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アメノホヒ編
第十話『同一視(シンクレティズム)の深淵』
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絶叫すら凍りついたアジト。
天城星哉は、物言わぬ廃人と化した雉名姉妹の傍らに立ち、その指先を彼女たちの眉間へと伸ばした。
……カチャ。
検眼枠のレンズが回る。
麻迦と羽矢の身体から、透き通った「弓」と「矢」の形をした光が、粒子となって吸い出されていく。二つの魂は天城の手元のレンズに封じ込められ、新たな度数(ちから)として、カチリとフレームに収まった。
「――国木田に伝え忘れたよ。……神話とは、人が見た『一つの影』に付けられた別々の名前に過ぎない、とね」
天城は、駆けつけた雷の目を見つめ、優しく、しかし世界の真理を突きつけるように語りだした。
「雷。君の中に眠る『タケミカヅチ』。……それは東方の島国での名だ。北の民はそれを、雷槌を振るう『トール』と呼んだ。……そして、この私の内にあるアマツミカボシ。……それは西の教典では、明けの明星――『ルシファー』と記されている。……名が何であれ、私たちは最初から、この世界の『変革』を望む同一の存在だったんだ」
雷はその言葉を、魂の奥底で共鳴するように受け止めていた。
自分の内に渦巻く破壊衝動の正体が、神話を超えた太古の意志であることを悟ったのだ。
「……紬も、布津さんも……。俺たちだけじゃないのか」
「ああ。紬の中に宿るのは、織物と機織りを司る神・タケハヅチ。武神でもない機織りの神でありながら、悪神・アマツミカボシを討伐したとされている。つまり、私の天敵だな。彼女は運命の糸を紡ぐアラクネであり、ノルンでもある。……そして布津の『フツヌシ』。……その鋭利な死の理(ロジック)は、あらゆる神話で神の剣を鍛え上げた、あの名もなき鍛冶神たちと同一の存在だ」
天城は、肩を射抜かれ蹲っていた紬を、そっと抱き上げた。
その瞬間、紬の傷口がルシファーの黒い光によって瞬時に塞がり、彼女の瞳には、世界中のネットワークを一本の「糸」として掌握する、真の機織りの神としての光が宿る。
「……あは。……わかっちゃった。……私、今なら世界中の『運命』を、好きなように織り直せる気がするよ、星哉さん……ううん、『明けの明星』様」
「星哉でいい。私はあくまで天城星哉だ。さあ、最後のピース、アメノホヒ――国木田を迎えに行こう。……彼が、どの神話の神として私のレンズに収まるのか……楽しみだね」
天城は検眼枠のレンズを最後の一枚……まだ空白のレンズに合わせた。
警察庁の最上階。国木田の執務室は、もはや現世の理から切り離された異空間と化していた。
国木田は、己の「弓」と「矢」が再起不能にされたという報告を、驚くほど冷静に……いや、歓喜すら湛えた表情で受け取っていた。
「……来たか。我が同胞にして、最大の障害、天城星哉」
扉が音もなく崩れ落ち、そこには「ルシファー」の残光を背負う天城、そして神話の武具をその身に宿した雷、紬、布津の四人が立っていた。
「国木田。……君の正体は『アメノホヒ』などという大人しい神ではない。……あらゆる神話で秩序を攪乱し、神々を欺いてその力を奪い取ってきた、最高位のトリックスター……。そうだね?」
天城の問いに、国木田は低く、地鳴りのような笑い声を上げた。
「察しがいいな。……アメノホヒ、ロキ、ヘルメス……。人々が私に付けた名は数多いが、目的はただ一つ。……『唯一の神』となることだ。そのためには、私と同じ色を持つお前が、何よりも邪魔だったのだよ、星哉」
国木田が腕を広げると、執務室の壁に掲げられた「正義」の文字が黒く染まり、溶け出した。
「お前が殺した北斗七星の女たち。そして、雷が始末した大河内、佐伯、氷室……。彼らの中に眠っていた『悪神』の力も、今はすべてお前の『検眼枠』の中に収まっている。……それを奪えば、私は完成する」
天城は、カチャリと検眼枠のレンズを回した。
今、彼のレンズには北斗七星の女神たちに加え、雷が葬った三人の警察官……『暴虐の軍神(大河内)』、『捏造の記録神(佐伯)』、『腐敗の豊穣神(氷室)』の力が、禍々しい漆黒の輝きとしてチャージされていた。
「残念だ、国木田。……君が欲したこの力は、君を飲み込むための『猛毒』だ」
「試してみるがいい。……タケミカヅチを飼い慣らしたつもりでいる若造が、真の神の理(ロジック)をどこまで理解しているか!」
