成り上がり覚醒者は依頼が絶えない〜魔王から得た力で自分を虐げてきた人類を救っていく〜

酒井 曳野

文字の大きさ
53 / 114
第1章 炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜

第52話

しおりを挟む










「ありがとう。これからもよろしくお願いします」


 国王は席を立ち頭を下げた。王女様もそれを見て同じ動きをした。もう後悔しても遅い。というかこの選択が間違っていたなんて思いたくない。変化させないと現状は変わらない。

 今のままでエリスを幸せには絶対に出来ない。自分の強さも大事だが周りの環境を整えることも必要だな。


「……ではシャーロットさん早速家の件でお願いがあるのですが」


「何なりとお申し付け下さい。私が責任を持って対応致します」


 王女様は優しく微笑みレインの横に再度腰掛ける。


「今は妹と2人で組合から倒壊寸前の小屋みたいな家を借りてる状態です。そこから引っ越したいと思ってます。どこかいい家を探してくれませんか?」


「分かりました。……そうですね。では私の私邸の向かい側にしましょう。レイン様に相応しい屋敷だと思いますし、近くに兵士の詰所もありますので防犯面でも優れています。
 いつでも貸出が出来るように家具は揃えていますし、掃除などの手入れも定期的にさせていたんです。
 ただ私の家の向かい側のせいか誰も来てくれなかったんです。ちょうど良かった」


 なんか予想よりすごい家だと感じたがそこにしようと思う。もうこの際使えるもんは何でも使う。


「それはいつから入れますか?」


「明日の正午にでも。すぐに鍵の手配や寝具の調達、食器類などを揃えさせますので。これから拝見されますか?ここからそう遠くはありませんよ?」


 レインは時間を確認する。まだ明るい。日暮れまでには帰りたいけど、時間はいけそうだ。もう今日はエリスと出掛けるのは難しいだろう。あのバカ王子……もし道端で会ったらもう2、3回刺してやる。


「お願いします」


「かしこまりました。今日は天気もいいですし歩いて行きましょう!」


「え?……まあ任せます」


 王女様は勢いよく立ち上がる。王女様って歩いて行くとかいう考えを持つんだな。
 基本馬車とかでしか移動しないもんだと思っていた。

「シャ、シャーロットよ。せめて護衛の兵だけでも連れて行きなさい」

「あら?お父様。私はレイン様と一緒に行くのよ?この国でレイン様以上に心強い御方などおりませんわ。……もし何かあれば守ってくださいますわよね?」

 王女様はレインの左側に寄り添うように近付く。そして腕を絡めて密着する。ここでレインの弱点が発動してしまう。


 パニックになり咄嗟に振り払おうとするが、理性がそれを全力で止めようとする。王女様は覚醒者じゃない。〈上位強化〉のスキルを常に発動させているレインが咄嗟に取った行動は力の加減が出来ていない状態だ。

 それは王女様に怪我を負わせてしまうには十分な威力となる。

 しかし腕に当たる柔らかな感触と国王からの真顔の視線が重なり合いどうしていいか分からなくなった。その結果動けなくなった。


「あら?……ふふふ、レイン様にも弱点があったのね?では行きましょうか!こちらです」


 王女様はそのまま部屋の外へ歩いて行く。外へ出ると多く使用人が近づいて来た。多分要件を聞こうとしたんだろう。
 

 しかしレインとシャーロットの姿を確認するや否やニヤニヤしながらその場を去って行った。これは完全に誤解されている。


「あのシャーロットさん、少し離れて下さい。歩きづらいです」


「離れて欲しい理由は歩きづらいから……ですか?」

 王女様は顔近付けてレインの顔を覗き込む。


「え!?……あ、ああ…もちろん」


 平静を装いきれない変な声が出た。


「……ふふ…今回はそういう事にしておきますね」
 
 そう言ってようやく王女様はレインから離れた。そしてそのまま王城を出る。王女様と2人だけで歩き、そのまま外へ出ようとする行為を誰かが止めるだろうと思っていたが誰も声をかけなかった。

 王女様とレインを見ると作業を止めてお辞儀だけしてそのまま作業に戻って行った。

 "これが普通なのか?この国の第1王女だろ?俺が一緒だとはいえ護衛が必要かどうかも聞かないなんて"


 "だからね?……アンタは…って聞いてた?"


 ずっとボソボソ何かを話していたアルティがようやく我に返ったようだ。ちなみにほとんど聞いていない。


 "ああ、聞いてたよ。俺はエリスのために動くよ。頼まれた事が結果としてエリスの為になるのなら何だってやるさ"


 "……聞いてないじゃん"


 "え?"


 "もういい!一旦口聞かないから!3日は聞いてやらないから覚悟しとけよ!ふて寝だ、ふて寝ぇ!"


 そう言ってアルティは何も話さなくなった。とりあえず静かになったので気にしないでおく。そして結局誰にも声をかけられず王城を出る事が出来た。

 王女様がレインがいるとはいえ1人で外に出るなんて不用心だな。


「…………ん?」


「どうされました?」


 王城の入り口……そこを過ぎた先にも建物が並ぶ。その建物の1つの壁にもたれ掛かる見覚えのある人がいた。


「……阿頼耶?」


「アラヤ……さん?」


 レインは小さく呟いただけだった。王女様には聴こえて当然だが阿頼耶も反応したようだ。こちらを見て少し怪訝そうな顔をしながら向かってくる。


「レインさん……ご無事でしたか」


「何でここにいるんだ?」


 阿頼耶にはエリスを見ているように言っていたはず。その阿頼耶がここにいるということはエリスは今1人という事だ。

 エリスをやむ得ず1人にする事はあったが進んでしたいとは思っていない。


「レインさんの帰りが遅くエリスさんが心配していました。そのエリスさんのお願いで迎えに来た次第です。エリスさんにはを付けているので何かあっても対応は可能です」

 そうか。エリスの頼みから仕方ないな。余計な心配をかけさせてしまったか。

「ところで……レインさん、そちらの方は?」

 阿頼耶の怪訝な表情の理由は王女様だった。まあ知らない人が近くにいたら警戒するよな。

「これは申し遅れました。私はシャーロット・イニエル・ディール・イグニス、この国の第1王女です。貴方は何者ですか?レイン様とはどういった関係ですか?」

「私は阿頼耶だ。レインさま…ぁんとはパーティーを組んでいる」

 ………今なんて言った?コイツ本当にちょこちょこボロを出すよな。お前はもっと知的なタイプなはずなんだけど。

「アラヤさん……そうなのですね。……レイン様とパーティーを。なるほど、ランクと職業クラスを教えて下さるかしら?」

 阿頼耶の職業クラスって何だ?あれ?その辺も打ち合わせしといたほうが良かったか?

「Aランクだ。職業クラスは『上位戦士ハイファイター』を修めている。今はこんな剣しか持っていないがな」


 阿頼耶は腰から短剣を取り出した。多分、今作ったんだろうな。鞘がないからどうやって保管してたんだよってなる。


「そうなのですね。最近覚醒者になられたのですか?Aランク以上の覚醒者の方々は全員記憶しているつもりでしたのに。アラヤさんというお名前は初めてお伺いしましたので」


「そうだ。私はレインさ……んに命を救われた身だ。レインさんが私の力を見抜いて鍛えて下さった。だから私はその恩に報いる為に行動を共にしている」

 今のもちょっと危なかったな。

「まあ!そうだったのですね!」


 何かを理解し、納得したように王女様は阿頼耶の手を握る。阿頼耶は怪訝な顔を隠すことなく受け入れた。とりあえずその顔やめろ。


「レイン様に対して邪な考えを持つ者でしたら何とかしないといけませんでしたが、レイン様を敬い仰ぐ者はみんなお仲間です!アラヤさん!これからも仲良くして下さいね!」


 両手を包まれブンブンと振られる阿頼耶がこっちを見た。助けて下さいと言わんばかりの悲壮な表情をしている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

R・P・G ~女神に不死の身体にされたけど、使命が最低最悪なので全力で拒否して俺が天下統一します~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の現地調査のために訪れた山の中で異世界の大地の女神と接触する。 半ば強制的に異世界へと転生させられた凛人。しかしその世界は、欲と争いにまみれた戦乱の世だった。 凛人はその惑星の化身となり、星の防人として、人間から不死の絶対的な存在へとクラスチェンジを果たす。 だが、不死となった代償として女神から与えられた使命はとんでもないものであった…… 同じく地球から勇者として転生した異国の者たちも巻き込み、女神の使命を「絶対拒否」し続ける凛人の人生は、果たして!? 一見頼りない、ただのおっさんだった男が織りなす最強一味の異世界治世ドラマ、ここに開幕!

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...