ショートショートのお茶漬け

rara33

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第22話 デッドラインの砂音

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 いま俺は、巨大迷路のスタート地点に立っている。

 そこは小学校の体育館ほどの大きさで、内部は約5メートルの高さの壁で仕切られている。
はるか彼方のゴールの上には、入り口から見ても分かるほどの大きな砂時計が横たわっていた。木枠に該当する部分は黒く、透明な管の片方には毒々しく赤い砂粒が詰まっている。

「よーい、スタート!」
 号令とともに砂時計が立てられ、サラサラと赤い砂粒が落ち始めた。

 俺のいる国の王が悪趣味な娯楽を好むおかげで、国王主催のゲームに勝てばそれまで犯した罪がすべて恩赦おんしゃされるという、特別なルールが存在する。
 逆に負ければゲーム終了後に処刑されるという、典型的なデスゲームだ。

 つまりこの巨大迷路は、そのゲームの一環だ。
 つまりここにいる俺は、そういう経歴を持つ人間だ。
 
「砂時計の中の砂がすべて落ちるまでに、迷路の出口から出ること」
 係員の男から言われた巨大迷路のルールは、それだけだった。

 号令が鳴って走り出した俺は、とにかく時間のロスを防ぐことに努めた。
 二手に分かれた道のときは片方を選び、行き止まりまで確かめてから戻る。
 なにがあっても立ち止まらない。余計なトラブルは回避する。

 こうして正解と思われる道を全速力で駆け抜けていくと、かなり早いペースでゴールに近づいている感触があった。

「頼む! 助けてくれ!」
 声のした方に顔を向けると、道の真ん中に男が這いつくばっていた。
 俺と同じ囚人の服装をしている。前の挑戦者だろうか。
「腰が抜けて動けないんだ! このままだと殺される!」
 男は涙を流して俺に懇願してきた。
「知るか、そんなもん」
 どうせ同じ罪人だろう。間に合わなくて殺されるなら、助けるのは時間の無駄だ。
 砂時計の砂の量はまだ十分残っていたが、男を助ける気にはなれなかった。

「俺の大事な時間を、お前のために使えるわけないだろ。じゃあな」
 さっさとその男のそばを通り過ぎて、俺は先に進んだ。
 男の泣き声が、俺の背中に嫌な後味を残した。

「お願いでふぅ!どうかたふけて!」
 またしばらく進むと、今度は老女の声がそばで聞こえた。
 迷路の端でうずくまっていた老女は、歯のない口で訴えかけてきた。
 また俺と同じ囚人の服を着ている。
「あひが痛くて動けないんでふ。このままだと、もう無理でふぅ」
 老女は涙を流して俺に懇願してきた。
「知るか、んなもん」
 俺は前の男のときと同じ気持ちで、老女を見捨てて先に進んだ。
 老女の恨むようなうめき声が、俺の耳について離れなかった。

 その後も繰り返し、俺は似たような境遇の人間に遭遇した。
「俺には締め切りがあるんだ。お前らのために時間を無駄にするつもりはない」
 老若男女問わず、俺は全員を見捨てて先に進んだ。

 迷路の中を散々走り回った結果、俺は無事に出口までたどり着いた。
 砂時計の砂はまだたくさん残っている。急いだかいがあった。
「これは余裕でゴールできそうだな」
 意気揚々と出口を出ようとした、そのときだった。

「それでは、これから最後のゲームを行う」
 俺の頭上から、係員の男の声がした。

「最後のゲームは、出口にある六面体キューブの面をすべて揃えること」
 俺は、出口近くの台に置かれたカラフルなパズルキューブを手に取った。
 
 なに、まだまだ時間はあるんだ。落ち着いてやればできるさ。
 見事に色がバラバラに並んだキューブに、俺は取りかかろうとした。

 その時だった。
 ゴゴゴゴッと大きな音を立てて、巨大砂時計が傾き始めた。

 上にあった管が底に、
 底にあった管が上へと、ひっくり返されていく。

 赤い砂粒の流れが逆流すると同時に、
 まだたくさん残っていたはずの未来が過去に、
 少ししか経っていなかった過去が未来に、
 一瞬にしてひっくり返されていった。

「制限時間は、この砂時計が逆さまになった後、すべての砂が下に落ちるまでとする」
 俺はここへきてようやく、自分の勘違いに気づいた。

 ――砂時計の中の砂がすべて落ちるまでに、迷路の出口から出ること。

 「ひっくり返ることのない砂時計」とは、一言も言われなかったことを。

 見捨ててきた囚人たちのことを、俺は初めて後悔した。
 あいつらを助けていれば、それだけ俺の制限時間が増えていたものを。

 俺は一人だけ助かろうと早まるあまり、勝負の締め切りも自らの手で早まらせてしまったのだ。

 目の前が真っ暗になった俺の頭に、デッドラインの真っ赤な砂音が次々と落ちていく。


 残り時間はもう、わずかしかない。

 (了)

◎気付けば正月も終わり、成人式ももうすぐですね。締め切り時に後悔しないような人生を送りたいです。
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