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#73
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つまり、恭介はこう言っているのだろう。
ーーこれから氷の麒麟を2匹、お前に向かって放つ。お前のギフトなら、それを受け止めることができる。受け止めてみせろ。
それは、イルマに対する挑戦状とも取ることができたが、イルマはヒントだと思った。
ーー凍らせろ、氷結麒麟零式、一式。
絶対零度の氷の麒麟が2匹、イルマに向かって放たれた。
その攻撃が直撃する直前、イルマは五臓六腑のひとつを「鳳凰のようなもの」に変えた。
鳳凰は「平和・吉兆」を呼ぶ聖なる鳥で、聖天子ーー優れた君主の出現を告げる瑞鳥であり、麒麟と対に扱われている存在だ。
そして、異なる起源を持つものの不死鳥と同一視されることもある。
不死鳥は西洋の「再生・復活」の象徴であり、自ら炎に焼かれ蘇る伝説の鳥だ。
頭は鶏、頷は燕、頸は蛇、背は亀、尾は魚で、色は黒・白・赤・青・黄の五色で、高さは2メートル弱。
イルマが作り出した「鳳凰のようなもの」は、同時に「不死鳥のようなもの」でもあった。
それは、イルマにしか作り出せないものであっただろう。
『ニュー・ワールド・メイカー』は、『時間という概念が存在しない世界のようなもの』を生み出すだけでなく、神話や伝説上の存在さえも生み出すことができるのだ。
彼はそれを二羽作った。
「これは鳳凰? いや、不死鳥か? やはりこの少年はラース様が仰っていた、足切萌衣に代わる『大厄災を起こす者』……」
村戸イルマという少年は、『ニュー・ワールド・メイカー(新しい世界の作り手)』であり、その力は『概念』さえも『覆す』ことが可能なものだった。
それは、この世界を作った創造主のような存在と同義の力であるのかもしれなかったし、鵜山京一郎が言うように創造主であるラース様と相反する悪魔、『大厄災を起こす者』の力であるのかもしれない。
イルマには自分に与えられた使命が何であるかまではわからない。
古き預言者たちや、預言者たちの生まれ変わりを自称するカルト教団の教祖たち、素雲教の教祖でありラース様と呼ばれる存在のように、神の声を聞いたことがないからだ。
だから、使命は与えられるものではなく、自ら選択するものだと思った。
どちらに転ぶかはイルマ次第であり、彼は神にもなれるし悪魔にもなれる。
きっと、4歳のときに鵜山に殺された足切萌衣もそういう存在だったのだろう。
だからこそ、鵜山が崇拝するラース様は、彼女やイルマを怖れたのだ。
それはイルマが日本という独特の宗教観を持つ国に生まれたことにも起因していたかもしれない。
八百万の神々が存在すると言われてきたこの国は、まるでスポンジのように仏や西洋の神の教えを吸収してきたが、この国の多くの民は、神の存在を意識することはほとんどない。
イルマもそうだった。神話など読み物に過ぎないと考えていた。読むのは好きだが、その教えまでは信じる気にはならなかった。
8歳のときに東京からこの村に引っ越してきた彼は、『足切様』という土地神すら信じてはいなかった。
彼が二羽の「鳳凰のようなもの」を産み出したのは、自分自身を守るため。
そして、やはり敵ではないだろう萌衣を守るためだった。
二羽の「鳳凰のようなもの」は、「氷結麒麟零式」「同・一式」を相殺した。
「それでいい」
恭介が嬉しそうに笑うのが見えた。
「恭介、一体何を遊んでいる? 萌衣まで殺すつもりか? その小僧だけでいい。その小僧は危険だ。さっさと殺せ」
「だったらあんたがやれよ、クソ親父。息子を人殺しの道具に使ってんじゃねーよ」
「お前、父親に逆らうつもりか?」
鵜山は気づいていなかった。
息子が産み出した『氷結麒麟弐式・雌雄同一態』とでも言うべきものが背後に立っていることを。
「親父こそ、俺を殺すつもりかよ。俺は4年前にワクチンを打ってるんだぜ? それも三回もな。イルマを殺したら、俺はワクチンに入ってたナノマシンのせいで人体発火するんだよ」
