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視神経が切れるブチブチという音が聞こえた。
片目をえぐり出すだけで、気を失いそうになる痛みだった。
だが目はもうひとつある。それをもう一度繰り返さなければいけないかと思うと気が遠くなるどころか、想像するだけで気を失いかねない思いだった。
だが、やらなければいけない。だからイルマはやり遂げた。
意外だったのは、
「それでいいんだよ。そんな目はわたしたちにはいらないもんね」
羅臼もまた、イルマと同じように自ら眼球をえぐり出そうとしたことだった。
「えっ、ちょっと待って。何これ、めちゃくちゃ痛いんだけど!? え? イルマくん? なんか通過儀礼の儀式みたいにさらっとやってなかった?」
「通過儀礼の儀式だったら、痛くてしょうがないことくらいわかるでしょ? あれは男なら包皮、女性なら女性器の一部やクリ○リスを切り取るんだよ」
「ちょっ、ク○トリス!? 何言ってるの? 無理無理! 無理だからね!?」
「通過儀礼はそれくらい痛いってこと。ぼくが羅臼さんからそんな大事なもの取ったりはしないよ」
「ごめん! ちょっと手伝って! これ以上は無理なの! 絶対無理!!」
イルマはすぐに、ギフトで『眼球のようなもの』を作り出すことにした。
正確には『二度と白目病にかかることのない正常な眼球のようなもの』だった。
それらを眼孔にはめ込むと、自動的に視神経が繋がり視界が少しずつ戻っていった。
白目病のときの靄がかかったような状態でもなく、E.O.P.レンズによる無駄な情報の迷宮でもない、久しぶりに体感する人間本来の視界だった。
体の内側で起きていた変化がゆっくりと収まっていく。
神化とでも呼ぶべき現象がおさまったのだ。
イルマは羅臼にも同じものを作ってやることにした。
彼女の眼孔に『眼球のようなもの』を入れようとすると、
「……えへへ、なんだかいけないことをしてるみたいだね」
羅臼は恥ずかしそうにそんなことを言った。
そんな彼女を見て、イルマも恥ずかしくなってしまった。
ここにいるのは、イルマが想像していたような、いかにもなカルト教団の教祖ではなく、姉や萌衣と同い年であり、年相応どころかずっと精神年齢の幼い少女のような人だった。
「普通のプレイではしないだろうから、たぶん相当なことしてるよね」
羅臼はそう言い、イルマはまるで性行為をするかのように『眼球のようなもの』をゆっくりと彼女の眼孔に入れた。
「えへへ、ありがと、イルマくん」
視界を取り戻した羅臼は、取り出したふたつの眼球を踏み潰し、イルマも同じようについ先ほどまで自分の眼球であったものを踏み潰した。
「わたしたちには、こんなのもういらないの。『ラプラスの魔女もどき』になったのはエミリちゃんだけじゃないから」
「未来観測システムは、もう安倍之瀬イエスが完成させてたんだね」
「足切村に住んでた、白目病の治療をした人はほとんど『ラプラスの悪魔もどき』になってたから」
業火によって焼き払われたあの村には、もうフード付きローブをつけた老人しかいなかったということだろう。
そして、そのシステムを作った者はもういない。
「羅臼さんは本当に世界の女王になるつもりなんだね。失敗した王たちじゃなくて、完璧な女王に」
それが、彼女が秦の始皇帝をはじめとする歴史上の人物たちの話をわざわざイルマに聞かせた理由だったのだろう。
「そう。それがわたしの千年王国。だからね、わたしは正義の味方なの」
安倍之瀬イエスが作ろうとしていた千年王国と彼女が作ろうとしているそれは似て非なるものなのだろう。
未来観測システムは、この国を世界のトップに押し上げようとしていた独裁者気取りの男ではなく、目の前にいる少女のような女性のものとなったのだ。
「イルマくん、わたしはね、国境なんてない、飢餓も疫病もない、戦争なんて起きない完璧な世界を作りたいの。神様が興味を失ってしまったこの世界は、もうどれだけ腐敗してもソドムとゴモラみたいに焼き払われたりしないから。だから、別にわたしは神様になんてなるつもりはないけど、」
