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第四話:『無銘古布慄(むめいこうりつ)の残党』
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「死抵抗水仙(していこうすいせん)の森」の出口には、エリートたちの優雅な空気とは対極の、鉄錆と生活臭の入り混じった湿地帯が広がっていた。
そこは、アナルバイブ男爵の圧政に抗う反乱軍『無銘古布慄(むめいこうりつ)』の潜伏地。
私は、もはや「鎖のコスチューム」と化した装備を両手で必死に押さえながら、泥濘の中を進んでいた。
先ほどの慶旺との戦いの余波で、マイクロビキニの布地は縮小を続け、今や左右の胸を繋ぐのは、髪の毛ほどの細い金糸一本。一歩踏み出すたびに、鎖が食い込み、私の精神は「羞恥」という名の超高圧ボイラーと化していた。
「……あ、あの、誰か……誰かいませんか……っ。見ないでほしいけど、助けてほしいっていうか……!」
その時、泥の中から無数の竹槍が突き出された。
「動くな! エデュカシオンの回し者か、それともアナルバイブ男爵の放ったハニートラップか!」
現れたのは、ボロボロの学生服を鎧のように改造し、額に「必勝」と書かれた汚れたハチマキを締めた男たちだった。彼らの装備は旧式で、魔法の輝きもない。だが、その瞳には、偏差値の壁に何度も跳ね返されてきた者特有の、暗く、それでいて消えない執念の火が灯っていた。
「私は勇者ラピスラズリよ! アナルバイブ男爵を倒すために、お城から派遣されたの!」
私が叫ぶと、戦士の一人――筋骨隆々の巨漢である『大悟(だいご)』が、竹槍を構えたまま絶句した。
彼の視線は、私の「ほぼ素肌」の肩から、鎖が食い込む腰回り、そして泥に汚れ、より強調された脚へと吸い寄せられていく。
「……勇者……? 嘘をつけ。そんな、……そんな『親が見たら泣くような格好』をした勇者がいるか! お前、さては……幽迷死率が放った、俺たちの集中力を乱すための魔性の刺客だな!?」
「違うわよ! これは、王家に伝わる……えっと……『全方位視線吸収型・精神防御装甲』なの! 恥ずかしくなればなるほど、私は強くなるんだから!」
「理屈が通らねえ! ……野郎ども、構えろ! この女の『露出』に屈するな! 邪念を捨てろ! 単語帳を思い出せ!」
無銘古布慄の戦士たちが、一斉に竹槍を突き出してくる。
だが、その攻撃には殺気よりも、「見てはいけないものを見てしまった」という動揺が混じっていた。
「――『梵酔嶽乞(ぼんようがっこう)』!!」
大悟たちが叫びながら放ったのは、派手さはないが確実に相手の動きを封じる、集団による包囲術。それは、特別な才能を持たない凡人たちが、数の暴力でエリートに対抗するために編み出した、悲しき泥仕合の奥義だった。
「うぅ……、そんな、大勢で一斉に……私を見ないで……っ! 恥ずかしい……、消えてしまいたい……!!」
私の絶叫とともに、マイクロビキニの鎖が真っ赤に加熱し、爆発的な衝撃波を放った。
「見ないで!」という乙女の拒絶が、物理的な斥力となって大悟たちの竹槍を粉々に砕く。泥の湿地帯が、私の羞恥の熱量で一気に干上がり、湯気が立ち込めた。
「な……っ。この圧倒的な『拒絶の力』……。俺たちの、凡庸な努力を……一瞬で無に帰すだと……!?」
大悟は、折れた竹槍を手に、呆然と私を見上げた。
「……わかった。わかったよ、あんたが本物の勇者だってことは。……これだけの『恥』を背負って戦えるのは、……正気じゃねえ。……いや、並大抵の覚悟じゃねえってことだ」
大悟は泥の上に膝をつき、深々と頭を下げた。
「勇者ラピスラズリ。……いや、瑠璃さん。……疑って悪かった。俺たち『無銘古布慄』は、あんたのその……凄まじい『脱ぎっぷり』……いや、『戦いっぷり』に賭けることにする」
「……わかってくれればいいのよ。……でも、お願いだから、あんまりじろじろ見ないで……。防御力が上がりすぎて、私が爆発しそうだから……」
私は、両手で顔を覆いながら蹲った。
大悟は、自分の汚れた学ランを脱いで私に差し出そうとしたが、私の身体から放たれる羞恥のオーラが熱すぎて、近づくことさえできなかった。
「……瑠璃さん。……アナルバイブ男爵の居城『die顎昂(だいがっこう)』へ行くには、この先にある『宇良朽孨咢(うらぐちにゅうがく)』の隠し通路を通るしかない。……案内しよう。……ただし、通路は狭い。……あんたのその格好じゃ……、……俺たちの心臓が持つかどうか……」
「……私の方が、……心臓が止まりそうよ……っ!」
私は、泥まみれになりながらも、彼らの後に続いた。
エリートに敗れ、泥を啜りながら生きてきた戦士たち。彼らの視線は重く、けれど慶旺のような蔑みはなかった。
それが、私の羞恥心を、これまでとは違う「守るための熱さ」に変えていく。
一歩進むごとに、私のマイクロビキニはさらに食い込み、装甲はナノサイズへと近づいていく。
「……見てなさいよ、男爵。……私が、この『無名の戦士たち』と一緒に、……あんたの用意した『合格発表』を……ひっくり返してあげるんだから!」
泥を跳ね上げながら走る私の後ろ姿は、もはや「裸」に等しかったが、その背中には、どんな重甲冑よりも力強い「勇者の誇り」が宿り始めていた。
そこは、アナルバイブ男爵の圧政に抗う反乱軍『無銘古布慄(むめいこうりつ)』の潜伏地。
私は、もはや「鎖のコスチューム」と化した装備を両手で必死に押さえながら、泥濘の中を進んでいた。
先ほどの慶旺との戦いの余波で、マイクロビキニの布地は縮小を続け、今や左右の胸を繋ぐのは、髪の毛ほどの細い金糸一本。一歩踏み出すたびに、鎖が食い込み、私の精神は「羞恥」という名の超高圧ボイラーと化していた。
「……あ、あの、誰か……誰かいませんか……っ。見ないでほしいけど、助けてほしいっていうか……!」
その時、泥の中から無数の竹槍が突き出された。
「動くな! エデュカシオンの回し者か、それともアナルバイブ男爵の放ったハニートラップか!」
現れたのは、ボロボロの学生服を鎧のように改造し、額に「必勝」と書かれた汚れたハチマキを締めた男たちだった。彼らの装備は旧式で、魔法の輝きもない。だが、その瞳には、偏差値の壁に何度も跳ね返されてきた者特有の、暗く、それでいて消えない執念の火が灯っていた。
「私は勇者ラピスラズリよ! アナルバイブ男爵を倒すために、お城から派遣されたの!」
私が叫ぶと、戦士の一人――筋骨隆々の巨漢である『大悟(だいご)』が、竹槍を構えたまま絶句した。
彼の視線は、私の「ほぼ素肌」の肩から、鎖が食い込む腰回り、そして泥に汚れ、より強調された脚へと吸い寄せられていく。
「……勇者……? 嘘をつけ。そんな、……そんな『親が見たら泣くような格好』をした勇者がいるか! お前、さては……幽迷死率が放った、俺たちの集中力を乱すための魔性の刺客だな!?」
「違うわよ! これは、王家に伝わる……えっと……『全方位視線吸収型・精神防御装甲』なの! 恥ずかしくなればなるほど、私は強くなるんだから!」
「理屈が通らねえ! ……野郎ども、構えろ! この女の『露出』に屈するな! 邪念を捨てろ! 単語帳を思い出せ!」
無銘古布慄の戦士たちが、一斉に竹槍を突き出してくる。
だが、その攻撃には殺気よりも、「見てはいけないものを見てしまった」という動揺が混じっていた。
「――『梵酔嶽乞(ぼんようがっこう)』!!」
大悟たちが叫びながら放ったのは、派手さはないが確実に相手の動きを封じる、集団による包囲術。それは、特別な才能を持たない凡人たちが、数の暴力でエリートに対抗するために編み出した、悲しき泥仕合の奥義だった。
「うぅ……、そんな、大勢で一斉に……私を見ないで……っ! 恥ずかしい……、消えてしまいたい……!!」
私の絶叫とともに、マイクロビキニの鎖が真っ赤に加熱し、爆発的な衝撃波を放った。
「見ないで!」という乙女の拒絶が、物理的な斥力となって大悟たちの竹槍を粉々に砕く。泥の湿地帯が、私の羞恥の熱量で一気に干上がり、湯気が立ち込めた。
「な……っ。この圧倒的な『拒絶の力』……。俺たちの、凡庸な努力を……一瞬で無に帰すだと……!?」
大悟は、折れた竹槍を手に、呆然と私を見上げた。
「……わかった。わかったよ、あんたが本物の勇者だってことは。……これだけの『恥』を背負って戦えるのは、……正気じゃねえ。……いや、並大抵の覚悟じゃねえってことだ」
大悟は泥の上に膝をつき、深々と頭を下げた。
「勇者ラピスラズリ。……いや、瑠璃さん。……疑って悪かった。俺たち『無銘古布慄』は、あんたのその……凄まじい『脱ぎっぷり』……いや、『戦いっぷり』に賭けることにする」
「……わかってくれればいいのよ。……でも、お願いだから、あんまりじろじろ見ないで……。防御力が上がりすぎて、私が爆発しそうだから……」
私は、両手で顔を覆いながら蹲った。
大悟は、自分の汚れた学ランを脱いで私に差し出そうとしたが、私の身体から放たれる羞恥のオーラが熱すぎて、近づくことさえできなかった。
「……瑠璃さん。……アナルバイブ男爵の居城『die顎昂(だいがっこう)』へ行くには、この先にある『宇良朽孨咢(うらぐちにゅうがく)』の隠し通路を通るしかない。……案内しよう。……ただし、通路は狭い。……あんたのその格好じゃ……、……俺たちの心臓が持つかどうか……」
「……私の方が、……心臓が止まりそうよ……っ!」
私は、泥まみれになりながらも、彼らの後に続いた。
エリートに敗れ、泥を啜りながら生きてきた戦士たち。彼らの視線は重く、けれど慶旺のような蔑みはなかった。
それが、私の羞恥心を、これまでとは違う「守るための熱さ」に変えていく。
一歩進むごとに、私のマイクロビキニはさらに食い込み、装甲はナノサイズへと近づいていく。
「……見てなさいよ、男爵。……私が、この『無名の戦士たち』と一緒に、……あんたの用意した『合格発表』を……ひっくり返してあげるんだから!」
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