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第11章 第1話
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「ねぇ、アレクサ。偶数翼の女王たちは皆、あなたの娘のようなお馬鹿さんたちばかりなのかしら?」
「アシーナ様、わたしの娘はアマラだけです。
自分の姉を殺害し、女王の座を奪った挙げ句、アリステラを滅ぼさせてしまったような女王を、わたしは娘とは認めていませんから」
「そうだったわね。アマラはとても優秀な子だもの。あんな子と比べたらあなたにもアマラにも失礼ね」
「エーテルの枯渇は、わたしの時代にはもう始まっていました。
わたしはアマラと共に、アリステラにしかなかったエーテルをこの星で産み出す研究をしていたのですが……」
「けれど、完成を間近に控えた頃、あなたは重い病にかかり、そのまま眠るように死んでしまった。
第一皇女であり王位継承者であったアマラは、女王としての執務を行いながら、研究者たちと共にエーテルを産み出そうと考えていた。
けれど、即位式の最中にアマラを暗殺してしまえばいい、その場で自らが姉に代わり女王に即位することを宣言すればいいと、アマヤに助言した者がいた。
頭のいいアマラではなく、お飾りの女王を担ぎ上げることで、アリステラを実質的に乗っ取ろうと考えていた、当時の軍の最高責任者ロックスターに、アマヤはまんまと乗せられてしまったのよね」
「アマヤは、幼い頃から女王の座しか見ていませんでしたから。姉のアマラも、母であるわたしも、彼女にとっては邪魔な存在でしかなかったのでしょう。
いなくなりさえすれば、自分が女王になれる。そんな考えしか持っていませんでしたから、わたしとアマラの研究を引き継ぐこともなければ、そもそもエーテルが枯渇しつつあることにも気付いてはいなかったのです」
「とんだお馬鹿さんが最後の女王になってしまったものね。
女王ステラや大賢者ピノアの時代から、1000年もかけて移住先と移住方法を見つけたというのに。
わずか100年足らずで滅びてしまうくらいなら、アリステラは母なる星と共に超新星爆発に巻き込まれてもよかったくらいだわ。
本当にアマラが女王になれなかったことを残念に思うわ」
「アシーナ様にお褒め頂けて、わたしもあの子も光栄です」
そんな声が、どこからか聞こえてきた。
ここはどこだろう。
ぼくは一体誰だっけ?
あれ? ぼくはぼくのことを、ぼくと呼称していただろうか。それとも俺? 私? 自分の一人称は何だっただろうか。
青年は、自分が置かれている状況もわからなければ、自分が何者かさえもわからなかった。
まさかこれが記憶喪失というやつだろうか?
人はそんな簡単に記憶を失うものだったろうか。
風邪やガンに比べたら、多重人格くらいフィクションの世界にはありふれていても、自分の身近にないものだった。
だが、そんな気がするだけかもしれない。
記憶喪失は、自分が何者かさえもわからなくても、言葉は覚えているものだっただろうか。
言葉を知らない赤ん坊のように、何かを感じることはできても何も考えることができなくなるわけではなく、こうして言葉による思考ができるものだったろうか。
自分自身のことはわからなくても、病気のことやフィクションの存在や内容など、記憶をなくす前に得た知識を覚えているものだったろうか。
体を起こそうとしてみたが、手も足も動かすことができなかった。指先ひとつ動かせなかった。
まわりを見渡してみたかったが、首もやはり動かすことはできなかった。
それどころか、目を開くことも、口を開くこともできなかった。
鼻はどうだ? ちゃんと呼吸をしているか?
青年は、そんな風に考えた後、めまいを覚えるほどの衝撃を受けた。
呼吸をしているのかどうかすらわからないだけでなく、鼻が一体どこにあるのかさえわからなかったのだ。
それだけではなかった。
そうやって思考し、めまいさえも覚えた脳が、一体どこにあるのかさえ、青年にはわからなかったのだ。
「アシーナ様、わたしの娘はアマラだけです。
自分の姉を殺害し、女王の座を奪った挙げ句、アリステラを滅ぼさせてしまったような女王を、わたしは娘とは認めていませんから」
「そうだったわね。アマラはとても優秀な子だもの。あんな子と比べたらあなたにもアマラにも失礼ね」
「エーテルの枯渇は、わたしの時代にはもう始まっていました。
わたしはアマラと共に、アリステラにしかなかったエーテルをこの星で産み出す研究をしていたのですが……」
「けれど、完成を間近に控えた頃、あなたは重い病にかかり、そのまま眠るように死んでしまった。
第一皇女であり王位継承者であったアマラは、女王としての執務を行いながら、研究者たちと共にエーテルを産み出そうと考えていた。
けれど、即位式の最中にアマラを暗殺してしまえばいい、その場で自らが姉に代わり女王に即位することを宣言すればいいと、アマヤに助言した者がいた。
頭のいいアマラではなく、お飾りの女王を担ぎ上げることで、アリステラを実質的に乗っ取ろうと考えていた、当時の軍の最高責任者ロックスターに、アマヤはまんまと乗せられてしまったのよね」
「アマヤは、幼い頃から女王の座しか見ていませんでしたから。姉のアマラも、母であるわたしも、彼女にとっては邪魔な存在でしかなかったのでしょう。
いなくなりさえすれば、自分が女王になれる。そんな考えしか持っていませんでしたから、わたしとアマラの研究を引き継ぐこともなければ、そもそもエーテルが枯渇しつつあることにも気付いてはいなかったのです」
「とんだお馬鹿さんが最後の女王になってしまったものね。
女王ステラや大賢者ピノアの時代から、1000年もかけて移住先と移住方法を見つけたというのに。
わずか100年足らずで滅びてしまうくらいなら、アリステラは母なる星と共に超新星爆発に巻き込まれてもよかったくらいだわ。
本当にアマラが女王になれなかったことを残念に思うわ」
「アシーナ様にお褒め頂けて、わたしもあの子も光栄です」
そんな声が、どこからか聞こえてきた。
ここはどこだろう。
ぼくは一体誰だっけ?
あれ? ぼくはぼくのことを、ぼくと呼称していただろうか。それとも俺? 私? 自分の一人称は何だっただろうか。
青年は、自分が置かれている状況もわからなければ、自分が何者かさえもわからなかった。
まさかこれが記憶喪失というやつだろうか?
人はそんな簡単に記憶を失うものだったろうか。
風邪やガンに比べたら、多重人格くらいフィクションの世界にはありふれていても、自分の身近にないものだった。
だが、そんな気がするだけかもしれない。
記憶喪失は、自分が何者かさえもわからなくても、言葉は覚えているものだっただろうか。
言葉を知らない赤ん坊のように、何かを感じることはできても何も考えることができなくなるわけではなく、こうして言葉による思考ができるものだったろうか。
自分自身のことはわからなくても、病気のことやフィクションの存在や内容など、記憶をなくす前に得た知識を覚えているものだったろうか。
体を起こそうとしてみたが、手も足も動かすことができなかった。指先ひとつ動かせなかった。
まわりを見渡してみたかったが、首もやはり動かすことはできなかった。
それどころか、目を開くことも、口を開くこともできなかった。
鼻はどうだ? ちゃんと呼吸をしているか?
青年は、そんな風に考えた後、めまいを覚えるほどの衝撃を受けた。
呼吸をしているのかどうかすらわからないだけでなく、鼻が一体どこにあるのかさえわからなかったのだ。
それだけではなかった。
そうやって思考し、めまいさえも覚えた脳が、一体どこにあるのかさえ、青年にはわからなかったのだ。
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