12 / 30
第十二話(最終回):『新しい春、合格発表の鐘』
しおりを挟む
アナルバイブ男爵が消滅し、要塞『die顎昂(だいがっこう)』が光の塵となって崩壊していく中、世界は未曾有の「解放」に包まれていた。
空からは「不合格」の呪縛を解かれた魂たちが、温かな光の雨となって地上へ降り注ぐ。魔物だったスライムやゴブリンたちは、本来の優しい魂の姿を取り戻し、それぞれの「あるべき場所」へと還っていった。
爆心地の中央。
私は、何もかもを出し切り、一糸まとわぬ姿のまま、白銀の光の中に浮かんでいた。
「……終わったのね。……全部」
羞恥心をエネルギーに変えて戦ってきた日々。マイクロからナノ、そしてゼロへと至った私の「性受験」の旅。
男爵という巨大なシステムを破壊したことで、私の内側にあった膨大な羞恥のエネルギーもまた、役目を終えようとしていた。
『――勇者ラピスラズリよ。……いや、迷える魂よ』
どこからか、世界の理(ことわり)そのもののような、静かな声が響く。
『君は、己の恥を光に変え、歪んだ輪廻を正した。……報酬として、君を真実の居場所へ帰そう。……ただし、代償として、この世界での記憶と、勇者の力はすべて失われる』
「……いいわよ。……私は、……ただの女の子に……戻りたかっただけだから」
私は、静かに目を閉じた。
紫色の極光が私の身体を包み込み、次元の壁を溶かしていく。
最後に見たのは、地上で私を見上げ、涙を流しながら手を振る大悟たちの姿だった。
――さよなら、不適切な世界。
――さよなら、最高に恥ずかしかった私。
意識が、深い闇へと沈んでいく。
ラピスラズリという名は、星の屑のように砕け、消えていった。
日本の、ある冬の夜。
空には、不気味に輝く北斗七星の傍らで、一つの流星が静かに燃え尽きようとしていた。
天城 星哉という眼科医は、冷え切った夜気の中、仕事帰りの足を止めた。
妹、瑠璃を亡くしてから、彼の心は常に、凍てついたままだった。あの凄惨な事件、凶星の宿命。救えなかった後悔が、今も彼の胸を締め付けている。
「……瑠璃」
ふと、路地裏の公園から、柔らかな光が漏れているのに気づいた。
吸い寄せられるように足を踏み入れた彼は、そこで、自分の目を疑う光景を目にする。
雪の降るベンチの前に、一人の少女が倒れていた。
月光に照らされたその姿は、……あまりにも、あまりにも異常だった。
服を着ていない。
正確には、肌に数粒の黄金のラメが張り付いているだけで、その肢体は雪よりも白く、無防備に曝け出されている。
まるで、極限の恥辱を耐え抜いた末に、すべてを解き放った女神のような、あるいは無垢な赤子のような。
「……な!? まさか……瑠璃? 瑠璃……なのか……?」
天城は、震える手で自分のコートを脱ぎ、その少女に駆け寄った。
少女が、ゆっくりと瞼を持ち上げる。
そこには、異世界で数多の試練を乗り越え、アナルバイブ男爵をも論破した勇者の威厳はない。ただ、何も知らない、けれどどこか懐かしい光を湛えた瞳があった。
「……ここは……?」
彼女には、この世界で7歳まで生きた前世の記憶も、異世界で宿屋の看板娘であったことや、マイクロビキニアーマーの勇者・ラピスラズリであった記憶も、何一つ残っていなかった。
なぜ自分が全裸(にほぼ近い状態。というか全裸そのもの)で、こんな冬の夜の公園にいるのかさえわからない。
けれど、目の前の男が、自分の震える身体を必死にコートで包み込もうとしているのを見て、彼女の胸の奥から、言葉にならない「熱」が込み上げてきた。
「……あ、あの……、恥ずかしい……。……見ないで……ください……っ」
消えたはずの羞恥心が、かすかに、けれど確かに彼女の頬を赤く染める。
天城は、その「恥じらい」を見た瞬間、確信した。
「……ああ。……見ない。……もう、どこにも行かせないから」
彼は妹だったはずの少女を、壊れ物を扱うように抱きしめた。
かつて、凶星の宿命によって引き裂かれた兄妹の糸。
それは異世界という壮大な「バグ」を経由して、再びこの現実世界で結ばれようとしていた。
マイクロビキニの勇者は消えた。
けれど、新しい春を待つ一人の少女が、今、最愛の兄の温もりの中で、静かに寝息を立て始めた。
この世界のどこかで、また誰かが学歴に悩み、誰かが将来に怯えるかもしれない。
けれど、彼女がもたらした「恥じらい」という名の絶対防御は、今も誰かの心の中で、密かに合格発表の鐘を鳴らし続けている。
――アジル・イマ戦記。
それは、露出の果てに見つけた、たった一つの「ただいま」の物語。
(第一部 完)
空からは「不合格」の呪縛を解かれた魂たちが、温かな光の雨となって地上へ降り注ぐ。魔物だったスライムやゴブリンたちは、本来の優しい魂の姿を取り戻し、それぞれの「あるべき場所」へと還っていった。
爆心地の中央。
私は、何もかもを出し切り、一糸まとわぬ姿のまま、白銀の光の中に浮かんでいた。
「……終わったのね。……全部」
羞恥心をエネルギーに変えて戦ってきた日々。マイクロからナノ、そしてゼロへと至った私の「性受験」の旅。
男爵という巨大なシステムを破壊したことで、私の内側にあった膨大な羞恥のエネルギーもまた、役目を終えようとしていた。
『――勇者ラピスラズリよ。……いや、迷える魂よ』
