成り上がり覚醒者は依頼が絶えない〜魔王から得た力で自分を虐げてきた人類を救っていく〜

酒井 曳野

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第1章 炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜

第22話

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◇◇◇


 当然このダンジョンも問題なく攻略できた。ボスもちょっと大きいスケルトンだった。

 どれほどの強さなのかを確認するために自分の足元に落ちてた石を本気で投げたら頭蓋を砕いて一瞬で倒せた。

 レインの現在の実力はCランクまでなら簡単にクリアできるレベル、そして阿頼耶よりも強いと思うからAランクとSランクの間くらいか。

 10年もあそこで修業してようやくこの水準か。先は長いな。――というかこれ以上強くなるにはどうしたらいいんだ?なあ?アルティ?


 "そりゃぁ……自分より強い相手と戦う事じゃない?まだ支配のスキルも強化のスキルも傀儡のスキルもレベル全然上がってないでしょ?
 普段の筋トレもちゃんとやってたら動けるようになるし強化スキルの上昇率もどんどん上がるよ。今のレインの強化なんてせいぜい2~3倍とかじゃない?本気出せば常に100倍とかいけるんじゃない?"
 

 ……マジか。頑張るよ。


 Eランクダンジョンという事もあり魔法石もそんなに取れなかった。
 すぐに支部に戻って換金したけど2人で30万ほどだった。Cランクダンジョンでも2人で200万くらいあったのにこの差だ。
 だからEランクダンジョンだけじゃ稼げない。中にいるモンスターも数がいないから。


 まあ……それでも230万は稼げた。そのままの足で覚醒者専用の商会へ行く。


「ここは?」


 レインたちの目の前には3階建ての建物がある。木と鉄で出来た建物には所々金色の装飾があり豪華という言葉しか出て来ない。というか眩しい。
 ここへ出入りする者も全員が正装に身を包むかフルプレートメイルの鎧を着込んでいる。


 つまりは高ランクの覚醒者か大型ギルドの幹部クラスか中小ギルドのマスタークラスばかりだ。


 ここは『オルデン商会』の支店だ。『オルデン商会』は何故か『イグニス』に本店を構え世界中に支店がある大商会だ。覚醒者専門の武具を取り揃えていて、エリスが飲む治癒ポーションもある。


 最下級のポーションは10万もするが、その上の下級ポーションは50万、中級ポーションにもなると150万くらいする。

 この支店で手に入る1番高い治癒ポーションで最上級ポーションがある。価格は知らない。何故なら値札の所に『応談』って書いてあった。

 ちなみに最上級の上が超越級、次いで伝説級で最高峰が神話級だ。神話級のポーションがあればエリスは治る。しかしそんな物どこにあるってんだ。

「ここでポーションを買うつもりだ。……でも本当に良かったのか?俺に金を全部渡して。阿頼耶だって欲しいものとかあるだろ?」

 2つのダンジョンを攻略して得た報酬は2つに均等に分けられて渡された。普通は硬貨で渡されるが一定の金額を超えると組合の認定印を押された紙幣にする事も可能だ。
 その全てを阿頼耶はレインに渡していた。それが当然であるかのように。


「私が欲しいのはご主人様の健康と繁栄です。望むのはご主人様に全ての者が平伏す光景です。そもそも私に人間の貨幣制度はよく分かりません。
 食事も睡眠も必要ありませんのでお金も必要ありません。どうぞ自由にお使い下さい」


 なんか……方向性が変わってきてない?

「……ありがとう。それならありがたく使わせてもらうよ」

 この金額なら中級ポーションを買えるな。明日のBランクダンジョンでもっと稼ぐからここは奮発してしまおう。ポーションの他にも肉とかの食材も買いまくって豪勢にしてやる。


 もうエリスのちゃんとした笑顔をずっと見てない。いつも無理をした笑顔ばかりだ。少しでも癒せればそれでいい。さっさと買って早く戻ろう。



◇◇◇



「エリス!帰ったよ!」


 無事に中級ポーションと食材を買い込んで家に帰った。ポーションに関してはお金の出所を疑われたが阿頼耶はAランク覚醒者の資格証を持っていたから何とかなった。やはりFランクのままだとこういう時に不便だ。


