53 / 102
第50話
しおりを挟む
周りの騒音が酷い。
津久見はうっすらと、聞こえるその騒音で少し意識を取り戻した。
「酒は呑め呑め…」
「あはははは」
「もう一献!!!」
「治部殿はまだ起きぬのか!!!?」
何やら大きな声で自分の名を呼び、近づいて来る足音がする。
「お~、本当に寝ておるの。」
その男はそう言うと、寝ている津久見の元に座った。
とても酒臭い。
すると、隣から
「殿はな、最近様子がおかしくてな。戦を止めるし、変な言葉遣いだし、一番変なのが、大事な時に気を失うんじゃ。ははっははは。」
これは左近の声だ。
目を開けようとするが、左近ともう一人の男が霞んで見える。
「で、いつもどうしておるのじゃ。治部殿が気絶したら。」
「お、見せてやろう。」
左近が袖をめくり、げんこつを作る。
それが津久見には見えた。
(まずい!!!やられる!!)
と、思うが先か、左近のげんこつが津久見の頭を殴りつけた。
「痛!!!!!」
「ほれ、起きましたぞ」
「ほんとじゃ。ははっはははははは。」
男の笑い声は、酒の匂いを放ちながら部屋中に響いた。
津久見は頭を押さえながら、やっとの思いで起き上がった。
「左近ちゃん…。」
「殿!!!!おはようございます!はははは。」
左近も酒臭い。
「酔ってるの?」
津久見は鼻を抑えながら言う。
「ん?この左近が、酒に酔うと御思いですか!?ははははは。」
「酔ってるね。完全に。」
「治部殿!起きたなら上座へ!わが殿の横にお座りください。はははは。」
男は、津久見の両脇をいとも簡単に抱えると、上座に座っている、官兵衛の横に座らせた。
官兵衛は笑顔で見ている。
「治部殿。急に気絶するから、驚いたが左近殿に聞いたら、日常茶飯事の様じゃな。」
「はあ。困ったもので。」
津久見はため息を吐きながら言った。
すると官兵衛は男に向かい、
「ほれ友信。治部殿に酌を。」
「そうでございましたな。さ、ささ、さs、さ。」
友信と言われた男。ろれつが上手く回っていない。
津久見に盃を渡すと、酒瓶からなみなみと盃に酒を注ぎ入れる。
「いや、こんなに…。」
「さ、s、ささ、さ。治部殿グイっと!」
津久見は一口飲んでみた。
(ん?日本酒か?そこまで強くない。それにほのかに甘いな…。)
津久見は一思いに盃の酒を飲み干す。
部屋にいる全員がそれを見ていた。
一瞬沈黙が流れる。
あの石田三成が酒をあんなに・・・。
と、訝しめな表情で見ている。
「うまい!!!!」
と、津久見は言った。
すると、広間の全員が
「おおお!!凄いの!!!」
と、皆口々に言った。
続々と、酌をしに色んな武将がやって来る。
皆、酔って顔を赤らめている。
「手前、井上之房いのうえゆきひさと申しまする。黒田八虎くろだはっこの一人にございます。さ、さ。」
と、また盃に並々と注がれた。
津久見はまたそれを一気に飲み干した。
津久見は現実世界では、家系からなのが、ザルであった。
「旨い!!!!」
また広間から喝采の拍手が送られる。
何人かの酌に応えた津久見は最後に友信と呼ばれた男と対峙した。
「ささ、治部殿。」
盃に並々と。友信は自分の盃にも並々と酒を注いだ。
「それでは。」
と、二人は盃を交わすと、二人とも飲み干してしまった。
「ぷは~。治部殿。酒に強いですな~。」
「いえいえ、いつもストレスで毎日ワイン一本開ける位ですよ…。」
「すとれす?わいん?」
「あ~まあ、そんなに強いとは思いませんよ。」
そこに官兵衛が話しかけて来た。
「そこにいる母里友信もりとものぶ。黒田家で一番の酒豪でな。あの福島正則と飲み対決をし、打ち負かして、名槍「日本号」を福島正則から呑み獲った男じゃで。」
と笑顔で言う。
「そうじゃで。わしはあの時、呑みとうなかったのじゃがな、正則がどうしてもというから、勝負したら勝ってもうてな、名槍「日本号」を貰ったのじゃ。」
と、自慢気に言う。
「そうですか。でも、お酒は楽しく飲むのが一番ですよね。」
津久見は笑顔で続ける。
「民百姓も、こんな風に楽しく宴会して、さあ明日から頑張るぞ!って言う日があってもいいですよね。」
それを聞いていた官兵衛は驚いた様に聞く。
「治部よ。お前は本心でそんなこと言ってるのか?」
「はい。」
「そうかそうか。そうじゃな。それもええかもしれんな。」
官兵衛は笑顔で言った。
「治部よ。此度は、誠感服したわい。」
と津久見に近づき、左手で握手をしようとしてきた。
(この時代左手で握手するんだっけ…)
(………まさか。)
津久見は一瞬で頭を回転させた。
津久見はゆっくりと、左手を差し出す。
それと同時に、津久見の右手はパッと瞬時に動いた。
津久見の右手は、官兵衛の腰にある脇差を抑えていた。
官兵衛の右手は脇差の柄を握っていた。
「…………。」
「はははははははは。冗談じゃよ、冗談。」
「ほんとですか?今完全に俺斬ろうとしてましたよね?」
「そんなことないわ。」
(こやつには、敵わん。完敗じゃ)
官兵衛は思った。
すると、官兵衛は広間の男たちに向かって言う。
「ほれ、歌え歌え!!呑め呑め!!!」
「それでは…。」
と母里友信が言うと歌いだした。
「酒は呑め呑め呑むならば ~ 日の本一のこの槍を 呑みとるほどに 呑むならば これぞまことの黒田武士~それ!!!」
と、大合唱が始まった。
左近はふんどし一枚になり踊っている。
喜内と、平岡は酔いつぶれて寝ている。
関ヶ原の合戦以来、こんな楽しい夜はなかった。
第50話 酒は呑め呑め 呑むならば 日本一のこの槍を 完
津久見はうっすらと、聞こえるその騒音で少し意識を取り戻した。
「酒は呑め呑め…」
「あはははは」
「もう一献!!!」
「治部殿はまだ起きぬのか!!!?」
何やら大きな声で自分の名を呼び、近づいて来る足音がする。
「お~、本当に寝ておるの。」
その男はそう言うと、寝ている津久見の元に座った。
とても酒臭い。
すると、隣から
「殿はな、最近様子がおかしくてな。戦を止めるし、変な言葉遣いだし、一番変なのが、大事な時に気を失うんじゃ。ははっははは。」
これは左近の声だ。
目を開けようとするが、左近ともう一人の男が霞んで見える。
「で、いつもどうしておるのじゃ。治部殿が気絶したら。」
「お、見せてやろう。」
左近が袖をめくり、げんこつを作る。
それが津久見には見えた。
(まずい!!!やられる!!)
と、思うが先か、左近のげんこつが津久見の頭を殴りつけた。
「痛!!!!!」
「ほれ、起きましたぞ」
「ほんとじゃ。ははっはははははは。」
男の笑い声は、酒の匂いを放ちながら部屋中に響いた。
津久見は頭を押さえながら、やっとの思いで起き上がった。
「左近ちゃん…。」
「殿!!!!おはようございます!はははは。」
左近も酒臭い。
「酔ってるの?」
津久見は鼻を抑えながら言う。
「ん?この左近が、酒に酔うと御思いですか!?ははははは。」
「酔ってるね。完全に。」
「治部殿!起きたなら上座へ!わが殿の横にお座りください。はははは。」
男は、津久見の両脇をいとも簡単に抱えると、上座に座っている、官兵衛の横に座らせた。
官兵衛は笑顔で見ている。
「治部殿。急に気絶するから、驚いたが左近殿に聞いたら、日常茶飯事の様じゃな。」
「はあ。困ったもので。」
津久見はため息を吐きながら言った。
すると官兵衛は男に向かい、
「ほれ友信。治部殿に酌を。」
「そうでございましたな。さ、ささ、さs、さ。」
友信と言われた男。ろれつが上手く回っていない。
津久見に盃を渡すと、酒瓶からなみなみと盃に酒を注ぎ入れる。
「いや、こんなに…。」
「さ、s、ささ、さ。治部殿グイっと!」
津久見は一口飲んでみた。
(ん?日本酒か?そこまで強くない。それにほのかに甘いな…。)
津久見は一思いに盃の酒を飲み干す。
部屋にいる全員がそれを見ていた。
一瞬沈黙が流れる。
あの石田三成が酒をあんなに・・・。
と、訝しめな表情で見ている。
「うまい!!!!」
と、津久見は言った。
すると、広間の全員が
「おおお!!凄いの!!!」
と、皆口々に言った。
続々と、酌をしに色んな武将がやって来る。
皆、酔って顔を赤らめている。
「手前、井上之房いのうえゆきひさと申しまする。黒田八虎くろだはっこの一人にございます。さ、さ。」
と、また盃に並々と注がれた。
津久見はまたそれを一気に飲み干した。
津久見は現実世界では、家系からなのが、ザルであった。
「旨い!!!!」
また広間から喝采の拍手が送られる。
何人かの酌に応えた津久見は最後に友信と呼ばれた男と対峙した。
「ささ、治部殿。」
盃に並々と。友信は自分の盃にも並々と酒を注いだ。
「それでは。」
と、二人は盃を交わすと、二人とも飲み干してしまった。
「ぷは~。治部殿。酒に強いですな~。」
「いえいえ、いつもストレスで毎日ワイン一本開ける位ですよ…。」
「すとれす?わいん?」
「あ~まあ、そんなに強いとは思いませんよ。」
そこに官兵衛が話しかけて来た。
「そこにいる母里友信もりとものぶ。黒田家で一番の酒豪でな。あの福島正則と飲み対決をし、打ち負かして、名槍「日本号」を福島正則から呑み獲った男じゃで。」
と笑顔で言う。
「そうじゃで。わしはあの時、呑みとうなかったのじゃがな、正則がどうしてもというから、勝負したら勝ってもうてな、名槍「日本号」を貰ったのじゃ。」
と、自慢気に言う。
「そうですか。でも、お酒は楽しく飲むのが一番ですよね。」
津久見は笑顔で続ける。
「民百姓も、こんな風に楽しく宴会して、さあ明日から頑張るぞ!って言う日があってもいいですよね。」
それを聞いていた官兵衛は驚いた様に聞く。
「治部よ。お前は本心でそんなこと言ってるのか?」
「はい。」
「そうかそうか。そうじゃな。それもええかもしれんな。」
官兵衛は笑顔で言った。
「治部よ。此度は、誠感服したわい。」
と津久見に近づき、左手で握手をしようとしてきた。
(この時代左手で握手するんだっけ…)
(………まさか。)
津久見は一瞬で頭を回転させた。
津久見はゆっくりと、左手を差し出す。
それと同時に、津久見の右手はパッと瞬時に動いた。
津久見の右手は、官兵衛の腰にある脇差を抑えていた。
官兵衛の右手は脇差の柄を握っていた。
「…………。」
「はははははははは。冗談じゃよ、冗談。」
「ほんとですか?今完全に俺斬ろうとしてましたよね?」
「そんなことないわ。」
(こやつには、敵わん。完敗じゃ)
官兵衛は思った。
すると、官兵衛は広間の男たちに向かって言う。
「ほれ、歌え歌え!!呑め呑め!!!」
「それでは…。」
と母里友信が言うと歌いだした。
「酒は呑め呑め呑むならば ~ 日の本一のこの槍を 呑みとるほどに 呑むならば これぞまことの黒田武士~それ!!!」
と、大合唱が始まった。
左近はふんどし一枚になり踊っている。
喜内と、平岡は酔いつぶれて寝ている。
関ヶ原の合戦以来、こんな楽しい夜はなかった。
第50話 酒は呑め呑め 呑むならば 日本一のこの槍を 完
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
25
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる