吸血鬼ですが、能力も吸血衝動もありません。

透織

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後悔と嬉しさ 煌side

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吸血衝動が来た事はあまり覚えていない。ただ、気付いたら美味しいと思った血を口いっぱいに啜っていたと言う事と、血の気が無くなって首筋から血を流している薫が僕の下でぐったりと倒れていていたと言う事だけは、覚えている。


いつもムカつく伯父上に止められやっと自我を取り戻した僕は、薫を見て血を吸ったのに血の気が引くような気持ちになった。それと同時に、後悔と嬉しさが入り交じっていた。


雪姫からは、とても責められた。けれど、何とも思わなかった。
理由は単純で、雪姫より先に薫の血を吸えたから。
僕は雪姫の責める顔を見て、優越感に浸っていた。

薫が眠っているベッドの横にずっといた。
時々涙を流して、蒼白い顔で時々、うなされているのを見ると目が離せなかった。
伯父上や、父母は休まないといけないと、離そうとするが断固拒否した。

薫の意識がはっきりして水を求めて来た。本当は直接口で上げたかったけれど、それだけでは済まなくなりそうなのでコップを薫の口に持って行った。







その後、伯父上が来て薫に詳しい話をした。

薫には、責められると思った。雪姫からのように怒鳴られるか、怒られるか覚悟していた。
なのに…

「そうか……煌、おめでとう。大人になったのか…」

安心したかのような、微笑ましいと言わんばかりの微笑みでそう言った。
その言葉を聞いて泣いてしまった。
何故泣いてしまったのかは、未だ自分でも分からない。




「煌が泣く必要無いし、謝らなくていい。誰も想像出来なかった事だし。兄弟で良かったじゃないか!後腐れ無く、ね?」
「でもっ、」




薫は、ふーと息を深く吐き身体をふらっと動かした。


何をするんだ?と思っていると、薫の顔が近づき、
「煌、それとも僕の血は不味かった?」
そう言った。

その顔と声のトーンに思わず喉が鳴りそうになった。





「!!!そんな事ありません!薫兄様の血は!……っ」
そう言われ、反射的にばっと立ち上がり、薫の手をギュッと壊さないように握る。
 
不味いわけ無いじゃないか…
 

まだ自分の中の飢えた生き物は薫の血を欲しがっている。

ああ、






〈オイシソウ〉




「だろう?何も悪い事無いじゃないか。貧血になるほどだったから美味しかったんだね?良かったよ…初めての吸血で不味かったらトラウマになってしまうだろう?良かった良かった!」
この人は、どうしてそう言って笑っていられるんだろう?普通は、自分が怖かった。トラウマになったと怒るのが普通じゃないのか?
それなのに、襲って来た本人の前で加害者の心配をするなんて……



「煌、いつか僕にも吸血衝動が来ることが助けてね?そうすればお互い様だろう?」
固まっていると、スッと首筋に薫の手を当てられる。それが、突然のことでビクッと反応してしまった。

「それとも、煌は嫌…?」
薫は眉を下げ、首を傾けそう聞いてくる。
この人はなんて自覚がないのだろうか?


「!!そんな事無いです!兄様だから当たり前です!兄様がその時が来たら僕の血を貪って下さい!」
雑念を振り払うかのように、そう薫に返す。
薫が、理性を失って血を啜る姿を想像するが確実にエロい…誰にも見せたくない。




「じゃあ、この話はおしまい!……煌は、部屋で休んでおいで?まだ、飢えているんだろう?ちゃんと休まないと、今度は煌が倒れてしまうよ」
「!……は、い」
そうだ、まだ飢えがおさまったわけでは無い。ここにいてしまったら、また薫を見境なしに襲うかもしれない。


それは嫌だ…
言うことを聞き、自分の部屋に戻る。





途中廊下で、伯父上に出会った。
こっちに気づいた様で、

「薫の言葉は、お前にとっては主人からの命令のようなものなのだろうね。あれだけ、薫に離れることを拒んでいたのに」ふふふふと不気味な笑いで嘲笑って来た。

ムカつくが、無言で通り過ぎる。
こんなのに時間を使う方が勿体無い。



そうだ、と気の抜けるようなのが聞こえた。
「この前の話の続きだが……」 
ピタッと動きを止める。



伯父上の言葉に被せるように、口を開いた。
「俺は中途半端な気持ちで薫に近づいて居るわけじゃない。ただ、今じゃない。薫に気持ちを伝えても自分のことで精一杯だ。だから、薫の一番近くに居れる"可愛い弟"でいますよ。周りの邪魔者を排除しながら」
グッと睨み付けるように吐き捨てその場を去った。 




「おお、怖っ!」





ああ、薫に会いたい…
今まで一緒に居たけれど離れるとそれはそれで寂しい。






〈ノドカワイタ、オナカスイタ、タベタイ〉



煩い、黙れ。

もう一人の自分の中に居る獣に吐き捨てる。


ちゃんと、休もうそして薫に会うんだ。










と数日休んでいたら、ムカつくおっさ……伯父上が起こしに来た。





「なんですか……?寝起きに見たくない顔を見せないでください」
いきなり起こされ、見たくない顔を見るのは低血圧の自分に大ダメージだ。



「悪かったね。薫のことで薫の部屋で話があるから、着替えたら来なさい」
薫のことで?と返す前に、さっさと扉を締めて去っていった。
ぼーーと数秒考え、頭を振り身体を動かした。

とりあえず、顔を洗おう…








_________________。 

部屋に入ると、何故か尊先生が息を切らして笑っていてそれを見て、薫と伯父上がオロオロと困っていた。



え、どういう状況?


少し困惑しながらも空いている椅子に座る。どうやら、自分が最後だったようでみんな揃って座っている。


「煌、体調はどうだい?」
父母、朱李が心配そうにこちらを見てくる。

「大丈夫です」
こくりと頷いた。それにほっとしたようだ。
雪姫だけは、睨んでいたけれど……


尊先生が落ち着いてから、ベッドを囲む様にみんなが椅子を持って来て座った。
従者以外の玖央家の者が全員居る。




「今から話す事は、他言無用で外部には漏らさないこと。いいね?」
そう、伯父上が全員に問いかけた。

全員無言で頷いた。



「1ヶ月ほど前に、薫の血液検査をした。結果は、配った紙に書いてある」
配られた手元にある紙を捲って、中身を見る。
よく分からない数ばかりで理解が出来ない。
そんな中、薫が下を向いたままボソッと呟いた。


「先生、尊さん……僕は、人間なのでしょうか?」
シーンとした部屋に響いた。

薫が人間……?
どういう事なんだろう……



「!!!どういう事ですの!?」
「雪姫……」
雪姫は、困惑して振り乱した様子で立ち上がった。
朱李がそれを宥めるように雪姫を座らせる。

けれど雪姫だけでは無い、みんなの表情は困惑と言うような顔だった。



「落ち着いてくれ、この数値だけを見ると分からないだろうからちゃんと説明する。……分かった?」
珍しく伯父上の顔に表情が無い。


「申し訳、ありません……」
「……」
雪姫は、顔が真っ青になっていた。
薫は下を向いたまま動かない。今すぐ薫の傍に行って手を握りたくなった。




「血液検査からして、確かに人間の標準値と似ているけれど薫を人間とイコールするのは違うんだよ」 
その言葉にパッと顔を上げる薫の顔は困惑しているようだった。
良かった……泣いているのかと思った。




「薫の場合、白血球、血小板の数値が異常に低い。そして、ヘモグロビンは逆に数値が高い。この数値は、吸血鬼の物よりも高い」
ん???
助けを求めるように尊先生に視線を向ける。それに気づいたように、簡単に説明を始めた。




「薫君の場合、白血球や、血小板が少ない為、治癒力が人間並または、それ以下。なので、怪我をすると治るのに時間がとてもかかるという事ですね。
逆に血が多い為、吸血衝動が必要ないのでは無いかと私達は考察したのです。なので、薫君が人間か吸血鬼かましてや、半吸血かというのは分からないという答えでした」
それで、薫の出血が止まらなかったのか……


「ただ、吸血鬼よりも人間の数値に近いので、人間が治療受けるような処置をしてます」
と、尊さんは薫の方を見た。
薫は頷きほっとした表情だった。









煌side end.
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