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#57
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体の内側から全長2メートル強の「四角錐台」に貫かれた鞍馬は、もうその言葉を聞いてはいなかった。
彼女はすでに息絶えていたからだった。
「姉さん……」
「エミリちゃん……?あなた、何をしたのかわかってるの……」
「何が? わたしはこいつを殺してないよ。殺したのはそこの男の人、藤島大地さん。あ、足切池から出てきた死体のうちのひとつ、田中大輔さんを殺した人だよ。『救済のため』という、わけわかんない理屈でね」
「わけわかんない理屈っていうのは心外だな」
藤島は、オベリスクを解除すると、少し不機嫌そうにそう言った。
「実際には自殺教唆だったわけだけどね。素雲教の人で、わたしを欲しがってたから、死んだふりをして協力してくれるならいいよって話してたの」
姉はそう説明したが、何も理解してはいなかった。
鞍馬葉子によって命を繋ぎ止められていただけの自分たちが、彼女の死やギフトの焼失によって一体どうなるのかを、何もわかっていなかった。
イルマも姉も、木島も死体に戻ってしまうかもしれないというのに。
神の目を持つ姉らしくなかった。
「あいつは、大輔は、俺のいとこで親友だった。うちはそうじゃなかったけど、大輔の家はこどもの頃から異常だった。父親を早くに亡くしてて、心を病んだ母親が宗教ーー千のコスモの会にどっぷりのめり込んじまったんだ。最近流行りの宗教二世ってやつだよ。そのせいで田中家はこの村から出ていくことになった」
千のコスモの会は、教祖を現人神としており、この世界や宇宙を作った唯一神そのものであるとしているからだろう。
田中大輔の母親は、足切様の下で暮らすことはできなかったのだ。
「土地神とはいえ、足切様の存在を許すわけにはいかなかったのね」
萌衣も同じことを考えていたらしい。
「足切神社の巫女が偉そうに何を言ってんだ? 大輔たちは出ていったわけじゃない。この村から追い出されたんだ。追い出したのは先代の神主だぞ」
だが、現実はどうやら違っていたらしい。
現在の神主は姿を消した今でもあくまで萌衣の父親だ。
だから田中家を追い出したの先代神主は萌衣の祖父ということになるのだろう。
「足切様だけじゃなく、ヨミテラスやイザナミ、ヒルコ、アハシマ、カグツチ、アマツミカボシ、ヨミノミナカヌシ、クライムスヒ、シズムスヒ、黄泉路の神々の名前を出してな。ヨミテラスやヨミノミナカヌシってやつは、神道のアマテラスやアメノミナカヌシみたいなもんなんだろ?」
木島家や兵頭家も一緒になって、田中家を追い詰めたそうだった。
足切神社は女しか生まれなかったら、木島家の男子を婿にとる。
兵藤家は江戸時代にT藩の藩主から足切村の管理を任されていた武士の一族であり、足切村に子どもが生まれるたびに、その足を切り落としていた一族だったが、同時に足切神社に男しか生まれなかったら兵藤家から女子を嫁をとることになっていた。
「足切様や他の根の国の神々の存在を否定するなら、この村から出ていけって言われてな、足切神社の当時の神主は、お前のじいさんは、氏子だった田中家の土地と家を安く買い叩いた。まだお前が生まれる前の話だ」
「萌衣のおじいさんの何が悪いの?どうせ、すべて教団に献金するお金でしょ?」
「確かに千のコスモの会に洗脳された大輔の母親は、全財産のすべてを教団に献金した。だからといって、お前の祖父がしたことが許されるわけじゃない。ただでさえ安い土地や家をもっと安く買い叩いたんだからな。大輔は母親が献金する前にその金を持って教団や母親から逃げるつもりだったんだ」
田中大輔は、その母親とは離れて暮らすようになったが、ずっと金の無心をされ続けていたそうだ。
母親や教団や、教団とズブズブの関係だった政党、それに本来ならその関係性を暴く立場でありながら何もしなかったマスコミやジャーナリストを恨みながらも、決して復讐することを考えなかったという。
彼が復讐を考えていたのは足切神社だったそうだ。
「あんたがさっきから言ってるのは、ただの逆恨みでしょ?田中大輔の代わりに萌衣に復讐でもするつもり?」
「俺が復讐したいのは足切神社の連中だけじゃない。ここにいる全員だよ。村戸エミリに村戸イルマ、お前も俺の敵だ」
「それがわけわかんない理屈だって言ってるんだよ。親戚だったなら、あんたやあんたの親が助けてやればよかっただけ」
「リノベーションされてるが、この家に大輔たちは住んでた。それでもそう思うか?」
人は本当にどこで恨みを買うかわからないものだった。
だが、イルマや萌衣が先ほどから心配しているのはそんなことではなかった。
姉は藤島大地に、ギフトを使って人を殺させたのだ。
彼がパンデミックのときにワクチンを接種していたのだとしたら、彼の脳内には犯罪行為のスコアを監視するナノマシンが存在することになる。
田中大輔への自殺教唆ではスコア減点で済んだかもしれない。
だが、今回は間違いなく殺人だった。
藤島大地はその頭からボッと火があがり、その体は人体発火を始めた。
人体発火は、ワクチンのナノマシンとは関係なく世界中で確認されており、その死体には共通点がある。
その共通点とは、火は肉体や衣服を燃やし炭化させるが、家屋など他のものに燃え移ることが全くないということだ。
藤島の体も、それらの例と同じように村戸家に火が燃え移ることなく炭になった。
もしかしたら、姉は最初からそこまで計算していたのかもしれない。
鞍馬葉子と藤島大地を両方始末するにはその方法しかなかったからだった。
イルマや姉は、鞍馬葉子の死後どころか、人体発火した藤島が炭になっても死体に戻ることはなかった。
萌衣が言っていたように、イルマも姉も鞍馬のギフトによって命を繋ぎ止められたが、人格までは奪われずギフトにも目覚めていた。
萌衣は、ふたりについて、人を超える存在になったと言っていた。
人を超える存在とまではいかなくとも、鞍馬葉子の支配下から免れることやそのギフトの効果が切れても死体には戻らずに済む状態になっていたのかもしれなかった。
そしてそれは、茶川ひよりによる入れ知恵かもしれないと思った。
未来予知のギフトを持っているひよりなら、イルマや姉が死体に戻ることがないことを知っていたのかもしれなかった。
彼女はすでに息絶えていたからだった。
「姉さん……」
「エミリちゃん……?あなた、何をしたのかわかってるの……」
「何が? わたしはこいつを殺してないよ。殺したのはそこの男の人、藤島大地さん。あ、足切池から出てきた死体のうちのひとつ、田中大輔さんを殺した人だよ。『救済のため』という、わけわかんない理屈でね」
「わけわかんない理屈っていうのは心外だな」
藤島は、オベリスクを解除すると、少し不機嫌そうにそう言った。
「実際には自殺教唆だったわけだけどね。素雲教の人で、わたしを欲しがってたから、死んだふりをして協力してくれるならいいよって話してたの」
姉はそう説明したが、何も理解してはいなかった。
鞍馬葉子によって命を繋ぎ止められていただけの自分たちが、彼女の死やギフトの焼失によって一体どうなるのかを、何もわかっていなかった。
イルマも姉も、木島も死体に戻ってしまうかもしれないというのに。
神の目を持つ姉らしくなかった。
「あいつは、大輔は、俺のいとこで親友だった。うちはそうじゃなかったけど、大輔の家はこどもの頃から異常だった。父親を早くに亡くしてて、心を病んだ母親が宗教ーー千のコスモの会にどっぷりのめり込んじまったんだ。最近流行りの宗教二世ってやつだよ。そのせいで田中家はこの村から出ていくことになった」
千のコスモの会は、教祖を現人神としており、この世界や宇宙を作った唯一神そのものであるとしているからだろう。
田中大輔の母親は、足切様の下で暮らすことはできなかったのだ。
「土地神とはいえ、足切様の存在を許すわけにはいかなかったのね」
萌衣も同じことを考えていたらしい。
「足切神社の巫女が偉そうに何を言ってんだ? 大輔たちは出ていったわけじゃない。この村から追い出されたんだ。追い出したのは先代の神主だぞ」
だが、現実はどうやら違っていたらしい。
現在の神主は姿を消した今でもあくまで萌衣の父親だ。
