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藤島大地による鞍馬葉子殺害と、藤島大地の人体発火から1ヶ月が過ぎた。
イルマはふたりの死体を、電動キックボードに乗っていた工藤明と同じように『時間という概念が存在しない世界のようなもの』と同じ世界に取り込んでいた。
そのため、足切池から発見された9体の遺体のうち、その犯人のうちの2人は警察に逮捕させることができていたが、3人はイルマの体の中にいるという状況だった。
12月も終わりにさしかかっていた。
イルマは毎年恒例の姉のちょっとエッチなハロウィンコスプレやミニスカサンタのコスプレを楽しみにしていた。
今年は萌衣のそんな格好が見れるかもしれないと楽しみにしていたのだが、今年はハロウィンもクリスマスもパーティーは行われなかった。
ハロウィンの日、ピンポーンとドアベルが鳴ったので、イルマが姉か萌衣だろうと思い、モニターを確認せずにドアを開けた。
すると、そこには仮装なのか本気なのかわからない、不思議な格好の男が立っていた。
「ハッピーハロウィン! ああ、そのパンプキン、ナイス・アメイジングですね!ところで、『未来から来た英語教材』、体験されませんか?」
見たことも聞いたこともない英語教材の訪問販売の営業マンは、いきなり村戸家にやってきては、イルマにそんなことを言ってきた。
全身銀タイツの上に、なぜか銀のジャケットを羽織り、ハットを被っていた。全身タイツだからいいと思っるのか、シャツも着ていなければネクタイもしておらず、ズボンすら履いてはいなかった。なぜか靴と靴下は履いていたが、どちらもやはり銀色だった。
「こちら『未来形タイムトラベル英語』! なんと、過去・現在・未来の時制を未来から逆算して覚えるというレボリューション的なイングリッシュラーニング法です! つまり、明日の出来事を今日覚え、昨日の記憶を明日整理するんです!」
名前は的場修一(まとば しゅういち)。年齢は28歳。イルマより一回り年上の男だった。
全身銀色だったのは、未来人という設定なのだろうか。
イルマは思わず身構えた。
そんな英語教材があるわけがなかったからだ。
いくらハロウィンとはいえ、そんな格好で訪問販売に来る営業マンがいるわけがないと思ったからだった。
素雲教の人間か、警察の人間だと思った。
『神の目』を持つ姉を捕獲しにきた犠巫徒だと思った。
「ほら、このページをご覧ください。例えば『I ate pizza yesterday.』を、未来からタイムトラベルして、『I will have eaten pizza yesterday.』と書き換えるだけで、過去・現在・未来が一瞬でブレイン・バンクにインプットされるはずです!」
『I ate pizza yesterday.』は、「私は昨日ピザを食べた」だろう。それくらいは英語が苦手なイルマでも理解できた。
eat の過去形である ate で、昨日という過去の出来事を表しており、ごく普通の過去の事実について述べているだけだ。
だが、『I will have eaten pizza yesterday.』、これがイルマにはよくわからなかった。
直訳すると「私は昨日までにピザを食べ終えているだろう」だろうか?
will have + 過去分詞(eaten) は確か、未来のある時点までに完了していることを表す「未来完了形」と呼ばれるものだ。
だが、そこに yesterday(昨日) が入っているため、時間軸がめちゃくちゃになって、意味がわからなくなっていた。
いや、一応意味はわかるのだが、「昨日までにピザを食べ終えているだろう」というのは、それはもう食べた記憶すらなくしていないか? と思ったのだ。
ばあさんや、お昼ご飯はまだかのう?
