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「あんたもいじめられてたもんね。小3のときに親に棄てられてから。この村や街は、市になってもまだまだ村社会だから、すぐに噂が広まるから」
イルマはこのときになってようやく、父はどこに行ってしまったのだろうと思った。
『人間標本』にされた足切神社の関係者たちの姿は見たが、父の姿はどこにもなかった。
またどこかに行ってしまったのだろうか? 父と同じように神になった母親に会いに行ったのかもしれなかった。
だがもう、そんなことはどうでもいいことだった。
「お前は両親に棄てられたからだけじゃない。鼻持ちならないクズだからいじめられたんだ」
いじめられる側に問題があったと河合は言いたいのだろう。だが、それはあくまでイルマに関してだけという意味のようだった。
「俺たちは違う。俺たちは親からつけられたちゃんと由来や意味のある名前を理由に、人格や人権を踏みにじられたんだ」
彼の言う通り、彼らにはなんの問題もなかった。理由もなかった。
あくまでそれは、当時は、の話だった。
「ぼくは確かにクズだった。だけど、今の君たちはクズじゃないのか? 素雲教に入り、ギフトを使って人の命を奪う側に回った君たちを世間はどう見ると思う?」
過去がどうあったかではなく、世間は現状どうであるかを見てジャッジする。
イルマは、自分がクズなら彼らもクズだと思っていた。
「君たちに問題があったからいじめられた。そういう風に世間は見るんじゃないか? 君たちは、今の世の中でいじめ被害者代表のふりをしてる連中がどんな奴らかちゃんと見たことがある?」
いじめ被害者であることを公言し、日本全国で被害者のために講演会まで開いていた芸能人が、番組収録の休憩中のロケバスの中で性加害事件を起こした。その前年には妻子がいながら不倫もしていた。二度のスキャンダルで芸能界を追放されたその男は、しばらく息を潜めた後ドーナツ屋を始めたかと思ったら、わずか数ヵ月で店の売り上げを自分の懐に入れて開き直っていた。
同じようにいじめ被害者だと公言している別の芸能人は、芸を磨くこともせず、日夜アンチとSNSでレスバを繰り広げ、ファンが相手を攻撃するよう仕向ける通称ファンネルと呼ばれる技を使って、その後は証拠となるような自身の発言はちゃっかりと削除し続けている。
「いじめられたから性格がねじ曲がったのか、芸能人というステータスを得たことや芸能界という特殊な環境でおかしくなってしまったかはわからない。わかっていることは、彼らは過去には被害者だったことがあるかもしれないが、今はただの加害者でしかないということだよ」
「君たちもそうだ。ぼくの『神の目』と『脳』を回収すれば、殺人罪が成立する。ぼくたちは今、一蓮托生ってやつだから」
村戸イルマ1号からのそれらを回収すれば河合 壮が死に、
「殉教者になるつもりもない君たちにはどうせ回収不可能だろうけどね。でも、この神社にいた君たちとは無関係な人たちを『人間標本』にした時点でとっくに加害者だ」
2号から回収すれば尾内佳名が死ぬ。
「尾内! お前が余計なことをするからだぞ!」
「あんたがさっさとこいつをラース様の元に送っていれば、こんなことにはならなかった!」
口論を始めたふたりのことをイルマ1号は2号にまかせることにした。
「もうひとり、宇佐って奴がいるはずだ。気をつけてくれ」
「わかってる。その転移装置みたいなものの向こうに羅臼ユズリハと阿部之瀬イエスがいるはずだ。君こそ気を付けろよ」
ふたりのイルマは互いの役割を分担することにした。
尾内が首を切り落としてくれたおかげで、自分をふたりにすることができたのは不幸中の幸いだった。
おかげで羅臼たちと彼らをどちらも同時に相手ができる。
「この戦いが終わったら、ぼくは萌衣さんに告白するつもりだけどいい?」
「じゃあ、ぼくは姉さんを一生かけて幸せにする」
「姉さんには彼氏がいるだろ?」
「別れさせればいい。ぼくが一番姉さんを愛してるんだから。そうだろ?」
「ていうか、これ何? 死亡フラグ? さっさと行きなよ」
「わかった。後は頼む」
イルマ1号が転移装置のようなものを抜けると、そこはどうやら病院のようだった。
そこは、白目病の手術を受けたK病院のようにも見えたが、病院なんてどこも似たようなものだから確証はなかった。
手術室のようだった。
無人であり、手術台には誰も寝転んではいなかった。
床には頭蓋骨の上半分であろう骨が転がり、大きな血だまりの上に剃られた黒い髪や頭皮、床には散乱していた。
おそらく姉のものだった。
不思議と怒りは湧いてこなかった。
『姉のようなもの』は『萌衣のようなもの』のように作ればいい。
それだけのことだったからだ。
ずいぶん原始的な取り出し方をするんだなと思った。
医療行為としてその取り出し方が正しいのかそうでないのかはわからない。取り出した時点でそれは医療とは呼べないものかもしれない。
原始的だと思ったのは、ギフトを使って取り出したわけではないことが、手術道具についた血で明らかだったからだった。
手術室の壁に、まるで線を描くように大きなドアのイラストが描かれたかと思うと、そのドアはゆっくりと開いた。
もちろんそれはただのドアではなかった。
ギフトによって作られたドアだった。その見た目もただのドアではなく、ロダンの『地獄の門』によく似ていた。パリの装飾美術館の門扉として依頼され、ダンテの『神曲』から着想を得たものだ。
違うのは、ロダンの作品は彫刻だが、目の前にあるのは絵だということだけだった。
一切の希望を捨てよ。
という銘文までそのドアは再現されていた。
足切神社とこの場所を繋いでいた転移装置のようなものも、今思えばあれは錯視か何かを利用した立体的に見える絵だったのかもしれない。
確認しようにも、振り返ると転移装置は消えてしまっていた。
「ひさしぶりだね、村戸イルマくん」
ドアの先に待っていたのは、イルマの担当看護師だった羅臼ユズリハだった。
以前会ったときは、ツインテールの上にナースキャップを被っており、看護師というよりはナースのコスプレをした女の子だった。姉のエミリや萌衣と同い年らしいから、女の子というよりは女性と言った方がいいだろう。
だが今はその髪型も服装も大きく異なっていた。
イルマはこのときになってようやく、父はどこに行ってしまったのだろうと思った。
『人間標本』にされた足切神社の関係者たちの姿は見たが、父の姿はどこにもなかった。
またどこかに行ってしまったのだろうか? 父と同じように神になった母親に会いに行ったのかもしれなかった。
だがもう、そんなことはどうでもいいことだった。
「お前は両親に棄てられたからだけじゃない。鼻持ちならないクズだからいじめられたんだ」
いじめられる側に問題があったと河合は言いたいのだろう。だが、それはあくまでイルマに関してだけという意味のようだった。
「俺たちは違う。俺たちは親からつけられたちゃんと由来や意味のある名前を理由に、人格や人権を踏みにじられたんだ」
彼の言う通り、彼らにはなんの問題もなかった。理由もなかった。
あくまでそれは、当時は、の話だった。
「ぼくは確かにクズだった。だけど、今の君たちはクズじゃないのか? 素雲教に入り、ギフトを使って人の命を奪う側に回った君たちを世間はどう見ると思う?」
過去がどうあったかではなく、世間は現状どうであるかを見てジャッジする。
イルマは、自分がクズなら彼らもクズだと思っていた。
「君たちに問題があったからいじめられた。そういう風に世間は見るんじゃないか? 君たちは、今の世の中でいじめ被害者代表のふりをしてる連中がどんな奴らかちゃんと見たことがある?」
いじめ被害者であることを公言し、日本全国で被害者のために講演会まで開いていた芸能人が、番組収録の休憩中のロケバスの中で性加害事件を起こした。その前年には妻子がいながら不倫もしていた。二度のスキャンダルで芸能界を追放されたその男は、しばらく息を潜めた後ドーナツ屋を始めたかと思ったら、わずか数ヵ月で店の売り上げを自分の懐に入れて開き直っていた。
同じようにいじめ被害者だと公言している別の芸能人は、芸を磨くこともせず、日夜アンチとSNSでレスバを繰り広げ、ファンが相手を攻撃するよう仕向ける通称ファンネルと呼ばれる技を使って、その後は証拠となるような自身の発言はちゃっかりと削除し続けている。
