ショートショートのお茶漬け

rara33

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第23話 星座トラベラーズチェック(前編)

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※この話は、前編と後編があります。各5分ほどです。

【明野 空美(アケノ ソラミ)様

 ご当選おめでとうございます。
 賞品の「星座トラベラーズチェック」をお送りします。
 貴殿のご来訪を心よりお待ちしております。

 宇宙州 双子座連邦国】

 一生に一度でも当選が難しいとされる、「星座トラベラーズチェック」(往復二名分の計4枚)が、宇宙から私宛に届いた。
 トラベラーズチェックとは、地球での旅行用小切手に当たる。
 クレジットカードの小冊子版のようなものだ。
 厳密に言うと、この小冊子は「星座旅行券」と言うべきなのだろうが、宇宙人が書いたものなので多少の誤訳は大目に見ることにした。

 同伴予定の夫とともに、私は出発の日を指折り数えて待った。
 星座トラベラーズチェックは、特殊な技術で天の川のようにキラキラと輝いていた。

 ☆**☆**☆

「空美オバちゃん! まだ着かないの? ボクもう飽きたよ!」
 宇宙船の座席に座る私の隣で、夫の甥っ子が足をばたつかせて声を張り上げた。
 私は舌打ちしたい気持ちをこらえて、無理に笑顔を作った。
「ガイアくん、オバちゃん言ったよね? 双子座まで片道1ヶ月はかかるって。
それでも我慢するって約束だったよね?」
「えー! そんなの聞いてないよー! オバちゃんの嘘つき! キライ!」
 7歳になる甥っ子のガイアは、両手両足をブンブン振り回して暴れた。

 出発間近に夫が仕事で行けなくなったと聞いた姑が、夫の妹の子どもである、ガイアを代わりに連れて行くよう私に頼んできたのだ。
 ガイアは「わんぱく小僧」どころではない、隕石落下並みの破壊力を持つ男の子だ。トイレを汚す、食べ散らかすのは朝飯前。どこでも暴れまくった挙句、嘘をついて周りをかく乱させるのが常だった。

「あなた達夫婦には子どもがいないから、ガイアを本当の子どもだと思って可愛がってね」
 姑からそう言われると、初老の私には笑顔でガイアを預かるしか術はなかった。
 義妹も普段から手を焼いていたので、快く承諾したとのことだった。

 丸窓から見える宇宙の景色にも、ガイアは一日で飽きた。
 座席に着かずうろちょろと走り回り、機長室にも入ろうとしたときはさすがに冷や汗をかいた。旅行なのにまったく楽しむ余裕がない。

「千載一遇のチャンスに、とんだ悪魔がついてきたもんだ」
 個室トイレに腰を下ろして一人、やっとの思いで溜息をついた。
「空美オバちゃん! うんこ? 早く出てよー!」
 ガイアの大声とともに、ドンドン、ガチャガチャと鍵を回す音が聞こえくる。

 双子座に着く前から、私はもう我慢の限界だった。

 ☆**☆**☆

「ようこそ明野さま。お待ち申し上げておりました。長旅でさぞお疲れのことでしょう。早速ホテルにご案内します」
 
 双子座連邦国に着いた私とガイアを出迎えてくれたのは、スパルタという名前の、美しい女性の姿をした宇宙人だった。ギリシャ神話に出てくる都市国家の名前からつけられたそうだ。
 スパルタさんは名前のイメージとは程遠い、優雅な雰囲気と丁重な言葉遣いのツアーコンダクターだった。

「遊園地行こうよー! ぼくジェットコースター乗りたいよー」
「ガイアくん! 旅行なんだから、スパルタさんの言うことを聞いて!」
 私がガイアをたしなめると、彼女は優しく微笑んでしゃがみこんだ。
「ガイアさま、私たちの国で一番人気の流星コースターはいかがでしょう。
オリオン座とこいぬ座を見下ろしながら味わうスリルは、ジェットコースターより何倍もお楽しみいただけると思います」
「やったー! スパルタさん大好きー! オバちゃんキライ!」
 ガイアはスパルタさんに抱きついて、さりげなく胸に触っている。
「ガイアさまは星屑クッキーがお好きでしたね。今お持ちします」
 スパルタさんは怒ることなくガイアの頭をなでて、一旦去った。
 私にはもう、宇宙人というより、仏にしか見えなかった。

 ガイアの傍若無人ぶりに振り回されつつ、スパルタさんのおもてなしのおかげで、私はそれなりに滞在を楽しむことが出来た。
 スパルタさんにガイアの家庭教師を頼もうと思ったぐらい、彼女はガイアをあやすのが上手かった。
 滞在期間の一ヶ月は飛ぶように過ぎて、やがて地球へと帰る日がやって来た。

(続く)

◎前編をお読みくださり、誠にありがとうございます。
明日、後編を更新いたします。よろしければお付き合いいただけると幸いです。
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