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第93話
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1601年 2月20日 津久見の姿は大坂城の大広間にあった。
あの天竜川会談直後に早馬で各国に召集の旨が伝えられていた。
大広間には続々と人が入って来る。
外では前田玄以と長束正家が忙しなく登城の帳簿の擦り合わせ作業を行っている。
(あの人たちああいうの本当得意だよな…。)
と、津久見は大広間の窓から二人の様子を見て思った。
と、そこに津久見に声を掛ける者がいた。
「治部。」
小西行長であった。
「小西さん!!お久しぶりです!!」
「ああ。ってか、ほんま人使い荒いな自分。」
と、小西は津久見を睨みつけながら言った。
「だって小西さんにしかできないと思って。」
と、津久見はおどけてみせた。
というのも、去年の年末。
例の角倉了以説得の件以降、小西の働き振りは凄かった。
大館の鎧、小野木笠を自ら身に着け、了以の前に現れては、了以に刀で頭から斬りつけさせた。
小西は
(神よ…)
と、目を瞑ったが、小野木笠は了以の太刀に耐えた。
そして、
「では次にこの軽い甲冑に、軽い笠。どれだけ軽いか照明しましょう。」
と、了以の庭を物凄い勢いで走り回った。
了以はニコニコ笑いながら
「小西殿はどこか治部殿に似て来たの。」
と。
小西は赤面しながらも、最終的には了以の説得に成功し、その足で、了以の朱印状を持って堺へ向かう。
そして、堺の商人達に一応の安心を与えながら、『早速の仕事』と、大館、小野木監修の元、堺の商人伝いに、甲冑と笠の大量生産へと事を運んでいたのであった。
「本当にありがとうございます!!!」
津久見は何度もお礼を言う。
「まあ、もうええって。なんか楽しかったしな。で、あれやろ今日は、会談の内容の。」
「はい。大体の事が決まりそうなので。」
「ああ。まあ、何かあったら言うてな。」
と、行長はちょっと照れながら大広間の隅に座った。
程なくすると大広間は人で溢れた。
伝令では『主でなくても結構。天竜川会談の件発表致す。』と、言って回っていたが、『この大事と』ほぼ各国の主が参加していた。
島津義弘・加藤清正・立花宗茂・毛利輝元・宇喜多秀家・小早川秀秋・吉川広家・長宗我部盛親…。
錚々たる顔ぶれである。
そんな中、
「御免」
最後に遅れて入って来たのは、なんと黒田孝高であった。
「おお黒田殿。」
と、皆驚きながら言った。
孝高は脚を引きずりながら、空いている場所へ座った。
「事が事だけにな。それに久しぶりの大坂見物もしたくての。」
それを見て津久見はニコッと笑い、立ち上がり
「では、大坂会議を始めます。」
と、宣言する。
「本日もこの会議の後見人として郡《こおり》様にご同席頂くのと、各発言・内容に相違が無いように、記録してまいります。お入りください。」
と、津久見は言うと、襖が開いた。
一同の視線が集まる。
「ではでは。」
と、入って来たのは太田牛一であった。
これには皆驚いた。
「生きておられたのか。」
「おお天下の祐筆じゃ。」
等と声がした。
「太田様の筆の腕前は皆様ご存じと思いますが、宜しいでしょか。」
と、津久見は問いかける。
「異議なし。」
島津義弘が言うと、皆が続いた。
「ありがとうございます。では始めます。まず、東国から帰参希望大名ですが…。」
と言いながら津久見は天竜川会談の際に正信より渡された紙を皆に見せながら名を発表していった。
皆興味津々に紙を見つめる。
「それに個人として、黒田長政殿と真田信繫殿が帰参希望です。」
と、津久見は紙にそって言う。
「真田!?」
と、皆怪訝な顔をする。
「豊臣家の恩顧を幸村殿は深く感じているようでございます。」
と、津久見が言うと、
「いや治部よ。あの真田家の事じゃ。それを受けては間者を堂々と受け入れる事となるやもしれんぞ。」
吉川広家であった。
「はい。でも受け入れます。間者である証拠はまだどこにもありませんので。」
「そういう隙が治部よ、豊家の足元を危ぶむかもしれないぞよ。」
広家が食いつく。
「信頼無くして豊家はございませぬ。吉川家には信頼という言葉は無いのですか。」
「なっ!!!」
と、広家は頭に来たが、先の戦より、分が悪い事を自覚しているのか、黙り込んだ。
「それではこれも異議ござらんか。」
「異議なし!」
今回は小早川秀秋が早かった。
「ふふ。あ、あと黒田さん。」
と、津久見は孝高の方を見て言った。
「ん?なんじゃ?」
孝高が答える。
「長政さん戻って来ても叱らないでくださいね?」
「ん?」
「黒田さんの事だから、長政さんを東国に孝高さんが西国で…とか、悪い事考えちゃだめですよ!?」
と、言うと。
孝高は大きく笑い言った。
「赤子の頃の様にきつく抱きしめてやるわい。」
そう言うと場内は笑いに包まれた。
ニコッと津久見は笑うと続けた。
「では、帰参大名の受け入れを随時開始して参りますので、天竜川の左岸で受け入れを…。」
と、言うと一人の男が後ろから手を挙げ
「その任私に仰せつかりたい。」
と言った。
津久見はニコッと笑った。
そこには怪我から復帰した織田秀信の姿があった。
「では、これも…」
「異議なし!!」
喰い気味に今回は加藤清正が言った。
広間の前の隅で見ている郡の目は細く微笑んでいた。
この会議自体が、穏やかでありながら、希望に溢れているのを肌で感じていたのである。
「次に北陸・前田殿でございますが、東国側に着くとの事でございました。ですので、北陸の最北部は丹羽様の領土が我が西国の領土となります。」
この報告は少し皆に動揺を与えた。
北陸の前田家がどちらに付くかは皆の関心事であったからである。
「承知。」
丹羽長重が答えた。
「そこでですね、私まとめました。持って来て下さい。」
と、津久見は言うと喜内と左近が入って来ては大きな板を運んできた。
「なんじゃ?」
と、皆不思議そうに見ている。
すると、二人はその板をひっくり返した。
「おおお。」
そこには天竜川以西の地図が大きく描かれ、帰参武将の元の領地の埋め込み、豊臣直轄領には『豊』と書かれていた。
「で、帰参大名を元の領土を与えてもですね…。」
津久見はその地図を指さしながら言う。
「治部、ちょっと良いか?」
長宗我部盛親であった。
「なんでしょうか。」
「東軍に参戦した大名を減封も転封も無く元の領地に戻すと?」
「はい。」
「それは…。」
ここは皆意見が分かれた。
第一回より議題に上がって来た内容である。
津久見の想いに触れる者は特段気にかけることも無かったが、半分位の大名は納得がいっていなかった。
そんな雰囲気をかき消すように津久見は言った。
「西国に戻るは豊家への忠誠を誓って、誓詞を書いてもらいます。そうすれば皆仲間です。」
皆渋い顔をする。また理想主義の一面が出て来たかと思った。
津久見は続けた。
「ですが~納得いかないのも分かります。ですので、減封はしません。元の領土をそのまま継承します。しかし領土の増加はほぼ無しとします。」
「ん????」
「見て頂いて分かる様に、この豊家の直轄領、それに豊家へ返還の意志のある石田・小西・大谷領等を合わせて少なく見積もっても200万石はあります。検地したの自分なのでそこらへん詳しいです。」
「???」
「この200万石を今の皆さんの領地と割合して西軍にお味方した大名家へ分配しようと考えております。」
「!!!!」
「長束さん計算を。例えば島津家には何万石の増加が見込まれますか?」
郡の横で控える、正家は慌ててそろばんを弾いた。
「およそ10万石から15万石かと。」
「おおお。」
場内がざわつく。
「なので若干の玉突き移動はあるかもしれませんが、西軍大名の石高は増える算段でございます。」
「治部殿よ、宜しいか?」
立花宗茂であった。
「はい。」
「豊家直轄領を切り売りしたら豊家自体はどう継続するおつもりか?」
的を射た問いであった。
だが津久見はすぐに答えた。
「まず直轄領の内、堺とここ大坂だけは豊家の直轄領のままとさせて頂きます。
次に年に2回、各国より所持石高の五分《ごぶ》程を豊家へ収めて頂きたいと思っております。」
