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木島はすでに木村のすぐそばまで来ていた。
姉に呼ばれたことが嬉しかったのか、ひとりきりだった。肩に小男は乗せていなかった。
身長も2メートルを超えてはいなかった。筋肉の塊のような体でもなくなっていた。
175cmほどの華奢な優男だった。おかしなエセO弁も使ってはいなかった。
1日でここまで印象が変わるのかと思うほどイメージが変わっていた。
インターホンは鳴らなかった。
玄関のドアが開けっ放しになっていたのかもしれない。
何かが起きている、ただ事ではないと気付き、駆けつけてくれたのかもしれない。
「こいつか?エミリ。お前らを殺しに来たやべー奴ってのは」
イルマは木村壮介の狙いがこの瞬間だったことに気づいた。
木村は木島が来ることを知っていたからだ。
姉が目の前で電話をかけていた。
電話をかけるよう姉に頼んだのはイルマ自身だった。
「カノニカル・ファイブ。この男の五臓を停止しろ」
木島には木村のギフトが効く。効いてしまう。
木島を人質にとられてしまったら、形勢は逆転させられてしまう。
「ニュー・ワールド・メイカー!!」
イルマは木島の体を、姉や萌衣と同じ状態にしようとした。
五臓六腑すべてを、「○○のようなもの」に変える。
ただそれだけのことだ。
一瞬だけでいい。木村のカノニカル・ファイブより一瞬早くニュー・ワールド・メイカーが効いてくれればそれでよかった。それだけで、形勢は維持できる。
間に合え、間に合え、間に合え、間に合え。
「ニュー・ワールド・メイカー?なんだそれ?あぁ、お前のギフトの名前か。だせえな」
間に合った。
木島の五臓六腑は、機能はそのままに、部屋のあちこちにインテリアのようなものとして散らばった。
「またかっ。なんで五臓がなくなってる?」
「五臓?なんの話だ?エミリの弟が俺に何かしたのか?」
「あんたのギフトは5つの共通点を見つけさえすればいいんだろ?五臓六腑以外の共通点をちゃんと見つければ効くんだよ」
木村は、五臓六腑という分かりやすい共通点に頼りすぎていた。
それが、木村の敗因だった。
「お前のギフトと俺のギフトはとことん相性が悪いらしいな」
「ぼくも、あんたはぼくに負けるために出てきたんじゃないかって思うよ」
本当にそうじゃないかと思うほど、木村にとってイルマのギフトは悪かった。
「なぁ、エミリ、こいつを警察に送っちまえばいいんだよな?」
「そう。うちと警察の緯度と経度はわかる?」
「ちゃんと調べてきてるぞ。いつでも送れる」
「おいっ!警察はやめろ!鵜山に殺される!そんなことをすれば、俺は警察の連中を一人残らず殺すぞ」
殺せるはずがなかった。
木村にはギフトで人を仮死状態にすることはできても、殺すことはできない。
殺すためには武器が必要だ。
元自衛官である木村なら、素手で人を殺せるかもしれなかったが。
「あんたは熊とか狼じゃねぇよなぁ?日本語がちゃんとわかる人間様なんだよなぁ?」
「当たり前だろ、何を言ってやがる」
「だったら、お前が警察で何をしたとしても、その責任は俺たちにはねぇよ。それはお前の意思だ。俺たちが命令したわけでも、頼んだでもない」
木村は素手で人を殺せるかもしれない。だが、それは警察官たちも同じだ。警察学校でそれくらいの訓練は積んでいるはずだ。むしろ現役の警察官たちの方が木村より強いくらいだろう。
「止めなかったらお前たちも同罪だぞ!」
本当にそうだろうか?イルマは思った。
木島が木村を警察署に飛ばし、それによって彼が警察官を殺したとして、それは自分たちの責任だろうか。
この男をこの場で殺すことや、殺したくないからといって監禁したり、あるいは見逃すことが正しい行いなのだろうか。
木島はじっと相手を見据え、
「知らねぇよ。好きにしろ」
低く言い放った。
「お前たちも同罪?それは、いじめかなんかの話か?そういうこと言う教師がいたけどよぉ、みんな自分の身を守るだけで精一杯だってことくらい、教師ならわかるもんだよなぁ?あいつらだって、学生の頃はそうだったはずだ。あれ、なんでわからねぇんだろなぁ?そういう風に教えろ、言えっていうマニュアルかなんかあんのかなぁ?あ、もしかしてお前教師か?教師が人を殺しに来ちゃいけないよなぁ」