何を言ってるんですか、お昼ならさっき食べましたよ。
という、認知症のじいさんを介護するばあさんの姿がイルマの頭に浮かんだ。
そして、じいさんがこう言うのだ。
ワシは今日の1時までにピザを食べ終えているのじゃな、と。
「これ、文法的にはおそらく間違いではないんでしょうが、普通の英会話では使えないんじゃないですか? 未来完了形と過去の副詞が混ざった奇妙な文になってしまいますよね?」
的場修一は不敵な笑みを浮かべながら、
「ええ、ちょっと混乱するかもしれません。でも、未来から来た私が保証します、楽しさだけは間違いないです!」
そう言い、
「しかも副教材として、未来の新聞記事を読んで『こうなる前に覚えよう』なんて遊びもあります。完全に時間旅行感覚で、あなたの英語力は時空を超えて成長します!」
イルマの問いに答える気はまったくないようだったから、ため息をつかざるを得なかった。
そして、もし的場が犠巫徒でないとしたら、自分からわざわざこの村にやってくるなんて、残念な人だと思った。
この村に数時間いるだけでも、白目病に感染する可能性が高いからだ。
白目病は、ウィルス性の若年性白内障といっても過言ではない風土病だ。白内障の手術で使われる眼内レンズでは完治せず、E.O.P.レンズの手術が必要になる。その手術はイルマがかかったK病院でしか行われていないという話だった。
この村は、新聞配達員や郵便局員、宅配便の担当者が変わりやすかった。おそらくほとんどの者が失明してしまったのだろう。
的場がどこに住んでいるかは知らないが、おそらく厩戸見市内ではないだろう。かかりつけ医は別の病院だろうから、白内障の手術を受けることはできても、E.O.P.レンズの手術を受けることはできない。間違いなく失明する。
そこまでのリスクを追って、意味のわからない英語教材を売りにきた彼をイルマは不憫に思った。
だからだろうか?
「あなたの通っている高校、厩戸見高校ですよね?」
その瞬間、的場修一の目付きが変わった。
「あの高校はお金持ちの家の子供が多い。親が中小企業の社長だったりして、将来がすでに決まっている人が多いんです。これからの時代、英語が出来ないと社会では通用しません。まわりと同じ感覚でいると、後々後悔しますよ」
まるで、一瞬にして人が変わったかのようだった。
全身銀色の衣装に身を包んだ男が言う台詞ではなかった。
イルマはふたりの死体を、電動キックボードに乗っていた工藤明と同じように『時間という概念が存在しない世界のようなもの』と同じ世界に取り込んでいた。
そのため、足切池から発見された9体の遺体のうち、その犯人のうちの2人は警察に逮捕させることができていたが、3人はイルマの体の中にいるという状況だった。
12月も終わりにさしかかっていた。
イルマは毎年恒例の姉のちょっとエッチなハロウィンコスプレやミニスカサンタのコスプレを楽しみにしていた。
今年は萌衣のそんな格好が見れるかもしれないと楽しみにしていたのだが、今年はハロウィンもクリスマスもパーティーは行われなかった。
ハロウィンの日、ピンポーンとドアベルが鳴ったので、イルマが姉か萌衣だろうと思い、モニターを確認せずにドアを開けた。
すると、そこには仮装なのか本気なのかわからない、不思議な格好の男が立っていた。
「ハッピーハロウィン! ああ、そのパンプキン、ナイス・アメイジングですね!ところで、『未来から来た英語教材』、体験されませんか?」
見たことも聞いたこともない英語教材の訪問販売の営業マンは、いきなり村戸家にやってきては、イルマにそんなことを言ってきた。
全身銀タイツの上に、なぜか銀のジャケットを羽織り、ハットを被っていた。全身タイツだからいいと思っるのか、シャツも着ていなければネクタイもしておらず、ズボンすら履いてはいなかった。なぜか靴と靴下は履いていたが、どちらもやはり銀色だった。
「こちら『未来形タイムトラベル英語』! なんと、過去・現在・未来の時制を未来から逆算して覚えるというレボリューション的なイングリッシュラーニング法です! つまり、明日の出来事を今日覚え、昨日の記憶を明日整理するんです!」
名前は的場修一(まとば しゅういち)。年齢は28歳。イルマより一回り年上の男だった。
全身銀色だったのは、未来人という設定なのだろうか。
イルマは思わず身構えた。
そんな英語教材があるわけがなかったからだ。
いくらハロウィンとはいえ、そんな格好で訪問販売に来る営業マンがいるわけがないと思ったからだった。
素雲教の人間か、警察の人間だと思った。
『神の目』を持つ姉を捕獲しにきた犠巫徒だと思った。
「ほら、このページをご覧ください。例えば『I ate pizza yesterday.』を、未来からタイムトラベルして、『I will have eaten pizza yesterday.』と書き換えるだけで、過去・現在・未来が一瞬でブレイン・バンクにインプットされるはずです!」
『I ate pizza yesterday.』は、「私は昨日ピザを食べた」だろう。それくらいは英語が苦手なイルマでも理解できた。
eat の過去形である ate で、昨日という過去の出来事を表しており、ごく普通の過去の事実について述べているだけだ。
だが、『I will have eaten pizza yesterday.』、これがイルマにはよくわからなかった。
直訳すると「私は昨日までにピザを食べ終えているだろう」だろうか?
