20 / 23
はじまりの10歳
20.王都辺境伯邸着
しおりを挟む
「ブランシュ様、起きてください!」
「んー、もうちょっと……」
辺境伯領を出てから四日目にして、わたし達はようやく王都の屋敷にたどり着いた。
強行軍だったから、それはもう疲れたし、クッション敷いてたとはいえ、お尻も痛い。長時間同じ姿勢でいるのはきついんだよ。
だから、その翌日の今日はごろごろしていたかったのに、無情にもタチアナはわたしから掛け布団を引き剥がした。……ああ、愛しのオフトゥンが!
「散歩がてら、屋敷の外を探検するとおっしゃってたのはどこのどなたですか! わたくしだって、もう少し寝ていたかったんですよ!」
……いやいや、侍女のあなたがそれ言っちゃ駄目だからね? ちょっと執事に言って、再教育してもらった方がいいかもしれない。
そんなことを思って天蓋付きのベッドから降りると、ふと気になってわたしはタチアナに尋ねた。
「そういや、朝食はどうなってるの?」
「旦那様が本日は遅めに起床されるということでしたから、朝餐は九時になります」
「あー……そうなんだ」
わたしのテンションはだだ下がりした。
昨日もらったパンは夜中に食べ尽くしちゃったし、こんなことなら一個くらい取っておくんだった。ああ、お腹空いたなあ。
でもまあ、既に起き出してしまった以上、このままじっとしてるのもなんだし、わたしは予定通り散策に行くことにした。
「姫様、おはようございます」
屋敷の外を探検していたら、ベンさんの一番弟子というロベルトさんと畑で出くわした。
辺境伯領の城では、敷地の外れに広大な畑とかいくつものガラスハウスがあったけど、まさか王都の屋敷にまで畑があるとは。
とことん食にこだわる辺境伯家ハンパない。
「おはよう。それ、朝食用の野菜?」
籠に入っていた朝採りのトマトやらキュウリをわたしが指差すと、ロベルトさんは頷いた。
「ええ、ブランシュ様も収穫してみますか?」
「うん、やるやる!」
前世、家庭菜園でナスやらプチトマトやらを作ってたことのあるわたしは、嬉々として首肯した。
おっ、オクラだ。オクラの花って綺麗だよね。確か食べられるんだっけ。
オクラは生で食べてもいいけど、色止めして、輪切りにしたのに鰹節載っけて醤油かけたのが好きだなあ。
でも納豆に入れてもいいな。ねばねばしたもの同士で相性いいし。
あれ? でも納豆ってここにもあるのかな? 豆腐もあることだし、あってもおかしくないけど、前世の世界での欧米圏では、どちらかというときわもの扱いだった記憶があるから、ここではどうかなあ。
米があるから藁は入手できるだろうし、納豆菌はどこにでもいるっていうから、醤油なんかと比べたら、作るのはそこまで難しくないんだろうけど。
「納豆食べたいなあ」
わたしが思わず口に出すと、ロベルトさんが反応した。
「そうですか。今日は無理ですけど、明日の朝出しましょうか」
「え、ほんと!? やったー!」
ヒャッホーッ! あった、あったよ、納豆!
ロベルトさんの嬉しい申し出に、わたしは飛び上がって喜んだ。
ほかほかご飯に納豆なんて嬉しすぎる!
いや、パンに納豆とか、納豆パスタとかのメニューもあるけど、やっぱり基本はご飯でしょ!
基本のタレに練りがらしとかでもいいけど、それに叩いた梅干しを和えると、さっぱりしていくらでも食べられるよね!
梅肉和え納豆は、半分に切った油揚げに入れてフライパンでカリッと焼いて食べても美味しいよ。お酒のおつまみに最適だ! あ、お揚げの口は爪楊枝とかで止めてね。
「……納豆って美味しいんですか?」
興味津々といった態でタチアナが聞いてくる。
「わたしは好きだけど、人によっては好き嫌いが分かれるかも」
わたしは敢えて腐った大豆だと言うのをやめた。変な固定観念を植え付けるのはよくない。
すると、ロベルトさんが頷いた。
「そうかもしれませんね。わたしも好きですよ。健康にもいいですしね」
「そうなんですかあ……」
タチアナが微妙な顔になったけど、もしかして彼女の中では、健康によい=美味しくないってイメージなんだろうか。野菜辺りと同じ認識してそうだなあ。
確かにあのねばねばと匂いが受け入れられない人もいるから、タチアナもそうなる可能性は大いにある。
でも、ねばねばはともかく、匂いは卵入れることで軽減するから、これにかけてみるか。卵入れるとまったりした味になって美味しいよね。……あ、ちなみに卵入れるときは、わたしは醤油を入れている。
さらに卵をもう一個増やして、卵焼きにしてもいい。お出汁(面倒だったら顆粒だしでも)と刻んだネギ入れて焼いて食べるとご飯のおかずにぴったりだ!
……おっと、ちょっと脱線した。
納豆の匂い云々は、チーズでも匂いがきついものもあるし、それが大丈夫な人はOKだとは思うけど、タチアナは……うーん、どうだろう。
「……そういや、タチアナはブルーチーズとか好き?」
「なんですか、突然。昔は匂いが駄目でしたけど、まろやかなのなら今は大好きですよ」
きょとんとした顔で答えるタチアナに、わたしは心の中でガッツポーズした。
──よっしゃあ、納豆食わせたる!
わたしは食わず嫌いお子様舌のタチアナに納豆を食べさせる算段を始めた。
「んー、もうちょっと……」
辺境伯領を出てから四日目にして、わたし達はようやく王都の屋敷にたどり着いた。
強行軍だったから、それはもう疲れたし、クッション敷いてたとはいえ、お尻も痛い。長時間同じ姿勢でいるのはきついんだよ。
だから、その翌日の今日はごろごろしていたかったのに、無情にもタチアナはわたしから掛け布団を引き剥がした。……ああ、愛しのオフトゥンが!
「散歩がてら、屋敷の外を探検するとおっしゃってたのはどこのどなたですか! わたくしだって、もう少し寝ていたかったんですよ!」
……いやいや、侍女のあなたがそれ言っちゃ駄目だからね? ちょっと執事に言って、再教育してもらった方がいいかもしれない。
そんなことを思って天蓋付きのベッドから降りると、ふと気になってわたしはタチアナに尋ねた。
「そういや、朝食はどうなってるの?」
「旦那様が本日は遅めに起床されるということでしたから、朝餐は九時になります」
「あー……そうなんだ」
わたしのテンションはだだ下がりした。
昨日もらったパンは夜中に食べ尽くしちゃったし、こんなことなら一個くらい取っておくんだった。ああ、お腹空いたなあ。
でもまあ、既に起き出してしまった以上、このままじっとしてるのもなんだし、わたしは予定通り散策に行くことにした。
「姫様、おはようございます」
屋敷の外を探検していたら、ベンさんの一番弟子というロベルトさんと畑で出くわした。
辺境伯領の城では、敷地の外れに広大な畑とかいくつものガラスハウスがあったけど、まさか王都の屋敷にまで畑があるとは。
とことん食にこだわる辺境伯家ハンパない。
「おはよう。それ、朝食用の野菜?」
籠に入っていた朝採りのトマトやらキュウリをわたしが指差すと、ロベルトさんは頷いた。
「ええ、ブランシュ様も収穫してみますか?」
「うん、やるやる!」
前世、家庭菜園でナスやらプチトマトやらを作ってたことのあるわたしは、嬉々として首肯した。
おっ、オクラだ。オクラの花って綺麗だよね。確か食べられるんだっけ。
オクラは生で食べてもいいけど、色止めして、輪切りにしたのに鰹節載っけて醤油かけたのが好きだなあ。
でも納豆に入れてもいいな。ねばねばしたもの同士で相性いいし。
あれ? でも納豆ってここにもあるのかな? 豆腐もあることだし、あってもおかしくないけど、前世の世界での欧米圏では、どちらかというときわもの扱いだった記憶があるから、ここではどうかなあ。
米があるから藁は入手できるだろうし、納豆菌はどこにでもいるっていうから、醤油なんかと比べたら、作るのはそこまで難しくないんだろうけど。
「納豆食べたいなあ」
わたしが思わず口に出すと、ロベルトさんが反応した。
「そうですか。今日は無理ですけど、明日の朝出しましょうか」
「え、ほんと!? やったー!」
ヒャッホーッ! あった、あったよ、納豆!
ロベルトさんの嬉しい申し出に、わたしは飛び上がって喜んだ。
ほかほかご飯に納豆なんて嬉しすぎる!
いや、パンに納豆とか、納豆パスタとかのメニューもあるけど、やっぱり基本はご飯でしょ!
基本のタレに練りがらしとかでもいいけど、それに叩いた梅干しを和えると、さっぱりしていくらでも食べられるよね!
梅肉和え納豆は、半分に切った油揚げに入れてフライパンでカリッと焼いて食べても美味しいよ。お酒のおつまみに最適だ! あ、お揚げの口は爪楊枝とかで止めてね。
「……納豆って美味しいんですか?」
興味津々といった態でタチアナが聞いてくる。
「わたしは好きだけど、人によっては好き嫌いが分かれるかも」
わたしは敢えて腐った大豆だと言うのをやめた。変な固定観念を植え付けるのはよくない。
すると、ロベルトさんが頷いた。
「そうかもしれませんね。わたしも好きですよ。健康にもいいですしね」
「そうなんですかあ……」
タチアナが微妙な顔になったけど、もしかして彼女の中では、健康によい=美味しくないってイメージなんだろうか。野菜辺りと同じ認識してそうだなあ。
確かにあのねばねばと匂いが受け入れられない人もいるから、タチアナもそうなる可能性は大いにある。
でも、ねばねばはともかく、匂いは卵入れることで軽減するから、これにかけてみるか。卵入れるとまったりした味になって美味しいよね。……あ、ちなみに卵入れるときは、わたしは醤油を入れている。
さらに卵をもう一個増やして、卵焼きにしてもいい。お出汁(面倒だったら顆粒だしでも)と刻んだネギ入れて焼いて食べるとご飯のおかずにぴったりだ!
……おっと、ちょっと脱線した。
納豆の匂い云々は、チーズでも匂いがきついものもあるし、それが大丈夫な人はOKだとは思うけど、タチアナは……うーん、どうだろう。
「……そういや、タチアナはブルーチーズとか好き?」
「なんですか、突然。昔は匂いが駄目でしたけど、まろやかなのなら今は大好きですよ」
きょとんとした顔で答えるタチアナに、わたしは心の中でガッツポーズした。
──よっしゃあ、納豆食わせたる!
わたしは食わず嫌いお子様舌のタチアナに納豆を食べさせる算段を始めた。
0
あなたにおすすめの小説
ヒロインだと言われましたが、人違いです!
みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。
って、ベタすぎなので勘弁してください。
しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。
私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる