34 / 48
『アジル・イマの残響 ―鏡像の長女―』
第10話:『ヘブリカの咆哮、滅びの鉄槌』
しおりを挟む
東の大陸ヘブリカ。
そこは、紫帆(しほ)の王権によって「不毛の地」と定められた、吹き曝しの荒野だった。
追放された聚楽(じゅら)は、この地でかつての神性を封印し、オタキと共に「人間」として生きる道を選んだ。彼女の継ぎ接ぎだらけの肉体は、過酷な労働と歳月によって少しずつ摩耗し、かつての鋭い敵意は、子供たちを育てるための母性へと形を変えていた。
「……お母様。あっちの海の向こうに、僕たちの本当の家があるの?」
聚楽の膝元で、幼い息子たちが問いかける。
彼らは、聚楽のセラミックの肌と、オタキの剛健な甲殻を継承していた。だが、それ以上に彼らが受け継いだのは、神すら凌駕する圧倒的な「個」としての力だった。
「……いいえ。私たちの家は、この荒野よ。……あそこには、もう何もないわ」
聚楽は静かに首を振った。だが、子供たちの瞳に宿る、黄金と紫の混じり合った怪しい光を消すことはできなかった。聚楽が「人」として平穏を望めば望むほど、その血に流れる「神殺しの本能」は、子供たちの身体を巨大な戦いの器へと作り替えていったのだ。
やがて、聚楽が老い、そのパッチワークの身体が土に還ろうとする頃、ヘブリカの大地から、かつてない軍団が沸き上がった。
聚楽の子らは、荒野に沈んでいた「古き民」の末裔たちを統合し、泥と鉄を組み合わせた未知の兵器を作り上げた。彼らにとって、自分たちをこの地に閉じ込めた「紫の神」と、西の大陸で安穏と暮らす「アルジュの民」は、等しく滅ぼすべき「不義の殻」に過ぎなかった。
「――全軍、進撃せよ。母上が奪われたすべてを、我らが取り戻すのだ!」
聚楽の長男が掲げた漆黒の剣が、空を割った。
ヘブリカの武力は、想像を絶していた。彼らは「魔法」や「奇跡」に頼らず、純粋な筋肉の熱量と、泥を燃料とした鋼の重圧で世界を蹂躙し始めた。
まず犠牲になったのは、西の大陸エウロペだった。
そこには、醜く再生されたかつての神と、アルジュが築いた「停滞の王国」があった。アルジュはかつてのように結晶の壁を作って防衛を試みたが、ヘブリカの鋼の巨兵たちは、その壁を「単なる脆いガラス」のように粉砕した。
アルジュの民は悲鳴を上げる間もなく、泥の戦車に踏みつぶされ、エウロペの肥沃な大地は一晩にして焦土へと化した。
そして、ヘブリカ軍勢は世界の中心に浮かぶ島国ノヒンへと向けられた。
そこはかつて、聚楽たちが「伊勢」と呼んだ聖域のなれの果て。紫帆とクヨリゥが統治する、静謐なる支配の地。
しかし、ヘブリカの子らにとって、紫帆の高貴さなど「空虚な飾り」でしかなかった。
彼らは神の威圧(プレッシャー)を、剥き出しの殺意で跳ね返した。ノヒンの美しい紫の森は焼き払われ、結晶の宮殿はヘブリカの投石機から放たれた泥の塊によって、その輝きを失っていった。
「……ああ、……なんてこと……」
老いた聚楽は、ヘブリカの丘から、遠く燃え盛るノヒンの空を眺めていた。
自分がかつて願った「醜い愛の勝利」は、いつの間にか、誰も止めることのできない「圧倒的な暴力の連鎖」へと変質していたのだ。
ノヒンは滅びた。
紫帆の王権も、クヨリゥの狂信も、ヘブリカの若き王たちの前では、ただの過去の遺物として瓦礫の下に埋もれていった。
世界は、聚楽の子らによって一度完全に「平ら」にされた。
だが、その勝者たちの背後に、最果ての海の向こうから、もう一つの「影」が近づいていることに、彼らはまだ気づいていなかった。
そこは、紫帆(しほ)の王権によって「不毛の地」と定められた、吹き曝しの荒野だった。
追放された聚楽(じゅら)は、この地でかつての神性を封印し、オタキと共に「人間」として生きる道を選んだ。彼女の継ぎ接ぎだらけの肉体は、過酷な労働と歳月によって少しずつ摩耗し、かつての鋭い敵意は、子供たちを育てるための母性へと形を変えていた。
「……お母様。あっちの海の向こうに、僕たちの本当の家があるの?」
聚楽の膝元で、幼い息子たちが問いかける。
彼らは、聚楽のセラミックの肌と、オタキの剛健な甲殻を継承していた。だが、それ以上に彼らが受け継いだのは、神すら凌駕する圧倒的な「個」としての力だった。
「……いいえ。私たちの家は、この荒野よ。……あそこには、もう何もないわ」
聚楽は静かに首を振った。だが、子供たちの瞳に宿る、黄金と紫の混じり合った怪しい光を消すことはできなかった。聚楽が「人」として平穏を望めば望むほど、その血に流れる「神殺しの本能」は、子供たちの身体を巨大な戦いの器へと作り替えていったのだ。
