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第2章 治癒の国『ハイレン』〜大切な人を癒す為に〜
第75話
しおりを挟む「ではまず『決闘』について説明しましょう。『決闘』にはちゃんとした正式名称があります。それは『渇望する者の祭典』です。
現国王陛下がそう決めましたが、やっている事は決闘なので、みんなが勝手にそう呼ぶうちに世界に広まって『決闘』と呼ばれるのが当たり前になりました」
……国王の立場ないな。ただそのアルズ何とかよりも決闘の方が分かりやすくて助かる。
「国王陛下も渋々そう呼ばれるのを了承しましたが、こうした誓約書にはちゃっかり正式名称を入れているあたり諦めてはいないようですね」
女性は笑いながら話す。国王がこんな感じの扱いって愛されてるんだろうな。レインにとってはそう感じた。
「続いて『決闘』の日程です。開催は5日後となり本日から併設の宿泊施設に入っていただきます。
一度宿に入ると『決闘』が終わるか、敗退するまでは出る事は出来ません。試合が開始される前に他者のスキルによって強化される事を防ぐ措置となります。
『決闘』はトータルで約3日間行われます。最初は3~4回戦まであります。参加人数によって試合の数は変わりますが、準決勝に進む4人が残るまで続きます。参加人数があまりにも多い時は2日に分ける場合もあります。
無事に勝ち上がりますと、翌日に準決勝、3日目に決勝戦となります。優勝者にはその場で神話級ポーションが贈呈されます。ここまでは大丈夫ですか?」
神話級ポーションという単語に反応する。やはりこの『決闘』で優勝すると貰えるようだ。
「…………はい、大丈夫です」
「では次に『決闘』での規則です。細かいものは後で見てください。出場する覚醒者の皆様に強く関係するものだけ先に伝えますね。
まずは観客にまで危害を加える広範囲の魔法使用の禁止です。一応、闘技場内と観客席の間には透明の結界が張ってあります。ただこれは複数のAランク覚醒者によって張られた物なので神覚者様の攻撃にずっと耐えられる物ではありません。
なので予めそうした魔法やスキルを禁止しております。危害というのは物理的な物に限られず不特定多数に干渉する精神操作系、無差別に害を与える拡散系の毒や麻痺などの異常状態を誘発するスキルなども同じです」
「……なるほど、ただそんな感じのスキルは使えないので大丈夫です」
「承知しました。主に使うスキルは身体強化系と召喚スキルとありましたね。ただ全員の御方に説明しないといかないルールなので…申し訳ありません」
「謝らなくても大丈夫です。それで他にはどんなものがありますか?」
「はい、次が最も大事と言っても過言ではありません。それは相手の殺害に関してです。『決闘』においては明確な殺意を持って試合相手を殺す事を許可しております。
ただ審判が止めた時や相手が降参している状態での追撃は全て規則違反とし、即時敗退と賠償の対象となります」
「……相手は神覚者の人も多いと聞きます。本当に殺してしまって大丈夫なんですか?」
「そのための署名です。ただこちらとしても『決闘』で無闇に死者を出し続ける訳にはいきません。
その為、国内の優秀な治癒系の覚醒者を集めております。その筆頭が『治癒の神覚者』です。そのスキルは対象の状態を数分前までに戻すというもので、決着が付いた後に亡くなっていたとしても蘇生する事が可能です。
ただしどんな事にも例外はあります。その為、そうなったとしても納得して参加したという証明のために署名をいただいているんです」
「なるほどですね。その辺も大丈夫です」
要は殺すのはいいけど、審判の指示に従う事と相手が降参を宣言したのに追撃すれば負けになるってことか。
あと可能な限り蘇生と治療はするけど間に合わなくて死んでも責任は取らないよ?って事だな。分かりやすくて助かる。
「ありがとうございます。あとは……そうですね。口裏合わせの禁止もあります。
要は多額のお金をもらってわざと負けるといった事です。この『決闘』に参加する覚醒者様には出来る限りのサービスを無料で提供しております。
その財源はこうした『決闘』で行われている国営賭博から出る賭け金の一部から確保されています」
「…………賭博?」
「はい、どちらの覚醒者が勝つかを観客は予想してお金を賭けます。そして的中するとその覚醒者の実績などで決められた掛け率に応じて返金されるというものです。この『決闘』は神覚者様やSランク覚醒者様同士の全力に近い戦闘を間近で見る事が出来ます。
そのため、世界中から王族や貴族の皆様が集まります。その方々はお金をたくさん持っていますし、こうした盛り上がりの中では財布の紐も緩くなりますからね。それを狙わない手はないという事です」
金持ってるだけの貴族から金を巻き上げられるのはいい事だな。ただの見せ物としておくのは勿体無い。
「あとは……そうですね。武器の持ち込みは自由です。ただポーションといった回復薬は試合中は禁止です。
あと原則四肢が切断された場合も敗北となります。総合的に審判が判断しますが、腕や脚を無くした時点で負けだと思って下さい」
女性からなかなか聞けない単語が多く出て来たな。四肢の切断も負けになるのか。女性は書類を指差しながら説明してくれる。
重要な事は大きな字で書いてあるけど、四肢の切断とかは特記事項のようなもので小さく書かれている。
「説明は概ね以上となりますが、何か分からない事や確認したい事などありますか?」
「……………………うーん、そうですね」
正直思い付かない。でも何か聞いた方がいいよな?レインは質問を絞り出すために考え込む。そんな時だった。
「よろしいですか?」
まさかの阿頼耶が手を上げた。
「はい、どうぞ!」
「レインさんの対戦相手は誰になるんですか?あと『決闘』に参加する人数は何人いるんでしょう?最後に従者である私はどうのような行動を取ればいいですか?」
阿頼耶……お前は本当に賢い奴だ。
「申し訳ありません。対戦相手や参加人数などはここでお答えする事が出来ません。
従者であるアラヤ様に関しまして宿泊施設内での行動は自由です。主に参加される神覚者様の身の回りの世話や護衛を兼ねております」
「……護衛ですか?」
「はい、この施設は我が国の覚醒者や兵士たちによって厳重に警備されていますし、
そもそも神覚者様ほどの力を持つ御方には必要ないかもしれません。
ただ万が一何かあった時に……ですね。その……」
職員は口籠る。何か言いづらいことがあるようだがレインには理解できない。
「つまり自身で護衛を用意したのだから何があっても自己責任だと言うことですね?」
阿頼耶がそう話す。ただそんな冷たい感じだろうか?単純に話し相手とか欲しいだろうし、神覚者なんて力があるだけで身の回りの事とか何も出来なさそうな奴ばっかりだろう。
それが要因なんじゃないの?……自分で言ってて悲しくなる。
「…………そういう事です」
そういう事だった。声に出さなくて良かった。既に勘付かれてそうな頭悪い感じが露呈し、確定する所だった。
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