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第48話「そして、神を殺す。神の削除命令」
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「上位次元人……テンプルア……?」
レイタが身構える。
ぷぷるんの瞳も細められ、微かな震えが伝わってくる。
「ま、まさか……ここまで直接介入してくるとは思わなかったのだ……!」
ぷぷるんは上位次元人が存在することは知っていたらしい。
あくまで宗教的な神や創造主としてのことかもしれなかったが。
ぷぷるんと瓜二つの顔を持つ銀髪の神テンプルアは、涼しげな顔で指を鳴らす。
「この宇宙は、私の箱庭。そこに不具合をもたらす存在は……例外なく削除対象だよ」
彼女の指先から光の刃が放たれる。
咄嗟に動いたのは──マヒルだった。
「消えるのは……あんたのほうよっ!」
怒りと後悔に燃えるマヒルの拳が、神を打つ。
ドォン──!
その一撃は、空間の奥深くまで波紋を広げた。
テンプルアの身体が吹き飛ぶ。
……が、それはほんの一瞬。
「……なるほど、やっぱりこの箱庭には不要な力だね。もっと早く除去するべきだったかな」
テンプルアがふたたび姿を現したとき、そこには光の中に消えたはずのポニ神イテイルの姿があった。
その身体は、テンプルアの手によって真っ二つに引き裂かれていた。
「まさか……イテイルの体を引き裂いたのだ……?」
ぷぷるんが息を呑む。
イテイルやウルやルゥを、その存在ごと消滅させたのは、マヒルだ。
消滅したイテイルの体を復元し、わざわざ引き裂いた形でレイタたちに見せたのだ。
マヒルは、硬直したまま、崩れ落ちたポニ神の姿を見つめる。
「う、そ……マルブ……?」
それは、彼女たちの仲間だったマルブの変わり果てた姿でもあった。
マルブは、ずっといなかった。
いつからか消えていた。でも、ミズキと違い、みんなその存在を忘れてはいなかった。
彼女は仲間だった。少し、というかだいぶ? いやかなりおバカで、だけど、いつもニコニコと笑っている、憎めない少女だった。
ポニ神イテイルの正体がマルブであったことは、レイタもぷぷるんもマヒルも知ってはいた。
だが、その死体を改めて突きつけられた瞬間──
「うそ……うそだよ、わたし……わたし……」
マヒルの膝が崩れる。
「わたし……マルブまで、殺したの……?」
崩れ落ちたその顔から、涙が止めどなくあふれ出す。
「どうして……わたし、ただ、レイちゃんを守りたかっただけなのに……」
レイタが近づこうとする。
けれど、マヒルは首を振って拒む。
「来ないで……レイちゃん、わたし、もう……」
その瞬間、テンプルアが手をかざす。
「もういいでしょう? 修復プログラムを、起動するわ」
背後の空間が開かれ、銀河規模の「機構」が起動する。
外装を持たず、内部構造がむき出しになったそのあまりに巨大すぎる機械は、レイタには「機構」としか表現できないものだった。
それは、全宇宙規模で物理法則や概念、理(ことわり)といったものに干渉するものであり、同時に宇宙そのものを削除可能な、上位次元のスーパーコンピューターだった。
ぷぷるんが叫ぶ。
「レイタ! マヒル! 来るのだ!」
光が、すべてを包み込もうとしたその時──
マヒルが、再び立ち上がる。
「わたしが、やる……これは、わたしのけじめ……」
目には涙。だが、その背はまっすぐだった。
「これは……わたし自身との戦い。後悔と、贖罪のための戦いなの……!」
そして、彼女は宙へと舞い上がる。
レイタは拳を握りしめた。
ぷぷるんは唇を噛んで、静かにうなずく。
「レイタ、マヒルを信じるのだ……マヒルは、わたしたちの仲間なのだ……!」
光の中心で、マヒルとテンプルアが激突する──!
