩りができなくなったから、年々数が増えてるのと、今年はどんぐりが不作で餌がないから、人里に餌を探しに下りてきてるだけ」
「そんなこまけぇことは知らん」
「のぅ、エミリ。山で冬眠してたり、どんぐりを食ってるようなかわいい奴らが、人里に下りた途端人の頭ばっかり爪でガッて狙ってくるんか?今年はハチミツもとれんのか?」
木島は肩に小男を乗せると姉にそう訊ねた。
「ハチミツって……どっちもDestiny+で見れるやつで被せにくるじゃん。てか、なんでその人肩に乗せるの?人間をやめた兄弟なの?あれはNetflexだよ?」
「ネットなんとか言うやつは、愛の不時着しかみとらんわ。木島さん、あれ観て大泣きしとったわ」
「かわいいかよ」
「N弁なんて今はもう誰も使っとらんじゃろ。使っとったのは、N市の前の市長くらいや。みゃーみゃーみゃーみゃー、大の大人が猫みたいに鳴きおって。あんなみっともない真似なんかできんわ」
「猫はにゃーでしょ」
「税金つこうて昔のままのN城を再建する言うてた奴のことや。バリアフリーにはせん、車椅子のもんは来んでええって言うとったな。あいつはうちらの祖先のこと馬鹿にしすぎじゃ。山ほどクレームの電話いれたったわ」
「めちゃくちゃカスハラしてるじゃん。あと、それっぽいことを言ったのは、あの人の部下だからね?あの人は止めなかっただけ。一応後で謝罪してたでしょ?」
「あんなの、わしらが毎日クレームの電話いれまくったから、仕方なく謝罪しおっただけじゃ。一度公の場で発した言葉は、謝罪や撤回したからって許されたりせえへん」
イルマはこれまで、一体どういう人たちが企業や市役所が機能停止するほどのカスハラをするのだろうと思っていた。
どうやらこういう人たちがやっていたらしい。
この手の人たちは不適切な発言の謝罪や発言を撤回しても許すことはない。きっと、それなりの金を渡されても、許すふりはしても完全に許したりはしないのだろう。
「あいつは、今衆議院だか参議院にいるんやろ?今でもみゃーみゃー言うとるんか?A県の恥や」
「スマホを1日2時間までっていう条例を作った市の市町に比べたらまだマシでしょ?あんなの、ゲームは1日1時間って言ってた親と変わんないんだから」
「なんやそれ?学歴詐称しとった市長のことか?」
「違う県の人になってるじゃん。ニュースくらいちゃんと見なよ」
「無理にきまっとろうが。作業場にはずっとガン○バルが流れとる言うたじゃろ」
姉は大きくため息をついた。
「玲くん、そろそろお願いしていい?」
「ええぞ。それより、萌衣、親父さんのことはほんとにええんか?セメントを流し込んだら、もう二度と会えんくなるぞ」
「いいよ。どうせもう、意志疎通することもできないんだから。白目病になる人を減らせるなら、父も本望だと思う」
「そうか。ならええ。じゃが、わしらの結婚式は、親父さんにも見てほしかったな」
「そうね。そういえばわたしたちは許嫁だったね。すっかり忘れてた」
「許嫁!?」
その言葉に驚かされたのは、イルマだけではなく姉もだった。
「エミリは知らんかったんか?足切神社は女しか生まれんかったら、木島家の男を婿にとるんじゃ。じゃから次の神主はわしぞ」
「男の子がいるときは兵頭家からお嫁さんをもらうんだけどね。木島家だけだと血が濃くなりすぎちゃうから。どっかの国の貴族みたいに顎がどんどんおかしくしゃくれていったり病弱になっていったりすると困るでしょ?」
兵頭家というのは、確か江戸時代にT藩の藩主から足切村の管理を任されていた武士の一族だった。足切村に子どもが生まれるたびに、その足を切り落としていた一族だ。
萌衣の父は左衛門の名を持っていた。
おそらく足切神社の正当な神主だけが左衛門の名を与えられるのだろう。
萌衣の母は兵頭家なら嫁入りした人だったのだろう。
