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アメノホヒ編
第十一話『トリックスターの二重奏』
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天城の放ったルシファーの業火が、執務室を白銀の光で焼き尽くした。
だが、光が収まった後、そこに立っていた国木田は無傷だった。それどころか、彼は愉快そうに肩を揺らしている。
「……甘いな、星哉。私の視界に入っているものは、すべて私が『定義』する。今の攻撃は、私にとっては『春のそよ風』に過ぎない」
「……っ、認知の改ざんか!」
天城が「検眼枠」のカセットを高速で回転させる。カチャカチャという機械音が悲鳴のように響く。
雷がタケミカヅチの神雷を纏い、超人的な踏み込みで国木田の懐へ飛び込んだ。布津が精製した「神をも殺す腐食毒」を塗布した特殊警棒が、国木田の喉元を狙う。
だが、国木田は指先一つ触れずに、雷の動きを止めた。
「雷。君の『正義』は私が与えたものだ。ならば、その『力』も私の所有物(コレクション)の一部だということに、なぜ気づかない?」
国木田が瞳を細めた瞬間、雷の中に宿る雷神の力が逆流した。
「がっ……ぁあああ!!」
雷の全身を自らの電撃が焼き、彼は床に崩れ落ちる。
「雷ちゃん!!」
紬が運命の糸を操り、国木田の存在をこの現実や世界というサーバーから「抹消(デリート)」しようと目に見えないキーボードのタイピングを加速させる。しかし、モニターに表示されたのは、紬自身の過去のトラウマを抉るような、無数のプライベートログだった。
「紬。君が織り上げているのは、私の運命ではない。君自身の『絶望』だ」
国木田は、一歩ずつ天城へ歩み寄る。
彼の足元からは、影ではなく、これまで彼が始末してきた「神の力を持つ者たち」の断末魔が、黒い泥となって溢れ出していた。
「星哉。お前の検眼枠にあるレンズは、まだ『未完成』だ。北斗七星も、三人の汚職警官も、……すべては私が、お前に『集めさせた』のだよ。お前という器を十分に熟成させ、最後の一枚をはめ込むためにね」
国木田の手が、天城の顔にかかった検眼枠に伸びる。
天城はルシファーの翼を盾にするが、国木田の「トリックスター」としての権能は、その防壁さえも「紙」へと書き換えていく。
「……私の目的は、お前を殺すことではない。お前と『一つ』になり、この世界のすべての神話を、私の掌の上で転がすおもちゃに変えることだ」
その瞬間、天城の視界が歪んだ。
検眼枠のフレームが熱を持ち、レンズが一つ、また一つと、国木田の干渉によってひび割れていく。
絶対的な優位に立っていたはずの「明けの明星」が、今、より古く、より狡猾な「秩序の簒奪者」の前に、跪かされようとしていた。
だが、天城もただ黙ってやられるつもりなどなかった。彼の渾身の一撃が、国木田の心臓を貫いたのだ。
ルシファーの黒い業火がその肉体を焼き尽くし、執務室に静寂が戻った……はずだった。
「……終わった、のか……?」
雷が肩で息をしながら、崩れ落ちた死体を見つめる。
だが、炎が消えた後、そこに横たわっていたのは国木田ではなかった。変わり果てた姿で転がっていたのは、国木田の忠実な部下――若井照彦(わかい てるひこ)の遺体だった。
「……変わり身か!」
布津が叫ぶ。
「ちがうよ、フッちゃん。これはたぶん……」
「最初からこいつは国木田じゃなく若井だった。そうだろ?」
雷の問いに天城は黙ったまま頷いた。
そして、それと同時に、部屋中のモニターが強制起動し、全国に緊急放送が流れた。
『――国民の皆様。正義は今、最悪の危機に瀕しています』
画面に映し出されたのは、安全な場所から冷酷に微笑む、本物の国木田ーーアメノホヒの姿だった。
『ここに映る四人の男女……天城星哉、武御雷、織葉紬、布津誠一。彼らは北斗七星の乙女たちを惨殺し、我が部下たちをも手にかけた、神をも恐れぬテロリストです。……彼らを「排除」せよ。これは、この国……いや、世界の秩序を守るための聖戦である』
その放送が流れた瞬間、世界が変わった。
窓の外、警察庁を取り囲む機動隊員の瞳に、人知を超えた神々しい光が宿る。それだけではなかった。街を行き交うサラリーマン、買い物中の主婦、遊び回る子供たち……その全員の魂に眠っていた「八百万の神」の欠片が、国木田の言霊によって強制的に覚醒させられたのだ。
「……星哉さん、これ、ヤバいよ! 街中の人のバイタルが変だよ! みんな、神様の波形(データ)になってる!」
紬が絶叫する。
チャイナタウンでは四神の炎が舞い、コリアンタウンでは檀君の風が吹き荒れる。日本に住むあらゆる人種、あらゆるルーツを持つ人々が、それぞれの母国の神話を背負い、一斉に天城たちへと牙を剥いた。
「……なるほど。国木田は最初から、自分一人で戦うつもりなどなかったんだ。全人類を『神の兵士(ポーン)』に書き換えたか……」
天城は砕けかけた検眼枠をカチャリと回した。レンズの奥には、もはや逃げ場のない、一億総神格化した地獄の光景が映っている。
「雷。……ここからは、君が信じた『正義の味方』は一人もいない。……一億三千万の『神々』を相手に、僕たちは本当の反逆を始めるんだ」
ルシファーの翼が、血のように赤い夕闇に広がる。
全人類という「神」に指名手配された、四人の堕天使たちの逃亡劇が、今始まった。
だが、光が収まった後、そこに立っていた国木田は無傷だった。それどころか、彼は愉快そうに肩を揺らしている。
「……甘いな、星哉。私の視界に入っているものは、すべて私が『定義』する。今の攻撃は、私にとっては『春のそよ風』に過ぎない」
「……っ、認知の改ざんか!」
天城が「検眼枠」のカセットを高速で回転させる。カチャカチャという機械音が悲鳴のように響く。
雷がタケミカヅチの神雷を纏い、超人的な踏み込みで国木田の懐へ飛び込んだ。布津が精製した「神をも殺す腐食毒」を塗布した特殊警棒が、国木田の喉元を狙う。
だが、国木田は指先一つ触れずに、雷の動きを止めた。
「雷。君の『正義』は私が与えたものだ。ならば、その『力』も私の所有物(コレクション)の一部だということに、なぜ気づかない?」
国木田が瞳を細めた瞬間、雷の中に宿る雷神の力が逆流した。
「がっ……ぁあああ!!」
雷の全身を自らの電撃が焼き、彼は床に崩れ落ちる。
「雷ちゃん!!」
紬が運命の糸を操り、国木田の存在をこの現実や世界というサーバーから「抹消(デリート)」しようと目に見えないキーボードのタイピングを加速させる。しかし、モニターに表示されたのは、紬自身の過去のトラウマを抉るような、無数のプライベートログだった。
「紬。君が織り上げているのは、私の運命ではない。君自身の『絶望』だ」
国木田は、一歩ずつ天城へ歩み寄る。
彼の足元からは、影ではなく、これまで彼が始末してきた「神の力を持つ者たち」の断末魔が、黒い泥となって溢れ出していた。
「星哉。お前の検眼枠にあるレンズは、まだ『未完成』だ。北斗七星も、三人の汚職警官も、……すべては私が、お前に『集めさせた』のだよ。お前という器を十分に熟成させ、最後の一枚をはめ込むためにね」
国木田の手が、天城の顔にかかった検眼枠に伸びる。
天城はルシファーの翼を盾にするが、国木田の「トリックスター」としての権能は、その防壁さえも「紙」へと書き換えていく。
「……私の目的は、お前を殺すことではない。お前と『一つ』になり、この世界のすべての神話を、私の掌の上で転がすおもちゃに変えることだ」
その瞬間、天城の視界が歪んだ。
検眼枠のフレームが熱を持ち、レンズが一つ、また一つと、国木田の干渉によってひび割れていく。
絶対的な優位に立っていたはずの「明けの明星」が、今、より古く、より狡猾な「秩序の簒奪者」の前に、跪かされようとしていた。
だが、天城もただ黙ってやられるつもりなどなかった。彼の渾身の一撃が、国木田の心臓を貫いたのだ。
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「……終わった、のか……?」
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だが、炎が消えた後、そこに横たわっていたのは国木田ではなかった。変わり果てた姿で転がっていたのは、国木田の忠実な部下――若井照彦(わかい てるひこ)の遺体だった。
「……変わり身か!」
布津が叫ぶ。
「ちがうよ、フッちゃん。これはたぶん……」
「最初からこいつは国木田じゃなく若井だった。そうだろ?」
雷の問いに天城は黙ったまま頷いた。
そして、それと同時に、部屋中のモニターが強制起動し、全国に緊急放送が流れた。
『――国民の皆様。正義は今、最悪の危機に瀕しています』
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『ここに映る四人の男女……天城星哉、武御雷、織葉紬、布津誠一。彼らは北斗七星の乙女たちを惨殺し、我が部下たちをも手にかけた、神をも恐れぬテロリストです。……彼らを「排除」せよ。これは、この国……いや、世界の秩序を守るための聖戦である』
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窓の外、警察庁を取り囲む機動隊員の瞳に、人知を超えた神々しい光が宿る。それだけではなかった。街を行き交うサラリーマン、買い物中の主婦、遊び回る子供たち……その全員の魂に眠っていた「八百万の神」の欠片が、国木田の言霊によって強制的に覚醒させられたのだ。
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