ひとりの少女を守るために70億の命を犠牲になんてできないから、ひとりの少女を犠牲にしてみた結果、事態がさらに悪化した件。

あめの みかな

文字の大きさ
25 / 123

第3章 第6話

しおりを挟む


 小久保ハルミがなぜタカミを気に入り、ハッキング技術をはじめ、いろいろなことを教えてくれたのかについては、よくわからなかった。

「タカミくんは素直でかわいいからね」

 と言ってくれていたし、

「わたしが小久保ハルミだと知っても、変な目で見ないし」

 とも言っていたが、本当にそれだけが理由だったのだろうか。

 たとえ彼女がその頃にはもうアリステラの再興のために動いており、妹のユワが王族の末裔だと知っていたとしても、彼女がタカミをハッカーとして育てたり、さまざまな知識を与えることに何の意味があったのかわからないからだ。

 彼女は自分を止めてくれる誰かが欲しかった?
 それが雨野タカミという当時中学生の少年だった?
 あの頃、もしタカミが彼女のパソコンをハッキングしていたら、10年後に起きる災厄を止めることができたのだろうか。
 4年前ではなく、14年前にユワの死を止める何らかの方法があったのだろうか。

 年こそ一回り以上離れていたが、純粋に気の合う仲だったから、楽しかったから、だと考えてしまうのは、タカミが女性経験のないまま大人になってしまったからだろうか。
 いまだに我ながら女性に夢を見ているなとタカミは思う。女性は神聖な存在で、女神や聖母のような存在だとどうしても考えてしまう。
 彼が心を許したハルミやユワが遠くに行ってしまったことで、手が届かない故にますます彼の中で神格化されていっているような気もした。

 学生時代に観たり読んだりしておいた方がいい映画や小説、彼の知的好奇心を満たしてくれる中学生にはやや難しい学術書など、タカミは彼女に薦められるままに図書館やレンタルビデオ店を利用して知識を深めていった。
 数ヶ月もしないうちに、得意な分野のものであれば、偏差値の高い大学の入試問題や官僚を目指す者が受ける公務員試験の問題を、タカミはすらすらと解けるようになっていた。

 ハルミと過ごす時間は楽しかった。
 学校に行くより、ハルミとパソコン越しや電話越しに過ごす時間ははるかに有意義で、気がつけば何ヵ月も学校に行っていなかった。
 両親との確執が生まれたのはこの頃だ。
 学校に行かなくなった彼を、父は出来損ないと罵り、母は育て方を間違えたと泣いた。

 タカミのハッキング技術や様々な知識が、ハルミの認めるレベルになった頃、彼女はタカミを警視庁公安部に所属する一条刑事を紹介した。
 希代の詐欺師というレッテルをマスコミや世間に貼られてしまっていた彼女から、警察の人間を紹介されたのはとても意外だった。
 だが、学生時代からの友人だと知らされ、一条刑事の人となりを知るうちに納得した。
 彼は長いものに巻かれるタイプでは決してなく、自分の目で見、感じたことだけを信じる、実直でまっすぐに芯の通った刑事だったからだ。
 タカミはハルミに恋心を抱いていたから、ふたりの関係が本当にただの友人なのか気になったりはしたが、一条刑事が相手なら仕方がないと思えた。

 タカミのハッカーとしての警察への捜査協力はそんな風に始まった。
 早々に、過激派テロ組織「九頭龍獄(くずりゅうごく)」による核兵器の密輸入や、カルト教団「千のコスモの会」による首相暗殺を、驚くほど簡単に未然に防いでしまった。

「育て方を間違えた」「出来損ない」の息子の口座に、毎月両親の年収以上の大金が振り込まれ、警察から感謝状が送られてくるようになると、両親はもうタカミが学校に行かず部屋からでることさえなくなっても何も言わなくなった。その代わり、褒めてくれさえもしなかった。

 子どもというものは、出来損ないでも出来すぎてもいけないということを、タカミは14歳にして知った。




 家族の中では妹のユワだけが変わらずにタカミに接してくれた。

 その頃のユワはまだ幼稚園児で、何もわかっていなかっただけなのかもしれない。
 だが、小さな子どもは大人が思っている以上にいろいろなことを感じ、考えているものだ。それを言語化する能力が追い付いていないだけだ。
 ユワは、家の中にぴりついた空気が流れていることを察知して、タカミが孤立しないように振る舞ってくれていたように思う。

「おにいちゃん、さいきん、いつもだれとおでんわしてるの? もしかして、かのじょ?」

 ユワが、そんなことを聞いてくるくらい、彼は毎日のようにハルミと電話やビデオ通話をしていた。

「わたしもね、ようちえんにすきなおとこのこがいるんだよ」

 ユワからはじめてショウゴのことを聞いたのも、確かこの頃だった。
 ふたりが付き合いはじめたのは中学に入ってからだったから、ユワは長い初恋を実らせて、大好きな男の子に最期を看取られたのだ。

 ユワは幸せだったのだろうか。
 そうであってほしかったが、きっともっと普通に生きたかったに違いなかった。
 だが世界がそうさせてはくれなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo
ホラー
この世には、知ってはいけない話がある。  怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——  どれもがただの作り話かもしれない。  だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。  本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。  最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...