成り上がり覚醒者は依頼が絶えない〜魔王から得た力で自分を虐げてきた人類を救っていく〜

酒井 曳野

文字の大きさ
16 / 114
第1章 炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜

第15話

しおりを挟む












 中に入ると周囲の視線が一斉にこちらに向く。いつもここは人が多い。上位の職業クラスを持つフリーの覚醒者がダンジョンを探していたり、有名な商人やギルドのマスターが商談したり、新たに覚醒者となった人を勧誘するスカウトマンがいたりと賑わっている。

 そんな状態でもここに視線が集まったのは見た目は綺麗な阿頼耶が来たこととレインがいる事が原因だろう。荷物持ちの為に色々なパーティーに話しかけたから悪い意味で有名だ。


……何であのゴミがここにいるんだ?
ったく……昼間から嫌な顔を見たな。
ゴミの横にいる綺麗なのは誰だ?


 耳も良くなったから全部聞こえる。前なら萎縮してしまったが……今は特に何も思わない。だけど問題もある……。


「レインさ…ん、彼らと少し外でお話ししてきてもいいですか?」


 阿頼耶は一応の笑顔を見せて交渉してくるが目が全く笑っていない。


「話だけじゃないよね?確実に殺るよね?」


"レイン……私もコイツら嫌いだな。ちょっとここから出てボコボコにしてやりたい"


 アルティ……目的を忘れるな。とりあえず静かにして欲しい。


「やはり今すぐ力を見せつけるべきでは?」


「良いから!こっち来い!」


 このままではここで戦争が起こる。そうなる前に目的を済ませてここを出よう。そう決意したレインは阿頼耶の手を引いて受付へ行く。

 
 受付の女性はレインを見るなりあからさまに態度を変えた。


「……はぁー……今日は何の用でしょうか?前にも言いましたが仕事の斡旋は出来ません。紹介できるパーティーも存在しません。覚醒者認定の取り消し依頼ならあちらの窓口です」


 まだ何も言っていないのに勝手にスラスラと語り出した。こちらに目を合わせようともしない。


――ギリギリギリッ!


 阿頼耶はレインの手を力強く握る。骨が軋む音がする。明らかにイライラしている。そのイライラの犠牲はレインの手だ。


「……阿頼耶…痛いんだけど……」


「ッ?!申し訳ありません……レインさん、この人とは話してきていいですか?」


「駄目だ」


 2人は小さな声で会話する。
 

「すみません。今日はこの人のランク判定をお願いしたくて来ました」


「そうですか!あとは私が話しますので貴方はあっちへ行って下さい」


 これがレインの通常の扱いだ。握り潰されそうな手を救出し阿頼耶と離れる。


 阿頼耶の身体から漆黒の魔力が漏れ出ている。感知能力が高い人だとその魔力量に驚愕するだろう。すごくハラハラする。

 阿頼耶が人間ではないと看破する者はここにはいないと思うが……それでも落ち着かなくなる。

 
 ただSランク覚醒者だと直感で察知する人もいるかもしれない。Sランクとは滅多に会う機会はないがここは覚醒者組合本部だ。

 誰かがフラッと立ち寄る可能性もある。それに覚醒者組合の会長はSランクだ。何も起こらなければいいが……。


「では魔力測定の手順を説明しますね。まずはお名前をお願いします。」


「はい……阿頼耶です。よろしくお願いします」

 
 阿頼耶も尋常じゃないくらい早口で無愛想だ。少し離れた所で待つレインの胃がキリキリする。


「アラヤさん……ですね?まずはこちらの大きな水晶に手を触れて下さい。そうすると横にある小さな水晶が順番に光ります。
 1番下だけ光ればFランクその上ならEランクなど上の水晶が点灯していくにつれてランクが高く認定されます」


「1番上が光るとどのランクになりますか?」


「1番上が光るとAランクになります」


「A?Sランクが最高峰なのではないのですか?」


「そうですね。しかしSランクの潜在魔力を測れるだけの測定が出来ません。なのでこの水晶が1つでも完全に割れれば測定不能となりSランク認定となります。Sランクは3年前に出たきりなので……なかなかお目にかかれませんね」


「そうですか……ではもう触っていいですか?」

「は、はいどうぞ」

 阿頼耶は目の前の大きな水晶に手を置いた。


パパパパパパッ!―――ビシッ!!


 水晶は一気に全て点灯し1番上の水晶にヒビが入った。かなり大きな亀裂だが割れている訳ではない。


「「「おお~!」」」


 それを見ていた全員が感嘆の声を上げる。


「す、凄いです!!これは……限りなくSランクに近いAランクです!!素晴らしい才能ですね!」


「……どうも」


 阿頼耶なら当然だろうな。今はレインの装備に身体を分裂させているから本当はもう少し強いんだけどね。

 でもSランク認定されてしまうと今は面倒な事になる。だからAランクでちょうど良かった。

 だがその見た目の綺麗さと相まってSランクに近い魔力という潜在能力がアラヤの価値を一気に高めた。


「アラヤさん!所属する組織は決めてますか?」
 

 即座に受付の女性は勧誘する。これが組合の特権でもある。測定した瞬間は組合の人としか話していない。つまりどのギルドよりも最初に直接話す事ができる。

 そこで勧誘し組合に所属してもらえば組合の影響力も増していく。組合よりもギルドの方が報酬や名声という点から見れば優れている。

 国家の組織所属の覚醒者となれば話は別だが、独立組織である覚醒者組合は情報収集に長けているのみで所属している覚醒者たちのランクは高くない。

 報酬もそこまで多くないし、その報酬も組合に寄せられる依頼の手数料から支払われている。

 だから人気が低迷している組合は新しく才能を持った覚醒者を必死で勧誘する。
 

「組織?」


「はい!是非とも私たち覚醒者組合に所属してください!契約金も相場の倍をお約束しますので!」


 レインの時とはえらい違いだ。受付の人がそうした覚醒者に最初に話すからある程度の裁量を決められている。どのランクの覚醒者にも契約金の相場がある。

 それの倍をその場で約束できるほどの権限があるのは驚きだった。……相場なんて知らないけど。


「そうですか」

「じゃあ!」

「お断りします」

「何故ですか?!もう何処かに所属されているとかですか?」

 その問いに阿頼耶は感情を表に出さず振り返る。そしてこちらにやってきた。何をする気だ?ものすごく怖い。


「私はこの御方とパーティーを組んでいます。他の組織に入るつもりも、誰かに仕えるつもりはありません……以上です」
 

 その言葉で周囲は静まり返った。


「…い、いやいや!それはないでしょう!……そんなのと同じパーティーだなんて!!」


 受付の人はレインをそんなのと指差しながら言い放った。


「……そんなの……だと?…この愚物が…我が主人を愚弄するか!」


 阿頼耶は自身の腰に提げている剣に手を掛けようとした。


「ちょっ!……阿頼耶!抑えて!」


 レインは阿頼耶の肩を持って抑えた。ただの力比べならレインはの方が上だから抑え込めるはずだった。


しかし……。


 徐々に引っ張られる。何でだ?こんなに力強くなかったはずなのに。怒りのせいでパワーが上がってるのか? 


「阿頼耶……俺は大丈夫だ。抑えてくれ」


 レインは顔を近付けて宥める。そこでようやく我に返ったようだ。


「……レインさん?……申し訳ありません」

「落ち着いたか?」

「は、はい。事前に厳命されていたにも関わらず……」

 阿頼耶は膝を折って謝罪しようとする。


「そういうのも後でいいから!とりあえず組織に所属しない覚醒者……フリーって事で登録して来てくれる?」


 覚醒者と冒険者に明確な違いはない。覚醒者=ダンジョンを攻略する訳じゃない。
 主要な街を守ったり、街道の巡回、もし他国と戦争状態に突入した際の兵士、武器やポーションの開発、王城で働いたり、貴族専属の護衛だったりとランクに応じて沢山ある。

 その中でダンジョン攻略と組合に寄せられた依頼の攻略を専門とするのが冒険者って呼ばれてるだけだ。

 ただ冒険してる奴よりも覚醒してる奴の方がかっこいいという事で覚醒者の方が主流な呼び方となっている。


「ええ……もちろんです」


阿頼耶はレインから離れて受付に戻る。


「……ではフリーで登録します。……あと次あの人を悪く言えば私は貴方を許しませんよ?いいですね?」


「……は、はい」

 ん?阿頼耶の魔力が少し揺らいだ。多分、今何か言ったな?受付の女性の顔が真っ青だ。まあ直接危害を加えてないから良しとする。


 でも水晶にヒビを入れた実力がある阿頼耶を組合が逃した。そしてパーティーメンバーはある意味有名な雑魚レインだ。

 この情報だけでもその場にいたギルド員が動くには十分だった。


「……少しよろしいでしょうか?」


早速来たな。
 
 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

R・P・G ~女神に不死の身体にされたけど、使命が最低最悪なので全力で拒否して俺が天下統一します~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の現地調査のために訪れた山の中で異世界の大地の女神と接触する。 半ば強制的に異世界へと転生させられた凛人。しかしその世界は、欲と争いにまみれた戦乱の世だった。 凛人はその惑星の化身となり、星の防人として、人間から不死の絶対的な存在へとクラスチェンジを果たす。 だが、不死となった代償として女神から与えられた使命はとんでもないものであった…… 同じく地球から勇者として転生した異国の者たちも巻き込み、女神の使命を「絶対拒否」し続ける凛人の人生は、果たして!? 一見頼りない、ただのおっさんだった男が織りなす最強一味の異世界治世ドラマ、ここに開幕!

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...