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年忘れ
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しおりを挟む「もう、しばらくお酒呑むのやめる……」
布団にすっぽりとくるまって泣き言を言うと、頭上から四谷の声がした。
「そうだな。確かに、他の男にあんなふうに甘えられたら困るしな」
そんなことはないと言いたかった。しかし今の僕には何も言えなかった。
「若葉」
「はい……」
「時々でいいから、また自分から『会いたい』って言って」
「え?」
「いいから、言え」
命令の形をしたお願いに、分かった、と僕は小さく頷いた。
「四谷。あの……」
「何?」
「酔ってたから、覚えてないけど。でもたぶん、会いたいって言ったのは嘘じゃないと思う」
「若葉?」
「昨日、会いたいって思ってたから」
恋人について訊かれる度に、四谷のことを考えた。その都度、彼に会いたくなった。
普段だったら、でも約束してないし、時間も遅いし、で終わるところを、アルコールが後押ししたのだと思う。
はあ、となぜかため息をつく四谷。
「それ、わざと?」
「は……?」
「なわけないよな。若葉だし。素で、時々そういうことするから、ほんと……」
終わりまで口にせず、彼は困ったように息を吐いた。別に困らせたいわけではなかったが、四谷がこうして、僕のことで頭を悩ませたりしているのを見ると、くすぐったいような嬉しさに囚われる。
「……大晦日は、実家に帰るけど。年が明けたら」
言葉を区切り、四谷の耳元に唇を寄せて。
会いたい、と僕が言うと。
よくできました、と四谷が笑った。
end.
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