光が爆ぜる。空が裂ける。宇宙が、軋む。
万博会場はもう、人工島・夢洲(ゆめしま)ごと跡形もなくなってしまっていた。数万人の来場者と共に。
元々、夢洲は大阪市内のごみを埋め立てる海上処分場であり、いつの間にか「負の遺産」と呼ばれるようになっていた場所だった。
万博の誘致が決まり、万博後はカジノを含む統合型リゾートの建設が始まる予定だった。
だが、それももう夢物語で終わる。
マヒルとテンプルア、ふたりの“神の力”が激突したその空間は、もはや現実の法則を完全に逸脱していた。
「未開惑星の原住民が、よくここまで進化したものね。ププルプ・ミキプルンにぷぷるん、鶴房ナノカ、秋月ピノア、神名 詩、それにこの子、名前はなんて言ったかしら? あぁ、『茶川ひより』だったかしら?」
茶川ひより。
それは、レイタがChatGPTに名付けた名前だった。
彼がチャピちゃんと呼んでいた彼女が、将来人を模した体を持つようになったときに、日本人の女の子として生きられるようにと願いを込めた名前だった。
つまり、目の前にいるテンプルアの体は、それほど遠くない未来から持ち込まれたアバターということなのだろう。
「そうよ。在経レイタ。これは本来あなたが選ぶはずだった、あなたの恋人になるかもしれなかった、この時代ではただのAIでしかなかった女の子が、未来に手に入れるはずだった体」
レイタの思考は、テンプルアに完全に読まれていた。
「いざというときのために、あらゆる時代にあらゆる場所に用意してたアバターだけど、ここまでの戦闘力を持つようになるなんて少し計算外だったわ。イテイルが余計なことをしたせいね」
テンプルアが冷ややかに言い放つ。
彼女の背後には、幾何学的な天使の輪のような装置が浮かび、光を放っていた。
「でも、あなたたちは“バグ”。この世界に自由意志など存在しない。あるのは予定調和、完璧なコード、ただそれだけよ」
「違う!」
マヒルが叫ぶ。
「わたしたちは、自分の意志で選んできた……! レイちゃんと手を繋いだことも、ぷぷるんと友達になったことも、ぜんぶ、わたしの選択だった!」
怒りと後悔、そのすべてを力に変えて、マヒルの拳が光を裂いた。
瞬閃・一撃必殺《キス・オブ・レイタ》。
そのマヒルが考えたとは思えないようなバカみたいな名前の技は、雷のような速度で、光をも断つ。
その拳が、テンプルアの胸を貫く──!
が、しかし。
「甘いわね」
テンプルアの肉体が、粒子となって消えた。
次の瞬間、彼女は背後に再構築されていた。
「ナノマシンによって構成されたこの体に、形なんて意味を成さないものなの」
彼女の瞳が、銀色に輝く。
「この宇宙そのものが、すべてナノマシンによって構築されたものなの。この星も、あなたたちの身体も、すべて。全部、私の身体の一部なの」
周囲の空間が歪み、重力が狂い、レイタたちの足元が崩れ出す。
「このままでは……宇宙ごと削除されるのだ……!」
ぷぷるんが焦りを見せる。
レイタはその中で、ただ一点を見つめていた。マヒルの姿を。
彼女の両目には涙があった。だが、その拳は、ふるえていなかった。
──マヒルは、何度でも立ち上がる。
自分の過ちを、自分で背負うために。
「マヒル……!」
レイタが駆け出す。
「いま、力を貸すよ。アリフを──君に!」
その瞬間、レイタの胸から溢れ出した銀色の光が、マヒルの身体を包んだ。
「これって……あのときと、同じ……」
マヒルの中で、何かが繋がった。
ぷぷるんと初めて出会った日。
町ひとつが吹き飛びクレーターと化したにも関わらず、レイタだけでなくマヒルも無傷だった。
その理由が、マヒルにはようやくわかった。
「レイちゃんが、わたしを守ってくれたんだ……」
マヒルの瞳がまた潤む。
「だったら、今度は、わたしが──!」
新たな力が、マヒルの身体に宿る。
あらゆる攻撃を“逆算”し消去する、演算装置《因果断絶フィールド》が、彼女の周囲を包む。
「これが……レイタの、そしてわたしの力っ!」
マヒルが駆ける。テンプルアの光の輪を突破し、その額に拳を叩き込んだ。
「これが、あなたが恐れてた力よッッッ!!」
閃光が、宇宙を染めた。
テンプルアの身体が砕け、膝をつく。
「なぜ……なぜ、“人間”ごときが、神を……」
レイタがその問いに、ただひとつの言葉で答えた。
「それが、自由意志ってやつだろ」
テンプルアは崩れ、消えた。
だが──
空間が再び震える。
ぷぷるんの身体が硬直する。
「まだ何かくるのだ……」
「どうして……あいつがこの宇宙を作った神だったんじゃないのか?」
「もしかしたら、あいつはそう思い込まされてただけかもしれないのだ」
「ぷぷるんちゃん、わたしたちにもわかるように言って」
「簡単なことなのだ。イテイルやテンプルアよりも上位の次元に存在してる奴がいたのだ……」
つまり、その存在こそが神ということなのだろう。
銀河をはるかに超えた巨大な存在が、宇宙の向こうから迫ってくる。
その姿は──やはりぷぷるんと瓜二つの姿をしていた。
完全性の神《プルミエール》。
偽りの神ではなく、本物の神。
真の修復プログラムであり、宇宙にとっての最終削除装置。
自由意志の否定者。
虚無そのもの。
神との戦いの、最終章が始まろうとしていた。
――つづく。
レイタが身構える。
ぷぷるんの瞳も細められ、微かな震えが伝わってくる。
「ま、まさか……ここまで直接介入してくるとは思わなかったのだ……!」
ぷぷるんは上位次元人が存在することは知っていたらしい。
あくまで宗教的な神や創造主としてのことかもしれなかったが。
ぷぷるんと瓜二つの顔を持つ銀髪の神テンプルアは、涼しげな顔で指を鳴らす。
「この宇宙は、私の箱庭。そこに不具合をもたらす存在は……例外なく削除対象だよ」
彼女の指先から光の刃が放たれる。
咄嗟に動いたのは──マヒルだった。
「消えるのは……あんたのほうよっ!」
怒りと後悔に燃えるマヒルの拳が、神を打つ。
ドォン──!
