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年忘れ
4※
しおりを挟む──そうだ、あの後なっちゃんと呑み直して。
なっちゃんが僕の「彼女」について知りたがったので、言葉に詰まる度にアルコールに逃げていたら自然と酒量が増えて。
ちょうど、相手は高校の同級生だと打ち明けたあたりで、彼女の酔いが限界に近付いてきているのが分かったので。だから、意識のあるうちに、彼女をタクシーに乗せて帰したのだった。
──続きは、また今度教えてくださいね。
そう言ってタクシーに乗り込むなっちゃんを、手を振って見送ったことは覚えている。ただ、その先が思い出せない。
「何か、思い出せたか?」
四谷が、僕を後ろから抱き寄せた。背中に触れる肌の感触が、羞恥を呼び起こす。
「なっちゃん……一緒に呑んでた後輩の女の子をタクシーに乗せたところまでは、覚えてるんだけど。その後が」
「『会いたい』」
「え?」
「……って言われたから、迎えに行ったんだけど?」
「会いたい」? 僕が、彼に?
僕を抱きかかえたまま四谷が笑った。吐息が首筋に当たり、とてもくすぐったい。
「覚えてないなら、別にいいけど」
「よ、よくない」
身体を反転させ、彼と正面から向き合う。自分だけが知らないという状況は、ひどく居心地が悪かった。
「他には……? 僕、何か言ってた?」
「別に。『今から会いたいんだけど、だめ?』って訊かれたから、『いいよ』って答えただけ」
「……」
ばか。昨夜の自分の、ばか。
頬や耳のあたりが、じわじわと熱くなっていく。
「若葉?」
「ごめん。無理言って、迷惑かけて……」
「迷惑とか、思ってないけど」
身体を抱く、四谷の腕に力が籠る。
「若葉の方から会いたいとか、普段言ってこないから。普通に嬉しいけど?」
そんなふうに言われると、恥ずかしいやら嬉しいやらで、頭がおかしくなりそうだった。
くすっと、四谷が何か思い出したように笑う。
「何?」
「いや。その程度で照れてたら、うちに来てからのことを思い出したらどうなるんだろうなと思って」
さらっと、怖いことを言われた気がする。
四谷のうちに来てからのこと……?
「僕は、一体何を……」
「さあな」
「四谷……っ」
はぐらかす彼の腕をぎゅっと掴むと、彼は口の端を軽く持ち上げて言った。
「そんなに知りたいか?」
「知り、たい」
おそらく酔った勢いで、何か彼が困るようなことをしたのだろうが。昨夜自分が何をしたのか知らなければ、謝ることもできない。
「若葉がもう一度あれを着てくれるなら、教えてやってもいい」
あれ、と言いながら彼が指差したのは、床に落ちていたセーラー服で。もう一度、ということは、つまり。
「僕……」
「案外、似合ってたな」
「……死にたい」
昨夜の自分は、理性の容量が限りなくゼロに近かったらしい。
──部屋着にしようかな。
あれはただの冗談だったのに、まさか、実践してしまうなんて。
「いいものが見れた」
一瞬、四谷を抹殺したい衝動に駆られた。
「頼むから、忘れて」
「無理」
四谷が僕の頬に、啄むようなキスをした。そのキスが、頬から首筋へと徐々に下降していく。
「ちょ、四谷……っ?」
「若葉に煽られた」
「あ……、煽ってない」
何も纏っていない胸に直接触れられ、身体が疼く。軽く摘ままれただけで刺激が走り、声が出た。
「その声」
四谷の、目の色が変わる。
「やばい」
やばいのは、今の彼の表情だと思う。色気が溢れ出して、まるで美しい獣のようだった。
当然、胸だけで許されるはずもなく、昼過ぎまで僕はベッドの中で彼に攻められる羽目になった。
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