見捨てられた令嬢は、王宮でかえり咲く

堂夏千聖

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記憶喪失ですが、夫に復讐いたします 24 執事の証言

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翌日、ロランはシュンドラー男爵家を訪ねることにした。

姉の話だけでは、どうも心もとない。





(シュンドラー男爵と言えば、一昔前は投資で財をなし、彼の触れるものはすべて黄金に変わる、とまでいわれていた。男爵家とはいえ、社交界では一目置かれる存在だったときいているが…)



想像していたイメージとは違い、邸宅は人気がなくひっそりとしている。



とにかく、噂の品のない男爵夫人に娘の結婚の経緯を聞かなければいけないとロランは考えた。

今回、フレデリックから託された任務は、シルビオ・ヴェルティエの事ではなく、その妻の実家と行方を調べてくるということだった。



(奥方は派手に遊び歩いている、と聞いていたけど…)



声を掛けると、使用人らしき男が出てきた。



「シュンドラー男爵夫人はご在宅か?」



「いえ…いらっしゃいません」



言葉少なに対応する使用人。



「では、いつならご在宅だろうか?」



使用人がおろおろしていると、その後ろから執事らしき男が出てきた。



「……実は…ここ数日お帰りでないので……」



「そうか…。こちらのお嬢様のことで聞きたいことがある。だれか……」

と、言いかけたところで、



「わたくしが。」

とその男は言った。

30代後半だろうか、眼鏡をかけ、黒髪はすっきりとセットされ、前髪は後ろに流している。眼鏡の中の切れ長の目は、几帳面そうな印章を与える。



彼は、シュンドラー家の執事長で、先代から務めているらしい。



「シルビオ・ヴェルティエとこちらのご令嬢が結婚された経緯について調べている。」



「なぜ、隣国の騎士団の方が、ここまでお嬢様の件でお越しになっているのですか。」



確かに、シュンドラー家にしてみれば、いぶかしむのも当たり前である。



「……ご令嬢の行方についても、だ。」



行方、という言葉を言ったとたん、執事の顔色が変わった。



「お、お嬢様は生きておられるのですか?!今、どうしておられるのでしょう?!」



すがるように、ロランに近寄ってきた。



(こんなに動揺するということは、やはり行方については心当たりがないのか…?)



「詳細は話せないが、王命である。」

そういって、リュトヴィッツ王の刻印の入ったエンブレムを見せた。

火急の王命の場合、このエンブレムが渡される。が、正しくは王命でなく、フレデリックが持っているエンブレムを念のため渡されただけである。



(フレデリックさん、すごいよな。王からこれを渡されているんだから。っていうか、俺に持たせるってことはよっぽど大事な任務ってことではあるんだけど……)



まさか、ここで使うことになろうとは、ロランも想像していなかった。





「わかりました、お話ししましょう。」

行方については執事も心当たりがないようだった。

「お嬢様は、追い出されるような形でこの家を出ていかれました。婚姻の話をした当日ですよ?!このシュンドラー家の令嬢が、何の準備もなく、身一つで婚家へ行くなど想像もしておりませんでした」



「お嬢様は、今の奥様がお見えになるまで、本当に聡明で美しく、もう、天使そのものでした。その姿も、奥様によく似ておいでで、金色の髪をなびかせ、よく笑いながらお庭を駆け回っておいででした。」



そう言って、執事は、おもむろに部屋の隅に飾られた小さな風景画を外し、その中から肖像画らしきものを取り出した。



「これが、お嬢様が小さい時の姿絵です。」



そこには、家族3人の姿が描かれていた。



シュンドラー男爵だろうか、黒髪に、黒い瞳で優しそうに微笑む20代後半くらいの男性と、椅子に座っている女性は、金の髪に、紫の瞳で、人間離れした美しさで微笑み、その膝には2~3歳の女の子が、座っている。確かに、空から天使が落ちてきたようなかわいらしさだ。



「これが、シュンドラー男爵一家…」



「奥様がお亡くなりになるまでは、いつもこのような感じだったのです。」



「新しい奥様が、お越しになってからこの家はもう……」



「その、新しい奥様、というのはどんな方だ?」



新夫人は、噂と相違ない人間のようだった。

若い男を侍らし、装飾品に湯水のようにお金を使っている。現在も若い恋人と、有名な湖のある観光地へ旅行の最中だという。



「この、肖像画の男爵が、そんな女性を連れて帰ってくるなんて、想像できないな。」

ロランは思わず、本音が漏れてしまった。



「旦那様は、心を病まれていたのだと思います。酩酊状態で帰ってこられることも多かったですし、記憶がない中、どうしてそうなったのか、婚姻届けをだしてしまったようなのです。」

新夫人は、酒場で働いていた女性らしかった。気風の良さと明るさが取り柄で、店でも人気者だったらしい。





「しかし、貴族の社会ではなじめなかったようで、次第に怒りを使用人だけでなく、お嬢様にも向けることになったのです。」
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