そう言われると島津義弘は即座に暗算した。
今の島津領が56万石そこに15万石足されて71万石、それを年二回5分の奉納…差し引いても今よりも良い。
(上手いな。)
と、義弘は思った。
そして皆が暗算して答えが出ると
「異議なし!!!」
と、長宗我部盛親が言った。
「ありがとうございます!!ここが一番の肝だったので…。」
確かに和議強行から悩みの一番はこの問題であった。
それが今諸将の一応の納得を得る事ができたのである。
「ふう。」
と津久見は一息付いて続ける。
「義弘さん!!!薩摩の美味しい物ってなんですか?」
唐突な質問に皆呆気に取られる。
義弘は考え。
「そうじゃなあ、芋かの。」
「あああ。美味しそう焼き芋にして。」
「そうじゃ、薩摩の芋は甘い、そして旨い。」
「良いですね~。皆さんどうですか食べてみたくないですか?」
津久見は諸将に向かって言う。
「食べたい!!」
織田秀信が無邪気に言った。
「ですよね。採れたての芋はまた美味しいでしょうね。」
「う~ん。そうじゃが、岐阜と薩摩じゃ早くても一か月はかかるぞ?」
「そこです。岐阜と薩摩この物品の移動に海上にて、高速船を使います。今村上さんが造ってます。」
「え?」
「遠く離れた土地の美味しい物、鮮度の良い野菜。海を渡って自分の国に届いたら嬉しいですよね?そりゃあ。義弘さんはちょっと高めで販売してでも皆買にかってもらう自信があると思います。」
「そりゃそうじゃ。」
「そこです。価値を創造し、国を豊かにする。これこそがこれからの我々の生き方です。」
「異議なし!!!」
義弘が言った。
皆少し笑った。何となく諸大名が一つになりかけていた。それぞれが自国の希望の光を模索し始めていた。
「次に教育・体の鍛錬・町の治安、皆さんこの先に何があると思いますか?」
津久見は目を光らせて言う。
毛利輝元は目を瞑りながら考えた。そして答えた。
「民の笑顔か?」
「そうです!!!皆さんは一国の主。その民の笑顔こそ、その国の力。そんな世の中はどうでしょう、つまらないと思いますか?」
「それこそ亡き元就公の追い求めていた国造りじゃ。」
「それが出来るんです。私一人ではできません、どうかお力添えを!!」
津久見は深く頭を落とした。
「異議なし。」
言ったのは黒田孝高であった。
「黒田さん…。」
「治部は戦の無い世を造るという。それどころか、我々が追い求めていた国の在り方も示してくれた。異議はない。」
「ありがとうございます!!」
知らぬ間に諸将は円になって協議していた。
皆意見を出しては協議し、決め事を作ったり、時には己の国の理想を語る者もいた。
郡はそれを見て静かに立ち上がると、一人淀君の所へ向かった。
「淀様。」
「郡か。」
「いかにも。」
「入れ。」
「御免。」
郡は淀君の部屋に入る。
隣には、熱心に書物を読む秀頼がいた。
「会議はいかに?」
「はい。皆、各々戦の無い世を語り合い、領土の問題も、豊家への年貢の件も快く承諾してくれました。」
「真であるか??」
「はい。石田治部の働き、まさに粉骨砕身にて豊家を守ろうと動いて来た賜物でございまする。」
郡はそう言うと目に涙を浮かべた。
「そうか。そうか…。」
淀君はそう言いながら秀頼の元へ寄ると秀頼を優しく抱きしめ泣いた。
すると
「母君。聞いておりました。石田治部をお父様、お母さまが頼って来たのも良く分かりました。」
秀頼が言う。
「うん。うん。」
淀君は泣きながら今度は強く秀頼を抱きしめた。
こうして西国の諸将の気持ちは徐々に一つとなり、津久見の思い描いた国造りに、また一歩近づいていったのである。
あの天竜川会談直後に早馬で各国に召集の旨が伝えられていた。
大広間には続々と人が入って来る。
外では前田玄以と長束正家が忙しなく登城の帳簿の擦り合わせ作業を行っている。
(あの人たちああいうの本当得意だよな…。)
と、津久見は大広間の窓から二人の様子を見て思った。
と、そこに津久見に声を掛ける者がいた。
「治部。」
小西行長であった。
「小西さん!!お久しぶりです!!」
「ああ。ってか、ほんま人使い荒いな自分。」
