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記憶喪失ですが、夫に復讐いたします 26 コレットの勘

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姉のコレットは、ロランの帰りを今か、今かと待っていた。



弟のロランが急に訪ねて来たと思ったら、ヴェルティエ家とシュンドラー家のことを調べている。隣国からわざわざ駆けつけるほどの何かがあったに違いない。



疲れた様子で、屋敷に戻ってきた弟に声を掛けた。



「どうだった?何か、わかった?」



「うーん、シュンドラー男爵家のことは少しね。」



「ヴェルティエ家のほうは?」



「それがさあ…」



ロランは、シュンドラー男爵家に行く前に、念のためヴェルティエ家も訪ねていた。しかし、ヴェルティエ家の使用人は皆、奥方が行方不明になってから雇われた者ばかりで、誰も詳細を知らなかった。



(シルビオさんについての情報は、姉さん以外なんの情報もないんだよな~…)



「そう…」



コレットは何かをじっと考え込んでいる様子だった。



「何か、あった?」



コレットのうわさ話が始まりそうで、めんどくさいなあ、と感じながらも念のため聞いてみた。



「何か変なのよね…」



「何が?」



「だって、奥様がいなくなってから、もう何年もたっているのよ、なのにまだ根強く噂されているんだもの」



「まあ、そうだよね。でも、3年ぐらいでしょ、そんなもんじゃない?」



「そうかしら…」



姉のコレットは、腑に落ちない様子でロランを見た。



「何、なんかあるの?」



「なんとなく、誰かが意図的に噂を流しているような気がするのよね」



「なんでそう思ったの?」



「何年も前の醜聞なんて誰も興味ないのよ、なのに夜会なんかに行くたびにヴェルティエ公爵の話が出るのよ」



どんな大きなスキャンダルでも1年もしないうちにみんな飽きてしまう。社交界では新しい話題のほうが、価値があるからだ。



(確かに不思議だよな。もう言わなくてもみんな知っているはずなのに)



「それ、誰から?」



「それがわからないから、ちょっと気味が悪いなあと思っていたところに、あなたが来たでしょう?何かあるんじゃないかと思って」



「うーん、何か、ねえ」

(これも調べてみる…?いや、フレデリックさんにそこまで言われていないし、機会があれば、ってことにしよう!)



なんとなく任務をこなして、適当に帰ろうと思っていたロランには、何かあったところで、仕事が増えるだけである。

ロランは出世に関して無欲なタイプだった。功績を上げようなど夢にも思わない。

騎士としては珍しいタイプだ。



そんな、ロランの心中を察したように、コレットは苦笑いし、



「まあまあ、まだしばらくこちらにいられるのでしょう?ゆっくりしていったら?」



「そうだね、そうするよ!」

ゆっくりする気のロランである。



「数日後にちょうど夜会があるから、一緒に行きましょうよ!」



「えー?!」



「何が”えー”よ!仕事しなさい、仕事!」

ロランとは対照的に、姉は弟にせっかくの任務なのだから、出世につなげてほしいと心の中で思っているのだ。

「はあい…」

しぶしぶ、返事をした。

姉には弱いロランであった。



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