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第一章
003 近づくな、と言われた
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辺境伯は、俺から少し距離を取ったまま歩き出した。
「ついて来い」
「え、城とかあるの?」
「ある。というか、他に行く場所がないだろう」
それは、まあ、そうなんだけど。
妙に他人行儀な距離感が気になって、思わず言う。
「そんな離れなくても、俺逃げないよ」
すると、辺境伯はぴたりと足を止めた。
振り返った視線が、さっきよりずっと鋭い。
「……近づくな」
「え?」
「俺に、あまり近づくな」
声は低くて静かだったけど、冗談じゃないのは分かった。
「いや、さっき助けてくれたのに?」
「それとこれとは別だ」
意味が分からない。
でも、それ以上聞こうとすると、彼はそれ以上何も言わずに歩き出してしまった。
仕方なく、少し距離を空けて後をついていく。
しばらくすると、森の奥に石造りの城が見えてきた。
「……でっか」
正直想像してた“辺境の城”より、だいぶ立派だった。
ただ、違和感がある。
明かりはついているのに、人気がない。
音もしない。
まるで、時間が止まってるみたいだ。
「誰もいないの?」
そう聞くと、辺境伯は少しだけ間を置いて答えた。
「……いる。が、あまり近づくな」
「さっきからそればっかだな」
つい苦笑してしまう。
でも、城の中に入った瞬間、その理由が少し分かった。
空気が、重い。
息苦しいほどじゃないけど、胸の奥がじわっと圧迫される感覚。
「……なんか、この城」
言いかけたところで、視界が一瞬、揺れた。
「――っ」
軽いめまい。
壁に手をつこうとした、その瞬間。
「触るな!」
強い声と同時に、手首をつかまれた。
思ったより力が強くて、驚く。
「な、なに?」
「……悪い。だが、俺に触れるな」
至近距離で見た彼の顔は、さっきよりずっと硬かった。
焦りと、苛立ちと、何か別の感情が混ざってる。
「触れたら、どうなるの?」
そう聞くと、彼は一瞬だけ目を伏せた。
「……お前が、壊れる」
意味が分からない。
でも、その言い方が、やけに本気で。
胸の奥が、妙にざわついた。
「別に、触ったくらいで壊れないって」
「ここでは壊れる」
即答だった。
「俺のせいで」
その言葉だけが、妙に重く落ちた。
呪われた土地。
魔獣。
近づくと壊れる人間。
……多分、この人自身が、呪いの正体なんだ。
そう直感した。
なのに、不思議だった。
俺は、さっきからこの人のそばにいるのに、
何も起きていない。
めまいも、もう消えてる。
息も普通にできる。
むしろさっきより頭は冴えていた。
「……ねえ」
俺は、少しだけ近づいた。
辺境伯の手が、ぴくっと動く。
「本当に俺、近づいちゃダメ?」
「――来るな」
そう言いながら彼は後ずさりした。
逃げるみたいに。
その様子を見て、胸の奥が、ちくっと痛んだ。
呪いよりも、魔獣よりも。
この人の孤独の方がずっと重そうに見えた。
……多分俺はもう、間違った場所に来たんじゃなくて。
間違った人に出会ってしまったんだ。
しかも、引き返せないタイプのやつに。
「ついて来い」
「え、城とかあるの?」
「ある。というか、他に行く場所がないだろう」
それは、まあ、そうなんだけど。
妙に他人行儀な距離感が気になって、思わず言う。
「そんな離れなくても、俺逃げないよ」
すると、辺境伯はぴたりと足を止めた。
振り返った視線が、さっきよりずっと鋭い。
「……近づくな」
「え?」
「俺に、あまり近づくな」
声は低くて静かだったけど、冗談じゃないのは分かった。
「いや、さっき助けてくれたのに?」
「それとこれとは別だ」
意味が分からない。
でも、それ以上聞こうとすると、彼はそれ以上何も言わずに歩き出してしまった。
仕方なく、少し距離を空けて後をついていく。
しばらくすると、森の奥に石造りの城が見えてきた。
「……でっか」
正直想像してた“辺境の城”より、だいぶ立派だった。
ただ、違和感がある。
明かりはついているのに、人気がない。
音もしない。
まるで、時間が止まってるみたいだ。
「誰もいないの?」
そう聞くと、辺境伯は少しだけ間を置いて答えた。
「……いる。が、あまり近づくな」
「さっきからそればっかだな」
つい苦笑してしまう。
でも、城の中に入った瞬間、その理由が少し分かった。
空気が、重い。
息苦しいほどじゃないけど、胸の奥がじわっと圧迫される感覚。
「……なんか、この城」
言いかけたところで、視界が一瞬、揺れた。
「――っ」
軽いめまい。
壁に手をつこうとした、その瞬間。
「触るな!」
強い声と同時に、手首をつかまれた。
思ったより力が強くて、驚く。
「な、なに?」
「……悪い。だが、俺に触れるな」
至近距離で見た彼の顔は、さっきよりずっと硬かった。
焦りと、苛立ちと、何か別の感情が混ざってる。
「触れたら、どうなるの?」
そう聞くと、彼は一瞬だけ目を伏せた。
「……お前が、壊れる」
意味が分からない。
でも、その言い方が、やけに本気で。
胸の奥が、妙にざわついた。
「別に、触ったくらいで壊れないって」
「ここでは壊れる」
即答だった。
「俺のせいで」
その言葉だけが、妙に重く落ちた。
呪われた土地。
魔獣。
近づくと壊れる人間。
……多分、この人自身が、呪いの正体なんだ。
そう直感した。
なのに、不思議だった。
俺は、さっきからこの人のそばにいるのに、
何も起きていない。
めまいも、もう消えてる。
息も普通にできる。
むしろさっきより頭は冴えていた。
「……ねえ」
俺は、少しだけ近づいた。
辺境伯の手が、ぴくっと動く。
「本当に俺、近づいちゃダメ?」
「――来るな」
そう言いながら彼は後ずさりした。
逃げるみたいに。
その様子を見て、胸の奥が、ちくっと痛んだ。
呪いよりも、魔獣よりも。
この人の孤独の方がずっと重そうに見えた。
……多分俺はもう、間違った場所に来たんじゃなくて。
間違った人に出会ってしまったんだ。
しかも、引き返せないタイプのやつに。
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