と、小西は津久見を睨みつけながら言った。
「だって小西さんにしかできないと思って。」
と、津久見はおどけてみせた。
というのも、去年の年末。
例の角倉了以説得の件以降、小西の働き振りは凄かった。
大館の鎧、小野木笠を自ら身に着け、了以の前に現れては、了以に刀で頭から斬りつけさせた。
小西は
(神よ…)
と、目を瞑ったが、小野木笠は了以の太刀に耐えた。
そして、
「では次にこの軽い甲冑に、軽い笠。どれだけ軽いか照明しましょう。」
と、了以の庭を物凄い勢いで走り回った。
了以はニコニコ笑いながら
「小西殿はどこか治部殿に似て来たの。」
と。
小西は赤面しながらも、最終的には了以の説得に成功し、その足で、了以の朱印状を持って堺へ向かう。
そして、堺の商人達に一応の安心を与えながら、『早速の仕事』と、大館、小野木監修の元、堺の商人伝いに、甲冑と笠の大量生産へと事を運んでいたのであった。
「本当にありがとうございます!!!」
津久見は何度もお礼を言う。
「まあ、もうええって。なんか楽しかったしな。で、あれやろ今日は、会談の内容の。」
「はい。大体の事が決まりそうなので。」
「ああ。まあ、何かあったら言うてな。」
と、行長はちょっと照れながら大広間の隅に座った。
程なくすると大広間は人で溢れた。
伝令では『主でなくても結構。天竜川会談の件発表致す。』と、言って回っていたが、『この大事と』ほぼ各国の主が参加していた。
島津義弘・加藤清正・立花宗茂・毛利輝元・宇喜多秀家・小早川秀秋・吉川広家・長宗我部盛親…。
錚々たる顔ぶれである。
そんな中、
「御免」
最後に遅れて入って来たのは、なんと黒田孝高であった。
「おお黒田殿。」
と、皆驚きながら言った。
孝高は脚を引きずりながら、空いている場所へ座った。
「事が事だけにな。それに久しぶりの大坂見物もしたくての。」
それを見て津久見はニコッと笑い、立ち上がり
「では、大坂会議を始めます。」
と、宣言する。
「本日もこの会議の後見人として郡《こおり》様にご同席頂くのと、各発言・内容に相違が無いように、記録してまいります。お入りください。」
と、津久見は言うと、襖が開いた。
一同の視線が集まる。
「ではでは。」
と、入って来たのは太田牛一であった。
これには皆驚いた。
「生きておられたのか。」
「おお天下の祐筆じゃ。」
等と声がした。
「太田様の筆の腕前は皆様ご存じと思いますが、宜しいでしょか。」
と、津久見は問いかける。
「異議なし。」
島津義弘が言うと、皆が続いた。
「ありがとうございます。では始めます。まず、東国から帰参希望大名ですが…。」
と言いながら津久見は天竜川会談の際に正信より渡された紙を皆に見せながら名を発表していった。
皆興味津々に紙を見つめる。
「それに個人として、黒田長政殿と真田信繫殿が帰参希望です。」
と、津久見は紙にそって言う。
「真田!?」
と、皆怪訝な顔をする。
「豊臣家の恩顧を幸村殿は深く感じているようでございます。」
と、津久見が言うと、
「いや治部よ。あの真田家の事じゃ。それを受けては間者を堂々と受け入れる事となるやもしれんぞ。」
吉川広家であった。
「はい。でも受け入れます。間者である証拠はまだどこにもありませんので。」
「そういう隙が治部よ、豊家の足元を危ぶむかもしれないぞよ。」
広家が食いつく。
「信頼無くして豊家はございませぬ。吉川家には信頼という言葉は無いのですか。」
「なっ!!!」
と、広家は頭に来たが、先の戦より、分が悪い事を自覚しているのか、黙り込んだ。
「それではこれも異議ござらんか。」
「異議なし!」
今回は小早川秀秋が早かった。
「ふふ。あ、あと黒田さん。」
と、津久見は孝高の方を見て言った。
「ん?なんじゃ?」
孝高が答える。
「長政さん戻って来ても叱らないでくださいね?」
「ん?」
「黒田さんの事だから、長政さんを東国に孝高さんが西国で…とか、悪い事考えちゃだめですよ!?」
と、言うと。
孝高は大きく笑い言った。
「赤子の頃の様にきつく抱きしめてやるわい。」
そう言うと場内は笑いに包まれた。
ニコッと津久見は笑うと続けた。
