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「今は何でもネットの時代だけど、無料通話アプリのグループチャットの中に宗教が生まれて、こんな風に学校のひとつのクラスがみんな洗脳されちゃうなんて……」
真理さんは呆気にとられていた。
「教祖が誰かもわからない宗教が存在するなんて、わたしが知らない間に世の中は信じられない時代になってるのね」
と、もう一度大きなため息をついた。
「わたしももうおばさんってことなのかな。まだ25なんだけど。わたしも女子高生のときは、25歳の女の人なんておばさんって感じだったもんなぁ」
「そんなことないです」
わたしは、真理さんの自虐に、そんな言葉しか返せなかった。
「ほんと? まだ、セーラー服いけるかな? この家のどこかにまだあるはずなんだけど」
コスプレにしか見えないだろうな、とわたしは思ったけれど言わなかった。パパが部屋に隠しているようなロリコン向けのアダルトビデオみたいにしか見えないだろうな、とまで思ったけど言わなかった。
言わなかったのは気を遣ったからではなかった。
何かがおかしい。
わたしは真理さんの言動からそんなことを感じていたからだった。
その何かがどうおかしいのか、何がおかしいのかよくわからなかったから何も言えなかったし、言わなかったのだ。
「お前は誰だ?」
「知りたかったら、一度死んでみたらいいんじゃない?」
「アリステラピノアさんが退会しました」
グループチャットで、わたしのスマホを使っている要先生か星野くんと、紫帆先生のスマホを使っている花梨とのやりとりが終わった。
花梨によって、すぐにわたしのアカウントは退会させられ、グループチャットが見れなくなった。
あ、終わっちゃった、と真理さんは寂しそうに言った。
「陽子ちゃんみたいに自殺せずにすんだ子が他にもいるといいんだけど」
ついさっき感じた何かは、わたしの気のせいだったのだろうか。
わたしを元気づけようとしてくれていただけだったのだろうか。
いや、違う。
わたしはこの人の目を知っている。
要先生に顔がよく似ているだけだと思っていたけれど、同じ目をした人をわたしは先生の他にも知っていた。
藤本花梨や星野修司と同じ目だ。
真実を知りたがっている目。
真相を究明しようとしている目だった。
「あ、気づいちゃったかな?
お兄ちゃんからは、陽子ちゃんの監視を頼まれてたんだよね。
お兄ちゃんの恋人だった、杉本紫帆さんを殺した犯人かもしれないからって」
「要先生が、紫帆先生の恋人……?」
わたしはそのときようやく理解した。
助けを求める相手を間違えたのだと。
誰かに助けなど求めなくても、花梨にはどうせわたしが本当に死んだかどうかを確かめることはできないのだ。
自殺したふりをして、家でおとなしくしているべきだったのだ。
「あ、知らなかったんだ?」
意外そうにそう言われてしまった。
要先生は、死んだ紫帆先生の穴を補填するために、冬休み明けから赴任してきた教師だった。
赴任直後から紫帆先生に代わりわたしたちの担任になった。
要先生がそれ以前に勤務していた黎明高校は、澪標高校とは姉妹校にあたるそうだ。
その黎明高校は紫帆先生の以前の勤務先でもあり、当時から先生の死までの3年間、ふたりは交際関係にあったのだという。
「陽子ちゃんがクラスメイトの子たちを使って、去年のあの大雪の日に、紫帆さんを凍死させたんだよね?」
「どうして、そんな風に、思うんですか?」
「否定しないんだね」
ドキリとした。
どんなに言い繕っても逃げ道はもうどこにもないような気がした。
「佐野陽子、君が僕に助けを求めてきたのは、僕にグループチャットの存在を教えるためだろう?」
今度はどこからか、要先生の声が聞こえてきた。
真理さんは、スマホをわたしに見せた。
その画面は、無料通話アプリがスピーカー通話になっていた。
真理さんは呆気にとられていた。
「教祖が誰かもわからない宗教が存在するなんて、わたしが知らない間に世の中は信じられない時代になってるのね」
と、もう一度大きなため息をついた。
「わたしももうおばさんってことなのかな。まだ25なんだけど。わたしも女子高生のときは、25歳の女の人なんておばさんって感じだったもんなぁ」
「そんなことないです」
わたしは、真理さんの自虐に、そんな言葉しか返せなかった。
「ほんと? まだ、セーラー服いけるかな? この家のどこかにまだあるはずなんだけど」
コスプレにしか見えないだろうな、とわたしは思ったけれど言わなかった。パパが部屋に隠しているようなロリコン向けのアダルトビデオみたいにしか見えないだろうな、とまで思ったけど言わなかった。
言わなかったのは気を遣ったからではなかった。
何かがおかしい。
わたしは真理さんの言動からそんなことを感じていたからだった。
その何かがどうおかしいのか、何がおかしいのかよくわからなかったから何も言えなかったし、言わなかったのだ。
「お前は誰だ?」
「知りたかったら、一度死んでみたらいいんじゃない?」
「アリステラピノアさんが退会しました」
グループチャットで、わたしのスマホを使っている要先生か星野くんと、紫帆先生のスマホを使っている花梨とのやりとりが終わった。
花梨によって、すぐにわたしのアカウントは退会させられ、グループチャットが見れなくなった。
あ、終わっちゃった、と真理さんは寂しそうに言った。
「陽子ちゃんみたいに自殺せずにすんだ子が他にもいるといいんだけど」
ついさっき感じた何かは、わたしの気のせいだったのだろうか。
わたしを元気づけようとしてくれていただけだったのだろうか。
いや、違う。
わたしはこの人の目を知っている。
要先生に顔がよく似ているだけだと思っていたけれど、同じ目をした人をわたしは先生の他にも知っていた。
藤本花梨や星野修司と同じ目だ。
真実を知りたがっている目。
真相を究明しようとしている目だった。
「あ、気づいちゃったかな?
お兄ちゃんからは、陽子ちゃんの監視を頼まれてたんだよね。
お兄ちゃんの恋人だった、杉本紫帆さんを殺した犯人かもしれないからって」
「要先生が、紫帆先生の恋人……?」
わたしはそのときようやく理解した。
助けを求める相手を間違えたのだと。
誰かに助けなど求めなくても、花梨にはどうせわたしが本当に死んだかどうかを確かめることはできないのだ。
自殺したふりをして、家でおとなしくしているべきだったのだ。
「あ、知らなかったんだ?」
意外そうにそう言われてしまった。
要先生は、死んだ紫帆先生の穴を補填するために、冬休み明けから赴任してきた教師だった。
赴任直後から紫帆先生に代わりわたしたちの担任になった。
要先生がそれ以前に勤務していた黎明高校は、澪標高校とは姉妹校にあたるそうだ。
その黎明高校は紫帆先生の以前の勤務先でもあり、当時から先生の死までの3年間、ふたりは交際関係にあったのだという。
「陽子ちゃんがクラスメイトの子たちを使って、去年のあの大雪の日に、紫帆さんを凍死させたんだよね?」
「どうして、そんな風に、思うんですか?」
「否定しないんだね」
ドキリとした。
どんなに言い繕っても逃げ道はもうどこにもないような気がした。
「佐野陽子、君が僕に助けを求めてきたのは、僕にグループチャットの存在を教えるためだろう?」
今度はどこからか、要先生の声が聞こえてきた。
真理さんは、スマホをわたしに見せた。
その画面は、無料通話アプリがスピーカー通話になっていた。
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