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「親父はこの村の出身だったよな? この村では昔、ジャンプが手に入らなかったんだっけ? だから親父はドラゴンボールも幽☆遊☆白書もスラムダンクも読んでなかったんだよな」
「それがどうした? 昔の話だ。漫画など大人になれば読んでいなかったとしても何の問題もない」
「30年くらい前? もっと前か。その頃、親父の家にテレビは一台しかなくて、チャンネル権は死んだ爺さんが持ってたんだろ? だから、アニメを観させてもらえなかった。東京の方で起きた児童連続誘拐殺人事件のせいで、アニメを観たら犯罪者になると言われてたんだったな」
「そうだ。だから私は昔……」
「だから親父はいじめられたんだよな。貧乏だからジャンブを買えない、テレビが家にないってあらぬ噂を立てられて。足切村に貧乏な家なんてないのにな。でも、子どもの頃にそんな経験をしてるのに、俺がワクチンを打たなかったらどうなるか全然考えてなかったろ? 母さんや俺や萌衣姉ちゃんに何も説明せずに打つなって言うだけだった」
「鵜山家でワクチンを打ってないのはパパだけだよ。わたしは四年前にパパにもちゃんとワクチンを打たせるべきだったと思ってる。打ってたら、こうはならなかった」
「こう? こうとはなんだ?」
「エミリちゃんを人質にとったり、恭ちゃんにイルマくんを殺させようとしたりしたことだよ。いくらラース様って人の命令だからって、そんなことしてたらとっくに人体発火しててもおかしくないもん」
「この国には、龍みたいな形をした島国が生んだ『同調圧力』っていう、人間にはどうにもならないギフトのようなものがある。それはあんたが一番よくわかってたはずだろ?」
そのギフトのようなものは、対象者が「自分で選んだ」と信じているのに、理由はよく分からないまま、みんなと同じ行動に向かってしまう。
発動条件はシンプルだ。
「みんながそうしている」
「空気を読め」
「和を乱さないで」
この3つが揃うと、『同調圧力』は超高火力になる。
厄介なのが、国自体が持つギフトであるため犠巫徒がいないことであり、誰のせいにもできないことだ。攻撃されたことに気づきにくく、むしろ心地よく従ってしまうことだ。
そして、反発すると、逆に集団から攻撃される。
「親子のよしみだ。一緒に死んでやるよ、親父」
鵜山はそのときになってようやく、自分のすぐそばに絶対零度の氷の麒麟がいることに気づいたようだった。
「恭介、お前、頭がおかしくなったのか?」
「頭がおかしいのはあんただろ? 何か『大厄災』だ。何が『救厄の聖者』だよ。いい加減、現実を見てくれよ、親父」
恭介の『氷結麒麟弐式・雌雄同一態』が、鵜山に襲いかかろうとした瞬間、イルマはとっさにギフトを使った。
「鳳凰のようなもの」であり「不死鳥のようなもの」は、氷の麒麟と再び相殺しあった。
「なんのつもりだ、イルマ? 邪魔するなよ」
恭介を死なせたくない一心で放ったギフトだったが、彼にとっては余計なお世話だったらしい。
「親父は、いや、この狂信者は俺が殺さなくちゃいけないんだ」
それは、昨今問題になっている宗教二世問題とまったく同じものだった。
最初に神の預言を聞いたという男の時代から2000年以上続く問題でもあるのかもしれない。
だが、イルマにとっても恭介にとっても予想外な行動に出た者がいた。
「ありがとう、イルマくん。恭ちゃんを守ってくれて」
萌衣だ。
彼女の『キャッスル』が無数の弓矢や火縄銃を鵜山の体に撃ち込んだのだ。
「萌衣さん……?」
「姉ちゃん……何やってんの……?」
鵜山の体は、文字通り蜂の巣のようになっていた。
キャッスルの小人たちは、心臓と頭部を重点的に狙っていたため、その2ヶ所は形も失ってしまっていた。
「あーあ、ここまでか。やっとイルマくんといい感じになれてたのになぁ~」
