23 / 114
第1章 炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜
第22話
しおりを挟む◇◇◇
当然このダンジョンも問題なく攻略できた。ボスもちょっと大きいスケルトンだった。
どれほどの強さなのかを確認するために自分の足元に落ちてた石を本気で投げたら頭蓋を砕いて一瞬で倒せた。
レインの現在の実力はCランクまでなら簡単にクリアできるレベル、そして阿頼耶よりも強いと思うからAランクとSランクの間くらいか。
10年もあそこで修業してようやくこの水準か。先は長いな。――というかこれ以上強くなるにはどうしたらいいんだ?なあ?アルティ?
"そりゃぁ……自分より強い相手と戦う事じゃない?まだ支配のスキルも強化のスキルも傀儡のスキルもレベル全然上がってないでしょ?
普段の筋トレもちゃんとやってたら動けるようになるし強化スキルの上昇率もどんどん上がるよ。今のレインの強化なんてせいぜい2~3倍とかじゃない?本気出せば常に100倍とかいけるんじゃない?"
……マジか。頑張るよ。
Eランクダンジョンという事もあり魔法石もそんなに取れなかった。
すぐに支部に戻って換金したけど2人で30万ほどだった。Cランクダンジョンでも2人で200万くらいあったのにこの差だ。
だからEランクダンジョンだけじゃ稼げない。中にいるモンスターも数がいないから。
まあ……それでも230万は稼げた。そのままの足で覚醒者専用の商会へ行く。
「ここは?」
レインたちの目の前には3階建ての建物がある。木と鉄で出来た建物には所々金色の装飾があり豪華という言葉しか出て来ない。というか眩しい。
ここへ出入りする者も全員が正装に身を包むかフルプレートメイルの鎧を着込んでいる。
つまりは高ランクの覚醒者か大型ギルドの幹部クラスか中小ギルドのマスタークラスばかりだ。
ここは『オルデン商会』の支店だ。『オルデン商会』は何故か『イグニス』に本店を構え世界中に支店がある大商会だ。覚醒者専門の武具を取り揃えていて、エリスが飲む治癒ポーションもある。
最下級のポーションは10万もするが、その上の下級ポーションは50万、中級ポーションにもなると150万くらいする。
この支店で手に入る1番高い治癒ポーションで最上級ポーションがある。価格は知らない。何故なら値札の所に『応談』って書いてあった。
ちなみに最上級の上が超越級、次いで伝説級で最高峰が神話級だ。神話級のポーションがあればエリスは治る。しかしそんな物どこにあるってんだ。
「ここでポーションを買うつもりだ。……でも本当に良かったのか?俺に金を全部渡して。阿頼耶だって欲しいものとかあるだろ?」
2つのダンジョンを攻略して得た報酬は2つに均等に分けられて渡された。普通は硬貨で渡されるが一定の金額を超えると組合の認定印を押された紙幣にする事も可能だ。
その全てを阿頼耶はレインに渡していた。それが当然であるかのように。
「私が欲しいのはご主人様の健康と繁栄です。望むのはご主人様に全ての者が平伏す光景です。そもそも私に人間の貨幣制度はよく分かりません。
食事も睡眠も必要ありませんのでお金も必要ありません。どうぞ自由にお使い下さい」
なんか……方向性が変わってきてない?
