呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨

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第一章

002 魔獣と辺境伯

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 正直、歩き出した時点で詰んでたと思う。
 森は思った以上に深いし、暗い。
 月が二つもあるのに足元はほとんど見えない。

「……これ、完全に遭難コースだよな」

 独り言を言ってないと、頭がおかしくなりそうだった。
 それに、さっきからずっと――視線を感じる。
 振り返っても何もいない。
 なのに、背中だけがずっと寒い。
 嫌な予感しかしない。
 そう思った瞬間、茂みが大きく揺れた。

「……え」

 出てきたのは犬っぽい魔物。
 でも、サイズが大きい。
 しかも目が赤く光ってるし、牙も普通じゃない。
 いや、無理無理無理。
 あれ絶対異世界系でしか見ないやつだ。
 そいつは低く唸り、俺をじっと見た。
 逃げようとしたのに、足が動かなかった。
 身体が固まったみたいに、言うことをきかなかった。
 次の瞬間、地面を蹴る音。
 黒い影が、一直線に飛んできた。

 ――ー死ぬ。

 本気でそう思った時。
 ものすごい風圧と音がして、魔獣が横に吹き飛んだ。

「……え?」

 木に叩きつけられて動かなくなる黒い塊。
 呆然としている俺の前に、ひとりの男が立っていた。
 銀色の髪。
 黒い外套。
 手には、細身の剣。
 月明かりの中で、その姿だけが妙に現実離れして見えた。
 ……というか、普通に綺麗だった。
 男は俺を見て、わずかに眉をひそめる。

「……なぜ、ここに人間がいる」

 低くて、冷たい声。
 責めるようなのに、どこか焦っている感じもした。

「いや、俺もそれ聞きたい」

 思わず本音が出る。
 男は一瞬だけ黙ってから、静かに言った。

「ここは、グレイヴ辺境伯領だ。生きているなら今すぐ立ち去れ」

 ……辺境伯?
 聞いたことない肩書きなのになぜか胸がざわついた。

「無理、かな」
「……は?」
「出たくても、道が分からない」

 そう言うと、男は露骨に嫌そうな顔をした。

「……厄介なことになったな」

 その言葉はこっちが言いたい。

「ていうか、さっきの何?
 」
 倒れている魔獣を指す。

「魔獣だ。この領地には普通に出る」

 普通に出るとか言わないでほしい。

「じゃあ俺さっき貴方が居なかったら死んでいた、って奴ですか」
「……そうだな」

 あっさり認められた。
 男は剣を収めて俺を見下ろす。
 その視線が妙に真剣で、重い。

「忠告しておく。ここにいれば、いずれ死ぬ」
「え、今さら?」
「ここは“呪われた土地”だ」

 その言葉を聞いた瞬間、背中がぞくっとした。
 呪い。
 魔獣。
 異世界。
 情報過多もいいところだ。
 でも男の表情は冗談を言っている顔じゃなかった。

「……あんたは?」

 そう聞くと、少しだけ間が空いた。

「この領地の主だ」

 つまり。

「……辺境伯?」

 男は静かにうなずいた。
 その瞬間、なぜか胸の奥が嫌な音を立てた。
 この人と関わったら、
 絶対にろくなことにならない。
 そう分かっているのに。
 視線がどうしても離れなかった。

 ――ー多分、ここが俺の人生の分岐点だ。

 しかも、かなり致命的なやつ。
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