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第86話
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「して、儂に何の用じゃ?」
了以が言う。
「堺の復興には欠かせぬ物を了以様はお持ちになられておりまする。」
行長が答える。
その後ろには左近と喜内がどちらが津久見を起こすか話し合っている。
了以は後ろの二人を気にしながら続ける。
「儂が持っている物?銭か?」
「いや、銭ではござらん。」
「では何じゃ?」
「朱印状でござる。」
「朱印状!?」
了以は驚きながら言った。
「いかにも。その朱印状をもって堺から異国の貿易を拡大し、堺復興の足掛かりにしとうござる。」
行長は了以の目を一直線に見つめながら言う。
「…。」
「いかがかな?」
行長が促す。
すると了以が口を開いた。
「そもそも朱印状は、亡き太閤様より賜った物。そこにいる石田様であれば自ら秀頼公に建前でも言上すれば手に入るではござらんか?」
「いかにも。治部は五奉行の一人。やろうと思えば簡単にできましょう。」
「では、なぜ儂の所へ?」
「そこがミソでござる。」
「ん?」
「この治部、先の大戦より人が変わった様で、良くヒトの言葉に耳を貸し、過去に遺恨のある様な者へは直接赴き、話し合いにて解決してこられました。」
「石田殿が?」
「はい。そこでこれから『戦の無き世』の為に何が必要か。そこで考えられた一つが堺の復興でございまする。」
「…。」
了以は行長の話をじっと聞いている。
「商いを根幹にこの日の本の民を富ましていこうと考えておられまする。」
「…。」
「先程お話したように、話し合いで事を進める中で、反対勢力も、もちろん現れました。が、治部は誠実をさを武器に戦い打ち勝って参りました。故に、己の権力を行使して朱印状を得ようという発想が治部にはございませぬ。」
「…。」
「そこで了以様のお力添えをお借りしたくて突然訪問させていただきました。」
「…。」
了以は目をつぶり何か考えている様子であった。
そこへ、
「ぱっちーん!!!!」
威勢の良い音がした。
「どうされた!!!!」
了以は驚き目を開け叫んだ。
「うぐ!!」
喜内の平手が津久見の顔にヒットしたようであった。
「あ、了以様。大丈夫でござる。いつもの事でございますので。続けて続けて。」
喜内は笑いながら言う。
「いつもの事???」
「ははは。あの治部め、いつからか気絶癖がついた様で、毎回かの者が叩いて起こしておる次第でござる。今回は横山殿が起こされたようですな。」
行長は笑いながら言った。
「気絶癖?家臣が主君を叩いておるのか!?」
「はい。私にも分からぬ家臣の絆とも言いましょうかの。」
「…・。」
すると津久見が目を覚ました。
「どっち!!!左近ちゃん!?喜内さん!!?どっち!!!」
津久見は目を細め二人を交互に見る。
「どちらでございましょうかの。」
と、左近が言う。
「左近ちゃん笑ってないから…。喜内さんだね。」
津久見は喜内の方を睨みつける。
「…。」
そんな様子を了以は静かに見守っていた。
「殿、そんなことより、今行長様が了以様とお話されておりまするぞ。」
喜内が言う。
「え!」
津久見はパッと行長と了以の方に目をやった。
「あ!!!っちょ。」
津久見は急いで叩かれた左頬を抑えながら、行長の隣に座った。
「なんかすみません。角倉了以…さん?」
「石田様は面白い御仁でございますな。」
了以は優しく言う。
「いや、面白いとかじゃないんですよね…。必死に生きてるだけなんですけどね…。そしたら気絶して、叩かれての繰り返しで…。」
津久見は後ろに控える二人を横目に言う。
「了以様。治部も起きたことでございます。どうでしょうか、我々にお力をお貸し願えますか?」
行長は意を決して言う。
「…。」
了以はまた目をつぶった。
「行長さん?なんの話してたの?」
話しの脈絡が見えない津久見は行長に向かって言う。
「治部。」
行長はそっと頭を少し縦に振った。
(あ、今大事な所なのね?)
と、津久見は思い再び了以の方を見た。
すると了以は目を開け言った。
「石田様。一つ宜しいか?」
「え!?あ、はい!」
「戦無き世、実に結構。商いを根幹に日の本の民を幸せにする。これも良し。ではその次は何と心得る。」
「え!!??」
突然の了以の質問に津久見は少したじろいだ。
たじろぎながらも頭をフル回転させた。
(商いの次…。農業しかり、道の整備もしかり…)
津久見は目を閉じた。
(戦の無い世。民の笑顔。その為には…。)
「はっ!!」
津久見は目を開いた。
そして言った。
「教育です。」
「ん?」
了以は不思議そうに津久見の顔を見る。
「はい。教育です。今から商いや、農業で国を富ませて行くのは我々の仕事。その先の未来を担う子供たちに分け隔てなく学問を学ぶ機会を与える。それこそがこの日の本の確固たる基盤となると私は考えまする。」
この言葉にはその場にいた、行長、左近、喜内も驚いた。
いや了以はもっと驚いていた。
すると了以は体を前に出し言った。
「よう申されました。ちょっと、着いて来て下され。」
了以は立ち上がると歩き出した。
津久見達も後に続く。
了以たちは屋敷の廊下を進む。
そしてある一間に着いた。
了以はその間の襖を開いた。
「これは…。」
行長が驚いた様子で言った。
そこには二十人程の子供たちがそろばんを叩いていた。
「了以様これは…?」
と、左近が聞いた。
その時了以の姿に気付いた子供たちが一斉に
「爺様だ~。」
と、そろばんを投げだし了以の元に集まって来た。
「あらま!」
そろばんを教えていたらしき女は呆れたように言う。
「爺様!算術は飽きました~」
と、子供たちは言う。
「ダメじゃ!しっかり算術もやるのじゃ。」
了以が言う。
津久見はふとその子供たちの中に先程中庭で了以と遊んでいた小童を見つけた。
「了以様これはどういう事で?」
津久見が聞く。
了以は大きな手で子供たちを自分の席に着くように優しく押し返しながら言った。
「この子たちは戦で親を亡くした者たちじゃ。わしの孫と一緒に勉強させておる」
「なんと…。」
津久見は驚きながら言った。
「石田様の申す事は結構。ただ条件が2つござる。」
了以は子供たちが席に座るのを見届けながら言う。
「条件?」
津久見が言う。
そこに行長が割って入った。
「一つは…川の整備でござらんか?」
「!!!???」
了以は驚きを隠せない。
「川の整備でしたら天竜川に高瀬川、しいては琵琶湖の整備もいかがか。」
行長言う。
行長は了以の屋敷に来た際、小童との砂遊びを通じて、川の整備を所望すると踏んでいたのだ。
「石田様。小西様を連れて来られたのは正解でございましたな。わしが川の整備を所望する事を読んでおられたようですな。」
「はあ。」
津久見ははてな顔で答える。
「して二つ目は?」
行長が言う。
「はい。ここ何十年、京は戦火にまみえ、彼らのような孤児が増えてしまいました。戦は無き世とは言えどよからぬ考えを持った野党の類は減りませぬ。」
了以は広間の子供たちを見ながら続ける。
「儂を資材を投じて独自に自警団を作ったりもしましたが、いかようにも…。ですので、政を行う石田様におかれましては、京の治安を守る事をお約束して頂きたい。」
「治安ですか。」
「はい。」
「私目の自警団といっても百姓の集まり、持っているのは竹やりに落ち武者狩りから買った重たい甲冑…。これでは手練れた野党は追い払えませぬ故、頭から一刀両断斬られてしまいまする。」
「…。」
津久見は何か考え
(はっ!!)
と、何かを思いつき言った。
「了以さん。任せてください!」
「何か心当たりでも!?」
「無い事無いです。もしそれができれば、朱印状の件は…。」
「私が納得できれば、お力添えいたします。」
「分かりました!!!約束ですよ!!」
と津久見は右手の小指を差し出した。
「ん?これは!?」
「いいからいいから。」
と、強引に了以の右手を取り、小指を絡ませた。
「約束です。必ず果たして見せますね。」
「???」
津久見は了以と絡ませた小指を何度から上下に振ると手を離した。
「となると、ちょっと今日は失礼しますね。」
と、津久見はそそくさと玄関口へ歩いて行ってしまった。
「なんとも変わった御仁じゃ。」
了以は呆れた顔で津久見達一行を見送った。
京の街に雪が舞い散って来ていた。
第88話 完
了以が言う。
「堺の復興には欠かせぬ物を了以様はお持ちになられておりまする。」
行長が答える。
その後ろには左近と喜内がどちらが津久見を起こすか話し合っている。
了以は後ろの二人を気にしながら続ける。
「儂が持っている物?銭か?」
「いや、銭ではござらん。」
「では何じゃ?」
「朱印状でござる。」
「朱印状!?」
了以は驚きながら言った。
「いかにも。その朱印状をもって堺から異国の貿易を拡大し、堺復興の足掛かりにしとうござる。」
行長は了以の目を一直線に見つめながら言う。
「…。」
「いかがかな?」
行長が促す。
すると了以が口を開いた。
「そもそも朱印状は、亡き太閤様より賜った物。そこにいる石田様であれば自ら秀頼公に建前でも言上すれば手に入るではござらんか?」
「いかにも。治部は五奉行の一人。やろうと思えば簡単にできましょう。」
「では、なぜ儂の所へ?」
「そこがミソでござる。」
「ん?」
「この治部、先の大戦より人が変わった様で、良くヒトの言葉に耳を貸し、過去に遺恨のある様な者へは直接赴き、話し合いにて解決してこられました。」
「石田殿が?」
「はい。そこでこれから『戦の無き世』の為に何が必要か。そこで考えられた一つが堺の復興でございまする。」
「…。」
了以は行長の話をじっと聞いている。
「商いを根幹にこの日の本の民を富ましていこうと考えておられまする。」
「…。」
「先程お話したように、話し合いで事を進める中で、反対勢力も、もちろん現れました。が、治部は誠実をさを武器に戦い打ち勝って参りました。故に、己の権力を行使して朱印状を得ようという発想が治部にはございませぬ。」
「…。」
「そこで了以様のお力添えをお借りしたくて突然訪問させていただきました。」
「…。」
了以は目をつぶり何か考えている様子であった。
そこへ、
「ぱっちーん!!!!」
威勢の良い音がした。
「どうされた!!!!」
了以は驚き目を開け叫んだ。
「うぐ!!」
喜内の平手が津久見の顔にヒットしたようであった。
「あ、了以様。大丈夫でござる。いつもの事でございますので。続けて続けて。」
喜内は笑いながら言う。
「いつもの事???」
「ははは。あの治部め、いつからか気絶癖がついた様で、毎回かの者が叩いて起こしておる次第でござる。今回は横山殿が起こされたようですな。」
行長は笑いながら言った。
「気絶癖?家臣が主君を叩いておるのか!?」
「はい。私にも分からぬ家臣の絆とも言いましょうかの。」
「…・。」
すると津久見が目を覚ました。
「どっち!!!左近ちゃん!?喜内さん!!?どっち!!!」
津久見は目を細め二人を交互に見る。
「どちらでございましょうかの。」
と、左近が言う。
「左近ちゃん笑ってないから…。喜内さんだね。」
津久見は喜内の方を睨みつける。
「…。」
そんな様子を了以は静かに見守っていた。
「殿、そんなことより、今行長様が了以様とお話されておりまするぞ。」
喜内が言う。
「え!」
津久見はパッと行長と了以の方に目をやった。
「あ!!!っちょ。」
津久見は急いで叩かれた左頬を抑えながら、行長の隣に座った。
「なんかすみません。角倉了以…さん?」
「石田様は面白い御仁でございますな。」
了以は優しく言う。
「いや、面白いとかじゃないんですよね…。必死に生きてるだけなんですけどね…。そしたら気絶して、叩かれての繰り返しで…。」
津久見は後ろに控える二人を横目に言う。
「了以様。治部も起きたことでございます。どうでしょうか、我々にお力をお貸し願えますか?」
行長は意を決して言う。
「…。」
了以はまた目をつぶった。
「行長さん?なんの話してたの?」
話しの脈絡が見えない津久見は行長に向かって言う。
「治部。」
行長はそっと頭を少し縦に振った。
(あ、今大事な所なのね?)
と、津久見は思い再び了以の方を見た。
すると了以は目を開け言った。
「石田様。一つ宜しいか?」
「え!?あ、はい!」
「戦無き世、実に結構。商いを根幹に日の本の民を幸せにする。これも良し。ではその次は何と心得る。」
「え!!??」
突然の了以の質問に津久見は少したじろいだ。
たじろぎながらも頭をフル回転させた。
(商いの次…。農業しかり、道の整備もしかり…)
津久見は目を閉じた。
(戦の無い世。民の笑顔。その為には…。)
「はっ!!」
津久見は目を開いた。
そして言った。
「教育です。」
「ん?」
了以は不思議そうに津久見の顔を見る。
「はい。教育です。今から商いや、農業で国を富ませて行くのは我々の仕事。その先の未来を担う子供たちに分け隔てなく学問を学ぶ機会を与える。それこそがこの日の本の確固たる基盤となると私は考えまする。」
この言葉にはその場にいた、行長、左近、喜内も驚いた。
いや了以はもっと驚いていた。
すると了以は体を前に出し言った。
「よう申されました。ちょっと、着いて来て下され。」
了以は立ち上がると歩き出した。
津久見達も後に続く。
了以たちは屋敷の廊下を進む。
そしてある一間に着いた。
了以はその間の襖を開いた。
「これは…。」
行長が驚いた様子で言った。
そこには二十人程の子供たちがそろばんを叩いていた。
「了以様これは…?」
と、左近が聞いた。
その時了以の姿に気付いた子供たちが一斉に
「爺様だ~。」
と、そろばんを投げだし了以の元に集まって来た。
「あらま!」
そろばんを教えていたらしき女は呆れたように言う。
「爺様!算術は飽きました~」
と、子供たちは言う。
「ダメじゃ!しっかり算術もやるのじゃ。」
了以が言う。
津久見はふとその子供たちの中に先程中庭で了以と遊んでいた小童を見つけた。
「了以様これはどういう事で?」
津久見が聞く。
了以は大きな手で子供たちを自分の席に着くように優しく押し返しながら言った。
「この子たちは戦で親を亡くした者たちじゃ。わしの孫と一緒に勉強させておる」
「なんと…。」
津久見は驚きながら言った。
「石田様の申す事は結構。ただ条件が2つござる。」
了以は子供たちが席に座るのを見届けながら言う。
「条件?」
津久見が言う。
そこに行長が割って入った。
「一つは…川の整備でござらんか?」
「!!!???」
了以は驚きを隠せない。
「川の整備でしたら天竜川に高瀬川、しいては琵琶湖の整備もいかがか。」
行長言う。
行長は了以の屋敷に来た際、小童との砂遊びを通じて、川の整備を所望すると踏んでいたのだ。
「石田様。小西様を連れて来られたのは正解でございましたな。わしが川の整備を所望する事を読んでおられたようですな。」
「はあ。」
津久見ははてな顔で答える。
「して二つ目は?」
行長が言う。
「はい。ここ何十年、京は戦火にまみえ、彼らのような孤児が増えてしまいました。戦は無き世とは言えどよからぬ考えを持った野党の類は減りませぬ。」
了以は広間の子供たちを見ながら続ける。
「儂を資材を投じて独自に自警団を作ったりもしましたが、いかようにも…。ですので、政を行う石田様におかれましては、京の治安を守る事をお約束して頂きたい。」
「治安ですか。」
「はい。」
「私目の自警団といっても百姓の集まり、持っているのは竹やりに落ち武者狩りから買った重たい甲冑…。これでは手練れた野党は追い払えませぬ故、頭から一刀両断斬られてしまいまする。」
「…。」
津久見は何か考え
(はっ!!)
と、何かを思いつき言った。
「了以さん。任せてください!」
「何か心当たりでも!?」
「無い事無いです。もしそれができれば、朱印状の件は…。」
「私が納得できれば、お力添えいたします。」
「分かりました!!!約束ですよ!!」
と津久見は右手の小指を差し出した。
「ん?これは!?」
「いいからいいから。」
と、強引に了以の右手を取り、小指を絡ませた。
「約束です。必ず果たして見せますね。」
「???」
津久見は了以と絡ませた小指を何度から上下に振ると手を離した。
「となると、ちょっと今日は失礼しますね。」
と、津久見はそそくさと玄関口へ歩いて行ってしまった。
「なんとも変わった御仁じゃ。」
了以は呆れた顔で津久見達一行を見送った。
京の街に雪が舞い散って来ていた。
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