情報迷宮≪実験≫都市アルゴリア -THE NEW WORLD MAKER-

あめの みかな

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#84

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世界を滅ぼすことを決めたのはラースであり、それを可能とする黒釈迦之終焉明王を召喚したのは尾上カムイなのだ。
カムイはただロビンソンたちを集め、合体させただけかもしれなかった。
その体に木島を取り込ませ、黒釈迦之終焉明王の依り代としたのは、別にいるのかもしれない。
ラースか、安倍之瀬イエスか、そのどちらかだろう。
茶川ひよりもあちら側に与しているはずだが、彼女のギフトは未来予知だということがわかっている。
ラースか安倍之瀬が世界を滅ぼすだけであって、イルマの決断で世界が滅びるわけではない。

そもそもこんな無意味な戦いを先に仕掛けてきたのは素雲教の者たちなのだ。
イルマはただ、姉や萌衣らと共に降りかかる火の粉を払ってきただけだ。
それどころか、イルマの人生も姉の人生も素雲教によって操られてきただけのものでしかなかった。
ラプラスの悪魔にもなりたくなかった。

もう何もしたくなかった。
指ひとつ動かすことさえ面倒になっていた。

「ハッタリだな。我々は村戸イルマのギフトによって生まれたわけではない。『ネムル・アビスのようなもの』から召喚された神そのものだ。我々がその男を殺したとしても、村戸イルマに罪はない。人体発火が起きることもない」

闇でありながら光る、人知を超えた存在であるヨミテラスがそう言い、

「安心しなよ、村戸イルマ。さっき見えた木島って男はたぶん首だけ。集めたカラクリ人形の数だけ、その中に体の部位が入っているだけ。どのみちもう助からないよ。助けることなんて最初から出来なかったんだ」

手足に義手義足をつけたヒルコが言う。

「そんな状態でも生きているのは、木島があのカラクリ人形の中にいるから。無理に助けだそうとすれば、彼は死ぬ。わたしたちにできるのは楽にしてあげることだけ。わかった? 村戸イルマ」

アハシマという、ヒルコと同じ義手義足を持つ神もそう続けた。

イルマは、なんでこの人たちはさっきから自分のことをフルネームで呼ぶのだろうと思った。でもまぁ、初対面でイルマと呼び捨てされたら、いくら神だとしても腹が立つからそれでいいかとも思った。

だが、それが本当なら、木島を殺しても問題はーーいや、だめだ。
また『木島のようなもの』を作り出せばいいだけだと考えてしまった。
そんな自分の変化がイルマは許せなかった。
まだ『姉のようなもの』を作ろうとしていることもだ。
『姉のようなもの』は作ってはいけない。ラプラスの悪魔を増やすことになるだけだ。素雲教の思うつぼだった。
そして、イルマもまたラプラスの悪魔の候補者のひとりだ。まだ不完全だろうが、確実に近づいていることは視界に情報が弾幕のように飛び交っていることからわかっていた。

「木島さんが死ぬようなことはやめてもらっていいかな? 君たちは戦わなくてもいいよ。彼らが欲しいのはぼくの目と脳みたいだし」

人は何もしたくなくなると、指を動かすことさえ面倒になるだけでなく、考えることも億劫になり、自分の命さえどうでもよくなるんだな。
イルマは思った。

「戦いを放棄するつもりか? 軟弱者め。これだから男は信用できぬのだ」

イザナミらしき体の腐った女神が言った。蛆が湧き、ハエがたかる、ハエの王ならぬハエの女王のような醜い神だった。

「イザナミさんて、そういう風にたったひとつの例を男全体に当てはめて、男全部を否定するタイプ? 弱者男性をチー牛と罵っておいて、自分たちが豚丼で呼ばれはじめたら発狂しそうだよね。あぁでも、ぼくだけじゃないか。大昔にあなたを裏切ったイザナギさんのことも入ってるだろうから例はふたつだね。たったふたつの例で、この世界に40億人いる男をすべて同じカテゴリーにするんだね」

この神にSNSを与えてはいけないなと思った。神が勘違いフェミニストになりかねないからだ。
いくら日本神話の神々が人間臭いといっても、そんなところまで人間の真似をしなくてもいいのにと思った。
この神を産み出したのはそもそも人間なのだから仕方ないとも思った。

「母を愚弄するな! 村戸イルマ」

「村戸イルマ、もしかしてわたしたちに殺されたいの?」

ヒルコとアハシマが言う。

「君たち、五体不満足だったことを理由に両親に捨てられたのに、まだそんなことが言えるんだ?」

義手義足のふたりは、日本神話では神としてすら数えられなかった存在だ。
日本神話で描かれているのは、生まれたばかりの彼らが五体不満足であったことと棄てられるところまでであり、その後はわからない。
黄泉路神話においてはヒルコは人間に拾われて育てられ、後に七福神のうちの一柱であるエビス神となっていた。義手義足は親代わりとなった人間が木材や鉄を使って作ったそれっぽく見えるものだった。
アハシマも同じ人間に拾われ育てられたとされていた。だから同じ義手や義足をつけているのだろう。

「てっきりふたりはイザナギとイザナミを恨んでるものだとばっかり思ってたよ。でも、そんなもんだよね。ぼくも両親がいなくなったときにすごく恨んだけど、心の底からは恨んだりできなかった」

ヒルコはイルマであり、アハシマは姉のエミリと同じ立場なのだ。
人はどれだけ理不尽な目に遇わされても、親を心の底から憎むことはできない。
雛鳥がはじめて見た存在を親だと思い込み慕うように、人間にもそういう本能のようなものがあるのだろう。
今では両親を恨んだり憎んだりする気持ちは欠片もなかった。
素雲教の書いたシナリオ通りにこの村に移住を決めたふたりに同情さえ覚えていた。

「母だけでなく、兄上と姉上まで愚弄する気か、村戸イルマ」

そう言った人体発火真っ最中のような神はカグツチだろうか。
出産時にイザナミに大火傷を負わせて殺し、そのことでイザナギによって斬り殺された神だ。
この神にあるのは、自分のせいで母親を死なせてしまったという自責の念と、母親を殺したくて殺したわけでもないのに赤ん坊だった自分を殺した父親へ恨みだろうか。
だから母親に付き従っているのだろうか?

「カグツチさんは、2000年以上もベタベタと母親にくっついて黄泉の国で生きてきたの? だとしたら、相当気持ち悪いよ」

さすがに笑いが込み上げてきた。

ここまで口汚く罵っても、彼らが自分を殺してくれないからだった。
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