成り上がり覚醒者は依頼が絶えない〜魔王から得た力で自分を虐げてきた人類を救っていく〜

酒井 曳野

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第2章 治癒の国『ハイレン』〜大切な人を癒す為に〜

第91話

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◇◇◇



「ちょ、ちょちょちょっと待って下さい!!」


 場所は変わって『ハイレン』王城内の廊下。国王やハイレンの貴族たちが集まる会場の入り口前にローフェンの声が響き渡る。


「何だ?!ニーナさんみたいな止め方をするな!放せ!俺はこれさえ受け取ったらこんな所に用はない!さっさと帰る!」


 城の出口へ向かって真っ直ぐ進むレインの服をローフェンは両手で掴んで静止する。しかし戦闘系ではないローフェンはズルズルと引き摺られる。同じ神覚者でも系統によって力の差はかなり大きくなる。


「ニ、ニーナさん?……とりあえず、せ、せめて!食事だけでもお願いします!!ふ、普通は国王陛下からポーションを受け取ったら貴族の御方などと話しながら食事をして親睦を深めるんです!
 カトレアさんだって前回優勝した時には楽しそうにお話ししてたんですよ?!
 何のために『決闘』が開催されてると思ってるんですか!戦闘職の覚醒者が少ないからこの国に呼び込む為にやってるんですよ?!
 ポーションを受け取った途端に、あんな……お疲れーみたいな感じで帰ろうとしないで下さい!!
 国王陛下の顔見ました?!本当に泣きそうになってましたよ?!もう60近いのに涙目でしたよ?!」


 確かに国王の声は上擦っていた。しかし仕方ない面もある。何故なら金色の輝きを放つポーションをレインの前に差し出しながら延々と話をしていた。

 国と王家の歴史が何だの、この国の資源がどうだの、お金がどうのこうのとほとんど覚えていない。

 なので強めの咳払いをしてポーションをパッと取って収納スキルの中に突っ込んだ。

 国王は小さく――あッ――って言ったが気にしない。そのままお疲れ!と軽く挨拶だけして国王たちがいた大広間を出た。
 

 その後、ローフェンが凄い勢いで走って来て今に至る。


「ええい、うるさい!あんな髭も話も名前も長い奴の事なんか気にしてられるか!!カトレアの名前だってよく覚えてないんだよ!いいから放せ!」


「ちょッ!国王陛下に聞こえるじゃないですか!!……絶対に放しませんよ?!一緒にご飯を食べてくれるまで……って、力が強い!」


 レインはローフェンの足止めも意に介さず突き進む。レインの力を持ってすればローフェンの服を掴んで引っ張る程度の足止めなど何も無いのと同じだった。


「…………くぅ…あッ!!腕!!」


「……なに?」


 ローフェンは情けない声を出した後、何かを思い出したように声を張り上げた。


「その左腕は私が治したんですよ!私があの時、機嫌悪かったら元通りにしてなかったんですからね!!腕1本分くらいお礼してくれてもいいじゃないですかぁ!!」


 機嫌の良し悪しで腕が無くなってたら、たまったもんじゃない。しかし実際にレインを完璧に治してくれたのはローフェンだ。その事実は揺るがない。
 

「こ、断りにくい提案をするんじゃねえよ!というかお前そんな感じじゃなかったよな?!何だその話し方は?!」


「私は元々こんな感じです!あの時は色々な人の目があるからそれらしく振る舞っただけ……いや誤魔化さないで下さい!さあ!大広間に戻って下さい!!2~3時間くらいいいじゃないですか!」


「…………分かり……ました」


「顔!納得してない顔しながら行かないで下さいよ!せめてニコッとしてて下さい!」


「…………はい」


 確かにローフェンからは恩を受けている。これを返さずに帰るのも駄目だ。レインはそう納得して了承した。
 そしてそのまま今度はレインが引き摺られる形で大広間に戻る事となった。
 


◇◇◇



「楽しくありませんか?」


 レインは大広間の端で皿に乗せられた肉を頬張りながら遠くを見つめていた。 
 そんなレインを気遣い隣に座るローフェンが声をかけた。


「…………うーん、楽しくないというか……みんな同じ話ばかりですね。聞き飽きました」


 大広間に戻ったレインを貴族たちは拍手で迎えた。そして端っこでモソモソとローフェンと2人で食事する。

 その間にも貴族たちはレインに少しでも覚えてもらう為、自分の事を知ってもらう為にアピール合戦だった。


 自分の娘の容姿や性格はどうだとか、うちのギルドの規模はどうだとか、いくら払うとか、そんな話ばかりだ。中には『黒龍』ギルドの2倍を出すから来てほしいと単刀直入に来た奴もいた。当然だが、『黒龍』に所属した覚えはない。
 

 みんなあくまで仲良くなりたいだけですよーっていうアピールをしていたのに……。


 それを言った奴は裏に連れて行かれていた。何をされるのかはこの際聞かない事にする。

 男はペコペコと揉み手をしながら低姿勢で話しかけてくるか、好条件出せばこっちに来ると思って自信満々に話しかけて来るタイプの2つだった。

 女は猫撫で声で地声出してみろよと言いたくなる人か、香水貯めた風呂に3日浸かったのかというようなキツい匂いを漂わせる人か、やたらベタベタ身体を触ってくる人……挙げたらキリがない種類がいた。


 ローフェンの言うとおり2~3時間はいるようにしたが、1時間を過ぎたくらいで限界が来そうだった。


「…………はぁー……つらい……」


 そう言って肉をかじる。ちなみに料理は普通に美味しいと思う。それだけにあの無駄な会話が残念でならない。


「は、はは……大変ですね……」


「あなたが連れて来たんですけどね。……そういえばローフェンさんはどこかギルドに所属してたりするんですか?」


 もう貴族たちとの会話は疲れた。ローフェンが1番気楽に話せる仲になっている。


「私ですか?私の所属はハイレン王国軍第一軍団中央衛生隊になりますね」


「…………へぇー」


「あんまり分かってないですよね?要は兵士ですね。国内の優秀な……自分で言うのは恥ずかしいですが……治癒系の覚醒者だけで編成された部隊みたいな感じです。多分、どの国にもあると思いますよ?
 ただ私は国都から出る事はありませんので、主に国都内で起きた事故や病気の対処ばかりしてます。『決闘』があればそっちが優先ですけどね」
 

「ダンジョンには行かないんですか?神覚者なんだからBランクくらいの身体能力はあると思うんですが……」


 ロージアだってそれなりに身体能力はあったと思う。初めて一緒にダンジョンへ行った時にオーガが投げた槍にも反応していた。


 しかしその言葉を聞いたローフェンは少し残念そうに微笑みながら手を差し出す。

 
「レインさん……手、握ってもらえます?」


「…………え?」


「いいから!」


「…………はい」


 訳も分からずレインはローフェンの手を握る。何故手を握るだけで周囲がざわつくのか。2人の手に周囲の視線が集中する。

 そしてさっきからローフェンはレインの手をにぎにぎする。少しくすぐったい。一体何がしたいのか分からなかった。


「これが私の全力です」


「…………え?!」


 レインは思わず声を上げた。既に注目されていたが、さらに注目される事となった。
 



 


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