will have + 過去分詞(eaten) は確か、未来のある時点までに完了していることを表す「未来完了形」と呼ばれるものだ。
だが、そこに yesterday(昨日) が入っているため、時間軸がめちゃくちゃになって、意味がわからなくなっていた。
いや、一応意味はわかるのだが、「昨日までにピザを食べ終えているだろう」というのは、それはもう食べた記憶すらなくしていないか? と思ったのだ。
ばあさんや、お昼ご飯はまだかのう?
何を言ってるんですか、お昼ならさっき食べましたよ。
という、認知症のじいさんを介護するばあさんの姿がイルマの頭に浮かんだ。
そして、じいさんがこう言うのだ。
ワシは今日の1時までにピザを食べ終えているのじゃな、と。
「これ、文法的にはおそらく間違いではないんでしょうが、普通の英会話では使えないんじゃないですか? 未来完了形と過去の副詞が混ざった奇妙な文になってしまいますよね?」
的場修一は不敵な笑みを浮かべながら、
「ええ、ちょっと混乱するかもしれません。でも、未来から来た私が保証します、楽しさだけは間違いないです!」
そう言い、
「しかも副教材として、未来の新聞記事を読んで『こうなる前に覚えよう』なんて遊びもあります。完全に時間旅行感覚で、あなたの英語力は時空を超えて成長します!」
イルマの問いに答える気はまったくないようだったから、ため息をつかざるを得なかった。
そして、もし的場が犠巫徒でないとしたら、自分からわざわざこの村にやってくるなんて、残念な人だと思った。
この村に数時間いるだけでも、白目病に感染する可能性が高いからだ。
白目病は、ウィルス性の若年性白内障といっても過言ではない風土病だ。白内障の手術で使われる眼内レンズでは完治せず、E.O.P.レンズの手術が必要になる。その手術はイルマがかかったK病院でしか行われていないという話だった。
この村は、新聞配達員や郵便局員、宅配便の担当者が変わりやすかった。おそらくほとんどの者が失明してしまったのだろう。
的場がどこに住んでいるかは知らないが、おそらく厩戸見市内ではないだろう。かかりつけ医は別の病院だろうから、白内障の手術を受けることはできても、E.O.P.レンズの手術を受けることはできない。間違いなく失明する。
そこまでのリスクを追って、意味のわからない英語教材を売りにきた彼をイルマは不憫に思った。
だからだろうか?
「あなたの通っている高校、厩戸見高校ですよね?」
その瞬間、的場修一の目付きが変わった。
「あの高校はお金持ちの家の子供が多い。親が中小企業の社長だったりして、将来がすでに決まっている人が多いんです。これからの時代、英語が出来ないと社会では通用しません。まわりと同じ感覚でいると、後々後悔しますよ」
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