萌衣は、あとのことは木島にすべて任せると言い、木島もまたすべてが終わったら連絡すると言った。
「その連絡は、母か萌歌か萌音にして。何か問題があったときだけ、エミリちゃんに電話をお願い。わたしはエミリちゃんとイルマくんの家にいるから」
萌衣は木島にそう言うと、行きましょうとイルマたちに言った。
「クリサリス・ウィルスは、この村に瘴気のように立ち込めてる。村ごと焼き払うくらいのことをしても、全部殺せるかわからないよ」
帰路の中で、イルマは萌衣にそう言った。
「今、玲くんの家でワクチンを作ってるから問題ないよ。あのウィルスは、水や土、空気の中でも生きられるけど、繁殖は人の体の中でしかできないの。一度白目病になった人は抗体を持ってるから、わたしたちに感染しても殺されるだけ。だから、白目病はわたしたちの世代で終わりなの」
ちゃんと考えているんだなと思った。
あの木島という男にワクチンが作れるかどうかはわからないが、
「ワクチンができたら結婚してあげるって言ってあるから、玲くんならきっとやってくれると思う」
彼やその手下たちのE.O.P.レベルが高ければ、そして、ちゃんとした設備さえあれば、ワクチンの開発も可能かもしれなかった。
木島玲は2メートルを超えるほどの長身の男だった。
格闘漫画の登場人物かな?と思うほど、筋骨隆々でもあった。
イルマは、そういえばこんな人も村にいたなと思った。
「ありがと。木島も全然変わってない……え?てか、何?そのおかしな言葉遣い。N弁ならまだわかるけど、なんでエセO弁なの?」
どうやら、姉の知る木島は比較的標準語に近い話し方をする男だったらしい。イルマが知る彼も、ときどきこの地方特有のイントネーションが出る程度のはずだった。
「木島さんは最近ガ○ニバルを観て大ハマリしはったんじゃ。俺たちの作業場のテレビでも1日中かかっとる。あれはいいドラマやぞ」
木島の舎弟のような小男が言う。
「ハマるの遅くない?因習村の村民が因習村のドラマ観てどうすんの?後藤家みたいに猟銃ぶっぱなすの?」
その男は、木島の肩に乗りそうなほど背の低い男だった。それくらい木島は大きかった。仮に木島が彼を肩に乗せたりすれば、別の漫画の実写ドラマになってしまいそうだったが。
「猟銃なんかこの村のもんは誰ももっとらんわ。まわりをよう見てみい、どこにも山なんかあらへん。最近流行りの熊どころか狼もおらんわ」
どうやらその小男は、ドラマの中で小人症の俳優が演じていた役回りを演じているようだった。
だから、小男と言っても150cmくらいはある。
「熊は流行ってるわけじゃないから。動物愛護団体がうるさいせいで熊狩りができなくなったから、年々数が増えてるのと、今年はどんぐりが不作で餌がないから、人里に餌を探しに下りてきてるだけ」
「そんなこまけぇことは知らん」
「のぅ、エミリ。山で冬眠してたり、どんぐりを食ってるようなかわいい奴らが、人里に下りた途端人の頭ばっかり爪でガッて狙ってくるんか?今年はハチミツもとれんのか?」
木島は肩に小男を乗せると姉にそう訊ねた。
「ハチミツって……どっちもDestiny+で見れるやつで被せにくるじゃん。てか、なんでその人肩に乗せるの?人間をやめた兄弟なの?あれはNetflexだよ?」
「ネットなんとか言うやつは、愛の不時着しかみとらんわ。木島さん、あれ観て大泣きしとったわ」
「かわいいかよ」
「N弁なんて今はもう誰も使っとらんじゃろ。使っとったのは、N市の前の市長くらいや。みゃーみゃーみゃーみゃー、大の大人が猫みたいに鳴きおって。あんなみっともない真似なんかできんわ」
「猫はにゃーでしょ」
「税金つこうて昔のままのN城を再建する言うてた奴のことや。バリアフリーにはせん、車椅子のもんは来んでええって言うとったな。あいつはうちらの祖先のこと馬鹿にしすぎじゃ。山ほどクレームの電話いれたったわ」
