22 / 114
第1章 炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜
第21話
しおりを挟む「ガッ……カハッ…す、すみません!は、離じッ」
「ちょっと!何を?!」
彼の仲間が助けに入ろうとするが、阿頼耶の魔力と威圧の視線に気圧されて動けない。
「そんな言葉で許されると思っているのか?これから貴様が行うのは頭を床に擦り付け全身全霊で謝罪し、少しでも楽に死ぬか……拒否して苦しみと絶望の中で死ぬか…このどち……」
――バゴッ!
レインは咄嗟に飛び出して阿頼耶の頭をそこそこの力でど突いた。その拍子に阿頼耶は手を離してアラムは床に落下した。
「……痛いです」
阿頼耶は不服そうにこちらを見る。なぜこちらが悪い雰囲気なのだろう。
「そう思うように殴ったからな」
阿頼耶は全身武器だ。首を掴んでいる指先の先端が刃物に変わればアラムは死んでしまう。こんな所で死亡事件なんてごめんだ。
「……ゲホッ…ゴホッ…」
「大丈夫か?阿頼耶がすまない事をした。悪気があった訳じゃないんだ。俺たちの関係は……まあ訳ありなんだよ。どうか理解してくれ」
「い、いえ……ゴホッゴホッ…私も貴方に対して失礼な……事を言いました。ランクだけで……人を決めるのは良くないと…学んだばかりだったのに」
こいつもこいつで何かあったんだな。はぁー阿頼耶が手を出してしまったからには協力しないわけにはいかない。
「……あーもし君たちが良ければそのBランクダンジョンに連れて行ってもらえないか?俺の報酬は考えなくてもいいが……阿頼耶に関しては平等に考えてくれ」
「……いえ…アラヤさんはレインさんとパーティーを組んでいるんですよね?レインさんにはランクに縛られない何かがあるのだと思います。報酬はこのメンバーでしっかり分けます。……ですのでよろしくお願いします」
一悶着あったがレインは立ち上がったアラムと握手する。Bランクダンジョンか。荷物持ち時代から考えても行くのは初めてだ。
今の力がどの程度通用するのか。どんなモンスターが出てくるのか。とても楽しみだ。
「……では明日の朝に西門に集合しましょう。場所はここから近いのですが、来ていただけそうなAランクやBランクの覚醒者にお会い出来なかったので日数が経過してしまってます。
先に言っておくべきでしたが……ようやく見つけた御方でしたので……すいません」
「別に構わないよ。明日だな?よろしく頼みます」
そこでアラムたちとは別れた。といってもまだ夜にもなってない。
「もう1箇所……Eランクでもいいから行こうか」
「…………お供します」
そこから近場に絞ってダンジョンを探してもらい向かう事にした。
◇◇◇
「……やっぱり手応えがないな」
このEランクダンジョンはアンデッドの集団だった。しかしスケルトンという最下級のアンデッド集団だった。
一応革の鎧や剣、盾を持っているが連携も取れてないし何より耐久力がない。
その辺の石を本気で投げたら何体か貫通して倒せる。こんなのを兵士にしても魔力の無駄遣いだから傀儡にもしない。
Cランクの番犬だけで事足りる。今は剣士たちを手伝いながら魔法石を壁から引き剥がしている。
それよりも気になるのが……。
「………………」
「阿頼耶」
「………………」
「阿頼耶!」
「はい!申し訳ありません!如何なさいましたか?」
アラムたちと別れてから阿頼耶に元気がない。体調不良か?……いや阿頼耶は人間じゃないからそんなことも……あるのか?分からん。
「集中出来てないな?さっきスケルトンに殴られそうになっただろ?もし体調が悪いとかなら後ろで休め」
「そのような事はありません!……ただ」
やはり何を言いたいみたいだが、抵抗があるようだ。
「お前が主人と仰ぐ俺からの命令だ。気になる事があるなら言え。そのままの方が後々支障を来たす。俺への不満なら直す努力もする。ただ黙っていられる方が俺としては困る」
「ご主人様への不満などあるはずがありません!!……ただ私はあの者が許せないのです。ご主人様の本当の力も見抜けずランクという人間が作ったつまらない階級に当てはめ見下したあの者が!
ご主人様は気にされないのかもしれません!しかし私にとっては魔神の使役から解放され、ようやく私の意志でお仕えしたいと思った初めての御方なのです。その御方を見下し愚弄したあの者を……許す事など到底出来ません!」
…………ここまで阿頼耶が話したのは初めてかもしれない。
"そこまで俺の事を想ってくれていたなんて"
その想いを目立ちたくないという理由で無碍にしたレインにも責任がある。胸が少し締め付けられるような感じがした。
「……分かった。だが殺すのはダメだ。……そうだな、明日のBランクダンジョンで俺の力を見せつけようか」
「しかし……それではご主人様の計画に支障が出てしまいます」
「計画?」
「はい。可能な限りそのお力を隠すと仰っていました」
その通りだ。変に力を誇示すると拒否できない立場の者から依頼を受ける事になるかもしれない。国王とか来ると本当に面倒だ。
王家直属の『王立護衛隊』なんて出て来られたら対処できなくなる。
「……そうだったな。本当はもう少し力を付けてから公表したい。でもそれは俺が面倒な事にならないようにする為ってだけだ。阿頼耶の感情を無視してまで遂行する必要はない。明日のBランクダンジョンは俺の力だけで攻略しよう」
「そんな!私如きの為に」
阿頼耶は自分の事を悪くいう癖がある。普通に優秀だし助かってるのにそんな態度を取られると悲しくなる。
「何度も言ってるが自分を卑下するなよ?……次やったらお前を仲間としても武器としても扱わない。これは命令だ、分かったか?」
「か…かしこまりました」
少し厳しく言ってしまったが仕方ない事だと言い聞かせる。
「分かったならいい。アイツらに見せつけてやるさ。この国で最初の神覚者の力を」
"私、魔王なんだけどね。魔覚者のが正しいんじゃない?……でも語呂が悪いか"
「明日に備えてさっさとクリアするぞ」
"お?無視かい?"
「かしこまりました。私が番犬と共に殲滅して参ります。少々お待ち下さい!!」
阿頼耶も元気になったようだ。表情が明るくなったし、行動も……なんか浮き足立ってる。
別の理由で怪我とかしないでくれよ?一応少し後ろから見ておこうか。そう思い歩き出した。
22
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
R・P・G ~女神に不死の身体にされたけど、使命が最低最悪なので全力で拒否して俺が天下統一します~
イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の現地調査のために訪れた山の中で異世界の大地の女神と接触する。
半ば強制的に異世界へと転生させられた凛人。しかしその世界は、欲と争いにまみれた戦乱の世だった。
凛人はその惑星の化身となり、星の防人として、人間から不死の絶対的な存在へとクラスチェンジを果たす。
だが、不死となった代償として女神から与えられた使命はとんでもないものであった……
同じく地球から勇者として転生した異国の者たちも巻き込み、女神の使命を「絶対拒否」し続ける凛人の人生は、果たして!?
一見頼りない、ただのおっさんだった男が織りなす最強一味の異世界治世ドラマ、ここに開幕!
元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~
下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。
二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。
帝国は武力を求めていたのだ。
フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。
帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。
「ここから逃げて、田舎に籠るか」
給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。
帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。
鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。
「私も連れて行ってください、お兄様」
「いやだ」
止めるフェアに、強引なマトビア。
なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。
※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる