見捨てられた令嬢は、王宮でかえり咲く

堂夏千聖

文字の大きさ
5 / 68

記憶喪失ですが、夫に復讐いたします 4

しおりを挟む
荷物は小さなトランク一つ。

本当の父と母との幸せだった思い出を精一杯つめた。



幸せだったころの写真、母から受け継いだアクセサリー。母の遺品はこれだけだ。継母から必死に隠して、どうにかこれだけ手元に残すことが出来た。









馬車に乗ってから、向かいに座るシルビオは、窓の外を見たきり、黙ったままだ。



(・・・なんか話したほうがいいのかな。でも、あんなに泣いているところを見られちゃったしなあ・・・)





出発の時、思いもよらず号泣してしまった。

恥ずかしさで気まずい。







気まずいのは、シルビオも同じだった。



(さっきのは、見られたくなかったよな。隠したつもりだが、さすがに不愛想だったか・・・?)



自分のほうがずいぶん年上なのでこの小さな少女にどう向き合っていいのかわからない。

相変わらず彼女は何も言ってこない。





ちらりと盗み見ると、いつのまにか彼女はこっくりこっくりとふねをこいでいる。

馬車の揺れで、今にも座席から転げ落ちそうだ。



(ずいぶん気を張っていたんだな。)

ふっと、自分の表情が緩むのを感じた。



子どもにしか見えないが、時折びっくりするほど大人びた目をする少女。

自分にすぐについてきたときは驚いた。あの家で、どんな扱いを受けていたのか気になるところだ。使用人もつけずに送り出すなんて、普通ではない。

遺産の話に同席させることも普通はしないだろう。



エレオノーラの隣に座り、揺れる頭を自分のほうにもたれかけさせた。

安定した姿勢になった途端、彼女はすやすやと寝息を立て始めた。



ちょっと不器用ながら、もともとは男らしくすっきりとした気性のシルビオ。

よい兄になるべく、ほんの少しエレオノーラに歩み寄るシルビオだった。











ヴェルティエ家についたのは、夜も更けたころだった。

ひと気はあまりなく、執事と言われる年配の男性がひとりで迎えてくれただけだ。





門扉が開かれると、やや荒れた庭園が現れた。

広い庭をすすみ、屋敷の中へはいる。中は、調度品などもなく、質素なものだった。

絵画があっただろうシミ、彫像があったであろう床のあとなど、名門ヴェルティエ家の凋落ぶりがわかる。





客間へ通されると、シンプルだが心地よさそうな部屋。

急ごしらえなのか、部屋の隅にぽつんと寝台がおかれていた。





「何かご不自由なことがあれば、メイドにお申し付け下さい」

それだけ言うと、老執事は背をまげてゆっくりと客間を出ていった。





姿をみせないメイド、腰の曲がった老執事。

公爵家の使用人にしては、お粗末だ。



(公爵家よね?夜更けとはいえこんなに使用人がいないものかしら?)





エレオノーラは、馬車で眠ってしまったため、目が冴えて眠れない。

部屋の中をうろうろしていたが、何もなさすぎて早々に飽きてしまった。



(ちょっとだけ、お屋敷の中を見てみようかな…?)

本来好奇心旺盛なエレオノーラは、さっそく部屋を出て屋敷の中をうろうろし始めた。





(ひ、広い!)

部屋数が多く、廊下も幅が広くながい。

まっずぐな廊下は、全力で走ったら気持ちよさそうだ。





部屋は、ほとんど使われているようになかったが、

一部屋だけ、少しドアが開いており、明かりが漏れている部屋があった。



ドキドキしながら、その部屋へ近づいてみる。



(シルビオ様の部屋だ・・・)