「めちゃくちゃカスハラしてるじゃん。あと、それっぽいことを言ったのは、あの人の部下だからね?あの人は止めなかっただけ。一応後で謝罪してたでしょ?」
「あんなの、わしらが毎日クレームの電話いれまくったから、仕方なく謝罪しおっただけじゃ。一度公の場で発した言葉は、謝罪や撤回したからって許されたりせえへん」
イルマはこれまで、一体どういう人たちが企業や市役所が機能停止するほどのカスハラをするのだろうと思っていた。
どうやらこういう人たちがやっていたらしい。
この手の人たちは不適切な発言の謝罪や発言を撤回しても許すことはない。きっと、それなりの金を渡されても、許すふりはしても完全に許したりはしないのだろう。
「あいつは、今衆議院だか参議院にいるんやろ?今でもみゃーみゃー言うとるんか?A県の恥や」
「スマホを1日2時間までっていう条例を作った市の市町に比べたらまだマシでしょ?あんなの、ゲームは1日1時間って言ってた親と変わんないんだから」
「なんやそれ?学歴詐称しとった市長のことか?」
「違う県の人になってるじゃん。ニュースくらいちゃんと見なよ」
「無理にきまっとろうが。作業場にはずっとガン○バルが流れとる言うたじゃろ」
姉は大きくため息をついた。
「玲くん、そろそろお願いしていい?」
「ええぞ。それより、萌衣、親父さんのことはほんとにええんか?セメントを流し込んだら、もう二度と会えんくなるぞ」
「いいよ。どうせもう、意志疎通することもできないんだから。白目病になる人を減らせるなら、父も本望だと思う」
「そうか。ならええ。じゃが、わしらの結婚式は、親父さんにも見てほしかったな」
「そうね。そういえばわたしたちは許嫁だったね。すっかり忘れてた」
「許嫁!?」
その言葉に驚かされたのは、イルマだけではなく姉もだった。
「エミリは知らんかったんか?足切神社は女しか生まれんかったら、木島家の男を婿にとるんじゃ。じゃから次の神主はわしぞ」
「男の子がいるときは兵頭家からお嫁さんをもらうんだけどね。木島家だけだと血が濃くなりすぎちゃうから。どっかの国の貴族みたいに顎がどんどんおかしくしゃくれていったり病弱になっていったりすると困るでしょ?」
兵頭家というのは、確か江戸時代にT藩の藩主から足切村の管理を任されていた武士の一族だった。足切村に子どもが生まれるたびに、その足を切り落としていた一族だ。
萌衣の父は左衛門の名を持っていた。
おそらく足切神社の正当な神主だけが左衛門の名を与えられるのだろう。
萌衣の母は兵頭家なら嫁入りした人だったのだろう。
萌衣は、あとのことは木島にすべて任せると言い、木島もまたすべてが終わったら連絡すると言った。
「その連絡は、母か萌歌か萌音にして。何か問題があったときだけ、エミリちゃんに電話をお願い。わたしはエミリちゃんとイルマくんの家にいるから」
萌衣は木島にそう言うと、行きましょうとイルマたちに言った。
「クリサリス・ウィルスは、この村に瘴気のように立ち込めてる。村ごと焼き払うくらいのことをしても、全部殺せるかわからないよ」
帰路の中で、イルマは萌衣にそう言った。
「今、玲くんの家でワクチンを作ってるから問題ないよ。あのウィルスは、水や土、空気の中でも生きられるけど、繁殖は人の体の中でしかできないの。一度白目病になった人は抗体を持ってるから、わたしたちに感染しても殺されるだけ。だから、白目病はわたしたちの世代で終わりなの」
ちゃんと考えているんだなと思った。
あの木島という男にワクチンが作れるかどうかはわからないが、
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