国木田の影から、無数の「偽りの矢」が放たれる。それは物理的な攻撃ではなく、相手の認識を狂わせ、存在を消滅させる神の権能。
「雷! 布津! 紬! ……この偽りの神に、真の『終焉』を見せてあげよう!」
対する天城は、ルシファーの翼を広げ、検眼枠に封じられたすべての神々の力を、一つの「滅びの光」へと収束させていった。
天城星哉は、物言わぬ廃人と化した雉名姉妹の傍らに立ち、その指先を彼女たちの眉間へと伸ばした。
……カチャ。
検眼枠のレンズが回る。
麻迦と羽矢の身体から、透き通った「弓」と「矢」の形をした光が、粒子となって吸い出されていく。二つの魂は天城の手元のレンズに封じ込められ、新たな度数(ちから)として、カチリとフレームに収まった。
「――国木田に伝え忘れたよ。……神話とは、人が見た『一つの影』に付けられた別々の名前に過ぎない、とね」
天城は、駆けつけた雷の目を見つめ、優しく、しかし世界の真理を突きつけるように語りだした。
「雷。君の中に眠る『タケミカヅチ』。……それは東方の島国での名だ。北の民はそれを、雷槌を振るう『トール』と呼んだ。……そして、この私の内にあるアマツミカボシ。……それは西の教典では、明けの明星――『ルシファー』と記されている。……名が何であれ、私たちは最初から、この世界の『変革』を望む同一の存在だったんだ」
雷はその言葉を、魂の奥底で共鳴するように受け止めていた。
自分の内に渦巻く破壊衝動の正体が、神話を超えた太古の意志であることを悟ったのだ。
「……紬も、布津さんも……。俺たちだけじゃないのか」
「ああ。紬の中に宿るのは、織物と機織りを司る神・タケハヅチ。武神でもない機織りの神でありながら、悪神・アマツミカボシを討伐したとされている。つまり、私の天敵だな。彼女は運命の糸を紡ぐアラクネであり、ノルンでもある。……そして布津の『フツヌシ』。……その鋭利な死の理(ロジック)は、あらゆる神話で神の剣を鍛え上げた、あの名もなき鍛冶神たちと同一の存在だ」
天城は、肩を射抜かれ蹲っていた紬を、そっと抱き上げた。
その瞬間、紬の傷口がルシファーの黒い光によって瞬時に塞がり、彼女の瞳には、世界中のネットワークを一本の「糸」として掌握する、真の機織りの神としての光が宿る。
「……あは。……わかっちゃった。……私、今なら世界中の『運命』を、好きなように織り直せる気がするよ、星哉さん……ううん、『明けの明星』様」
「星哉でいい。私はあくまで天城星哉だ。さあ、最後のピース、アメノホヒ――国木田を迎えに行こう。……彼が、どの神話の神として私のレンズに収まるのか……楽しみだね」
天城は検眼枠のレンズを最後の一枚……まだ空白のレンズに合わせた。
警察庁の最上階。国木田の執務室は、もはや現世の理から切り離された異空間と化していた。
国木田は、己の「弓」と「矢」が再起不能にされたという報告を、驚くほど冷静に……いや、歓喜すら湛えた表情で受け取っていた。
「……来たか。我が同胞にして、最大の障害、天城星哉」
扉が音もなく崩れ落ち、そこには「ルシファー」の残光を背負う天城、そして神話の武具をその身に宿した雷、紬、布津の四人が立っていた。
「国木田。……君の正体は『アメノホヒ』などという大人しい神ではない。……あらゆる神話で秩序を攪乱し、神々を欺いてその力を奪い取ってきた、最高位のトリックスター……。そうだね?」
天城の問いに、国木田は低く、地鳴りのような笑い声を上げた。
「察しがいいな。……アメノホヒ、ロキ、ヘルメス……。人々が私に付けた名は数多いが、目的はただ一つ。……『唯一の神』となることだ。そのためには、私と同じ色を持つお前が、何よりも邪魔だったのだよ、星哉」
国木田が腕を広げると、執務室の壁に掲げられた「正義」の文字が黒く染まり、溶け出した。
「お前が殺した北斗七星の女たち。そして、雷が始末した大河内、佐伯、氷室……。彼らの中に眠っていた『悪神』の力も、今はすべてお前の『検眼枠』の中に収まっている。……それを奪えば、私は完成する」
天城は、カチャリと検眼枠のレンズを回した。
今、彼のレンズには北斗七星の女神たちに加え、雷が葬った三人の警察官……『暴虐の軍神(大河内)』、『捏造の記録神(佐伯)』、『腐敗の豊穣神(氷室)』の力が、禍々しい漆黒の輝きとしてチャージされていた。
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