やがて、聚楽が老い、そのパッチワークの身体が土に還ろうとする頃、ヘブリカの大地から、かつてない軍団が沸き上がった。
聚楽の子らは、荒野に沈んでいた「古き民」の末裔たちを統合し、泥と鉄を組み合わせた未知の兵器を作り上げた。彼らにとって、自分たちをこの地に閉じ込めた「紫の神」と、西の大陸で安穏と暮らす「アルジュの民」は、等しく滅ぼすべき「不義の殻」に過ぎなかった。
「――全軍、進撃せよ。母上が奪われたすべてを、我らが取り戻すのだ!」
聚楽の長男が掲げた漆黒の剣が、空を割った。
ヘブリカの武力は、想像を絶していた。彼らは「魔法」や「奇跡」に頼らず、純粋な筋肉の熱量と、泥を燃料とした鋼の重圧で世界を蹂躙し始めた。
まず犠牲になったのは、西の大陸エウロペだった。
そこには、醜く再生されたかつての神と、アルジュが築いた「停滞の王国」があった。アルジュはかつてのように結晶の壁を作って防衛を試みたが、ヘブリカの鋼の巨兵たちは、その壁を「単なる脆いガラス」のように粉砕した。
アルジュの民は悲鳴を上げる間もなく、泥の戦車に踏みつぶされ、エウロペの肥沃な大地は一晩にして焦土へと化した。
そして、ヘブリカ軍勢は世界の中心に浮かぶ島国ノヒンへと向けられた。
そこはかつて、聚楽たちが「伊勢」と呼んだ聖域のなれの果て。紫帆とクヨリゥが統治する、静謐なる支配の地。
しかし、ヘブリカの子らにとって、紫帆の高貴さなど「空虚な飾り」でしかなかった。
彼らは神の威圧(プレッシャー)を、剥き出しの殺意で跳ね返した。ノヒンの美しい紫の森は焼き払われ、結晶の宮殿はヘブリカの投石機から放たれた泥の塊によって、その輝きを失っていった。
「……ああ、……なんてこと……」
老いた聚楽は、ヘブリカの丘から、遠く燃え盛るノヒンの空を眺めていた。
自分がかつて願った「醜い愛の勝利」は、いつの間にか、誰も止めることのできない「圧倒的な暴力の連鎖」へと変質していたのだ。
ノヒンは滅びた。
紫帆の王権も、クヨリゥの狂信も、ヘブリカの若き王たちの前では、ただの過去の遺物として瓦礫の下に埋もれていった。
世界は、聚楽の子らによって一度完全に「平ら」にされた。
だが、その勝者たちの背後に、最果ての海の向こうから、もう一つの「影」が近づいていることに、彼らはまだ気づいていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~
榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】
ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。
八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。
===
エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中
【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】
【怖さレベル】
★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度
★★☆ ふつうに怖い話
★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話
※8/2 Kindleにて電子書籍化しました
『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』
都市伝説レポート
君山洋太朗
ホラー
零細出版社「怪奇文庫」が発行するオカルト専門誌『現代怪異録』のコーナー「都市伝説レポート」。弊社の野々宮記者が全国各地の都市伝説をご紹介します。本コーナーに掲載される内容は、すべて事実に基づいた取材によるものです。しかしながら、その解釈や真偽の判断は、最終的に読者の皆様にゆだねられています。真実は時に、私たちの想像を超えるところにあるのかもしれません。
182年の人生
山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。
人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。
二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。
『月のトカゲを探す者』第一部(全三部)。
(表紙絵/山碕田鶴)
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる