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第2章 治癒の国『ハイレン』〜大切な人を癒す為に〜
第92話
しおりを挟む「覚醒者なのにおかしいでしょ?これだと力仕事をしている一般人の方がまだ強いです。
武器を振るう事はおろか持つ事すらまともに出来ません。私には攻撃手段が全くないんですよ」
「……そう……なんですね」
レインは肉体的な力を得た側だ。異なる性質の力を持つローフェンの事は分からない。
だからどういった事を言うのが正解が分からなかった。
「だから他の治癒スキル持ちのAランクやSランク覚醒者が羨ましくなる時があります。少なくも戦う事は出来るのですから。
……確かに私のスキルは唯一無二かもしれませんが、時間制限がかなり厳しいんです。だから間に合わない事の方が多いです。これまでどれだけの命が私の手からこぼれ落ちたか…………もう数え切れないでしょう。
それに私は皆さんの傷を癒す事は出来ても、皆さんを迫り来る傷から守る事は出来ません。ダンジョン攻略や戦争となれば必ず傷というものは迫ってきます。傷は容赦なく大切な者たちを奪っていく。
私の力はあまりにも無力です。用意され、計画された土台の上でしか力を発揮できないんですよ」
それを聞いたレインは握っていたローフェンの手を強く握り返した。少なくともレインはローフェンの力に助けられた1人だ。確かに助けられなかった人は多いかもしれない。でもそれ以上に助けられた人だって数多くいる。そんなに自分を卑下しないでほしい!
「いだだだだだッ!!!」
「…………あっ……すいません」
気持ちを込めた力が強すぎた。強く握って、そんな事はないと、助けられた人も多くいるはずだと、自分はその1人で感謝していると励ましたいと思ったが、手を破壊してしまった。
ゴリっていうあまり聞いた事がない音が手からしていた。
ローフェンは涙目になりながら自分の手に治癒を発動させていた。確かに一般人よりも柔な手だった。
「まさか手を握り潰されそうになるとは思いませんでした」
「誠に申し訳ない。……ただそんなに自分を卑下しないでほしいですね。俺も助けられましたから。今回は帰らないといけませんが、受けた恩は必ず返します」
「では!この国に!」
「それとこれとは話が別です。……そうですね。じゃあこの国が本腰をあげてSランクダンジョンを攻略するとなったら呼んで下さい。
お金とかの話し合いはよく分からないので、国王と王女様辺りに任せますけど、助けに行きますよ」
「Sランクダンジョン……ですか。世界的にも我が国にとっても頭の痛い問題ですね。この国のSランクダンジョンはご存知ですか?」
「すいません。自分の国のすらよく分かってないです」
「ふふ…そうなんですね。この国のSランクダンジョンは『蠱毒の城』です」
「…………なんか他の国とは違う印象ですね」
「そうですね。ただこの際名前なんてどうでもいいです。このダンジョンの特徴は本当に厄介なんです。厄介じゃない方が少ないんですけどね」
「どんな特徴なんですか?」
確かヘリオスという国に出現したSランクダンジョンは『炎魔城』で周囲が燃えているんだったなとレインは思い出す。
メルクーアの『海魔城』は海の上にあるって言ってたし、イグニスの『魔王城』は王都と第2都市との間に出現したせいで、往来にかなり時間が掛かるようになったって言われてたはずだ。
だからイグニスの中心部にある『テルセロ』を臨時王都にする計画があるとかアメリアが言ってたような気がする。
「ダンジョンは周囲が猛毒の沼に覆われているんです。まず呼吸の対策せずに近付けば肺がやられて数時間で死にます。直接触れば防具を貫通し、毒に侵食され数分で死にます。
さらにその毒で死んだ者は周囲に毒を拡散させるので治療出来ないと判断すれば眠らせて生きたまま火葬します。
肺が侵される程度でもCランク以下の治癒系覚醒者では治せません。進行を遅らせる程度です。軽傷であったとしてもBランク以上、触れてしまったらSランク以上の力が必要です」
「そんな危ないダンジョンが……」
「はい、このダンジョンが王都から離れた郊外に出現してくれたのがせめてもの救いでした。
……ただ恐ろしいのがこの毒の沼は年々拡大している事です。毒を打ち消す浄化の魔法を使用しましたが効果は見られませんでした」
毒に関しても知識がないレインはただ聞く事しかできない。その話を聞く限りでは『炎魔城』よりも近付く事が困難なのではないかと思う。空から無理やり突入するしかない。
「……例えば攻撃魔法で吹き飛ばすとかは出来ないんですか?カトレア程でなくてもSランク覚醒者には攻撃魔法に特化した人もいるんじゃないですか?」
レインにとってはこれが精一杯の返しだった。あのカトレアが召喚した天使の爆発系の魔法は脅威だった。あれなら毒の沼を消し飛ばせると思ったのだが。
「……はい、実は過去にもそれを行っているんです。依頼もそのカトレアさんにして来てもらいました」
既にやってた。レインは少し恥ずかしい気持ちを覚えた。
「結果は……良くなかったんですよね?」
もし効果があったのならこんな空気にはなっていない。それくらい雰囲気なら流石に察する事は出来る。
「はい……お察しの通りです。あの毒はダンジョンから湧き出たもので魔力から出来ているものでした。カトレアさんの大魔法は吸収され、一気に毒の沼は拡大する事になってしまったんです。
カトレアさんは謝ってくれましたし、契約していたお金も受け取りませんでした。"結果が伴っていないのに何でお金を受け取らないといかないのか?"って……。
これに関しては私たちの責任でした。そんな事にも気付けないなんて……。それ以降は経過を観察するしか出来ていない状況ですね。本当に……なんでSランクダンジョンなんてものが存在するんでしょうね?」
カトレアって意外といい奴なのか?そう思おうとしたが、すぐに振り払う。彼女がレインたちに放った言葉はその程度で覆るものではなかった。
そしてSランクダンジョン。その存在はこの世界を脅かすものだ。
「そうですよね。ただ俺は……俺はこの後、Sランクダンジョンへ行きます」
「…………メルクーアですね?」
「知ってたんですか?」
「はい、これでも神覚者ですから。メルクーアが各国の国王や皇帝、大型ギルドのマスターに宛てて一斉に応援要請を送っております。それは当然私にも来ております」
「ローフェンさんは来ないんですか?」
ローフェンは少し悩んでいる。今回参加する国はメルクーアの覚醒者たちとイグニスの覚醒者のみだ。あの時、国王やシャーロットがそう言っていたはずだ。
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