木島は足元に落ちていた扇子のようなものを手に取ると、木村の頬をぺちぺちと叩きながら言った。
その扇子のようなものは、先ほどイルマが変化させた彼の心臓そのものだった。
自分の能力を理解した今、イルマだけにはそれが彼の心臓だとわかった。
「こっちは守りてぇ奴らを守るだけだ。お前がこれからどうするかどうなるか、俺が面倒見る気はねぇよ。まぁ、でも一応言っておくとするか。警察は殺さない方がいいぞ。お前のためにもな。よし、これで俺たちにはもう何の責任もねぇからな」
木島は肩を回して、苛立ち混じりに笑う。
「お前が警察官をこれから殺すとしても、俺たちが同罪かどうかは、てめえが裁判かなんかで言って裁判官か誰かに聞けばいい。俺は今やるべきことをやるだけだ」
空気が歪みはじめていた。
視界が裂け、村戸家の床に経度や緯度の線が走った。
ーーカルナバル・バベル。
木島玲は、そのギフトで躊躇なく木村壮介を警察へ転移させた。
彼の手は、守るべき者、イルマの姉のエミリや萌衣のために、驚くほど冷たく、驚くほど確かだった。
木村が消えてしばらくした頃、イルマは五臓六腑を使って作り出した甲冑を解除し、皆の五臓六腑にかけていたギフトも解除した。
「あんまり無茶はするなよ。俺はお前たちに呼ばれればいつでも助けにくるつもりだが、そうもいかないこともあるかもしれないからな」
木島が去った後、姉はホワイトボードのようなものに、大きくチェックマークを書いた。
チェックマークは、木村学の遺体についての情報につけられた。
勿論、解決済みという意味だ。
「遺体の3人目は、小林亮太、58歳。観光NPOの代表」
姉がそう話しはじめ、イルマはまだ続ける気かと大きくため息をついた。
それは萌衣も同じだった。
「犯人は厩戸見市の議員。補助金の横領を知ってしまったために消されちゃった……みたいだけど、どうする?今日はもうやめとく?」
姉もさすがに疲れたのだろう。
捜査会議のまねごとを再開したかと思うと、すぐにそんなことを言った。
「そうだね、今日はもうやめよっか」
萌衣の顔はひどく疲れていた。
仮死状態にされ、殺されかけたのだ。無理もなかった。
姉に呼ばれたことが嬉しかったのか、ひとりきりだった。肩に小男は乗せていなかった。
身長も2メートルを超えてはいなかった。筋肉の塊のような体でもなくなっていた。
175cmほどの華奢な優男だった。おかしなエセO弁も使ってはいなかった。
1日でここまで印象が変わるのかと思うほどイメージが変わっていた。
インターホンは鳴らなかった。
玄関のドアが開けっ放しになっていたのかもしれない。
何かが起きている、ただ事ではないと気付き、駆けつけてくれたのかもしれない。
「こいつか?エミリ。お前らを殺しに来たやべー奴ってのは」
イルマは木村壮介の狙いがこの瞬間だったことに気づいた。
木村は木島が来ることを知っていたからだ。
姉が目の前で電話をかけていた。
電話をかけるよう姉に頼んだのはイルマ自身だった。
「カノニカル・ファイブ。この男の五臓を停止しろ」
木島には木村のギフトが効く。効いてしまう。
木島を人質にとられてしまったら、形勢は逆転させられてしまう。
「ニュー・ワールド・メイカー!!」
イルマは木島の体を、姉や萌衣と同じ状態にしようとした。
五臓六腑すべてを、「○○のようなもの」に変える。
ただそれだけのことだ。
一瞬だけでいい。木村のカノニカル・ファイブより一瞬早くニュー・ワールド・メイカーが効いてくれればそれでよかった。それだけで、形勢は維持できる。
間に合え、間に合え、間に合え、間に合え。
「ニュー・ワールド・メイカー?なんだそれ?あぁ、お前のギフトの名前か。だせえな」
間に合った。
木島の五臓六腑は、機能はそのままに、部屋のあちこちにインテリアのようなものとして散らばった。
「またかっ。なんで五臓がなくなってる?」
「五臓?なんの話だ?エミリの弟が俺に何かしたのか?」
「あんたのギフトは5つの共通点を見つけさえすればいいんだろ?五臓六腑以外の共通点をちゃんと見つければ効くんだよ」
木村は、五臓六腑という分かりやすい共通点に頼りすぎていた。
それが、木村の敗因だった。