どこからか、世界の理(ことわり)そのもののような、静かな声が響く。
『君は、己の恥を光に変え、歪んだ輪廻を正した。……報酬として、君を真実の居場所へ帰そう。……ただし、代償として、この世界での記憶と、勇者の力はすべて失われる』
「……いいわよ。……私は、……ただの女の子に……戻りたかっただけだから」
私は、静かに目を閉じた。
紫色の極光が私の身体を包み込み、次元の壁を溶かしていく。
最後に見たのは、地上で私を見上げ、涙を流しながら手を振る大悟たちの姿だった。
――さよなら、不適切な世界。
――さよなら、最高に恥ずかしかった私。
意識が、深い闇へと沈んでいく。
ラピスラズリという名は、星の屑のように砕け、消えていった。
日本の、ある冬の夜。
空には、不気味に輝く北斗七星の傍らで、一つの流星が静かに燃え尽きようとしていた。
天城 星哉という眼科医は、冷え切った夜気の中、仕事帰りの足を止めた。
妹、瑠璃を亡くしてから、彼の心は常に、凍てついたままだった。あの凄惨な事件、凶星の宿命。救えなかった後悔が、今も彼の胸を締め付けている。
「……瑠璃」
ふと、路地裏の公園から、柔らかな光が漏れているのに気づいた。
吸い寄せられるように足を踏み入れた彼は、そこで、自分の目を疑う光景を目にする。
雪の降るベンチの前に、一人の少女が倒れていた。
月光に照らされたその姿は、……あまりにも、あまりにも異常だった。
服を着ていない。
正確には、肌に数粒の黄金のラメが張り付いているだけで、その肢体は雪よりも白く、無防備に曝け出されている。
まるで、極限の恥辱を耐え抜いた末に、すべてを解き放った女神のような、あるいは無垢な赤子のような。
「……な!? まさか……瑠璃? 瑠璃……なのか……?」
天城は、震える手で自分のコートを脱ぎ、その少女に駆け寄った。
少女が、ゆっくりと瞼を持ち上げる。
そこには、異世界で数多の試練を乗り越え、アナルバイブ男爵をも論破した勇者の威厳はない。ただ、何も知らない、けれどどこか懐かしい光を湛えた瞳があった。
「……ここは……?」
彼女には、この世界で7歳まで生きた前世の記憶も、異世界で宿屋の看板娘であったことや、マイクロビキニアーマーの勇者・ラピスラズリであった記憶も、何一つ残っていなかった。
なぜ自分が全裸(にほぼ近い状態。というか全裸そのもの)で、こんな冬の夜の公園にいるのかさえわからない。
けれど、目の前の男が、自分の震える身体を必死にコートで包み込もうとしているのを見て、彼女の胸の奥から、言葉にならない「熱」が込み上げてきた。
「……あ、あの……、恥ずかしい……。……見ないで……ください……っ」
消えたはずの羞恥心が、かすかに、けれど確かに彼女の頬を赤く染める。
天城は、その「恥じらい」を見た瞬間、確信した。
「……ああ。……見ない。……もう、どこにも行かせないから」
彼は妹だったはずの少女を、壊れ物を扱うように抱きしめた。
かつて、凶星の宿命によって引き裂かれた兄妹の糸。
それは異世界という壮大な「バグ」を経由して、再びこの現実世界で結ばれようとしていた。
マイクロビキニの勇者は消えた。
けれど、新しい春を待つ一人の少女が、今、最愛の兄の温もりの中で、静かに寝息を立て始めた。
この世界のどこかで、また誰かが学歴に悩み、誰かが将来に怯えるかもしれない。
けれど、彼女がもたらした「恥じらい」という名の絶対防御は、今も誰かの心の中で、密かに合格発表の鐘を鳴らし続けている。
――アジル・イマ戦記。
それは、露出の果てに見つけた、たった一つの「ただいま」の物語。
(第一部 完)
0
あなたにおすすめの小説
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
冴えない建築家いずれ巨匠へと至る
木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」
かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。
安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。
現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。
異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
魔王と呼ばれた勇者、或いは勇者と呼ばれた魔王 〜最強の魔剣で自由に生きる! 金も女も、国さえも思いのまま!! …でも何かが違うみたいです
ちありや
ファンタジー
クラスメートからのイジメが元で死んでしまった主人公は、その報われぬ魂を見かねた女神によって掬い上げられ異世界で転生する。
女神から授けられた不思議な剣を持つことで、彼はあらゆる敵に打ち勝ちあらゆる難問を解き明かし、あらゆる女性を虜にする力を手に入れる。
無敵の力を手に入れた男が次に望む物は果たして…?
不定期連載(7〜10日間隔で出していく予定)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる