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第九話:『禁術、狂逝異韻戒(きょういくいいんかい)』
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最上階への階段を駆け上がる私の前に、音もなく「その男」は降り立った。
男爵の右腕、最高教育執行官・文(ふみ)。
彼は白装束のような学ランを纏い、手には人間の神経を象ったような不気味なタクトを握っている。彼の背後では、巨大なスピーカーから絶え間なく「不協和音」が鳴り響き、空間そのものを震わせていた。
「勇者ラピスラズリ。……君の人生は、実に無秩序だ。宿屋の娘として凡庸に終わり、偏差値という名の階段を登ることさえ拒絶した」
「……無秩序で何が悪いのよ! 自分の足で歩いて、自分の恥ずかしい格好で戦って、何が悪いっていうの!」
私の叫びを、文は冷笑で一蹴した。
「悪いのではない。『不合理』なのだ。ゆえに、私が調律してあげよう。……君というバグを、世界の正解へと導く。……禁術、狂逝異韻戒(きょういくいいんかい)」
瞬間、周囲の空間が停止した。
「狂」「逝」「異」「韻」「戒」。五つの呪文字が私の周囲を囲み、私の脳内に直接、何万、何億という「正しい生徒たちの合唱」が流れ込む。
「あ、……あああ……!!」
身体が、私の意志を無視して動き始める。
ナノビキニを繋ぐ金鎖が、狂逝異韻戒の「校則(システム)」に侵食され、真っ白な、全く露出のない、首から足首までを覆い隠す「制服」へと変質し始めた。
「……勇者ラピスラズリ。君の魂のリズムは、今、この世界の調律と合致する。羞恥心などという非効率なエネルギーを捨て、ただの『模範的な歯車』として、静かに消滅するがいい」
羞恥心が……消えていく。
身体が温かい。恥ずかしくない。誰に見られても平気。
……けれど、それは同時に、私の防御力がゼロになることを意味していた。
制服に身を包んだ私の肌は、紫のオーラを失い、文の放つ「抹消の音波」に削られてボロボロになっていく。
「……だめ……、……こんなの……私じゃない……っ」
『瑠璃さん!! 思い出せ!!』
階下から、大悟の絶叫が響いた。
『あんたが宿屋で皿を割って、顔を真っ赤にして謝ってたあの日のことを! あんたのその、不器用で、恥ずかしがり屋で、……でも誰よりも温かいバグを!!』
バグ。
そうだ。私は、正解を選べなかった女の子。
計算を間違え、名前を書き忘れ、恥ずかしい格好で戦場を駆け抜けた、最低で最高のバグ!
「――ふざけないでよ、狂逝異韻戒!!」
私は、自分を着飾ろうとしていた「制服(正解)」を、自らの爪で引き裂いた。
「私は! 恥ずかしくても! 裸同然でも! 私のままで生きたいの!! あんたたちの用意した譜面に、私の魂(メロディ)は乗せないわ!!」
ビリビリと音を立てて制服が弾け飛び、再び「黄金のラメ数粒」だけの概念武装が姿を現した。
羞恥心が、火山の噴火のように再燃する。
「……ああああああ恥ずかしい!! 自分の意志で、今、脱いだ!! 全人類の前で、私は自分の意志で脱いだわよ!!」
ドォォォォォン!!
私の背後に出現したのは、もはや勇者でもサキュバスでもない。
羞恥の熱量で具現化した、巨大な「自分自身の幻影」。
狂逝異韻戒の調律を、私の「不協和音(シャウト)」が物理的に粉砕した。
「な……っ!? 調律を拒絶しただと……!? 自らの意志で『恥を上塗りする』道を選ぶなど……狂気の沙汰だ!!」
「――『die顎昂(だいがっこう)』!!」
私は、自らの顎を限界まで持ち上げ、羞恥に震える全霊の掌打を放った。
それは、正解も不正解もない、ただの「生きている証」という名の衝撃。
文は、彼の信じてきた「正論」とともに、要塞の壁を突き破って遙か彼方へと吹き飛ばされた。
「……はぁ……、……はぁ……」
私は、ラメが剥がれてもはや「ただの光の粒子」で肌を覆っているだけの状態で、崩壊した床に膝をついた。
目の前には、最奥の扉が不気味に開いている。
そこには、アナルバイブ男爵が、世界を滅ぼすための「最終合格発表」を手に、椅子に深々と腰掛けていた。
「……来たか、ラピスラズリ。……君のその、……あまりにも淫らで、……あまりにも美しい……『不合格の魂』。……私が直接、……解体してあげよう」
男爵の右腕、最高教育執行官・文(ふみ)。
彼は白装束のような学ランを纏い、手には人間の神経を象ったような不気味なタクトを握っている。彼の背後では、巨大なスピーカーから絶え間なく「不協和音」が鳴り響き、空間そのものを震わせていた。
「勇者ラピスラズリ。……君の人生は、実に無秩序だ。宿屋の娘として凡庸に終わり、偏差値という名の階段を登ることさえ拒絶した」
「……無秩序で何が悪いのよ! 自分の足で歩いて、自分の恥ずかしい格好で戦って、何が悪いっていうの!」
私の叫びを、文は冷笑で一蹴した。
「悪いのではない。『不合理』なのだ。ゆえに、私が調律してあげよう。……君というバグを、世界の正解へと導く。……禁術、狂逝異韻戒(きょういくいいんかい)」
瞬間、周囲の空間が停止した。
「狂」「逝」「異」「韻」「戒」。五つの呪文字が私の周囲を囲み、私の脳内に直接、何万、何億という「正しい生徒たちの合唱」が流れ込む。
「あ、……あああ……!!」
身体が、私の意志を無視して動き始める。
ナノビキニを繋ぐ金鎖が、狂逝異韻戒の「校則(システム)」に侵食され、真っ白な、全く露出のない、首から足首までを覆い隠す「制服」へと変質し始めた。
「……勇者ラピスラズリ。君の魂のリズムは、今、この世界の調律と合致する。羞恥心などという非効率なエネルギーを捨て、ただの『模範的な歯車』として、静かに消滅するがいい」
羞恥心が……消えていく。
身体が温かい。恥ずかしくない。誰に見られても平気。
……けれど、それは同時に、私の防御力がゼロになることを意味していた。
制服に身を包んだ私の肌は、紫のオーラを失い、文の放つ「抹消の音波」に削られてボロボロになっていく。
「……だめ……、……こんなの……私じゃない……っ」
『瑠璃さん!! 思い出せ!!』
階下から、大悟の絶叫が響いた。
『あんたが宿屋で皿を割って、顔を真っ赤にして謝ってたあの日のことを! あんたのその、不器用で、恥ずかしがり屋で、……でも誰よりも温かいバグを!!』
バグ。
そうだ。私は、正解を選べなかった女の子。
計算を間違え、名前を書き忘れ、恥ずかしい格好で戦場を駆け抜けた、最低で最高のバグ!
「――ふざけないでよ、狂逝異韻戒!!」
私は、自分を着飾ろうとしていた「制服(正解)」を、自らの爪で引き裂いた。
「私は! 恥ずかしくても! 裸同然でも! 私のままで生きたいの!! あんたたちの用意した譜面に、私の魂(メロディ)は乗せないわ!!」
ビリビリと音を立てて制服が弾け飛び、再び「黄金のラメ数粒」だけの概念武装が姿を現した。
羞恥心が、火山の噴火のように再燃する。
「……ああああああ恥ずかしい!! 自分の意志で、今、脱いだ!! 全人類の前で、私は自分の意志で脱いだわよ!!」
ドォォォォォン!!
私の背後に出現したのは、もはや勇者でもサキュバスでもない。
羞恥の熱量で具現化した、巨大な「自分自身の幻影」。
狂逝異韻戒の調律を、私の「不協和音(シャウト)」が物理的に粉砕した。
「な……っ!? 調律を拒絶しただと……!? 自らの意志で『恥を上塗りする』道を選ぶなど……狂気の沙汰だ!!」
「――『die顎昂(だいがっこう)』!!」
私は、自らの顎を限界まで持ち上げ、羞恥に震える全霊の掌打を放った。
それは、正解も不正解もない、ただの「生きている証」という名の衝撃。
文は、彼の信じてきた「正論」とともに、要塞の壁を突き破って遙か彼方へと吹き飛ばされた。
「……はぁ……、……はぁ……」
私は、ラメが剥がれてもはや「ただの光の粒子」で肌を覆っているだけの状態で、崩壊した床に膝をついた。
目の前には、最奥の扉が不気味に開いている。
そこには、アナルバイブ男爵が、世界を滅ぼすための「最終合格発表」を手に、椅子に深々と腰掛けていた。
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