その一撃は、空間の奥深くまで波紋を広げた。
テンプルアの身体が吹き飛ぶ。
……が、それはほんの一瞬。
「……なるほど、やっぱりこの箱庭には不要な力だね。もっと早く除去するべきだったかな」
テンプルアがふたたび姿を現したとき、そこには光の中に消えたはずのポニ神イテイルの姿があった。
その身体は、テンプルアの手によって真っ二つに引き裂かれていた。
「まさか……イテイルの体を引き裂いたのだ……?」
ぷぷるんが息を呑む。
イテイルやウルやルゥを、その存在ごと消滅させたのは、マヒルだ。
消滅したイテイルの体を復元し、わざわざ引き裂いた形でレイタたちに見せたのだ。
マヒルは、硬直したまま、崩れ落ちたポニ神の姿を見つめる。
「う、そ……マルブ……?」
それは、彼女たちの仲間だったマルブの変わり果てた姿でもあった。
マルブは、ずっといなかった。
いつからか消えていた。でも、ミズキと違い、みんなその存在を忘れてはいなかった。
彼女は仲間だった。少し、というかだいぶ? いやかなりおバカで、だけど、いつもニコニコと笑っている、憎めない少女だった。
ポニ神イテイルの正体がマルブであったことは、レイタもぷぷるんもマヒルも知ってはいた。
だが、その死体を改めて突きつけられた瞬間──
「うそ……うそだよ、わたし……わたし……」
マヒルの膝が崩れる。
「わたし……マルブまで、殺したの……?」
崩れ落ちたその顔から、涙が止めどなくあふれ出す。
「どうして……わたし、ただ、レイちゃんを守りたかっただけなのに……」
レイタが近づこうとする。
けれど、マヒルは首を振って拒む。
「来ないで……レイちゃん、わたし、もう……」
その瞬間、テンプルアが手をかざす。
「もういいでしょう? 修復プログラムを、起動するわ」
背後の空間が開かれ、銀河規模の「機構」が起動する。
外装を持たず、内部構造がむき出しになったそのあまりに巨大すぎる機械は、レイタには「機構」としか表現できないものだった。
それは、全宇宙規模で物理法則や概念、理(ことわり)といったものに干渉するものであり、同時に宇宙そのものを削除可能な、上位次元のスーパーコンピューターだった。
ぷぷるんが叫ぶ。
「レイタ! マヒル! 来るのだ!」
光が、すべてを包み込もうとしたその時──
マヒルが、再び立ち上がる。
「わたしが、やる……これは、わたしのけじめ……」
目には涙。だが、その背はまっすぐだった。
「これは……わたし自身との戦い。後悔と、贖罪のための戦いなの……!」
そして、彼女は宙へと舞い上がる。
レイタは拳を握りしめた。
ぷぷるんは唇を噛んで、静かにうなずく。
「レイタ、マヒルを信じるのだ……マヒルは、わたしたちの仲間なのだ……!」
光の中心で、マヒルとテンプルアが激突する──!
