情報迷宮≪実験≫都市アルゴリア -THE NEW WORLD MAKER-

あめの みかな

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#72

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「息子のギフトは『氷結麒麟零式』というものなんだ。ふざけた名前だろう?『アブソリュートゼロ』でいいと思うんだがね。動物園にいるキリンではなく、東国の伝説上の存在である麒麟が氷をまとい、君を一瞬にして氷漬けにする。摂氏-273.15℃、絶対零度と呼ばれる
自然界で最も低い温度だ。現実には絶対零度に到達することは不可能らしいが、私の息子のギフトなら一瞬だ。君のお姉さんがちゃんと仕事をしてくれればコールドスリープのような状態から解除されるかもしれないがね」

「ぼくが子どもだからって簡単に騙せると思ってない? コールドスリープは実現不可能なSF技術だって、こないだNHKでやってたよ。毎週やってる番組なのか、一回きりの番組だったのかは知らないけど、姉さんが萌衣さんと一所にハマって観てた夜ドラの後にやってたのを、萌衣さんも一緒に観たよね?」

なぜコールドスリープが不可能なのか。
それは簡単な話だった。
水は凍ると体積が増える。
人の体の細胞の中には、水分が含まれている。
コールドスリープを行うと、細胞内の水分が増え、細胞を突き破って破壊してしまうからだ。
受精卵や卵子の凍結が可能なのは、細胞がひとつしかない状態であることや特殊な凍結技術があるからできるだけであり、人体は一度凍らせた時点で細胞は死滅する。

「君は不登校だと聞いていたが、さすがは『神の目』を持つ『ラプラスの悪魔』の弟だけのことはあるようだ。しかたがないか……」

ーーレムナンツ・オブ・ジャスティス、アンレムナンツ。

鵜山京一郎は、再びそのギフトで姿を隠していた者をひとり、その姿をその場に現させた。

「久しぶりだな、イルマ」

現れたのは鵜山恭介だった。
2ヶ月ぶりに会う友人もまた、ずっとイルマのそばで姿を隠していたようだった。
イルマはとっさに距離をとった。
恭介は、髪型も服装も父親に似せており、さながらリトル鵜山といったところだった。鵜山ジュニアと言ってもいいかもしれない。

「やれ、恭介。こいつは、『救厄の聖者たち』のひとりだったはずだが、『大厄災』を止める気のない裏切り者だ」

「ぼくは元々あんたの味方になった覚えてはないよ。姉さんもね」

「悪く思わないでくれよ、イルマ。お前が悪いんだぜ? 俺は二度お前にチャンスをやった。お前の家に遊びに行っていいかと電話もしたし、2ヶ月も学校を休んでいたお前に電話もかけた。お前が心配だったからだ。それだけじゃない。お前がとんでもないことに巻き込まれてることを知らせるつもりだった。スマホは親父に盗聴されてることがわかってたから、直接会って話そうとしたのに、二度ともお前が断るからいけないんだよ」

萌衣も鵜山も恭介も、3人ともイルマの目に見えている。
『ニュー・ワールド・メイカー』を使えば『時間という概念が存在しない世界のようなもの』に閉じ込めることは簡単だ。
だが、この家にはおそらくまだ他にも犠巫徒がいる。
少なくとも尾上カナイ、姫織星彦、多々良崇の三人は必ずいる。イルマは先ほどその声を聞いていた。鵜山の『レムナンツ・オブ・ジャスティス』によって、彼や恭介のように姿を隠されているだけなのだ。

姫織星彦のギフトは、あらゆる病や怪我を治すものだと言っていた。
だが、それが本当かどうかはわからない。鵜山がそんな特別な存在を危険な場所に連れてくるだろうか? という疑問もある。
病や怪我を治す犠巫徒は別にいて、姫織のギフトは全く異なるものだと考えたほうがいいだろう。
尾上カナイと多々良崇についても、そのギフトは想像がつかなかった。
だが、恭介のギフトについては説明を受けていた。絶対零度に耐えられる方法など思い付かなかったが。

ーー氷結麒麟零式。

恭介のそばに、氷の麒麟が2体現れた。
その形は伝説通り鹿に似ており、背丈は5mほどもある巨体だった。
顔は龍に似ており、牛の尾と馬の蹄をもち、身体には鱗がある。
そして、麒角(りんかく)と呼ばれる角を持つ。
一本角のイメージだったが、片方は一本角であったが、もう片方は二本の角を持っていた。
背毛は五色に彩られており、毛は黄色いはずだったが、氷でその体が作られているためか色はなかった。

「まるで大召喚士様だな。それともデビルサマナーか?」

イルマは恭介に嫌味を言った。
彼のギフトがあまりにもゲームじみた見た目をしたものだったからだ。

「知ってたか? イルマ。麒麟っていうのは、東国ではチーリンて呼ばれてて、雄と雌がいるんだぜ。雄が『麒(チー)』、雌が『麟(リン)』っていうんだ」

「だから2匹いるわけか。でも、実際にそんなふうに呼び分けることはまず無いんだろ?」

恭介の言う通り、麒麟の雄を麒(チー)、雌を麟(リン) とすることはある。
だが、実際の神話や文献では雄雌を分けて呼び分けることはほぼない。
「麒」「麟」は字として雄雌を区別する意味合いが後から付けられたものに過ぎない。もともとはセットでひとつの瑞獣を示していたとも言われている。
そもそも麒麟という存在は、吉兆を象徴する神獣であり、どちらか一方だけが登場するより完全な神獣として一体で語られるのが一般的だ。
つまり、イルマの目の前にいる2匹は不完全な存在だということだった。

「おい恭介、なぜ麒麟を完全な形で出さない? まさか手を抜いてるわけじゃないだろうな? 友達だかなんだかしらないが、父親を、いや、ラース様から与えられた使命をなめるなよ」

鵜山から見ても、そのギフトはやはり不完全なものだったらしい。

「詳しいな。じゃあ、麒麟と対になる存在のことも知ってるな?」

イルマは知らなかったが、見えた。
麒麟は泰平の世に現れる獣類の長とされ、鳥類の長たる「鳳凰(ほうおう)」と対に扱われているという。
ただし『淮南子(えなんじ)』という思想書によれば、応竜(おうりゅう)が建馬(けんば)を、建馬は麒麟を、麒麟は諸獣を生んだのに対し、鳳凰は鸞鳥(らんちょう)を、鸞鳥が諸鳥を生んだとされており、麒麟と対応するのは正確には鳳凰より生まれた「鸞鳥」とされているらしい。

つまり、恭介はこう言っているのだろう。

ーーこれから氷の麒麟を2匹、お前に向かって放つ。お前のギフトなら、それを受け止めることができる。受け止めてみせろ。

それは、イルマに対する挑戦状とも取ることができたが、イルマはヒントだと思った。

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