だから田中家を追い出したの先代神主は萌衣の祖父ということになるのだろう。
「足切様だけじゃなく、ヨミテラスやイザナミ、ヒルコ、アハシマ、カグツチ、アマツミカボシ、ヨミノミナカヌシ、クライムスヒ、シズムスヒ、黄泉路の神々の名前を出してな。ヨミテラスやヨミノミナカヌシってやつは、神道のアマテラスやアメノミナカヌシみたいなもんなんだろ?」
木島家や兵頭家も一緒になって、田中家を追い詰めたそうだった。
足切神社は女しか生まれなかったら、木島家の男子を婿にとる。
兵藤家は江戸時代にT藩の藩主から足切村の管理を任されていた武士の一族であり、足切村に子どもが生まれるたびに、その足を切り落としていた一族だったが、同時に足切神社に男しか生まれなかったら兵藤家から女子を嫁をとることになっていた。
「足切様や他の根の国の神々の存在を否定するなら、この村から出ていけって言われてな、足切神社の当時の神主は、お前のじいさんは、氏子だった田中家の土地と家を安く買い叩いた。まだお前が生まれる前の話だ」
「萌衣のおじいさんの何が悪いの?どうせ、すべて教団に献金するお金でしょ?」
「確かに千のコスモの会に洗脳された大輔の母親は、全財産のすべてを教団に献金した。だからといって、お前の祖父がしたことが許されるわけじゃない。ただでさえ安い土地や家をもっと安く買い叩いたんだからな。大輔は母親が献金する前にその金を持って教団や母親から逃げるつもりだったんだ」
田中大輔は、その母親とは離れて暮らすようになったが、ずっと金の無心をされ続けていたそうだ。
母親や教団や、教団とズブズブの関係だった政党、それに本来ならその関係性を暴く立場でありながら何もしなかったマスコミやジャーナリストを恨みながらも、決して復讐することを考えなかったという。
彼が復讐を考えていたのは足切神社だったそうだ。
「あんたがさっきから言ってるのは、ただの逆恨みでしょ?田中大輔の代わりに萌衣に復讐でもするつもり?」
「俺が復讐したいのは足切神社の連中だけじゃない。ここにいる全員だよ。村戸エミリに村戸イルマ、お前も俺の敵だ」
「それがわけわかんない理屈だって言ってるんだよ。親戚だったなら、あんたやあんたの親が助けてやればよかっただけ」
「リノベーションされてるが、この家に大輔たちは住んでた。それでもそう思うか?」
人は本当にどこで恨みを買うかわからないものだった。
だが、イルマや萌衣が先ほどから心配しているのはそんなことではなかった。
姉は藤島大地に、ギフトを使って人を殺させたのだ。
彼がパンデミックのときにワクチンを接種していたのだとしたら、彼の脳内には犯罪行為のスコアを監視するナノマシンが存在することになる。
田中大輔への自殺教唆ではスコア減点で済んだかもしれない。
だが、今回は間違いなく殺人だった。
藤島大地はその頭からボッと火があがり、その体は人体発火を始めた。
人体発火は、ワクチンのナノマシンとは関係なく世界中で確認されており、その死体には共通点がある。
その共通点とは、火は肉体や衣服を燃やし炭化させるが、家屋など他のものに燃え移ることが全くないということだ。
藤島の体も、それらの例と同じように村戸家に火が燃え移ることなく炭になった。
もしかしたら、姉は最初からそこまで計算していたのかもしれない。
鞍馬葉子と藤島大地を両方始末するにはその方法しかなかったからだった。
イルマや姉は、鞍馬葉子の死後どころか、人体発火した藤島が炭になっても死体に戻ることはなかった。
萌衣が言っていたように、イルマも姉も鞍馬のギフトによって命を繋ぎ止められたが、人格までは奪われずギフトにも目覚めていた。
萌衣は、ふたりについて、人を超える存在になったと言っていた。
人を超える存在とまではいかなくとも、鞍馬葉子の支配下から免れることやそのギフトの効果が切れても死体には戻らずに済む状態になっていたのかもしれなかった。
そしてそれは、茶川ひよりによる入れ知恵かもしれないと思った。
未来予知のギフトを持っているひよりなら、イルマや姉が死体に戻ることがないことを知っていたのかもしれなかった。
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