執務机に書類を広げ、書類を比べてはため息、というのを繰り返している。

深刻そうな様子だ。



こんな夜中に歩き回っているのがばれたら、さすがにいい顔はされないだろう。

そっとその場を離れようとすると、



「誰だ?!」



鋭い声と、大きな足音。

驚いて、その場にへたり込んでしまう。



勢いよくドアが開くと、厳しい表情のシルビオと目が合った。



泣きそうな顔で、エレオノーラはその場にへたりこんでいる。



「・・・。」

「・・・。」

二人とも驚いて言葉が出ない。







彼は優し気にふっと微笑んで



「眠れないのか?」



そう言って、ドアの中へと促した。



部屋の中は暖かく、執務机の前に、応接セットのような長椅子と大きな背もたれ付きの椅子が何客か置かれていた。



入ったものの、どうしたらいいのかわからず、部屋に入ったまま、立ちすくんだ。



すると、シルビオは暖炉のそばに背もたれのある大きな椅子を軽々と動かしてきた。





「俺も昔、眠れない夜は屋敷の中をよく探検したよ。 ・・・座るか?」



エレオノーラはおずおずと、その椅子に座った。彼女には大きすぎて、落ち着かない。



「寒かっただろう」



そう言ってそっと、毛布をかけてくれた。



肌触りのよい毛布、こんな風に世話を焼いてもらうなんていつぶりだろう。

なんだか、胸の奥がくすぐったい。

毛布に潜り込むと、



「ちょっとまってろ。」



シルビオは部屋の内側にある扉の向こうへ入っていってしまった。



大きな椅子の上に、毛布でくるまってなんとなく部屋を見つめていた。



大きな窓からは、星空が見える。



窓枠には豪奢な装飾が施され、貴族の一般的な家の窓より二回ぐらい大きい。

窓の大きさ、窓の多さはその家の権力や財力の象徴でもある。

しかし、今となってはガラスは汚れ、飾りのある窓枠も埃がかぶっている。



(以前は、きっと素敵なお屋敷だったんだわ。)



そんなことを考えていると、シルビオが戻ってきた。



だまって差し出されたカップからは、ほんのり蜂蜜の香りがするミルクだった。



「あ、ありがとう…」

消えそうなくらい小さな声。



受け取ったミルクを一口飲むと、ぽかぽかと暖かいものが体中に押し寄せてくる。

こんな気持ちになったのはいつぶりだろう。



母が亡くなってからというもの、エレオノーラのことを気にかけてくれる人は誰もいなくなった。



優しさに飢えていたエレオノーラの心に、じんわりと染み渡るぬくもり。



急に夫だ、と言われた戸惑いもあり、どうしていいのかわからず、こっそりとシルビオを見つめた。







シルビオは、紅茶を手に、窓枠にもたれてどこを見ているのか、ぼんやりとしているようだった。



美しい相貌には、疲れがにじんでいるが、長い足を交差させ、紅茶を飲む姿はまるで聖堂に飾られた絵のようで、神々しささえ感じるほどだ。



鍛えているのか、まくり上げた腕にはうっすらと筋肉がつき、よくみればややがっしりした体格だ。



(男前は何をしても絵になるわね…。)



気恥ずかしくなって、シルビオから目線を外し、暖炉の火を見つめていると、だんだんと瞼が重くなるのを感じた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

さようなら、私を「枯れた花」と呼んだ貴方。~辺境で英雄を救って聖女と呼ばれたので、没落した元婚約者の謝罪は受け付けません~

阿里
恋愛
「お前のような見栄えの悪い女は、俺の隣にふさわしくない」 婚約者アレクに捨てられ、辺境へ追いやられたセレナ。 けれど、彼女が森で拾ったのは、アレクなど足元にも及ばないほど強くて優しい、呪われた英雄ライアンだった。 セレナの薬草が奇跡を起こし、王都を救う特効薬となったとき、かつて自分を捨てた男との再会が訪れる。 「やり直そう」と縋り付くアレクに、セレナは最愛の人と寄り添いながら静かに微笑む。 ――あなたが捨てたのは、ただの影ではなく、あなたの未来そのものだったのですよ。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

処理中です...