「お前のギフトと俺のギフトはとことん相性が悪いらしいな」
「ぼくも、あんたはぼくに負けるために出てきたんじゃないかって思うよ」
本当にそうじゃないかと思うほど、木村にとってイルマのギフトは悪かった。
「なぁ、エミリ、こいつを警察に送っちまえばいいんだよな?」
「そう。うちと警察の緯度と経度はわかる?」
「ちゃんと調べてきてるぞ。いつでも送れる」
「おいっ!警察はやめろ!鵜山に殺される!そんなことをすれば、俺は警察の連中を一人残らず殺すぞ」
殺せるはずがなかった。
木村にはギフトで人を仮死状態にすることはできても、殺すことはできない。
殺すためには武器が必要だ。
元自衛官である木村なら、素手で人を殺せるかもしれなかったが。
「あんたは熊とか狼じゃねぇよなぁ?日本語がちゃんとわかる人間様なんだよなぁ?」
「当たり前だろ、何を言ってやがる」
「だったら、お前が警察で何をしたとしても、その責任は俺たちにはねぇよ。それはお前の意思だ。俺たちが命令したわけでも、頼んだでもない」
木村は素手で人を殺せるかもしれない。だが、それは警察官たちも同じだ。警察学校でそれくらいの訓練は積んでいるはずだ。むしろ現役の警察官たちの方が木村より強いくらいだろう。
「止めなかったらお前たちも同罪だぞ!」
本当にそうだろうか?イルマは思った。
木島が木村を警察署に飛ばし、それによって彼が警察官を殺したとして、それは自分たちの責任だろうか。
この男をこの場で殺すことや、殺したくないからといって監禁したり、あるいは見逃すことが正しい行いなのだろうか。
木島はじっと相手を見据え、
「知らねぇよ。好きにしろ」
低く言い放った。
「お前たちも同罪?それは、いじめかなんかの話か?そういうこと言う教師がいたけどよぉ、みんな自分の身を守るだけで精一杯だってことくらい、教師ならわかるもんだよなぁ?あいつらだって、学生の頃はそうだったはずだ。あれ、なんでわからねぇんだろなぁ?そういう風に教えろ、言えっていうマニュアルかなんかあんのかなぁ?あ、もしかしてお前教師か?教師が人を殺しに来ちゃいけないよなぁ」
木島は足元に落ちていた扇子のようなものを手に取ると、木村の頬をぺちぺちと叩きながら言った。
その扇子のようなものは、先ほどイルマが変化させた彼の心臓そのものだった。
自分の能力を理解した今、イルマだけにはそれが彼の心臓だとわかった。
「こっちは守りてぇ奴らを守るだけだ。お前がこれからどうするかどうなるか、俺が面倒見る気はねぇよ。まぁ、でも一応言っておくとするか。警察は殺さない方がいいぞ。お前のためにもな。よし、これで俺たちにはもう何の責任もねぇからな」
木島は肩を回して、苛立ち混じりに笑う。
「お前が警察官をこれから殺すとしても、俺たちが同罪かどうかは、てめえが裁判かなんかで言って裁判官か誰かに聞けばいい。俺は今やるべきことをやるだけだ」
空気が歪みはじめていた。
視界が裂け、村戸家の床に経度や緯度の線が走った。
ーーカルナバル・バベル。
木島玲は、そのギフトで躊躇なく木村壮介を警察へ転移させた。
彼の手は、守るべき者、イルマの姉のエミリや萌衣のために、驚くほど冷たく、驚くほど確かだった。
木村が消えてしばらくした頃、イルマは五臓六腑を使って作り出した甲冑を解除し、皆の五臓六腑にかけていたギフトも解除した。
「あんまり無茶はするなよ。俺はお前たちに呼ばれればいつでも助けにくるつもりだが、そうもいかないこともあるかもしれないからな」
木島が去った後、姉はホワイトボードのようなものに、大きくチェックマークを書いた。
チェックマークは、木村学の遺体についての情報につけられた。
勿論、解決済みという意味だ。
「遺体の3人目は、小林亮太、58歳。観光NPOの代表」
姉がそう話しはじめ、イルマはまだ続ける気かと大きくため息をついた。
それは萌衣も同じだった。
「犯人は厩戸見市の議員。補助金の横領を知ってしまったために消されちゃった……みたいだけど、どうする?今日はもうやめとく?」
姉もさすがに疲れたのだろう。
捜査会議のまねごとを再開したかと思うと、すぐにそんなことを言った。
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