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逃亡編
第十二話『八百万の追撃(パージ)』
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その日、日本の空から「静寂」という概念が消え去った。
国木田の緊急放送――いや、全人類の魂に直接打ち込まれた「神託」によって、一億三千万の国民は、その体内に眠っていた八百万の神々の断片を強制的に覚醒させられた。
警察庁の地下駐車場。
天城星哉(あまぎ せいや)を先頭に、武御 雷(たけみ らい)、織葉 紬(おりは つむぎ)、布津 誠一(ふつ せいいち)の四人は、血の匂いと硝煙が立ち込める中、一台の黒塗りのセダンに飛び乗った。
「紬、全方位のハッキングを! 警察の無線だけじゃない、市民のSNS、ドライブレコーダー、防犯カメラ……すべてが僕たちの『敵』だ!」
天城の声に、紬は震える指で膝の上のノートPCを叩く。だが、彼女の瞳に映ったのは、これまで経験したことのない異常なログだった。
「……ダメ、星哉さん! ネットが……ネットが壊れてる! みんなが発信してるメッセージが、言葉じゃない……『祈り』とか『呪文』のデータになってるの! 街中の電光掲示板も、勝手に神話の文字に書き換わってる……っ!」
車が地上へ出た瞬間、彼らは信じがたい光景を目にした。
街を埋め尽くす市民たちの姿だった。彼らの瞳は一様に金や青の神々しい光を宿し、その背後には巨大な、あるいは禍々しい神霊の幻影が陽炎のように立ち昇っている。
「いたぞ……! 明星の悪魔だ!」
「偽りの法を裁け! 汚れを祓え!」
誰かが叫んだ。それは、数時間前まで平和に仕事をしていたはずの事務官であり、道を掃除していた清掃員だった。だが、彼らが腕を振るった瞬間、コンクリートの地面から巨大な岩の棘が突き出し、天城たちの車の進路を塞いだ。
「どけえええっ!!」
雷が窓から身を乗り出し、その掌からタケミカヅチの雷(いかずち)を放つ。だが、その一撃は、市民たちの背後に現れた「産土神(うぶすながみ)」の防壁によって霧散させられた。一人一人の力は弱くとも、一億三千万の信仰が成す「和」の力は、堕天使の雷をも飲み込んでいく。
「雷、無駄な消耗はやめるんだ。彼らは今、個人の意志を失い、国木田という『巨大な神』の末端(センサー)と化している」
天城はカチャリと検眼枠を回した。レンズ越しに見える世界は、もはや地獄ですらない。それは、美しく、潔癖で、一切の異分子を許さない「絶対的秩序」の檻だった。
「布津さん、逃げ道は!?」
雷の問いに、布津はタブレットで地下水道の古地図を広げた。
「……この街の地下深くには、明治時代に造られたまま放棄された巨大な貯水槽跡がある。そこなら、地上の神気(ノイズ)を遮断できる可能性がある」
車を捨て、四人はマンホールを開けて地下へと飛び込んだ。
湿った冷気。腐敗臭。だが、その不快な匂いこそが、彼らにとっては唯一の「人間らしさ」が残る場所のように感じられた。
地上のマンホールの蓋が、凄まじい力で踏みつけられる音が響く。
「汚らわしい……。地の底まで追い詰め、魂ごと浄化せよ」
上から聞こえるのは、数千人の市民が唱和する、地鳴りのような「祝詞(のりと)」だった。
暗闇の中、四人は泥水に足を浸しながら、音もなく進む。
天城の白いタキシードは既に灰色に汚れ、紬のすすり泣く声だけが、冷たいトンネルに虚しく反響していた。
彼らはまだ知らなかった。これが、果てしない絶望の旅の、ほんの序章に過ぎないことを。
国木田の緊急放送――いや、全人類の魂に直接打ち込まれた「神託」によって、一億三千万の国民は、その体内に眠っていた八百万の神々の断片を強制的に覚醒させられた。
警察庁の地下駐車場。
天城星哉(あまぎ せいや)を先頭に、武御 雷(たけみ らい)、織葉 紬(おりは つむぎ)、布津 誠一(ふつ せいいち)の四人は、血の匂いと硝煙が立ち込める中、一台の黒塗りのセダンに飛び乗った。
「紬、全方位のハッキングを! 警察の無線だけじゃない、市民のSNS、ドライブレコーダー、防犯カメラ……すべてが僕たちの『敵』だ!」
天城の声に、紬は震える指で膝の上のノートPCを叩く。だが、彼女の瞳に映ったのは、これまで経験したことのない異常なログだった。
「……ダメ、星哉さん! ネットが……ネットが壊れてる! みんなが発信してるメッセージが、言葉じゃない……『祈り』とか『呪文』のデータになってるの! 街中の電光掲示板も、勝手に神話の文字に書き換わってる……っ!」
車が地上へ出た瞬間、彼らは信じがたい光景を目にした。
街を埋め尽くす市民たちの姿だった。彼らの瞳は一様に金や青の神々しい光を宿し、その背後には巨大な、あるいは禍々しい神霊の幻影が陽炎のように立ち昇っている。
「いたぞ……! 明星の悪魔だ!」
「偽りの法を裁け! 汚れを祓え!」
誰かが叫んだ。それは、数時間前まで平和に仕事をしていたはずの事務官であり、道を掃除していた清掃員だった。だが、彼らが腕を振るった瞬間、コンクリートの地面から巨大な岩の棘が突き出し、天城たちの車の進路を塞いだ。
「どけえええっ!!」
雷が窓から身を乗り出し、その掌からタケミカヅチの雷(いかずち)を放つ。だが、その一撃は、市民たちの背後に現れた「産土神(うぶすながみ)」の防壁によって霧散させられた。一人一人の力は弱くとも、一億三千万の信仰が成す「和」の力は、堕天使の雷をも飲み込んでいく。
「雷、無駄な消耗はやめるんだ。彼らは今、個人の意志を失い、国木田という『巨大な神』の末端(センサー)と化している」
天城はカチャリと検眼枠を回した。レンズ越しに見える世界は、もはや地獄ですらない。それは、美しく、潔癖で、一切の異分子を許さない「絶対的秩序」の檻だった。
「布津さん、逃げ道は!?」
雷の問いに、布津はタブレットで地下水道の古地図を広げた。
「……この街の地下深くには、明治時代に造られたまま放棄された巨大な貯水槽跡がある。そこなら、地上の神気(ノイズ)を遮断できる可能性がある」
車を捨て、四人はマンホールを開けて地下へと飛び込んだ。
湿った冷気。腐敗臭。だが、その不快な匂いこそが、彼らにとっては唯一の「人間らしさ」が残る場所のように感じられた。
地上のマンホールの蓋が、凄まじい力で踏みつけられる音が響く。
「汚らわしい……。地の底まで追い詰め、魂ごと浄化せよ」
上から聞こえるのは、数千人の市民が唱和する、地鳴りのような「祝詞(のりと)」だった。
暗闇の中、四人は泥水に足を浸しながら、音もなく進む。
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