「では、帰参大名の受け入れを随時開始して参りますので、天竜川の左岸で受け入れを…。」
と、言うと一人の男が後ろから手を挙げ
「その任私に仰せつかりたい。」
と言った。
津久見はニコッと笑った。
そこには怪我から復帰した織田秀信の姿があった。
「では、これも…」
「異議なし!!」
喰い気味に今回は加藤清正が言った。
広間の前の隅で見ている郡の目は細く微笑んでいた。
この会議自体が、穏やかでありながら、希望に溢れているのを肌で感じていたのである。
「次に北陸・前田殿でございますが、東国側に着くとの事でございました。ですので、北陸の最北部は丹羽様の領土が我が西国の領土となります。」
この報告は少し皆に動揺を与えた。
北陸の前田家がどちらに付くかは皆の関心事であったからである。
「承知。」
丹羽長重が答えた。
「そこでですね、私まとめました。持って来て下さい。」
と、津久見は言うと喜内と左近が入って来ては大きな板を運んできた。
「なんじゃ?」
と、皆不思議そうに見ている。
すると、二人はその板をひっくり返した。
「おおお。」
そこには天竜川以西の地図が大きく描かれ、帰参武将の元の領地の埋め込み、豊臣直轄領には『豊』と書かれていた。
「で、帰参大名を元の領土を与えてもですね…。」
津久見はその地図を指さしながら言う。
「治部、ちょっと良いか?」
長宗我部盛親であった。
「なんでしょうか。」
「東軍に参戦した大名を減封も転封も無く元の領地に戻すと?」
「はい。」
「それは…。」
ここは皆意見が分かれた。
第一回より議題に上がって来た内容である。
津久見の想いに触れる者は特段気にかけることも無かったが、半分位の大名は納得がいっていなかった。
そんな雰囲気をかき消すように津久見は言った。
「西国に戻るは豊家への忠誠を誓って、誓詞を書いてもらいます。そうすれば皆仲間です。」
皆渋い顔をする。また理想主義の一面が出て来たかと思った。
津久見は続けた。
「ですが~納得いかないのも分かります。ですので、減封はしません。元の領土をそのまま継承します。しかし領土の増加はほぼ無しとします。」
「ん????」
「見て頂いて分かる様に、この豊家の直轄領、それに豊家へ返還の意志のある石田・小西・大谷領等を合わせて少なく見積もっても200万石はあります。検地したの自分なのでそこらへん詳しいです。」
「???」
「この200万石を今の皆さんの領地と割合して西軍にお味方した大名家へ分配しようと考えております。」
「!!!!」
「長束さん計算を。例えば島津家には何万石の増加が見込まれますか?」
郡の横で控える、正家は慌ててそろばんを弾いた。
「およそ10万石から15万石かと。」
「おおお。」
場内がざわつく。
「なので若干の玉突き移動はあるかもしれませんが、西軍大名の石高は増える算段でございます。」
「治部殿よ、宜しいか?」
立花宗茂であった。
「はい。」
「豊家直轄領を切り売りしたら豊家自体はどう継続するおつもりか?」
的を射た問いであった。
だが津久見はすぐに答えた。
「まず直轄領の内、堺とここ大坂だけは豊家の直轄領のままとさせて頂きます。
次に年に2回、各国より所持石高の五分《ごぶ》程を豊家へ収めて頂きたいと思っております。」
そう言われると島津義弘は即座に暗算した。
今の島津領が56万石そこに15万石足されて71万石、それを年二回5分の奉納…差し引いても今よりも良い。
(上手いな。)
と、義弘は思った。
そして皆が暗算して答えが出ると
「異議なし!!!」
と、長宗我部盛親が言った。
「ありがとうございます!!ここが一番の肝だったので…。」
確かに和議強行から悩みの一番はこの問題であった。
それが今諸将の一応の納得を得る事ができたのである。
「ふう。」
と津久見は一息付いて続ける。
「義弘さん!!!薩摩の美味しい物ってなんですか?」
唐突な質問に皆呆気に取られる。
義弘は考え。
「そうじゃなあ、芋かの。」
「あああ。美味しそう焼き芋にして。」
「そうじゃ、薩摩の芋は甘い、そして旨い。」
「良いですね~。皆さんどうですか食べてみたくないですか?」
津久見は諸将に向かって言う。
「食べたい!!」
織田秀信が無邪気に言った。
「ですよね。採れたての芋はまた美味しいでしょうね。」
「う~ん。そうじゃが、岐阜と薩摩じゃ早くても一か月はかかるぞ?」
「そこです。岐阜と薩摩この物品の移動に海上にて、高速船を使います。今村上さんが造ってます。」
「え?」
「遠く離れた土地の美味しい物、鮮度の良い野菜。海を渡って自分の国に届いたら嬉しいですよね?そりゃあ。義弘さんはちょっと高めで販売してでも皆買にかってもらう自信があると思います。」
「そりゃそうじゃ。」
「そこです。価値を創造し、国を豊かにする。これこそがこれからの我々の生き方です。」
「異議なし!!!」
義弘が言った。
皆少し笑った。何となく諸大名が一つになりかけていた。それぞれが自国の希望の光を模索し始めていた。
「次に教育・体の鍛錬・町の治安、皆さんこの先に何があると思いますか?」
津久見は目を光らせて言う。
毛利輝元は目を瞑りながら考えた。そして答えた。
「民の笑顔か?」
「そうです!!!皆さんは一国の主。その民の笑顔こそ、その国の力。そんな世の中はどうでしょう、つまらないと思いますか?」
「それこそ亡き元就公の追い求めていた国造りじゃ。」
「それが出来るんです。私一人ではできません、どうかお力添えを!!」
津久見は深く頭を落とした。
「異議なし。」
言ったのは黒田孝高であった。
「黒田さん…。」
「治部は戦の無い世を造るという。それどころか、我々が追い求めていた国の在り方も示してくれた。異議はない。」
「ありがとうございます!!」
知らぬ間に諸将は円になって協議していた。
皆意見を出しては協議し、決め事を作ったり、時には己の国の理想を語る者もいた。
郡はそれを見て静かに立ち上がると、一人淀君の所へ向かった。
「淀様。」
「郡か。」
「いかにも。」
「入れ。」
「御免。」
郡は淀君の部屋に入る。
隣には、熱心に書物を読む秀頼がいた。
「会議はいかに?」
「はい。皆、各々戦の無い世を語り合い、領土の問題も、豊家への年貢の件も快く承諾してくれました。」
「真であるか??」
「はい。石田治部の働き、まさに粉骨砕身にて豊家を守ろうと動いて来た賜物でございまする。」
郡はそう言うと目に涙を浮かべた。
「そうか。そうか…。」
淀君はそう言いながら秀頼の元へ寄ると秀頼を優しく抱きしめ泣いた。
すると
「母君。聞いておりました。石田治部をお父様、お母さまが頼って来たのも良く分かりました。」
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西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。
幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。
北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。
清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。
色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。
一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。
印旛沼開拓は成功するのか?
蝦夷開拓は成功するのか?
オロシャとは戦争になるのか?
蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか?
それともオロシャになるのか?
西洋帆船は導入されるのか?
幕府は開国に踏み切れるのか?
アイヌとの関係はどうなるのか?
幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
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