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#54
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「姉さんが死んでるっていうのは本当なのか?」
姉を助ける前に、鞍馬を殺してしまう前に、イルマはどうしてもそれを訊きたいと思った。
「そうだ。こいつは高校時代に木島玲と一緒に随分と目立った真似をしてたからな。警察だけじゃなく、反社にも目をつけられた。お前はまだ小学生だったからよく知らなかっただろうがな。足切萌衣と三人でよくつるんで、馬鹿げたことをやって小銭を稼いでいたんだよ」
そういえば、木島玲は反社会的勢力に拉致されたことがあったと聞いた。
その理由は、姉と木島がE.O.P.レンズで見た情報を元に、指名手配犯狩りのようなことをしていたからだと聞いていた。
木島だけが反社に捕まったと聞いていたが、そのとき姉も一緒に捕まっていたのだろうか。殺されてしまったのだろうか? 木島はそのときにギフトーーカルナバル・バベルに目覚めたと言っていた。反社の連中をすべて警察に転移させたと。
だが、それは木島の記憶違いであり、この女のギフトで動いている死体に過ぎないのだろうか?
「お前も忘れてるみたいだな?お前もこの女の後を追って自殺したはずだぞ?狐野イルマ」
そんな記憶はイルマにはなかった。
「いや、大好きなお姉さんが死んでしまってかわいそうなかわいいかわいいイルマくんを、お前が殺してやったんだったか? なぁ、萌衣。どっちだった?わたしはこいつの死体しか見てなかったからな」
たとえ姉が死んだことが事実であったとしても、萌衣がそんなことをするはずがなかった。
いや、萌衣ならやりかねないかもしれない。
萌衣は鞍馬からもイルマからも目を背けるだけだった。
彼女はやはり、イルマが思っていたような、もうひとりの姉のような存在ではないかもしれない。
だが、そんなことはもうどうでもよかった。
「ぼくは村戸イルマだ。姉さんも村戸エミリ。ぼくたちは狐野なんていう苗字じゃない。あんたなんか知らない」
「まぁ、覚えてはいないだろうな。だが、お前もわたしの『ホワイトフォクシーズ』のうちの一匹だ。なぜ、そんな大切なことを忘れてる?」
イルマは、みたび萌衣を見た。
一瞬だけ目が合ったが、すぐにまた目を逸らされてしまった。
この人はもう信用できない。信用してはいけない。
改めて、心からそう思った。
「どこの誰だか知らないけど、とりあえず姉さんを放せよ……」
イルマは五臓六腑のうちのひとつ、肺から、右手に『剣のようなもの』を作り出していた。
その剣を鞍馬に叩きつけた。
が、その剣は彼女の体から飛び出した尾を3つ持つ白い狐に阻まれた。
「三尾の白狐?なんだ、こいつは?」
鞍馬葉子に隙がなかった理由がやっとわかった。
気やオーラのようなものを発しているわけではなかった。
彼女の中には、ホワイトフォクシーズと呼ばれる白狐が何匹もいたからだ。
「狐野ウィン。俺はお前やお前の姉と同じで、葉子様の『ホワイトフォクシーズ』のひとりだよ」
その狐は人の言葉を話した。
人の姿に変身すると、
「お前は『二尾』で、俺は『三尾』っていう違いがあるけどな」
「つまり、姉さんは『四尾』ってことか?」
「へぇ、記憶を失ってるわりに、ずいぶんものわかりがいいんだな」
「簡単な話だろ。イルマ、ウィン、エミリ、ホワイトフォクシーズは名前が五十音順ってだけだ」
木島玲もまた、狐野玲という名前なのだろう。
尾を持たない零尾の白狐だから、玲=零なのだ。
「さすがだな、兄弟」
狐野ウィンはイルマが作り出した『剣のようなもの』の刃を素手で握りつぶした。
その瞬間、イルマの肺のひとつが握りつぶされたような激痛が走った。
「つまり、俺の方が強いってわけだ」
握りつぶされたようなではなく、本当に握りつぶされたのだろう。
イルマは吐血し、膝から崩れ落ちた。
だが、まだ完全に肺は破壊されたわけではない。
「お前がどんなギフトを持っていたとしても、ホワイトフォクシーズの力は尾の数で決まるんだよ」
ーーニュー・ワールド・メイカー。
イルマには、握り潰された肺を『肺のようなもの』に作り替えれば、体が問題なく動き始めるだろうということはなんとなくわかっていた。
そして、それはうまくいった。
「じゃあ、ぼくもお前も相当弱いってことになるな」
「は?何言ってんだお前。俺の話を聞いてたか?」
「聞いてたよ。九尾の狐どころじゃなく、五十尾の狐がいるんだろ?『ン』で始まる名前の奴が一番強いんだろ?だったら、ぼくもお前も下っ端の下っ端ってことだろ?」
そんなにいるはずはないだろうと思ってはいたが、
「お前、死にたいのか?」
相手の神経を逆撫でする程度には効果があったようだった。
「最初からぼくを殺すつもりなんだろ?やってみろよ」
この狐男だけには負けたくないと思った。
姉を救うためには真っ先に倒さなければいけない障壁だった。
負けたくないと思った理由はそれだけではなかった。
一言で言えば、それは外見に対する嫉妬だった。
狐野ウィンは、切れ長の目と高い鼻筋、逆三角形の輪郭、細長いあごが特徴的な、所謂「キツネ顔」をしていた。対照に位置するタヌキ顔共々女性の顔立ちを形容する言葉かもしれないが、そうとしか表現できなかった。
クールでミステリアスな雰囲気を持つ顔立ちであり、脂肪が少なくシャープで、骨格がはっきりしていた。長い銀髪も美しく、女性だと言われたならきっと誰もが思う。それくらい中性的で美しかったからだ。
イルマは自分の外見にコンプレックスを持ったことはなかったが、目の前にまるで芸術作品のように美しい存在がいることや、その性格や口調が美しさと比例していないことがとにかく気に入らなかった。
ーーニュー・ワールド・メイカー。
だから、イルマは五臓六腑のひとつを使い『精神科病棟の拘束具のようなもの』を作ることにした。
「さっきのことをもう忘れたのか?こんなもの、俺なら簡単に……」
「壊してもいいぞ。それは、お前のご主人様の心臓から作ったからな」
それは今のイルマには簡単にできた。
「……!?」
「どうしたんだ?壊していいぞ。その代わり、ご主人様の心臓は潰れるけどな」
まだ10時間ほど前に戦ったばかりの、トランスジェンダーの息子を殺した元自衛官の男から、姉や萌衣、木島を守るために五臓六腑すべてを別のものに変えたばかりだったからだ。
姉を助ける前に、鞍馬を殺してしまう前に、イルマはどうしてもそれを訊きたいと思った。
「そうだ。こいつは高校時代に木島玲と一緒に随分と目立った真似をしてたからな。警察だけじゃなく、反社にも目をつけられた。お前はまだ小学生だったからよく知らなかっただろうがな。足切萌衣と三人でよくつるんで、馬鹿げたことをやって小銭を稼いでいたんだよ」
そういえば、木島玲は反社会的勢力に拉致されたことがあったと聞いた。
その理由は、姉と木島がE.O.P.レンズで見た情報を元に、指名手配犯狩りのようなことをしていたからだと聞いていた。
木島だけが反社に捕まったと聞いていたが、そのとき姉も一緒に捕まっていたのだろうか。殺されてしまったのだろうか? 木島はそのときにギフトーーカルナバル・バベルに目覚めたと言っていた。反社の連中をすべて警察に転移させたと。
だが、それは木島の記憶違いであり、この女のギフトで動いている死体に過ぎないのだろうか?
「お前も忘れてるみたいだな?お前もこの女の後を追って自殺したはずだぞ?狐野イルマ」
そんな記憶はイルマにはなかった。
「いや、大好きなお姉さんが死んでしまってかわいそうなかわいいかわいいイルマくんを、お前が殺してやったんだったか? なぁ、萌衣。どっちだった?わたしはこいつの死体しか見てなかったからな」
たとえ姉が死んだことが事実であったとしても、萌衣がそんなことをするはずがなかった。
いや、萌衣ならやりかねないかもしれない。
萌衣は鞍馬からもイルマからも目を背けるだけだった。
彼女はやはり、イルマが思っていたような、もうひとりの姉のような存在ではないかもしれない。
だが、そんなことはもうどうでもよかった。
「ぼくは村戸イルマだ。姉さんも村戸エミリ。ぼくたちは狐野なんていう苗字じゃない。あんたなんか知らない」
「まぁ、覚えてはいないだろうな。だが、お前もわたしの『ホワイトフォクシーズ』のうちの一匹だ。なぜ、そんな大切なことを忘れてる?」
イルマは、みたび萌衣を見た。
一瞬だけ目が合ったが、すぐにまた目を逸らされてしまった。
この人はもう信用できない。信用してはいけない。
改めて、心からそう思った。
「どこの誰だか知らないけど、とりあえず姉さんを放せよ……」
イルマは五臓六腑のうちのひとつ、肺から、右手に『剣のようなもの』を作り出していた。
その剣を鞍馬に叩きつけた。
が、その剣は彼女の体から飛び出した尾を3つ持つ白い狐に阻まれた。
「三尾の白狐?なんだ、こいつは?」
鞍馬葉子に隙がなかった理由がやっとわかった。
気やオーラのようなものを発しているわけではなかった。
彼女の中には、ホワイトフォクシーズと呼ばれる白狐が何匹もいたからだ。
「狐野ウィン。俺はお前やお前の姉と同じで、葉子様の『ホワイトフォクシーズ』のひとりだよ」
その狐は人の言葉を話した。
人の姿に変身すると、
「お前は『二尾』で、俺は『三尾』っていう違いがあるけどな」
「つまり、姉さんは『四尾』ってことか?」
「へぇ、記憶を失ってるわりに、ずいぶんものわかりがいいんだな」
「簡単な話だろ。イルマ、ウィン、エミリ、ホワイトフォクシーズは名前が五十音順ってだけだ」
木島玲もまた、狐野玲という名前なのだろう。
尾を持たない零尾の白狐だから、玲=零なのだ。
「さすがだな、兄弟」
狐野ウィンはイルマが作り出した『剣のようなもの』の刃を素手で握りつぶした。
その瞬間、イルマの肺のひとつが握りつぶされたような激痛が走った。
「つまり、俺の方が強いってわけだ」
握りつぶされたようなではなく、本当に握りつぶされたのだろう。
イルマは吐血し、膝から崩れ落ちた。
だが、まだ完全に肺は破壊されたわけではない。
「お前がどんなギフトを持っていたとしても、ホワイトフォクシーズの力は尾の数で決まるんだよ」
ーーニュー・ワールド・メイカー。
イルマには、握り潰された肺を『肺のようなもの』に作り替えれば、体が問題なく動き始めるだろうということはなんとなくわかっていた。
そして、それはうまくいった。
「じゃあ、ぼくもお前も相当弱いってことになるな」
「は?何言ってんだお前。俺の話を聞いてたか?」
「聞いてたよ。九尾の狐どころじゃなく、五十尾の狐がいるんだろ?『ン』で始まる名前の奴が一番強いんだろ?だったら、ぼくもお前も下っ端の下っ端ってことだろ?」
そんなにいるはずはないだろうと思ってはいたが、
「お前、死にたいのか?」
相手の神経を逆撫でする程度には効果があったようだった。
「最初からぼくを殺すつもりなんだろ?やってみろよ」
この狐男だけには負けたくないと思った。
姉を救うためには真っ先に倒さなければいけない障壁だった。
負けたくないと思った理由はそれだけではなかった。
一言で言えば、それは外見に対する嫉妬だった。
狐野ウィンは、切れ長の目と高い鼻筋、逆三角形の輪郭、細長いあごが特徴的な、所謂「キツネ顔」をしていた。対照に位置するタヌキ顔共々女性の顔立ちを形容する言葉かもしれないが、そうとしか表現できなかった。
クールでミステリアスな雰囲気を持つ顔立ちであり、脂肪が少なくシャープで、骨格がはっきりしていた。長い銀髪も美しく、女性だと言われたならきっと誰もが思う。それくらい中性的で美しかったからだ。
イルマは自分の外見にコンプレックスを持ったことはなかったが、目の前にまるで芸術作品のように美しい存在がいることや、その性格や口調が美しさと比例していないことがとにかく気に入らなかった。
ーーニュー・ワールド・メイカー。
だから、イルマは五臓六腑のひとつを使い『精神科病棟の拘束具のようなもの』を作ることにした。
「さっきのことをもう忘れたのか?こんなもの、俺なら簡単に……」
「壊してもいいぞ。それは、お前のご主人様の心臓から作ったからな」
それは今のイルマには簡単にできた。
「……!?」
「どうしたんだ?壊していいぞ。その代わり、ご主人様の心臓は潰れるけどな」
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