「お前が? なぜそんなものを打っている?」
「知らねぇよなぁ、親父は。あの頃のこの国がどれぐらいおかしかったか知らないんだろ? 4年前、俺は小6だった。小学生ってのは残酷でさ、鬼滅の刃を見てなかったら皆の輪に入れない、ワクチンを打ってないことがばれたらいじめられる、そういう世界なんだよ」
イルマは別の小学校であったが、似た空気は感じていた。
それはおそらく大人の世界でもほぼ似たようなものだったはずだ。
野球に興味がなければいけない。WBC優勝を喜ばなければいけない。特に大谷翔平を好きでいなければいけない。
サッカーW杯の日本代表を応援しなければいけない。
フィギュアスケートなら浅田真央や羽生結弦を応援しなければならない。
アニメなら鬼滅の刃だけでなく、呪術廻戦やチェンソーマン、推しの子もだ。
イルマたちは世代が少しずれるが、進撃の巨人や君の名は、シン・ゴジラなども観てないと周りの話についていけなかったのではないだろうか。
Netflixのイカゲーム、愛の不時着、梨泰院クラスなどもそうだろう。
イルマがこどもの頃一番驚かされたのは、歩きスマホはいけないと教えていた大人たちが堂々と歩きスマホでポ○モンGOをやっていたことだった。
タピオカに並ぶ行列もそうだった。
TikTok文化は知らないと世代差を痛感することになるだろう。
マスク着用が当たり前だったときの外せない空気、テレワークへの一斉移行、SNSで炎上を恐れて同じ意見に寄せる風潮、思い付く限りこれだけのことが頭に浮かんだ。
「ワクチンにはマイクロチップが入ってるとかさ、反ワクチンの過激派がどれだけ騒いでても、実際にはそれよりも恐ろしいナノマシンだったとしても、打たざるを得なかったんだよ。そうだろ? イルマ、萌衣姉ちゃん」
「そうだね。わたしたちは特に足切村の住人だから、ワクチンを打たなかったら、昔みたいに罪人の子孫として差別や迫害を受けてたと思うよ」
「萌衣、まさかお前も打ってるのか? あんな馬鹿げたものを……」
この父親は、離れて暮らしていた娘だけでなく、一緒に暮らす息子のことすら何も知らなかったのだ。
ーーこれから氷の麒麟を2匹、お前に向かって放つ。お前のギフトなら、それを受け止めることができる。受け止めてみせろ。
それは、イルマに対する挑戦状とも取ることができたが、イルマはヒントだと思った。
ーー凍らせろ、氷結麒麟零式、一式。
絶対零度の氷の麒麟が2匹、イルマに向かって放たれた。
その攻撃が直撃する直前、イルマは五臓六腑のひとつを「鳳凰のようなもの」に変えた。
鳳凰は「平和・吉兆」を呼ぶ聖なる鳥で、聖天子ーー優れた君主の出現を告げる瑞鳥であり、麒麟と対に扱われている存在だ。
そして、異なる起源を持つものの不死鳥と同一視されることもある。
不死鳥は西洋の「再生・復活」の象徴であり、自ら炎に焼かれ蘇る伝説の鳥だ。
頭は鶏、頷は燕、頸は蛇、背は亀、尾は魚で、色は黒・白・赤・青・黄の五色で、高さは2メートル弱。
イルマが作り出した「鳳凰のようなもの」は、同時に「不死鳥のようなもの」でもあった。
それは、イルマにしか作り出せないものであっただろう。
『ニュー・ワールド・メイカー』は、『時間という概念が存在しない世界のようなもの』を生み出すだけでなく、神話や伝説上の存在さえも生み出すことができるのだ。
彼はそれを二羽作った。
「これは鳳凰? いや、不死鳥か? やはりこの少年はラース様が仰っていた、足切萌衣に代わる『大厄災を起こす者』……」
村戸イルマという少年は、『ニュー・ワールド・メイカー(新しい世界の作り手)』であり、その力は『概念』さえも『覆す』ことが可能なものだった。
それは、この世界を作った創造主のような存在と同義の力であるのかもしれなかったし、鵜山京一郎が言うように創造主であるラース様と相反する悪魔、『大厄災を起こす者』の力であるのかもしれない。
イルマには自分に与えられた使命が何であるかまではわからない。
古き預言者たちや、預言者たちの生まれ変わりを自称するカルト教団の教祖たち、素雲教の教祖でありラース様と呼ばれる存在のように、神の声を聞いたことがないからだ。
だから、使命は与えられるものではなく、自ら選択するものだと思った。
どちらに転ぶかはイルマ次第であり、彼は神にもなれるし悪魔にもなれる。
きっと、4歳のときに鵜山に殺された足切萌衣もそういう存在だったのだろう。
だからこそ、鵜山が崇拝するラース様は、彼女やイルマを怖れたのだ。
それはイルマが日本という独特の宗教観を持つ国に生まれたことにも起因していたかもしれない。
八百万の神々が存在すると言われてきたこの国は、まるでスポンジのように仏や西洋の神の教えを吸収してきたが、この国の多くの民は、神の存在を意識することはほとんどない。
イルマもそうだった。神話など読み物に過ぎないと考えていた。読むのは好きだが、その教えまでは信じる気にはならなかった。
8歳のときに東京からこの村に引っ越してきた彼は、『足切様』という土地神すら信じてはいなかった。
彼が二羽の「鳳凰のようなもの」を産み出したのは、自分自身を守るため。
そして、やはり敵ではないだろう萌衣を守るためだった。
二羽の「鳳凰のようなもの」は、「氷結麒麟零式」「同・一式」を相殺した。
「それでいい」
恭介が嬉しそうに笑うのが見えた。
「恭介、一体何を遊んでいる? 萌衣まで殺すつもりか? その小僧だけでいい。その小僧は危険だ。さっさと殺せ」
「だったらあんたがやれよ、クソ親父。息子を人殺しの道具に使ってんじゃねーよ」
「お前、父親に逆らうつもりか?」
鵜山は気づいていなかった。
息子が産み出した『氷結麒麟弐式・雌雄同一態』とでも言うべきものが背後に立っていることを。
「親父こそ、俺を殺すつもりかよ。俺は4年前にワクチンを打ってるんだぜ? それも三回もな。イルマを殺したら、俺はワクチンに入ってたナノマシンのせいで人体発火するんだよ」
「お前が? なぜそんなものを打っている?」
「知らねぇよなぁ、親父は。あの頃のこの国がどれぐらいおかしかったか知らないんだろ? 4年前、俺は小6だった。小学生ってのは残酷でさ、鬼滅の刃を見てなかったら皆の輪に入れない、ワクチンを打ってないことがばれたらいじめられる、そういう世界なんだよ」
イルマは別の小学校であったが、似た空気は感じていた。
それはおそらく大人の世界でもほぼ似たようなものだったはずだ。
野球に興味がなければいけない。WBC優勝を喜ばなければいけない。特に大谷翔平を好きでいなければいけない。
サッカーW杯の日本代表を応援しなければいけない。
フィギュアスケートなら浅田真央や羽生結弦を応援しなければならない。
アニメなら鬼滅の刃だけでなく、呪術廻戦やチェンソーマン、推しの子もだ。
イルマたちは世代が少しずれるが、進撃の巨人や君の名は、シン・ゴジラなども観てないと周りの話についていけなかったのではないだろうか。
Netflixのイカゲーム、愛の不時着、梨泰院クラスなどもそうだろう。
イルマがこどもの頃一番驚かされたのは、歩きスマホはいけないと教えていた大人たちが堂々と歩きスマホでポ○モンGOをやっていたことだった。
タピオカに並ぶ行列もそうだった。
TikTok文化は知らないと世代差を痛感することになるだろう。
マスク着用が当たり前だったときの外せない空気、テレワークへの一斉移行、SNSで炎上を恐れて同じ意見に寄せる風潮、思い付く限りこれだけのことが頭に浮かんだ。
「ワクチンにはマイクロチップが入ってるとかさ、反ワクチンの過激派がどれだけ騒いでても、実際にはそれよりも恐ろしいナノマシンだったとしても、打たざるを得なかったんだよ。そうだろ? イルマ、萌衣姉ちゃん」
「そうだね。わたしたちは特に足切村の住人だから、ワクチンを打たなかったら、昔みたいに罪人の子孫として差別や迫害を受けてたと思うよ」
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