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グループチャットの名前は「アカシャの門」というものだった。
個人のアカウントにアイコン画像を設定できるように、グループチャットも名前だけでなく、アイコン画像が設定できる。
ネットのどこかから拾ってきたのか、それともわざわざ撮影したものなのか、色とりどりの家が立ち並ぶ外国の街の家を思わせるドアに、黄金の蝶が待ち針で止められている、そんな写真が使われていた。
「まるで新興宗教やカルト教団の名前みたいだろ。写真もね」
先生は馬鹿にするようにそう言い、
「でも、このクラスには本当に、高校生が作った宗教が存在していたんだ。まるで一昔前の裏サイトでのいじめみたいに、スマホとグループチャットだけで成立する宗教だよ」
けれど、唇を震わせながら怯えるように、いや、これは怒りだ、怒りに唇を震わせながらそう言った。
グループチャットを開くと、最新の会話が表示された。
メンバーではなかったぼく以外の29人全員が、それぞれの氏名と自殺の方法を書き込んでいた。既読数は28になっていた。
書き込んだ本人以外の全員が、他のクラスメイトの自殺の方法を確認してから、別の方法を書き込んでいったのだろう。
「それでは、今夜12時に」
グループチャットの最後は、そんな言葉とクラスメイトたちのスタンプで締めくくられていた。
発言者のアプリ内での名前は「アリステラピノア」。アイコン画像は何も設定されていなかった。
この誰だかわからない教祖は、偶像崇拝を禁止している、そういう意味なのだろう。
「これから死ぬっていうときにも、今の高校生はスタンプを使うんだな」
先生と同じことをぼくは思っていた。
歴史の授業で、こんな話を聞いたことがある。
輪廻転生を本当に信じていた時代の僧兵たちは、死ぬことを恐れず、仲間の死にも気を取られることはなく、槍を構えたまま敵兵に真っ直ぐに向かっていったと。
死を恐れない僧兵に、戦国武将は随分手を焼かされたと。
このクラスの者たちも、もしかしたらそうだったのだろうか。
「このアリステラピノアっていうのは?」
「まだわからない。だが、このクラスの誰かであることは間違いないだろうね」
アリステラピノアがこのクラスの誰かであり、他の生徒同様自殺しているのだとしたら、名前と自殺の方法を書き込んでいるはずだった。だが、アリステラピノアはそのような発言をしておらず、グループチャットのメンバー全員が名前と自殺の方法を書き込んでいた。
「退会してるんだ、アリステラピノアは。最後の発言のすぐ下を見てくれ」
先生は言った。
確かに、それでは今夜12時に、という発言の後、アリステラピノアが退会したというアプリからの知らせが表示されていた。
「このグループチャットは29人じゃなく、30人だったんだよ。
だから僕は、ひとりだけ生き残った君がアリステラピノアじゃないかと思ったんだけどね」
先生は、ぼくに今日が休みだと連絡しなかったことについて、先ほどぼくも死んでしまっているものだと勘違いしていたと説明した。だがそうではなかったのだ。
ぼくがアリステラピノアである可能性を考え、わざと学校に来させたのだ。
担任として教え子たちの集団自殺の真相を知ろうとしているのだ。
彼はぼくが思っていたようなやる気のない教師などではなかったのだ。
「ぼくみたいな、いるかいないかわからないような人間に、みんなを自殺させるようなまねができるわけがないですよ」
ぼくは花束が置かれた机だらけの教室を眺めながら言った。
スクールカーストという言葉がある。
容姿や学力、運動神経、所属している部活動、友人関係、恋人の有無、コミュニケーション能力など、さまざまな要素が、いつの間にか学校内やクラス内で序列を作る。
この学校では、1年から2年に進級するときにはクラス替えがあるが、2年から3年になる際にはない。
2年のときに出来たスクールカーストが、そのまま3年に持ち越される。
ぼくは2年のときからずっと、クラスでは浮いた存在のままだった。
変わったことと言えば、担任の教師だけだった。
教室というのは社会の縮図だ。
ぼくはその底辺の住人だった。だからグループチャットにも誘われなかったし、そもそもクラスメイトの誰とも連絡先を交換していなかった。
我ながら虚しさが込み上げてくる言葉だったが、グループチャットに誘われなかったおかげで死なずにすんだということは運が良かったと考えるべきだろう。
グループチャットをさかのぼると、アリステラピノアはこんな言葉を残していた。
「皆さんの肉体は死に、火葬され骨と灰になってしまいます。
しかし、皆さんの存在は未来永劫消えることはありません。
私たちが向かうのは天国でも地獄でもないのです。死によって訪れるのは無でもありません。
私たちはアカシャの門の先へと向かい、この宇宙のどこかにある宇宙誕生の瞬間から現在に至るまでのすべての事象が記録された場所で、そのデータベースの一部となり生き続けるのです。
死によって、私たちはより上位の存在となるのです」
それは、本当に宗教のようだった。
個人のアカウントにアイコン画像を設定できるように、グループチャットも名前だけでなく、アイコン画像が設定できる。
ネットのどこかから拾ってきたのか、それともわざわざ撮影したものなのか、色とりどりの家が立ち並ぶ外国の街の家を思わせるドアに、黄金の蝶が待ち針で止められている、そんな写真が使われていた。
「まるで新興宗教やカルト教団の名前みたいだろ。写真もね」
先生は馬鹿にするようにそう言い、
「でも、このクラスには本当に、高校生が作った宗教が存在していたんだ。まるで一昔前の裏サイトでのいじめみたいに、スマホとグループチャットだけで成立する宗教だよ」
けれど、唇を震わせながら怯えるように、いや、これは怒りだ、怒りに唇を震わせながらそう言った。
グループチャットを開くと、最新の会話が表示された。
メンバーではなかったぼく以外の29人全員が、それぞれの氏名と自殺の方法を書き込んでいた。既読数は28になっていた。
書き込んだ本人以外の全員が、他のクラスメイトの自殺の方法を確認してから、別の方法を書き込んでいったのだろう。
「それでは、今夜12時に」
グループチャットの最後は、そんな言葉とクラスメイトたちのスタンプで締めくくられていた。
発言者のアプリ内での名前は「アリステラピノア」。アイコン画像は何も設定されていなかった。
この誰だかわからない教祖は、偶像崇拝を禁止している、そういう意味なのだろう。
「これから死ぬっていうときにも、今の高校生はスタンプを使うんだな」
先生と同じことをぼくは思っていた。
歴史の授業で、こんな話を聞いたことがある。
輪廻転生を本当に信じていた時代の僧兵たちは、死ぬことを恐れず、仲間の死にも気を取られることはなく、槍を構えたまま敵兵に真っ直ぐに向かっていったと。
死を恐れない僧兵に、戦国武将は随分手を焼かされたと。
このクラスの者たちも、もしかしたらそうだったのだろうか。
「このアリステラピノアっていうのは?」
「まだわからない。だが、このクラスの誰かであることは間違いないだろうね」
アリステラピノアがこのクラスの誰かであり、他の生徒同様自殺しているのだとしたら、名前と自殺の方法を書き込んでいるはずだった。だが、アリステラピノアはそのような発言をしておらず、グループチャットのメンバー全員が名前と自殺の方法を書き込んでいた。
「退会してるんだ、アリステラピノアは。最後の発言のすぐ下を見てくれ」
先生は言った。
確かに、それでは今夜12時に、という発言の後、アリステラピノアが退会したというアプリからの知らせが表示されていた。
「このグループチャットは29人じゃなく、30人だったんだよ。
だから僕は、ひとりだけ生き残った君がアリステラピノアじゃないかと思ったんだけどね」
先生は、ぼくに今日が休みだと連絡しなかったことについて、先ほどぼくも死んでしまっているものだと勘違いしていたと説明した。だがそうではなかったのだ。
ぼくがアリステラピノアである可能性を考え、わざと学校に来させたのだ。
担任として教え子たちの集団自殺の真相を知ろうとしているのだ。
彼はぼくが思っていたようなやる気のない教師などではなかったのだ。
「ぼくみたいな、いるかいないかわからないような人間に、みんなを自殺させるようなまねができるわけがないですよ」
ぼくは花束が置かれた机だらけの教室を眺めながら言った。
スクールカーストという言葉がある。
容姿や学力、運動神経、所属している部活動、友人関係、恋人の有無、コミュニケーション能力など、さまざまな要素が、いつの間にか学校内やクラス内で序列を作る。
この学校では、1年から2年に進級するときにはクラス替えがあるが、2年から3年になる際にはない。
2年のときに出来たスクールカーストが、そのまま3年に持ち越される。
ぼくは2年のときからずっと、クラスでは浮いた存在のままだった。
変わったことと言えば、担任の教師だけだった。
教室というのは社会の縮図だ。
ぼくはその底辺の住人だった。だからグループチャットにも誘われなかったし、そもそもクラスメイトの誰とも連絡先を交換していなかった。
我ながら虚しさが込み上げてくる言葉だったが、グループチャットに誘われなかったおかげで死なずにすんだということは運が良かったと考えるべきだろう。
グループチャットをさかのぼると、アリステラピノアはこんな言葉を残していた。
「皆さんの肉体は死に、火葬され骨と灰になってしまいます。
しかし、皆さんの存在は未来永劫消えることはありません。
私たちが向かうのは天国でも地獄でもないのです。死によって訪れるのは無でもありません。
私たちはアカシャの門の先へと向かい、この宇宙のどこかにある宇宙誕生の瞬間から現在に至るまでのすべての事象が記録された場所で、そのデータベースの一部となり生き続けるのです。
死によって、私たちはより上位の存在となるのです」
それは、本当に宗教のようだった。
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