「……ありがとう。それならありがたく使わせてもらうよ」
この金額なら中級ポーションを買えるな。明日のBランクダンジョンでもっと稼ぐからここは奮発してしまおう。ポーションの他にも肉とかの食材も買いまくって豪勢にしてやる。
もうエリスのちゃんとした笑顔をずっと見てない。いつも無理をした笑顔ばかりだ。少しでも癒せればそれでいい。さっさと買って早く戻ろう。
◇◇◇
「エリス!帰ったよ!」
無事に中級ポーションと食材を買い込んで家に帰った。ポーションに関してはお金の出所を疑われたが阿頼耶はAランク覚醒者の資格証を持っていたから何とかなった。やはりFランクのままだとこういう時に不便だ。
「お兄ちゃん?」
エリスは今日も同じ場所にいた。床に敷いた綺麗でもない布団の上に座っている。
「エリス……今度のポーションは良い物なんだ。これで少しはマシになると思う。飲んでみて」
「ポーション……これとても甘いから苦手……」
ポーションは甘いらしい。基本的に1瓶を全部飲まないと効果がないからレインは飲んだ事がなかった。
「そう言うなよ。少しでも楽になってほしいから……でもごめんな。俺に力があればその病気も治してやれるのに……」
「お兄ちゃんは悪くないよ?……誰も悪くない。運が悪かっただけだよ。……大丈夫、神様はちゃんと見てくれてる。悪いことの後には良いことだってあるはずだよ」
「……そうか、エリスは良い子だな」
レインはエリスの頭を撫でた。そのまま頬へ触れる。エリスは目を閉じたまま俺に身を預け微笑んだ。綺麗な長い黒髪、もう瞳を長い間見ていない。
「さて……ご飯にするよ。お腹空いてるか?」
レインは手を離して問いかける。
「……普通かな」
エリスが気を使っているのは理解できる。人の雰囲気はすぐに察するのに自分の事に対して不器用だ。
「今日は高級肉だけど」
「餓死寸前にお腹空いてる」
俯きがちな顔をバッと上げて声を張る。エリスの大きな声は久しぶりだ。
「そりゃ良かったよ」
急に眉の形がキリッとして声にも元気が出てきている。
"元気のない子だと思ったけど……そんなでもないんだね"
何を言う!エリスは元々元気で活発な子だった。そう見えるのは病気のせいで何も出来なくなってしまったからだ。
そしてエリスは結構食べる。ただ俺に遠慮してるだけだ。
「じゃあ作ってくるよ。焼き加減はどうする?」
「どれくらいの厚さかによる!」
「厚さ?……えーと1cmくらい?」
「何のお肉?」
「ドラゴンの肉」
まだエリスが病気になる前だった。両親はいない、いた記憶がないから俺とエリスだけで暮らしていた時だ。
エリスはいつも家畜やモンスターの肉を扱うお店の前でドラゴンの肉を見ていた。よだれを垂らして。
でもあの時からそんなに余裕もなかったから買ってあげる事ができなかった。そしてそのまま病気になってしまいその存在も忘れていた。
「ドラゴン?!」
「そのドラゴンだよ」
ちなみに100g1万Zelもした。持って帰る時に震えたよ。ドラゴンの素材に使えない所はない――そう言えるほどの存在だ。
だからその肉はどの部位も高級品だし、それ相応のお店でしか取り扱っていない。今回買ったのは安い方だ。高い物はそもそも置いてなかった。
「じゃ、じゃあ!!少し赤みが残ってるくらいで!塩とかは自分でかけるから!」
「分かったよ。ちゃんとポーション飲んで待っててくれ」
「うん!」
エリスのこんな元気な声は本当に久しぶりだ。これからは毎日美味しい物を食べさせてやりたい。それが可能な力は得た。あとは機会のみだ。
「お兄ちゃん!」
肉を焼いている時にエリスが声をかけてきた。料理中に声をかけてくるのは珍しい。
「どうした?」
「このポーション……いつもと違う?」
「そうだよ。いつものやつよりも良いやつだ。それがどうかしたか?」
エリスが飲んだのは中級ポーションで最下級ポーションより2段階も上の代物だ。
「耳が……とてもよく聞こえるの!外の音までハッキリ!!これ凄いよ!」
「……ッッ!……そうか、それは良かった。この調子で治していこうな。今日はお祝いだ、肉…楽しみにしててくれ」
「うん!」
エリスの満面の笑みは本当の本当に久しぶりだ。レインの目に光る物があった。まだ完全に治った訳じゃない。だけど中級ポーションで症状が改善した。最下級ポーションでは進行を遅らせる事しか出来なかったのに。
「……頑張ってよかった」
「お兄ちゃん?どうかした?」
「何でもないよ」
これまでの努力が、ほんの少しだけ報われたと思った瞬間だった。
22
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
R・P・G ~女神に不死の身体にされたけど、使命が最低最悪なので全力で拒否して俺が天下統一します~
イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の現地調査のために訪れた山の中で異世界の大地の女神と接触する。
半ば強制的に異世界へと転生させられた凛人。しかしその世界は、欲と争いにまみれた戦乱の世だった。
凛人はその惑星の化身となり、星の防人として、人間から不死の絶対的な存在へとクラスチェンジを果たす。
だが、不死となった代償として女神から与えられた使命はとんでもないものであった……
同じく地球から勇者として転生した異国の者たちも巻き込み、女神の使命を「絶対拒否」し続ける凛人の人生は、果たして!?
一見頼りない、ただのおっさんだった男が織りなす最強一味の異世界治世ドラマ、ここに開幕!
元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~
下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。
二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。
帝国は武力を求めていたのだ。
フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。
帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。
「ここから逃げて、田舎に籠るか」
給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。
帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。
鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。
「私も連れて行ってください、お兄様」
「いやだ」
止めるフェアに、強引なマトビア。
なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。
※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる