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第2章 治癒の国『ハイレン』〜大切な人を癒す為に〜
第74話
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「お疲れ様でした。こちらが今回『決闘』が行われる闘技場になります。現在、規約や参加するの申請方法などを確認しに行っていますので少しお待ちください」
兵士の1人が馬車の扉を開けてそう話す。ようやく着いたようだ。時間帯は既に夕方だ。お腹も空いているし、早く休みたい。
◇
しばらく待っていると兵士の1人が走って戻ってきた。
「お待たせ致しました。『決闘』の運営職員に聞いて参りました。参加を希望される覚醒者は闘技場併設の宿に宿泊するそうです。連れて歩ける従者は1人のみです。
宿では大抵の物は用意してもらえるそうですが、一度入ると『決闘』が終わるか、敗退するまでは外に出る事は出来ないようです。
ただ参加申請の期限までまだ猶予があるので今すぐ併設の宿に入らなくても良いそうですが……如何されますか?」
「……いや、もう宿に入るよ。俺は観光に来たわけじゃないから。宿には阿頼耶を連れて行く」
「承知しました。では我々は『決闘』が終わるまでは近くの宿を取って待機しておきます」
「分かった。………あれ?でもここって国都だろ?それに『決闘』が開催されている間って宿も高いんじゃないのか?金はあるのか?」
「いえ……とりあえずは手持ちで何とか致します。それに我々は従者です。安い宿で一部屋あれば十分です。レイン様が気にする事ではありません」
ノスターが代表して答える。レインたちをここまで安全に連れてきてくれ、さらによく分からない手続きの方法も調べてくれた人たちを適当な宿の一部屋で待機させる?そんな事はさせられない。
「じゃあこれを渡しておくよ。好きに使ってくれ」
レインは収納していたお金を取り出した。他国ではシャーロットから貰っていたカードが使えない。だからそこそこの現金を持って来ていた。紙幣が世界共通なのは本当にありがたい。その大量にある紙幣をガサっと掴んでノスターに渡した。
「う、受け取れません」
予想通りノスターは受け取ろうとしない。まあ気持ちが分からないでもない。
「なら命令だ。黙って受け取れ。まさかそれでも断るなんて事はないよな?俺、神覚者だよ?」
「し、しかし……それでもこの金額はあまりにも多すぎます。その金額であれば……貴族の御方が宿泊するような宿に30日は宿泊出来る金額です。我々のような者には……」
「ああ!もう!だったら節約して残りはお前らの家族とか自分の好きなもんでも買え!!別にこの後、変な要求もしない!お前が受け取らないならこの場に捨てて行くぞ?」
「………………し、しか」
「これで受け取らなければイグニス神覚者として貴様らを罰するぞ」
そんな事は絶対にしたくないが、そうでもしないと金を受け取ろうとしない。
何をそんなに遠慮しているんだ。レインであれば1回は遠慮するが2回目には速攻で受け取るだろう。
ここまで連れて来てくれた事への対価だ。少し多いかもしれないがレインがそうだと判断したなら正当な対価だ。
「………分かりました。大切に使わせていただきます。余った分は……」
「お前らが全部使え。どう使ってもらって構わない。……ああ、俺に害するようなもんは買うなよ?」
「そのような事は決してッ!」
「分かってるよ。冗談だ。ここまでご苦労様。また帰りもよろしく頼むよ」
「承知しました。それでは…ご武運を……」
ノスターと兵士、メイドたちに送り出されるように宿へと入った。すぐに職員のような出立ちの男性が駆け寄ってくる。
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺い致します」
「『決闘』に参加したくて来ました」
レインの言葉に男性職員は反応する。そしてすぐに受付の方を指差した。
「かしこまりました。ではあちらの受付で手続きと試験を受けて下さい。合格すれば申請完了となります」
し、試験?!筆記試験とかあれば終わりだ。
「そ、それはどんな試験ですか?」
「魔力測定です。規定に満たない御方は参加する事が出来ませんので……」
レインは胸を撫で下ろす。本当に焦った。魔力測定は知っていた。
「そうですか。ありがとうございます」
レインはそのまま受付へ移動する。受付の横には見覚えのある物があった。イグニスの覚醒者組合本部でもあった魔力測定機だ。水晶の数が5個で少し少ないけど。
「いらっしゃいませ。『決闘』の参加申請でよろしいですか?」
受付の女性は笑顔で話す。
「はい、そうです」
「ありがとうございます。参加される方はどちらの御方ですか?」
「俺だけです。こっちは……えーと付き添いみたいな感じです」
「かしこまりました。従者の方ですね。それではこちらに……」
受付の女性が取り出した紙に記入する。内容は名前と出身国、覚醒者ランク、神覚者であればその称号、あとは主に使うスキルなどだ。
あとは覚醒者認定カードとこれまでのダンジョン攻略履歴も覚えている範囲で記入する。
「はい!ありがとうございます。レイン・エタニア様ですね。ではこちらの水晶に触れて魔力測定をお願い致します。
この水晶に触れて5つの魔法石が点灯すれば合格となり別室で『決闘』の規則を説明致します」
「……分かりました。じゃあ触ります」
レインは水晶に触れた。前は全部の水晶が粉々になって手のひらに破片が刺さった苦い思い出がある。その為、今回は魔力をそこまで放出せずに触れた。
パパパパパッ――バキンッ!!――
5つの水晶は問題なく点灯したが、1番上の水晶にかなり大きいヒビが入った。
「……あ、やべッ」
壊してしまった。これで『決闘』に参加出来ませんとか言わないよな?言わないでくれよ?
「…………す、素晴らしい魔力ですね!!この魔力測定機は特注で神覚者を魔力量を対象に作成されています。なので壊れることなんてほとんどなかったんです。
此度の決闘参加者の中でこの測定機にヒビを入れたのはレイン様が2人目です!今回はより盛り上がる『決闘』になりそうですね!」
受付の女性は興奮した様子で話す。測定機にヒビを入れたというのは相当凄いことらしい。受付の周辺にいた職員や一般人もこちらを見てザワザワしている。
「ではこちらへどうぞ。『決闘』の規則を説明致します」
受付の女性がレインの横まで移動して先を歩く形で案内する。受付から少し離れた所にある扉を開けて中に入る。そこはレインの屋敷の応接室ほどではないが広く綺麗な部屋だった。
ソファが2つあって間に大きな机がある。その上には書類が既に積まれていた。
受付の女性に促されるままに椅子に阿頼耶と並んで腰掛ける。レインが腰掛けたのを確認してから女性もレインたちの前に腰掛けた。
「では説明いたします。質問があればその都度、遠慮なく仰って下さい。最後に誓約書に署名していただきますので、質問は後々問題ならないようにする為に必要なんです。それではよろしくお願い致します」
「よ、よろしくお願いします。…………阿頼耶も覚えててくれ」
「かしこまりました」
書類には字がびっしりと書いてあった。この時点でレインの手に終える物ではないと即座に判断して阿頼耶の記憶力に頼る事にした。
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