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痺れが毒のように回っていくのを感じて下唇を噛む。どうして、そこに触れるのだろう。自分の胸に、何か価値があるとは到底思えないのだが。
「本当に、初めてなんですね」
眩しそうに目を細める彼の表情を見ていると、会話は噛み合っていないのに、自分と彼がどこかでしっかりと繋がっているかのような、解り合っているような。そういう錯覚を起こす。
実際は、そうではない。彼にとっての自分は、父親かもしれないひとの弟、ただそれだけだ。もし本当に彼が兄の息子だったとしても、僕と兄に血の繋がりがない以上、彼と僕は他人のままだ。そう考えると何となく、寂しかった。
「瑞希」
沈みかけた意識を、彼が引き戻す。声に温度はないが、吐息を肌に感じて、温かい声だなと思う。
「俺を、見て」
他のことを考えていた僕を咎めるように、首筋に歯を立てられる。もしかしたら跡が残ったかもしれない。
大人しく指示に従うと、彼の視線に囚われる。彼の指と舌が、まるで独立した生き物みたいに動く。何をされているか、知るのが怖くて目を閉じると、小さな闇の中、淫靡な音がやけに大きく聞こえた。
初めての行為は、すべてが怖かった。同性とするだなんて、正直考えたこともない。ただ、彼があまりにも彼自身を否定するから、君はそうじゃないよと、伝えたいのに伝わらないのがもどかしくて。できる、と言ってしまった。自信は一ミリもなかった。無理でも、耐えてやり過ごせばいいと思っていた。
それなのに今、彼とこうしていることに嫌悪感はなく、むしろその逆だということに、僕はひどく戸惑っていた。彼の僕を見る目、僕を呼ぶ声、何もかもが心地いい。肌で感じる熱は、不自然なほどに気持ちがいい。声を抑えるべく両手を口元に添えると、瞼の向こうで彼が笑った。
「かわいい」
つい目を開けて、首を傾げてしまう。国語は得意教科だが、先程から彼の発言の意図が読み取れない。
「煽らないでください」
ふに、っと弾力を確かめるみたいに触れる親指。
「僕、何もしてませんけど……」
そうですね、とまた笑う。優しく、笑う。
次第に下降していった彼の指が、スウェットの上から誰にも触れられたことのない場所に触れてきたので、反射的に僕は身を固くした。熱を持ち始めていることが分かっていたたまれなくなる。
「だめ?」
「……じゃない、けど」
だめではないが、非常に恥ずかしかった。致死量寸前の羞恥心に、目眩がする。胸とは違う、明確で鮮明な刺激。粘土を捏ねるように大きな手の内で弄ばれ、声を抑えるのが難しくなっていく。気付けば、服の内側に手が侵入していて。電気が流れるような、痛みと隣り合わせの快楽に落とされた。
自分には、彼から与えられる感覚しか存在しないかのような、苦しくて甘い時間が流れていく。小さく濡れた音が響き始め、彼の手を濡らしているもののことを考えただけで、死にそうなくらい体温が上がった。
男が相手でも気持ち悪くはない、と。僕がこの行為で立証すべきことは、それだけで十分だったはずなのに。彼に優しくされ、追い詰められることに、幸福を感じている。まるで──好きなひとに抱かれているみたいに。
「本当に、初めてなんですね」
眩しそうに目を細める彼の表情を見ていると、会話は噛み合っていないのに、自分と彼がどこかでしっかりと繋がっているかのような、解り合っているような。そういう錯覚を起こす。
実際は、そうではない。彼にとっての自分は、父親かもしれないひとの弟、ただそれだけだ。もし本当に彼が兄の息子だったとしても、僕と兄に血の繋がりがない以上、彼と僕は他人のままだ。そう考えると何となく、寂しかった。
「瑞希」
沈みかけた意識を、彼が引き戻す。声に温度はないが、吐息を肌に感じて、温かい声だなと思う。
「俺を、見て」
他のことを考えていた僕を咎めるように、首筋に歯を立てられる。もしかしたら跡が残ったかもしれない。
大人しく指示に従うと、彼の視線に囚われる。彼の指と舌が、まるで独立した生き物みたいに動く。何をされているか、知るのが怖くて目を閉じると、小さな闇の中、淫靡な音がやけに大きく聞こえた。
初めての行為は、すべてが怖かった。同性とするだなんて、正直考えたこともない。ただ、彼があまりにも彼自身を否定するから、君はそうじゃないよと、伝えたいのに伝わらないのがもどかしくて。できる、と言ってしまった。自信は一ミリもなかった。無理でも、耐えてやり過ごせばいいと思っていた。
それなのに今、彼とこうしていることに嫌悪感はなく、むしろその逆だということに、僕はひどく戸惑っていた。彼の僕を見る目、僕を呼ぶ声、何もかもが心地いい。肌で感じる熱は、不自然なほどに気持ちがいい。声を抑えるべく両手を口元に添えると、瞼の向こうで彼が笑った。
「かわいい」
つい目を開けて、首を傾げてしまう。国語は得意教科だが、先程から彼の発言の意図が読み取れない。
「煽らないでください」
ふに、っと弾力を確かめるみたいに触れる親指。
「僕、何もしてませんけど……」
そうですね、とまた笑う。優しく、笑う。
次第に下降していった彼の指が、スウェットの上から誰にも触れられたことのない場所に触れてきたので、反射的に僕は身を固くした。熱を持ち始めていることが分かっていたたまれなくなる。
「だめ?」
「……じゃない、けど」
だめではないが、非常に恥ずかしかった。致死量寸前の羞恥心に、目眩がする。胸とは違う、明確で鮮明な刺激。粘土を捏ねるように大きな手の内で弄ばれ、声を抑えるのが難しくなっていく。気付けば、服の内側に手が侵入していて。電気が流れるような、痛みと隣り合わせの快楽に落とされた。
自分には、彼から与えられる感覚しか存在しないかのような、苦しくて甘い時間が流れていく。小さく濡れた音が響き始め、彼の手を濡らしているもののことを考えただけで、死にそうなくらい体温が上がった。
男が相手でも気持ち悪くはない、と。僕がこの行為で立証すべきことは、それだけで十分だったはずなのに。彼に優しくされ、追い詰められることに、幸福を感じている。まるで──好きなひとに抱かれているみたいに。
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