情報迷宮≪実験≫都市アルゴリア -THE NEW WORLD MAKER-

あめの みかな

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#96

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ーー二天童子切り三千彦(にてんどうじきり みちひこ)

誰もいるはずのないイルマの背後から突如現れた刃が、彼の首を刈り取った。
日本刀の刃だった。
そして、イルマはそれを持つ者の向こうに、『ネムル・アビスのようなもの』によく似た転移装置のようなものを見た。その向こうにはラース様ーー羅臼ユズリハや安倍之瀬イエスがいるのだろう。

イルマは数学は得意ではなかった。だが、胴体から落ちるその首は、自由落下の式を元に『神の目』が自動的に彼の首が床に落ちるまでの時間を計算してくれた。
約0.55秒だ。

意識喪失までは3秒前後らしい。
酸素供給が途絶えるからだという。
体は神経反射で1~2秒程度動くこともあるようだ。

つまり、現状を打開する時間は最低でも3秒弱はあるということだ。
それだけあれば十分だった。十分すぎると思った。

ーーニュー・ワールド・メイカー。

イルマは河合 壮の五臓六腑と、背後から斬りかかってきたおそらく尾内佳名という名前であろう少女の五臓六腑から、『村戸イルマの首から下の体のようなもの』と『首から上の頭部のようなもの』を作り出した。

声は出なかった。
声は声帯の振動によって出るからだ。
声帯に空気を通すには、肺からの空気の流れが必要となる。
首が切断された場合は、気道と肺、血管、神経がすべて断たれる。
脳への血流も即座に途絶える。だから意識は3秒以内に消失する。
肺からの空気も出せないから、声帯は振動できない。
つまり「声を出して叫ぶ」ようなことは現実ではほぼあり得ない。あれはフィクションだからこその演出なのだ。

ギフトを発動するときにその名前を叫ぶ必要はない。
心の中で作りたいものを想像するだけでいい。
だから、出来た。

「何なの、こいつ。なんで首からも体からも、体と首が生えてくるの?」

イルマの首を切り落とした少女はもう一度日本刀を構えた。
ふたりのイルマはむくりと起き上がると、ニヤリと笑った。

「ネットのラノベの回復魔法みたいだろ? でも、魔法じゃない。君たちの心臓を使って、新しい体と首を作っただけだよ。村戸イルマ1号と2号の完成だ」

そう言ったのが1号なのか2号なのか、少女にも河合 壮にもわからやかっただろう。

「俺の心臓を?」

「そうだよ。ぼくが死ねば君たちも死ぬことになるようにした。殉教者になる覚悟があるんだろ?」

ラース様や安倍之瀬ならば容赦なく奪うだろう。
だが、イルマたちの目の前にいるふたりを脅すにはちょうどいい言葉だった。
このふたりには死ぬ覚悟などないからだ。

「ぼくから『神の目』と『脳』を奪って死ぬ覚悟があるなら、今すぐに奪って見せてよ。さっきまでひとつしかなかった『ラプラスの悪魔とどき』がふたつになったよ。ふたつともラース様に捧げたら、きっと喜んでもらえるよ」

そのためにイルマは『ラプラスの悪魔もどき』である自分をふたりに増やしていた。

「ふざけてるね、あんた。昔からあんたのことはいけすかないと思ってた」

「やっぱり君が尾内佳名なんだね」

「そうだよ。あんたの軽はずみな言葉がきっかけで、人生を狂わされた尾内佳名だよ」

尾内は長い黒髪の美人だった。
ホラー映画に出てくるような白いワンピースを、イルマの返り血で真っ赤に染めていた。
その手に握られた『二天童子切り三千彦』は、刃こそ日本刀のようであったが、その構造は視覚情報からは想像がつかない形をしており、柄はひとつだが刃はふたつあった。
その柄も銃のグリップをふたつ逆さに繋げてたような形をしており、まるでU字磁石のようだった。
本当に磁石なのかもしれない。
U字型の磁石は、両方の極が同じ方向を向いているため、最も強い磁場が得られる。その両極が刃になっているのかもしれない。
それ以上のことはわからなかったが、明らかにギフトによって作られたものだった。

「悪いけど、もう聞きあきたよ、それは。河合から何度も聞いた。どうせ宇佐って奴もどこかにいるんだろ?」

「宇佐 舟刻(うさ しゅうこく)だったっけ?」

確か、宇佐はそんな将棋や囲碁の棋士や書道家みたいな名前であり、合衆国みたいな名前だった。

「彼にもちゃんと伝えておいてよ。何もかもぼくのせいにしないでほしいって。苗字だけのせいじゃない。U.S.A.って呼びたくなるような名前をつける親が悪いんだってね。河合 壮も、尾内佳名も。名前をつけた親がそもそも悪いんだよ」

「やっぱりお前はクズだな」

そのことはイルマが一番わかっていた。言葉にしたことを本気で思っていたわけではなかった。取り返しのつかないことをしたという自覚は、彼の中にちゃんとあった。

「さっきの俺への謝罪はなんだったんだ?」

「謝罪? そんなのしたっけ? 最近物忘れがひどくてさ、5分前のことも忘れちゃうことがあるんだよね。君たちの仲間かどうかわからないけど、ギフトで若年性認知症にされたからね。日に日に悪化していくんだ」

謝罪を忘れたわけではなかったが、病の悪化自体は本当のことだった。
姉は買い物に行けば、大量の食材を買ってきては冷蔵庫や冷凍庫に入りきらないほどの量を詰め込んでいた。
買ってきたものを手前に置くせいで、奥にあるものの賞味期限や消費期限がどんどん切れていっていた。
認知症の母親を殺したイルマの担任教師と同じ症状が起きていた。
イルマは買い物に行くことがなかったからそういうことはなかったが、家や自転車の鍵、スマホや財布などをどこに置いたかわからなくなることが頻繁に起きるようになっていた。
最近起きたことはすぐに記憶から消えていってしまう。その代わり子供の頃のことだけはよく覚えていた。

「お前はやっぱり両親に棄てられただけのことはあるな」

「あんたもいじめられてたもんね。小3のときに親に棄てられてから。この村や街は、市になってもまだまだ村社会だから、すぐに噂が広まるから」

それは、イルマにとって思い出したくもない過去だった。
父親と再会したときに本当は文句のひとつくらい言ってやりたかった。
だが、言わなかった。
言ったところでどうにもなることじゃないとわかっていたからだ。
イルマのギフトでは過去を変えることはできない。
変えられるならとっくにそうしていた。
この村に移住することを止めていた。

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