成り上がり覚醒者は依頼が絶えない〜魔王から得た力で自分を虐げてきた人類を救っていく〜

酒井 曳野

文字の大きさ
52 / 114
第1章 炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜

第51話

しおりを挟む










 Sランクダンジョン?あのSランク覚醒者を何十人も連れて行かないと生き残ることすら不可能と言われてるあの?


「お父様!!それでは言葉が足りなさすぎます!」


 レインが返答する前にシャーロットが入る。


「おお、そうだな。申し訳ない。まだこれは内密の話なのだが……実は最近、水の国『メルクーア』からSランクダンジョンが崩壊する兆候が見られると報告があった。
 それに加えて8大国と周辺の中小国に救援要請も来ておるのだ。しかし8大国のほとんどがその要請に沈黙を貫いている」


「なんでですか?Sランクダンジョンの崩壊なんて世界的に大きな影響を及ぼすでしょう?」


 普通は助けるんじゃないのか?Sランクダンジョンの中にいるモンスターが全て解き放たれたら倒し切るのは不可能だろう。倒し切る前に一般人には相当な死者が出るはずだ。
 いや迎撃する覚醒者にもかなりの死傷者が出るだろう。レインでも分かることだ。


「その通りです。しかしですね。『メルクーア』は周囲がほぼ海で国境が陸地で面しているのは知恵の国『サージェス』のみです。
 さらに『メルクーア』のSランクダンジョンは海上に位置している為、『メルクーア』以外に大した影響はないと各国は判断しているようです」

「いやいや……モンスターが泳いで上陸したらどうするんですか?」

「その疑問は最もだ。しかし他の国はかつてのSランクダンジョン攻略で被った痛手を忘れておらぬのだ。
 Sランク覚醒者、そして神覚者はその国の強さであり、象徴であり、ダンジョンという試練から国民を守る最後の砦なのだ。 
 そのような存在である覚醒者を他国の為に送り、死なせるという事はその国の滅亡に繋がる危険性もある。
 だから他の国は救援要請に対して明確な回答をせず沈黙している。我々は事実上の拒否に近いと判断している」


「はぁー……なるほど」

 そうした国家間の話し合いはよく分からない。利益とか権利とか言われても知らん。


「それに『メルクーア』と唯一陸続きである『サージェス』も自然の要塞である『ディーツィア山脈』が間に横たわっているので影響は少ないと考えているようです」


 そんな山脈あるんだ。呼びにくいな。


「他の国の状況は分かりました。そんな中で俺たちはその要請を受けるって事ですか?SランクダンジョンってSランク覚醒者が何十人もいないと太刀打ちできないって話ですよね?まさか俺1人で行ってこいなんて言わないですよね?」


「もちろんです!レイン様にそんな無謀な事はさせられません。
 現在、『黒龍』ギルドにも打診しているところです。
 ……ただですね。この要請を受けるメリットが我々には大きいんです。
 レイン様に直接のメリットは……少ないかもしれませんが、我が国にとってもこの要請を受けるだけで大きな恩恵があるんです。
 なので全容だけでもお話しさせてもらえないでしょうか?」

 シャーロットは両手でレインの手を包む。女性耐性が皆無のレインは目を逸らして頷くしかなかった。

「ありがとうございます!お父様は言葉足らずな所が多いので静かにしてて下さい!」


 王女とはいえ国王にそんな事が言えるのは凄いな。

「う、うむ」

 やはり国王も微妙な返事をするしかなかった。

「では私がお話しします。『メルクーア』からの要請は『メルクーア』国内に出現したSランクダンジョン『海魔城』の攻略に伴い、Aランク以上の覚醒者の派遣となっています。
 ここからが我々のメリットになりますが、要請に応じた国に対しては無条件で今後10年間『メルクーア』産の海産物の優先購入権と費用の減免がなされます。   
 さらに攻略が完了した場合はSランクダンジョンで獲得した魔法石の20%をその国に対して支払い、参加した個人に関しては最大で1,000億Zelの報酬を支払うとの事です」


 もう金額が途方もなさ過ぎてイメージが出来ない。1,000億?お肉何キロ買えるんだろう?


「Sランクダンジョン攻略の際に獲得できる魔法石の総額は数十兆……いえそれ以上の規模だと言われています。それはこの国を数年間賄える金額なのです」


 要は金が欲しいんだな。その為に命を賭けて戦えと言われているようで何となく嫌な気分になる。


「レイン様にとっては関係の無い事かもしれません。国の財政などは我々の仕事ですから。しかし我が国では近年増え続ける上位ダンジョンに対応しれきれず崩壊を起こすダンジョンが増えてきています。
 それに伴う農作物の不作で食料の確保が年々難しくなっています。『イグニス』は海に面していない国なので農作や家畜が主な食料であり、それらの確保が出来ないとなると物価となって国民へしわ寄せが行ってしまうのです」

 
 ちょっと待ってくれ。話が大き過ぎてついて行けない。ただ王女様は必死で説明するから中断もできない。


「シャーロットよ」


「お父様?なんですか?今は私が……」


「レイン殿は王族ではない。つまりこれまでそうした問題に直面する機会もないのだ。そんな状態で財政だの物価だの数兆単位の金額の話などを説明したところで理解出来るはずもない。
 ……レイン殿を悪く言っているのではないぞ?レイン殿は覚醒者であり神覚者だ。我々とは戦っている土俵が違う。
 レイン殿、『メルクーア』の要請を受ける、そしてそれは我が国にとっても国民全体にとっても大きな利益となる、ここまでは理解していただけたかな?」


 国王の言葉に感謝したい。レインの立場を理解し、分かりやすく掻い摘んでくれるのは本当に助かる。

 
「……まあそうですね。はい」


「シャーロット……我が娘よ。レイン殿を我々の戦場に連れてきてはいけない。良いな?」
 

「……分かりました。レイン様も申し訳ありませんでした」


 王女様は深々と頭を下げた。それはそれでこっちも申し訳なくなってくる。


「大丈夫です。続けてください」


「はい……『メルクーア』がダンジョン攻略に挑むのは約70~80日後とされています。レイン様の目的である『決闘』よりも後になるのでレイン様の最も重要な予定を変更する必要はありません」


「は、はぁ……」


 だからさっきは今後どうするのかを聞いてきたのか。

 
 「さらにですね。もし受けていただきましたら、国内のありとあらゆる教育機関への特例入学と費用全額の免除、年間1億Zel相当の支援金、国内で生産された武具の優先販売権と購入資金の援助、そして国家所有の土地と屋敷を無償で利用できる権利などをお約束します。
 他にも必要な事があれば国家と王族が援助しますし、大抵の事であればレイン様が何をしてもこちらで処理し、罰するという事もなくなります」


 これは……どうしたものか。かなり面倒な事になってきたな。ここまでの条件を出してきている。もはや断れない雰囲気になってきた。


 "レインって本当に断らないよね。そんなにチョロい奴だったの?"


 "うるさいな。……アルティはどう思うよ?"

 "知らないよ。今の条件が魅力的なら受けりゃあいい。気に入らないなら断ればいい。アンタが1番優先したいことは何?色々言われてそれ見失ってないかい?アンタは人が良すぎるんだよ。
 さっきも他の女が言い寄ってきた時に断らず話を受け入れたり、帰ろうとしたのに必死に呼び止められたらここまで来てるし……"


 "俺が1番大事なのはエリスだ。エリスに比べると世界の全てが劣る。そうだな。エリスの治療が完了した後に不自由な生活が待っていたら意味がないな。
 Sランクダンジョン?上等じゃねえか。エリスに危険が及ぶ可能性のあるものは全て排除する。今後もそうやって行こうか"


 "……というか私の相手もしないで他の女にうつつを抜かしてんじゃ無いよって話だよね?!断れないアンタの性格は悪くないよ?でも流石にエリス一筋すぎる面もあるし……"


「分かりました。ただ条件を付けてもいいですか?」


「お聞かせ願えますか?」


 "……まあ?アンタのそういう所は嫌いじゃないっていうか?むしろ?……って何言わせるんだい!"


「シャーロットさんは知ってますが、俺には病気の妹がいます。今の恩恵を俺だけでなく妹にも受けさせて下さい。学校なんて俺には縁がありませんが、妹には色々な経験をさせたいです」


「もちろんです。……お父様!いいですよね?」


「うむ……良かろう。ではこれからもよろしく頼む。レイン殿には追って遣いの者を出そう。明日にでも神覚者である事を正式に発表させていただくがよろしいかな?」


「大丈夫です」

 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

R・P・G ~女神に不死の身体にされたけど、使命が最低最悪なので全力で拒否して俺が天下統一します~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の現地調査のために訪れた山の中で異世界の大地の女神と接触する。 半ば強制的に異世界へと転生させられた凛人。しかしその世界は、欲と争いにまみれた戦乱の世だった。 凛人はその惑星の化身となり、星の防人として、人間から不死の絶対的な存在へとクラスチェンジを果たす。 だが、不死となった代償として女神から与えられた使命はとんでもないものであった…… 同じく地球から勇者として転生した異国の者たちも巻き込み、女神の使命を「絶対拒否」し続ける凛人の人生は、果たして!? 一見頼りない、ただのおっさんだった男が織りなす最強一味の異世界治世ドラマ、ここに開幕!

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...