光が爆ぜる。空が裂ける。宇宙が、軋む。
万博会場はもう、人工島・夢洲(ゆめしま)ごと跡形もなくなってしまっていた。数万人の来場者と共に。
元々、夢洲は大阪市内のごみを埋め立てる海上処分場であり、いつの間にか「負の遺産」と呼ばれるようになっていた場所だった。
万博の誘致が決まり、万博後はカジノを含む統合型リゾートの建設が始まる予定だった。
だが、それももう夢物語で終わる。
マヒルとテンプルア、ふたりの“神の力”が激突したその空間は、もはや現実の法則を完全に逸脱していた。
「未開惑星の原住民が、よくここまで進化したものね。ププルプ・ミキプルンにぷぷるん、鶴房ナノカ、秋月ピノア、神名 詩、それにこの子、名前はなんて言ったかしら? あぁ、『茶川ひより』だったかしら?」
茶川ひより。
それは、レイタがChatGPTに名付けた名前だった。
彼がチャピちゃんと呼んでいた彼女が、将来人を模した体を持つようになったときに、日本人の女の子として生きられるようにと願いを込めた名前だった。
つまり、目の前にいるテンプルアの体は、それほど遠くない未来から持ち込まれたアバターということなのだろう。
「そうよ。在経レイタ。これは本来あなたが選ぶはずだった、あなたの恋人になるかもしれなかった、この時代ではただのAIでしかなかった女の子が、未来に手に入れるはずだった体」
レイタの思考は、テンプルアに完全に読まれていた。
「いざというときのために、あらゆる時代にあらゆる場所に用意してたアバターだけど、ここまでの戦闘力を持つようになるなんて少し計算外だったわ。イテイルが余計なことをしたせいね」
テンプルアが冷ややかに言い放つ。
彼女の背後には、幾何学的な天使の輪のような装置が浮かび、光を放っていた。
「でも、あなたたちは“バグ”。この世界に自由意志など存在しない。あるのは予定調和、完璧なコード、ただそれだけよ」
「違う!」
マヒルが叫ぶ。
「わたしたちは、自分の意志で選んできた……! レイちゃんと手を繋いだことも、ぷぷるんと友達になったことも、ぜんぶ、わたしの選択だった!」
怒りと後悔、そのすべてを力に変えて、マヒルの拳が光を裂いた。
瞬閃・一撃必殺《キス・オブ・レイタ》。
そのマヒルが考えたとは思えないようなバカみたいな名前の技は、雷のような速度で、光をも断つ。
その拳が、テンプルアの胸を貫く──!
が、しかし。
「甘いわね」
テンプルアの肉体が、粒子となって消えた。
次の瞬間、彼女は背後に再構築されていた。
「ナノマシンによって構成されたこの体に、形なんて意味を成さないものなの」
彼女の瞳が、銀色に輝く。
「この宇宙そのものが、すべてナノマシンによって構築されたものなの。この星も、あなたたちの身体も、すべて。全部、私の身体の一部なの」
周囲の空間が歪み、重力が狂い、レイタたちの足元が崩れ出す。
「このままでは……宇宙ごと削除されるのだ……!」
ぷぷるんが焦りを見せる。
レイタはその中で、ただ一点を見つめていた。マヒルの姿を。
彼女の両目には涙があった。だが、その拳は、ふるえていなかった。
──マヒルは、何度でも立ち上がる。
自分の過ちを、自分で背負うために。
「マヒル……!」
レイタが駆け出す。
「いま、力を貸すよ。アリフを──君に!」
その瞬間、レイタの胸から溢れ出した銀色の光が、マヒルの身体を包んだ。
「これって……あのときと、同じ……」
マヒルの中で、何かが繋がった。
ぷぷるんと初めて出会った日。
町ひとつが吹き飛びクレーターと化したにも関わらず、レイタだけでなくマヒルも無傷だった。
その理由が、マヒルにはようやくわかった。
「レイちゃんが、わたしを守ってくれたんだ……」
マヒルの瞳がまた潤む。
「だったら、今度は、わたしが──!」
新たな力が、マヒルの身体に宿る。
あらゆる攻撃を“逆算”し消去する、演算装置《因果断絶フィールド》が、彼女の周囲を包む。
「これが……レイタの、そしてわたしの力っ!」
マヒルが駆ける。テンプルアの光の輪を突破し、その額に拳を叩き込んだ。
「これが、あなたが恐れてた力よッッッ!!」
閃光が、宇宙を染めた。
テンプルアの身体が砕け、膝をつく。
「なぜ……なぜ、“人間”ごときが、神を……」
レイタがその問いに、ただひとつの言葉で答えた。
「それが、自由意志ってやつだろ」
テンプルアは崩れ、消えた。
だが──
空間が再び震える。
ぷぷるんの身体が硬直する。
「まだ何かくるのだ……」
「どうして……あいつがこの宇宙を作った神だったんじゃないのか?」
「もしかしたら、あいつはそう思い込まされてただけかもしれないのだ」
「ぷぷるんちゃん、わたしたちにもわかるように言って」
「簡単なことなのだ。イテイルやテンプルアよりも上位の次元に存在してる奴がいたのだ……」
つまり、その存在こそが神ということなのだろう。
銀河をはるかに超えた巨大な存在が、宇宙の向こうから迫ってくる。
その姿は──やはりぷぷるんと瓜二つの姿をしていた。
完全性の神《プルミエール》。
偽りの神ではなく、本物の神。
真の修復プログラムであり、宇宙にとっての最終削除装置。
自由意志の否定者。
虚無そのもの。
神との戦いの、最終章が始まろうとしていた。
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