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第1章 炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜
第15話
しおりを挟む中に入ると周囲の視線が一斉にこちらに向く。いつもここは人が多い。上位の職業を持つフリーの覚醒者がダンジョンを探していたり、有名な商人やギルドのマスターが商談したり、新たに覚醒者となった人を勧誘するスカウトマンがいたりと賑わっている。
そんな状態でもここに視線が集まったのは見た目は綺麗な阿頼耶が来たこととレインがいる事が原因だろう。荷物持ちの為に色々なパーティーに話しかけたから悪い意味で有名だ。
……何であのゴミがここにいるんだ?
ったく……昼間から嫌な顔を見たな。
ゴミの横にいる綺麗なのは誰だ?
耳も良くなったから全部聞こえる。前なら萎縮してしまったが……今は特に何も思わない。だけど問題もある……。
「レインさ…ん、彼らと少し外でお話ししてきてもいいですか?」
阿頼耶は一応の笑顔を見せて交渉してくるが目が全く笑っていない。
「話だけじゃないよね?確実に殺るよね?」
"レイン……私もコイツら嫌いだな。ちょっとここから出てボコボコにしてやりたい"
アルティ……目的を忘れるな。とりあえず静かにして欲しい。
「やはり今すぐ力を見せつけるべきでは?」
「良いから!こっち来い!」
このままではここで戦争が起こる。そうなる前に目的を済ませてここを出よう。そう決意したレインは阿頼耶の手を引いて受付へ行く。
受付の女性はレインを見るなりあからさまに態度を変えた。
「……はぁー……今日は何の用でしょうか?前にも言いましたが仕事の斡旋は出来ません。紹介できるパーティーも存在しません。覚醒者認定の取り消し依頼ならあちらの窓口です」
まだ何も言っていないのに勝手にスラスラと語り出した。こちらに目を合わせようともしない。
――ギリギリギリッ!
阿頼耶はレインの手を力強く握る。骨が軋む音がする。明らかにイライラしている。そのイライラの犠牲はレインの手だ。
「……阿頼耶…痛いんだけど……」
「ッ?!申し訳ありません……レインさん、この人とは話してきていいですか?」
「駄目だ」
2人は小さな声で会話する。
「すみません。今日はこの人のランク判定をお願いしたくて来ました」
「そうですか!あとは私が話しますので貴方はあっちへ行って下さい」
これがレインの通常の扱いだ。握り潰されそうな手を救出し阿頼耶と離れる。
阿頼耶の身体から漆黒の魔力が漏れ出ている。感知能力が高い人だとその魔力量に驚愕するだろう。すごくハラハラする。
阿頼耶が人間ではないと看破する者はここにはいないと思うが……それでも落ち着かなくなる。
ただSランク覚醒者だと直感で察知する人もいるかもしれない。Sランクとは滅多に会う機会はないがここは覚醒者組合本部だ。
誰かがフラッと立ち寄る可能性もある。それに覚醒者組合の会長はSランクだ。何も起こらなければいいが……。
「では魔力測定の手順を説明しますね。まずはお名前をお願いします。」
「はい……阿頼耶です。よろしくお願いします」
阿頼耶も尋常じゃないくらい早口で無愛想だ。少し離れた所で待つレインの胃がキリキリする。
「アラヤさん……ですね?まずはこちらの大きな水晶に手を触れて下さい。そうすると横にある小さな水晶が順番に光ります。
1番下だけ光ればFランクその上ならEランクなど上の水晶が点灯していくにつれてランクが高く認定されます」
「1番上が光るとどのランクになりますか?」
「1番上が光るとAランクになります」
「A?Sランクが最高峰なのではないのですか?」
「そうですね。しかしSランクの潜在魔力を測れるだけの測定が出来ません。なのでこの水晶が1つでも完全に割れれば測定不能となりSランク認定となります。Sランクは3年前に出たきりなので……なかなかお目にかかれませんね」
「そうですか……ではもう触っていいですか?」
「は、はいどうぞ」
阿頼耶は目の前の大きな水晶に手を置いた。
パパパパパパッ!―――ビシッ!!
水晶は一気に全て点灯し1番上の水晶にヒビが入った。かなり大きな亀裂だが割れている訳ではない。
「「「おお~!」」」
それを見ていた全員が感嘆の声を上げる。
「す、凄いです!!これは……限りなくSランクに近いAランクです!!素晴らしい才能ですね!」
「……どうも」
阿頼耶なら当然だろうな。今はレインの装備に身体を分裂させているから本当はもう少し強いんだけどね。
でもSランク認定されてしまうと今は面倒な事になる。だからAランクでちょうど良かった。
だがその見た目の綺麗さと相まってSランクに近い魔力という潜在能力がアラヤの価値を一気に高めた。
「アラヤさん!所属する組織は決めてますか?」
即座に受付の女性は勧誘する。これが組合の特権でもある。測定した瞬間は組合の人としか話していない。つまりどのギルドよりも最初に直接話す事ができる。
そこで勧誘し組合に所属してもらえば組合の影響力も増していく。組合よりもギルドの方が報酬や名声という点から見れば優れている。
国家の組織所属の覚醒者となれば話は別だが、独立組織である覚醒者組合は情報収集に長けているのみで所属している覚醒者たちのランクは高くない。
報酬もそこまで多くないし、その報酬も組合に寄せられる依頼の手数料から支払われている。
だから人気が低迷している組合は新しく才能を持った覚醒者を必死で勧誘する。
「組織?」
「はい!是非とも私たち覚醒者組合に所属してください!契約金も相場の倍をお約束しますので!」
レインの時とはえらい違いだ。受付の人がそうした覚醒者に最初に話すからある程度の裁量を決められている。どのランクの覚醒者にも契約金の相場がある。
それの倍をその場で約束できるほどの権限があるのは驚きだった。……相場なんて知らないけど。
「そうですか」
「じゃあ!」
「お断りします」
「何故ですか?!もう何処かに所属されているとかですか?」
その問いに阿頼耶は感情を表に出さず振り返る。そしてこちらにやってきた。何をする気だ?ものすごく怖い。
「私はこの御方とパーティーを組んでいます。他の組織に入るつもりも、誰かに仕えるつもりはありません……以上です」
その言葉で周囲は静まり返った。
「…い、いやいや!それはないでしょう!……そんなのと同じパーティーだなんて!!」
受付の人はレインをそんなのと指差しながら言い放った。
「……そんなの……だと?…この愚物が…我が主人を愚弄するか!」
阿頼耶は自身の腰に提げている剣に手を掛けようとした。
「ちょっ!……阿頼耶!抑えて!」
レインは阿頼耶の肩を持って抑えた。ただの力比べならレインはの方が上だから抑え込めるはずだった。
しかし……。
徐々に引っ張られる。何でだ?こんなに力強くなかったはずなのに。怒りのせいでパワーが上がってるのか?
「阿頼耶……俺は大丈夫だ。抑えてくれ」
レインは顔を近付けて宥める。そこでようやく我に返ったようだ。
「……レインさん?……申し訳ありません」
「落ち着いたか?」
「は、はい。事前に厳命されていたにも関わらず……」
阿頼耶は膝を折って謝罪しようとする。
「そういうのも後でいいから!とりあえず組織に所属しない覚醒者……フリーって事で登録して来てくれる?」
覚醒者と冒険者に明確な違いはない。覚醒者=ダンジョンを攻略する訳じゃない。
主要な街を守ったり、街道の巡回、もし他国と戦争状態に突入した際の兵士、武器やポーションの開発、王城で働いたり、貴族専属の護衛だったりとランクに応じて沢山ある。
その中でダンジョン攻略と組合に寄せられた依頼の攻略を専門とするのが冒険者って呼ばれてるだけだ。
ただ冒険してる奴よりも覚醒してる奴の方がかっこいいという事で覚醒者の方が主流な呼び方となっている。
「ええ……もちろんです」
阿頼耶はレインから離れて受付に戻る。
「……ではフリーで登録します。……あと次あの人を悪く言えば私は貴方を許しませんよ?いいですね?」
「……は、はい」
ん?阿頼耶の魔力が少し揺らいだ。多分、今何か言ったな?受付の女性の顔が真っ青だ。まあ直接危害を加えてないから良しとする。
でも水晶にヒビを入れた実力がある阿頼耶を組合が逃した。そしてパーティーメンバーはある意味有名な雑魚だ。
この情報だけでもその場にいたギルド員が動くには十分だった。
「……少しよろしいでしょうか?」
早速来たな。
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