萌衣は残念そうにそう言い、そして笑った。
その瞬間、萌衣の頭から火が上がった。
「イルマくん、恭ちゃんとエミリちゃんのこと、わたしのかわいい妹たちと、それからこの世界のこと、よろしくね」
火は萌衣の全身が炭になるまで燃やし尽くした。
恭介は、人の形をしたまま炭になった萌衣を抱きしめていた。
それを見てもイルマの目から涙は出なかった。
悲しいという感情さえ込み上げてこなかった。
彼女のことを何度も疑ってしまったことへの後悔の方が大きかった。
萌衣は最初から最後まで自分や姉の味方だった。
彼女が裏切るわけがない。
それくらいわかっていたはずだった。
ずっと信じ続けるべきだった。
「姉ちゃんは、親父だけじゃなくここにいる尾上カナイや多々良崇、姫織星彦も無力化してくれた。親父の『正義の残骸(レムナンツ・オブ・ジャスティス)は、人や物をただ透明にするギフトじゃない。不都合なことを隠蔽するためのギフトなんだ」
おそらく『レムナンツ・オブ・ジャスティス』は、イルマが『ニュー・ワールド・メイカー』で作り出してきた『時間という概念が存在しない世界のようなもの』と似たものなのだろう。
「お前、自分のギフトの使い方に似てるって今思っただろ? 全然違うぞ。親父はラース様って奴のためと、自分の保身のためにしか能力を使わなかったからな。お前はお前の姉さんや俺の姉ちゃんのためにギフトを使ってた。誰かを守るために。だから全く違うんだよ」
鵜山京一郎が死んだことによって、彼のギフトで隠蔽されていた尾上たちは永遠に表舞台に出てこれなくなったという。
透明人間というわけじゃなく、存在しなかったことにされたままになるため、イルマや姉や恭介に干渉することはもうできないという。
「ギフトを使ってもか?」
「尾上たちが隠蔽されたままでもギフトを使えるなら、親父は俺なんかを頼ったりしなかったさ」
「尾上たちのギフトは、どういうものだったんだ?」
多々良崇のギフトは、HEAVENLY FOREST(天国の森)。
インフルエンザのときに見るような悪夢が現実としておそいかかってくるというものだったという。
「それがどうした? 昔の話だ。漫画など大人になれば読んでいなかったとしても何の問題もない」
「30年くらい前? もっと前か。その頃、親父の家にテレビは一台しかなくて、チャンネル権は死んだ爺さんが持ってたんだろ? だから、アニメを観させてもらえなかった。東京の方で起きた児童連続誘拐殺人事件のせいで、アニメを観たら犯罪者になると言われてたんだったな」
「そうだ。だから私は昔……」
「だから親父はいじめられたんだよな。貧乏だからジャンブを買えない、テレビが家にないってあらぬ噂を立てられて。足切村に貧乏な家なんてないのにな。でも、子どもの頃にそんな経験をしてるのに、俺がワクチンを打たなかったらどうなるか全然考えてなかったろ? 母さんや俺や萌衣姉ちゃんに何も説明せずに打つなって言うだけだった」
「鵜山家でワクチンを打ってないのはパパだけだよ。わたしは四年前にパパにもちゃんとワクチンを打たせるべきだったと思ってる。打ってたら、こうはならなかった」
「こう? こうとはなんだ?」
「エミリちゃんを人質にとったり、恭ちゃんにイルマくんを殺させようとしたりしたことだよ。いくらラース様って人の命令だからって、そんなことしてたらとっくに人体発火しててもおかしくないもん」
「この国には、龍みたいな形をした島国が生んだ『同調圧力』っていう、人間にはどうにもならないギフトのようなものがある。それはあんたが一番よくわかってたはずだろ?」
そのギフトのようなものは、対象者が「自分で選んだ」と信じているのに、理由はよく分からないまま、みんなと同じ行動に向かってしまう。
発動条件はシンプルだ。
「みんながそうしている」
「空気を読め」
「和を乱さないで」
この3つが揃うと、『同調圧力』は超高火力になる。
厄介なのが、国自体が持つギフトであるため犠巫徒がいないことであり、誰のせいにもできないことだ。攻撃されたことに気づきにくく、むしろ心地よく従ってしまうことだ。
そして、反発すると、逆に集団から攻撃される。
「親子のよしみだ。一緒に死んでやるよ、親父」
鵜山はそのときになってようやく、自分のすぐそばに絶対零度の氷の麒麟がいることに気づいたようだった。
「恭介、お前、頭がおかしくなったのか?」
「頭がおかしいのはあんただろ? 何か『大厄災』だ。何が『救厄の聖者』だよ。いい加減、現実を見てくれよ、親父」
恭介の『氷結麒麟弐式・雌雄同一態』が、鵜山に襲いかかろうとした瞬間、イルマはとっさにギフトを使った。
「鳳凰のようなもの」であり「不死鳥のようなもの」は、氷の麒麟と再び相殺しあった。
「なんのつもりだ、イルマ? 邪魔するなよ」
恭介を死なせたくない一心で放ったギフトだったが、彼にとっては余計なお世話だったらしい。
「親父は、いや、この狂信者は俺が殺さなくちゃいけないんだ」
それは、昨今問題になっている宗教二世問題とまったく同じものだった。
最初に神の預言を聞いたという男の時代から2000年以上続く問題でもあるのかもしれない。
だが、イルマにとっても恭介にとっても予想外な行動に出た者がいた。
「ありがとう、イルマくん。恭ちゃんを守ってくれて」
萌衣だ。
彼女の『キャッスル』が無数の弓矢や火縄銃を鵜山の体に撃ち込んだのだ。
「萌衣さん……?」
「姉ちゃん……何やってんの……?」
鵜山の体は、文字通り蜂の巣のようになっていた。
キャッスルの小人たちは、心臓と頭部を重点的に狙っていたため、その2ヶ所は形も失ってしまっていた。
「あーあ、ここまでか。やっとイルマくんといい感じになれてたのになぁ~」
萌衣は残念そうにそう言い、そして笑った。
その瞬間、萌衣の頭から火が上がった。
「イルマくん、恭ちゃんとエミリちゃんのこと、わたしのかわいい妹たちと、それからこの世界のこと、よろしくね」
火は萌衣の全身が炭になるまで燃やし尽くした。
恭介は、人の形をしたまま炭になった萌衣を抱きしめていた。
それを見てもイルマの目から涙は出なかった。
悲しいという感情さえ込み上げてこなかった。
彼女のことを何度も疑ってしまったことへの後悔の方が大きかった。
萌衣は最初から最後まで自分や姉の味方だった。
彼女が裏切るわけがない。
それくらいわかっていたはずだった。
ずっと信じ続けるべきだった。
「姉ちゃんは、親父だけじゃなくここにいる尾上カナイや多々良崇、姫織星彦も無力化してくれた。親父の『正義の残骸(レムナンツ・オブ・ジャスティス)は、人や物をただ透明にするギフトじゃない。不都合なことを隠蔽するためのギフトなんだ」
おそらく『レムナンツ・オブ・ジャスティス』は、イルマが『ニュー・ワールド・メイカー』で作り出してきた『時間という概念が存在しない世界のようなもの』と似たものなのだろう。
「お前、自分のギフトの使い方に似てるって今思っただろ? 全然違うぞ。親父はラース様って奴のためと、自分の保身のためにしか能力を使わなかったからな。お前はお前の姉さんや俺の姉ちゃんのためにギフトを使ってた。誰かを守るために。だから全く違うんだよ」
鵜山京一郎が死んだことによって、彼のギフトで隠蔽されていた尾上たちは永遠に表舞台に出てこれなくなったという。
透明人間というわけじゃなく、存在しなかったことにされたままになるため、イルマや姉や恭介に干渉することはもうできないという。
「ギフトを使ってもか?」
「尾上たちが隠蔽されたままでもギフトを使えるなら、親父は俺なんかを頼ったりしなかったさ」
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