「いじめられたから性格がねじ曲がったのか、芸能人というステータスを得たことや芸能界という特殊な環境でおかしくなってしまったかはわからない。わかっていることは、彼らは過去には被害者だったことがあるかもしれないが、今はただの加害者でしかないということだよ」
「君たちもそうだ。ぼくの『神の目』と『脳』を回収すれば、殺人罪が成立する。ぼくたちは今、一蓮托生ってやつだから」
村戸イルマ1号からのそれらを回収すれば河合 壮が死に、
「殉教者になるつもりもない君たちにはどうせ回収不可能だろうけどね。でも、この神社にいた君たちとは無関係な人たちを『人間標本』にした時点でとっくに加害者だ」
2号から回収すれば尾内佳名が死ぬ。
「尾内! お前が余計なことをするからだぞ!」
「あんたがさっさとこいつをラース様の元に送っていれば、こんなことにはならなかった!」
口論を始めたふたりのことをイルマ1号は2号にまかせることにした。
「もうひとり、宇佐って奴がいるはずだ。気をつけてくれ」
「わかってる。その転移装置みたいなものの向こうに羅臼ユズリハと阿部之瀬イエスがいるはずだ。君こそ気を付けろよ」
ふたりのイルマは互いの役割を分担することにした。
尾内が首を切り落としてくれたおかげで、自分をふたりにすることができたのは不幸中の幸いだった。
おかげで羅臼たちと彼らをどちらも同時に相手ができる。
「この戦いが終わったら、ぼくは萌衣さんに告白するつもりだけどいい?」
「じゃあ、ぼくは姉さんを一生かけて幸せにする」
「姉さんには彼氏がいるだろ?」
「別れさせればいい。ぼくが一番姉さんを愛してるんだから。そうだろ?」
「ていうか、これ何? 死亡フラグ? さっさと行きなよ」
「わかった。後は頼む」
イルマ1号が転移装置のようなものを抜けると、そこはどうやら病院のようだった。
そこは、白目病の手術を受けたK病院のようにも見えたが、病院なんてどこも似たようなものだから確証はなかった。
手術室のようだった。
無人であり、手術台には誰も寝転んではいなかった。
床には頭蓋骨の上半分であろう骨が転がり、大きな血だまりの上に剃られた黒い髪や頭皮、床には散乱していた。
おそらく姉のものだった。
不思議と怒りは湧いてこなかった。
『姉のようなもの』は『萌衣のようなもの』のように作ればいい。
それだけのことだったからだ。
ずいぶん原始的な取り出し方をするんだなと思った。
医療行為としてその取り出し方が正しいのかそうでないのかはわからない。取り出した時点でそれは医療とは呼べないものかもしれない。
原始的だと思ったのは、ギフトを使って取り出したわけではないことが、手術道具についた血で明らかだったからだった。
手術室の壁に、まるで線を描くように大きなドアのイラストが描かれたかと思うと、そのドアはゆっくりと開いた。
もちろんそれはただのドアではなかった。
ギフトによって作られたドアだった。その見た目もただのドアではなく、ロダンの『地獄の門』によく似ていた。パリの装飾美術館の門扉として依頼され、ダンテの『神曲』から着想を得たものだ。
違うのは、ロダンの作品は彫刻だが、目の前にあるのは絵だということだけだった。
一切の希望を捨てよ。
という銘文までそのドアは再現されていた。
足切神社とこの場所を繋いでいた転移装置のようなものも、今思えばあれは錯視か何かを利用した立体的に見える絵だったのかもしれない。
確認しようにも、振り返ると転移装置は消えてしまっていた。
「ひさしぶりだね、村戸イルマくん」
ドアの先に待っていたのは、イルマの担当看護師だった羅臼ユズリハだった。
以前会ったときは、ツインテールの上にナースキャップを被っており、看護師というよりはナースのコスプレをした女の子だった。姉のエミリや萌衣と同い年らしいから、女の子というよりは女性と言った方がいいだろう。
だが今はその髪型も服装も大きく異なっていた。
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