「お兄ちゃん?」


 エリスは今日も同じ場所にいた。床に敷いた綺麗でもない布団の上に座っている。


「エリス……今度のポーションは良い物なんだ。これで少しはマシになると思う。飲んでみて」


「ポーション……これとても甘いから苦手……」


 ポーションは甘いらしい。基本的に1瓶を全部飲まないと効果がないからレインは飲んだ事がなかった。


「そう言うなよ。少しでも楽になってほしいから……でもごめんな。俺に力があればその病気も治してやれるのに……」


「お兄ちゃんは悪くないよ?……誰も悪くない。運が悪かっただけだよ。……大丈夫、神様はちゃんと見てくれてる。悪いことの後には良いことだってあるはずだよ」


「……そうか、エリスは良い子だな」


 レインはエリスの頭を撫でた。そのまま頬へ触れる。エリスは目を閉じたまま俺に身を預け微笑んだ。綺麗な長い黒髪、もう瞳を長い間見ていない。


「さて……ご飯にするよ。お腹空いてるか?」

 レインは手を離して問いかける。

「……普通かな」

 エリスが気を使っているのは理解できる。人の雰囲気はすぐに察するのに自分の事に対して不器用だ。
 
「今日は高級肉だけど」

「餓死寸前にお腹空いてる」

 俯きがちな顔をバッと上げて声を張る。エリスの大きな声は久しぶりだ。

「そりゃ良かったよ」

 急に眉の形がキリッとして声にも元気が出てきている。

 "元気のない子だと思ったけど……そんなでもないんだね"

 何を言う!エリスは元々元気で活発な子だった。そう見えるのは病気のせいで何も出来なくなってしまったからだ。
 そしてエリスは結構食べる。ただ俺に遠慮してるだけだ。

「じゃあ作ってくるよ。焼き加減はどうする?」

「どれくらいの厚さかによる!」

「厚さ?……えーと1cmくらい?」

「何のお肉?」

「ドラゴンの肉」

 まだエリスが病気になる前だった。両親はいない、いた記憶がないから俺とエリスだけで暮らしていた時だ。

 エリスはいつも家畜やモンスターの肉を扱うお店の前でドラゴンの肉を見ていた。よだれを垂らして。

 でもあの時からそんなに余裕もなかったから買ってあげる事ができなかった。そしてそのまま病気になってしまいその存在も忘れていた。

「ドラゴン?!」

「そのドラゴンだよ」

 ちなみに100g1万Zelもした。持って帰る時に震えたよ。ドラゴンの素材に使えない所はない――そう言えるほどの存在だ。
 だからその肉はどの部位も高級品だし、それ相応のお店でしか取り扱っていない。今回買ったのは安い方だ。高い物はそもそも置いてなかった。

「じゃ、じゃあ!!少し赤みが残ってるくらいで!塩とかは自分でかけるから!」

「分かったよ。ちゃんとポーション飲んで待っててくれ」

「うん!」

 エリスのこんな元気な声は本当に久しぶりだ。これからは毎日美味しい物を食べさせてやりたい。それが可能な力は得た。あとは機会のみだ。


「お兄ちゃん!」

 
 肉を焼いている時にエリスが声をかけてきた。料理中に声をかけてくるのは珍しい。


「どうした?」


「このポーション……いつもと違う?」

「そうだよ。いつものやつよりも良いやつだ。それがどうかしたか?」


 エリスが飲んだのは中級ポーションで最下級ポーションより2段階も上の代物だ。

「耳が……とてもよく聞こえるの!外の音までハッキリ!!これ凄いよ!」


「……ッッ!……そうか、それは良かった。この調子で治していこうな。今日はお祝いだ、肉…楽しみにしててくれ」


「うん!」


 エリスの満面の笑みは本当の本当に久しぶりだ。レインの目に光る物があった。まだ完全に治った訳じゃない。だけど中級ポーションで症状が改善した。最下級ポーションでは進行を遅らせる事しか出来なかったのに。


「……頑張ってよかった」


「お兄ちゃん?どうかした?」


「何でもないよ」

 これまでの努力が、ほんの少しだけ報われたと思った瞬間だった。




 
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