​マイクロビキニアーマーの美少女勇者 対 アナルバイブ男爵 ―アジル・イマ戦記 勇者ラピスラズリの性受験英雄譚 学歴の頂、露出の果てに―

あめの みかな

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​第十二話(最終回):『新しい春、合格発表の鐘』

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​ アナルバイブ男爵が消滅し、要塞『die顎昂(だいがっこう)』が光の塵となって崩壊していく中、世界は未曾有の「解放」に包まれていた。
 空からは「不合格」の呪縛を解かれた魂たちが、温かな光の雨となって地上へ降り注ぐ。魔物だったスライムやゴブリンたちは、本来の優しい魂の姿を取り戻し、それぞれの「あるべき場所」へと還っていった。
​ 爆心地の中央。
 私は、何もかもを出し切り、一糸まとわぬ姿のまま、白銀の光の中に浮かんでいた。

​「……終わったのね。……全部」

​ 羞恥心をエネルギーに変えて戦ってきた日々。マイクロからナノ、そしてゼロへと至った私の「性受験」の旅。
 男爵という巨大なシステムを破壊したことで、私の内側にあった膨大な羞恥のエネルギーもまた、役目を終えようとしていた。

​『――勇者ラピスラズリよ。……いや、迷える魂よ』

​ どこからか、世界の理(ことわり)そのもののような、静かな声が響く。

​『君は、己の恥を光に変え、歪んだ輪廻を正した。……報酬として、君を真実の居場所へ帰そう。……ただし、代償として、この世界での記憶と、勇者の力はすべて失われる』

​「……いいわよ。……私は、……ただの女の子に……戻りたかっただけだから」

​ 私は、静かに目を閉じた。
 紫色の極光が私の身体を包み込み、次元の壁を溶かしていく。
 最後に見たのは、地上で私を見上げ、涙を流しながら手を振る大悟たちの姿だった。

 ――さよなら、不適切な世界。
 ――さよなら、最高に恥ずかしかった私。

​ 意識が、深い闇へと沈んでいく。
 ラピスラズリという名は、星の屑のように砕け、消えていった。



​ 日本の、ある冬の夜。
 空には、不気味に輝く北斗七星の傍らで、一つの流星が静かに燃え尽きようとしていた。
​ 天城 星哉という眼科医は、冷え切った夜気の中、仕事帰りの足を止めた。
 妹、瑠璃を亡くしてから、彼の心は常に、凍てついたままだった。あの凄惨な事件、凶星の宿命。救えなかった後悔が、今も彼の胸を締め付けている。

​「……瑠璃」

​ ふと、路地裏の公園から、柔らかな光が漏れているのに気づいた。
 吸い寄せられるように足を踏み入れた彼は、そこで、自分の目を疑う光景を目にする。
​ 雪の降るベンチの前に、一人の少女が倒れていた。
 月光に照らされたその姿は、……あまりにも、あまりにも異常だった。
​ 服を着ていない。
 正確には、肌に数粒の黄金のラメが張り付いているだけで、その肢体は雪よりも白く、無防備に曝け出されている。
 まるで、極限の恥辱を耐え抜いた末に、すべてを解き放った女神のような、あるいは無垢な赤子のような。

​「……な!? まさか……瑠璃? 瑠璃……なのか……?」

​ 天城は、震える手で自分のコートを脱ぎ、その少女に駆け寄った。
 少女が、ゆっくりと瞼を持ち上げる。
 そこには、異世界で数多の試練を乗り越え、アナルバイブ男爵をも論破した勇者の威厳はない。ただ、何も知らない、けれどどこか懐かしい光を湛えた瞳があった。

​「……ここは……?」

​ 彼女には、この世界で7歳まで生きた前世の記憶も、異世界で宿屋の看板娘であったことや、マイクロビキニアーマーの勇者・ラピスラズリであった記憶も、何一つ残っていなかった。
 なぜ自分が全裸(にほぼ近い状態。というか全裸そのもの)で、こんな冬の夜の公園にいるのかさえわからない。
 けれど、目の前の男が、自分の震える身体を必死にコートで包み込もうとしているのを見て、彼女の胸の奥から、言葉にならない「熱」が込み上げてきた。

​「……あ、あの……、恥ずかしい……。……見ないで……ください……っ」

​ 消えたはずの羞恥心が、かすかに、けれど確かに彼女の頬を赤く染める。
 天城は、その「恥じらい」を見た瞬間、確信した。
 
「……ああ。……見ない。……もう、どこにも行かせないから」

​ 彼は妹だったはずの少女を、壊れ物を扱うように抱きしめた。
 
 かつて、凶星の宿命によって引き裂かれた兄妹の糸。
 それは異世界という壮大な「バグ」を経由して、再びこの現実世界で結ばれようとしていた。
 
 マイクロビキニの勇者は消えた。
 けれど、新しい春を待つ一人の少女が、今、最愛の兄の温もりの中で、静かに寝息を立て始めた。
 
 この世界のどこかで、また誰かが学歴に悩み、誰かが将来に怯えるかもしれない。
 けれど、彼女がもたらした「恥じらい」という名の絶対防御は、今も誰かの心の中で、密かに合格発表の鐘を鳴らし続けている。

​ ――アジル・イマ戦記。
 それは、露出の果てに見つけた、たった一つの「ただいま」の物語。


(第一部 完)
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