ーー完璧な女王になるの。
と、羅臼は優しく微笑みながら言った。
未来観測システムは、まるで巨大な生物のようだった。ヤマタノオロチか、あるいはヒドラか、そういう存在だった。100以上の首を持ち、そのひとつひとつに『神の目』と『脳』が入っていた。生物のようであるが手足はなく、そのかわりに「足切様」のようにその体は200組以上の足で作られていた。
K病院の用途不明な一室に、窮屈そうに、そして居心地悪そうに鎮座していた。
「安倍之瀬は、これのためにぼくたちの『神の目』や『脳』が欲しかったんだね。未来のことがわかるようになれば、戦争なんて起こさなくても、この世界をより良い方向に導くことができるから」
「そうだよ。わたしもイルマくんもこれを作るための材料にさせられるところだったの。わたしがこれから作る世界は悲しいことが何も起こらない世界。飢饉も飢餓もなくなり、災害は予言できて、おかしな事件や悲惨な事故が起きることもない。税金は正しいことにのみ使われて、中抜きなんてものは怒らなくなる。格差は少なくなり、誰もが幸せを謳歌できる世界」
羅臼は、エミリちゃんを守ってあげられなくてごめんねと言った。
ふたりがどういう仲だったのか訊ねると、「恋人だよ」と、彼女は答えてくれた。
「姉さんには彼氏がいるって聞いてたけど、彼氏じゃなくて彼女だったんだね」
魔法少女のコスプレばかりに気を取られて気づかなかったが、羅臼は姉と同じアクセサリーを身に付けていた。
姉はあまりアクセサリーをつける人ではなかったが、たまにしかつけることがなかったせいで、逆に覚えていた。
指輪やネックレス、そしてピアス、どれもが姉とお揃いのもののようだった。
つまり姉は最初から羅臼のことも、安倍之瀬という男のことも、すべてを知っていたということだった。
「うん、わたしがエミリちゃんの彼女。わたしといつもいっしょにいてくれてたのは、エミリちゃんの『リモート・ワーカーズ』のコピーの子だったけど」
それはなんだかとても申し訳ない話だった。
「そんな顔はしないで。コピーの子だってエミリちゃん自身だったから」
イルマは羅臼の言葉に救われた気がした。
片目をえぐり出すだけで、気を失いそうになる痛みだった。
だが目はもうひとつある。それをもう一度繰り返さなければいけないかと思うと気が遠くなるどころか、想像するだけで気を失いかねない思いだった。
だが、やらなければいけない。だからイルマはやり遂げた。
意外だったのは、
「それでいいんだよ。そんな目はわたしたちにはいらないもんね」
羅臼もまた、イルマと同じように自ら眼球をえぐり出そうとしたことだった。
「えっ、ちょっと待って。何これ、めちゃくちゃ痛いんだけど!? え? イルマくん? なんか通過儀礼の儀式みたいにさらっとやってなかった?」
「通過儀礼の儀式だったら、痛くてしょうがないことくらいわかるでしょ? あれは男なら包皮、女性なら女性器の一部やクリ○リスを切り取るんだよ」
「ちょっ、ク○トリス!? 何言ってるの? 無理無理! 無理だからね!?」
「通過儀礼はそれくらい痛いってこと。ぼくが羅臼さんからそんな大事なもの取ったりはしないよ」
「ごめん! ちょっと手伝って! これ以上は無理なの! 絶対無理!!」
イルマはすぐに、ギフトで『眼球のようなもの』を作り出すことにした。
正確には『二度と白目病にかかることのない正常な眼球のようなもの』だった。
それらを眼孔にはめ込むと、自動的に視神経が繋がり視界が少しずつ戻っていった。
白目病のときの靄がかかったような状態でもなく、E.O.P.レンズによる無駄な情報の迷宮でもない、久しぶりに体感する人間本来の視界だった。
体の内側で起きていた変化がゆっくりと収まっていく。
神化とでも呼ぶべき現象がおさまったのだ。
イルマは羅臼にも同じものを作ってやることにした。
彼女の眼孔に『眼球のようなもの』を入れようとすると、
「……えへへ、なんだかいけないことをしてるみたいだね」
羅臼は恥ずかしそうにそんなことを言った。
そんな彼女を見て、イルマも恥ずかしくなってしまった。
ここにいるのは、イルマが想像していたような、いかにもなカルト教団の教祖ではなく、姉や萌衣と同い年であり、年相応どころかずっと精神年齢の幼い少女のような人だった。
「普通のプレイではしないだろうから、たぶん相当なことしてるよね」
羅臼はそう言い、イルマはまるで性行為をするかのように『眼球のようなもの』をゆっくりと彼女の眼孔に入れた。
「えへへ、ありがと、イルマくん」
視界を取り戻した羅臼は、取り出したふたつの眼球を踏み潰し、イルマも同じようについ先ほどまで自分の眼球であったものを踏み潰した。
「わたしたちには、こんなのもういらないの。『ラプラスの魔女もどき』になったのはエミリちゃんだけじゃないから」
「未来観測システムは、もう安倍之瀬イエスが完成させてたんだね」
「足切村に住んでた、白目病の治療をした人はほとんど『ラプラスの悪魔もどき』になってたから」
業火によって焼き払われたあの村には、もうフード付きローブをつけた老人しかいなかったということだろう。
そして、そのシステムを作った者はもういない。
「羅臼さんは本当に世界の女王になるつもりなんだね。失敗した王たちじゃなくて、完璧な女王に」
それが、彼女が秦の始皇帝をはじめとする歴史上の人物たちの話をわざわざイルマに聞かせた理由だったのだろう。
「そう。それがわたしの千年王国。だからね、わたしは正義の味方なの」
安倍之瀬イエスが作ろうとしていた千年王国と彼女が作ろうとしているそれは似て非なるものなのだろう。
未来観測システムは、この国を世界のトップに押し上げようとしていた独裁者気取りの男ではなく、目の前にいる少女のような女性のものとなったのだ。
「イルマくん、わたしはね、国境なんてない、飢餓も疫病もない、戦争なんて起きない完璧な世界を作りたいの。神様が興味を失ってしまったこの世界は、もうどれだけ腐敗してもソドムとゴモラみたいに焼き払われたりしないから。だから、別にわたしは神様になんてなるつもりはないけど、」
ーー完璧な女王になるの。
と、羅臼は優しく微笑みながら言った。
未来観測システムは、まるで巨大な生物のようだった。ヤマタノオロチか、あるいはヒドラか、そういう存在だった。100以上の首を持ち、そのひとつひとつに『神の目』と『脳』が入っていた。生物のようであるが手足はなく、そのかわりに「足切様」のようにその体は200組以上の足で作られていた。
K病院の用途不明な一室に、窮屈そうに、そして居心地悪そうに鎮座していた。
「安倍之瀬は、これのためにぼくたちの『神の目』や『脳』が欲しかったんだね。未来のことがわかるようになれば、戦争なんて起こさなくても、この世界をより良い方向に導くことができるから」
「そうだよ。わたしもイルマくんもこれを作るための材料にさせられるところだったの。わたしがこれから作る世界は悲しいことが何も起こらない世界。飢饉も飢餓もなくなり、災害は予言できて、おかしな事件や悲惨な事故が起きることもない。税金は正しいことにのみ使われて、中抜きなんてものは怒らなくなる。格差は少なくなり、誰もが幸せを謳歌できる世界」
羅臼は、エミリちゃんを守ってあげられなくてごめんねと言った。
ふたりがどういう仲だったのか訊ねると、「恋人だよ」と、彼女は答えてくれた。
「姉さんには彼氏がいるって聞いてたけど、彼氏じゃなくて彼女だったんだね」
魔法少女のコスプレばかりに気を取られて気づかなかったが、羅臼は姉と同じアクセサリーを身に付けていた。
姉はあまりアクセサリーをつける人ではなかったが、たまにしかつけることがなかったせいで、逆に覚えていた。
指輪やネックレス、そしてピアス、どれもが姉とお揃いのもののようだった。
つまり姉は最初から羅臼のことも、安倍之瀬という男のことも、すべてを知っていたということだった。
「うん、わたしがエミリちゃんの彼女。わたしといつもいっしょにいてくれてたのは、エミリちゃんの『リモート・ワーカーズ』のコピーの子だったけど」
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