情報迷宮≪実験≫都市アルゴリア -THE NEW WORLD MAKER-

あめの みかな

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つい最近も、NHKは会社の営業車に対して1台ずつ受信料の契約が必要だと発表していた。ほとんどのカーナビがテレビを観ることが可能になっているからだ。
個人であれば家にあるテレビの受信料とカーナビはセットで扱われるが、会社の営業車はそうではないらしい。1台目は受信料の全額支払い義務が発生し、2台目以降は半額になるという。営業車が10台程度ならいいが、100台あればそれは大きな出費になる。
中小企業で必死に経費削減をしている人たちが馬鹿みたいだなと思った。

イルマは、そのニュースを見たときに、近い将来こういうことがおきるのだろうと想像したシナリオがあった。
会社は当然受信料など払いたくないはずだ。
だから、営業車をすでに受信料を払ってる社員の個人名義に変更するのではないだろうかと。
こうすれば、本来は営業車であるはずの車は、その家の車になり、受信料の支払義務がなくなる。
だが、会社としての認識はあくまで営業車なので、車検代やガソリン、その他の維持費などは会社が出すことになる。
そんなとき、その会社をやめたいと思っている社員がいたらどうなるだろうか? 引き継ぎすらこなせない、考えられないほどに追い詰められ、すでに心がすり減ってしまっていたら?
その社員は、営業車が自分の個人名義になってることをいいことに売り払い、仕事を飛ぶことが起こりうるのではないだろうか。
そんなことをする会社はきっと、個人名義に変更する際にろくな契約書をかわしてないだろう。
その車は誰のものだったのか? という泥沼裁判に突入する。
そして、NHKがその裁判を知れば、未払いの受信料は会社が払わなければいけないと言い、その会社に対して民事裁判を起こすだろう。
これはきっと近い将来起きることだろうなと思った。

ケーブルテレビの営業マンは、確か植田涼(うえだ りょう)という名前で、三十代前半の男だった。
癖なのか、まだ高校一年のイルマを捕まえて、何度か「ご主人」と呼んできた。
ゆとり世代かさとり世代か知らないが、まだ若い割にずいぶん古い価値観で生きているんだなと思った。同時にZ世代でもない自分は何世代なのだろうと思った。
結婚しないことを選択している女性に、「奥さん」などと言ったら大問題になる時代だ。それは男に対してでも同じだ。
目の前の営業マンが本当にケーブルテレビ会社の人間である確証などどこにもない。それらしい名刺や契約用のタブレット端末などいくらでも用意できる。
特殊詐欺が横行しているこの時代、自分の身を守るためには録音や動画撮影は必須になりつつある。
結婚してると決めつけられた、奥さんは女性蔑視の呼称、二重の人権侵害を受けたとツイフェミと呼ばれる女性にSNSにでも動画付きで書き込まれたら、会社に大惨事を与えることくらい高一のイルマでもわかるのに、この人は馬鹿なんだろうかとすら思った。

「BSが見れるようになっても、ここだけの話、NHKにはばれないから大丈夫なんですよ。もちろん支払い義務は発生しますから、払わなくていいとは断言しませんので、お支払したければ支払って頂いて全然構わないんですけどね。今は法律が変わって、NHKも昔みたいに乱暴な集金方法はできなくなったんです」

そんなことまで言ってきた。BSのアンテナをつけていても払ってない人は山ほどいますよとも。
イルマは、その瞬間この会社はやべーなと思った。この勧誘方法はこの男独自のものではなく、会社ぐるみで行われているのだろうなとわかったからだった。きっとマニュアルのようなものがあるのだろう。
だから、通信速度が心配なのでと断ることにした。元々その会社のインターネット回線は遅いという評判もネットの口コミで見たことがあったから、新しく光回線を導入するとか、村戸家がこの8年契約している回線よりも早いと言われても、信用できなかった。

「え?オンラインゲームとかやってます?」

植田涼はそれでもしつこく食い下がってきた。ドラクエ10ですか? それともFF14ですか? と。

イルマが、やってねぇよ、うるせぇなと思ったとき、彼のギフトが勝手に発動していた。
ハロウィンのときにやってきた英語教材の訪問販売員に使ってしまい、姉や萌衣にこっぴどくしかられてからまだ2ヶ月もたっていなかったから、使うつもりはなかった。

イルマのギフトである『ニュー・ワールド・メイカー』は、彼の意思とは無関係に、植田涼の五臓六腑をすべて「バールのようなもの」に変えてしまった。
どうやら、彼のギフトは「○○のようなもの」の○○の部分を指定しなければ、自動的に「バールのようなもの」にしてしまうようだった。

我ながら本当に不思議な能力だなとイルマは改めて思った。
「バールのようなもの」になり、体の外に出てしまっても、それらはあくまで植田涼の五臓六腑として機能しているのだ。
「バールのようなもの」を破壊すれば五臓六腑としての機能は停止し、彼を死に至らしめることができるが、このまま村戸家にある「バールのようなもの」として、庭や物置に置いておいたとしても、この男はこれまで通り生きていける。
この男が会社の健康診断でレントゲンを撮影したとき、その内部は空っぽになっているのだろうか。
そんなことになったらきっと大騒ぎになるだろう。

法律違反をすすめてくる会社はまじでやばい、この男の営業車にもどうせカーナビがついてるだろうから大惨事になれ。
そんなことを思いながら、イルマは植田涼の五臓六腑を元に戻すと、ケーブル交換の書類だけにサインをし、玄関のドアを閉めた。

だが、その瞬間をまたしても姉と萌衣に見られてしまった。

以上が、毎年恒例の姉のちょっとエッチなハロウィンコスプレやミニスカサンタのコスプレや、普段は巫女姿ばかりの萌衣のそんな格好が見れるかもしれないと楽しみにしていた今年のハロウィンパーティーやクリスマスパーティーが行われなかった理由だった。

「バールのようなもの」で、植田涼の頭をかち割ってやればよかったとイルマは思った。



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