見捨てられた令嬢は、王宮でかえり咲く

堂夏千聖

文字の大きさ
28 / 68

記憶喪失ですが、夫に復讐いたします 27 エレオノーラの母

しおりを挟む
そのころ、リュトヴィッツ王国ではアンナマリーだけでなく、エレオノーラもアカデミーに行くため入学準備を行っていた。



取り戻した記憶は、父と母と過ごした幸せな物だけではなかった。継母が来てからは、屋敷の片隅で息をひそめるように生活していたことしか思い出せない。確かめたわけではないが、自分の過ごしたあの家にもう居場所はないのではないかと考えていた。



疎まれている家に帰るより、自分の力で生きる方法を身に着けたほうが、はるかに安全だ。



(もう、この国で生きていくしかない)



馴染みのある人達がいる王宮で、それも事務方の官吏になれたら、なんとかいきていけるのではないかと考えていた。



そのためには、アカデミーでの学位が必須となる。

アカデミーに入るための入学試験があり、ある程度の成績があれば入学できる。しかし、奨学金が得られる特待生は10位までの10人と決まっている。エレオノーラはその10人に入るために、猛勉強をしていた。





早朝、学科の勉強をして、アンナマリーの家庭教師の授業に同席させてもらう。

この国の学科試験はとにかく暗記が多い。頭の中はパンパンだ。



授業を受ける部屋で、アンナマリーの机の横にエレオノーラ用の机が用意されている。そこには覚えたいもの、前日できなかったものなど、書物や紙がうずたかく積まれていた。



一つ一つ見返しながら、地道に復習していく。



そこへ、アンナマリーがやってきた。そろそろ家庭教師が来る頃なのだろう。



「毎日ほんとによくやっているわよ、あまり無理しちゃだめよ?」



エレオノーラが早くに来て勉強をしていることを知っているアンナマリーは声を掛けた。



「知らないことが多くて、覚えるのが大変です」

エレオノーラの目の下のクマは、日ごとに濃くなっていた。

王宮侍女たちによるスペシャルエステでもごまかせないほどだ。



「あら、でも歴史はいつも得意みたいじゃない?」



「そうですね…なんだか聞いたことのある話が多くて」



「じゃあ、生まれはリュトヴィッツ国内だったのかしら?」



「どうなんでしょう…家名がわかればはっきりするのでしょうが…。父は爵位が低くてほとんど実業家のような感じでしたし、母は、社交はあまり得意ではなかったみたいで、お付き合いもなかったので、どこの国なのか…」



「そうよね、探したけれど、この国の貴族で行方不明の令嬢はいなかったものね…。でも、だんだん思い出してきたのね!」



「はい、似たような風景をみると、あ、これ知ってる!という感じで思い出すことが増えましたね。例えば、皆さんつけていますよね、エメラルド。母もつけていたのです。」



前に、アンナマリーがつけていた宝石の髪飾りに見覚えがあった。

この国の貴族は、皆よく似た宝石を身に着けている。ハンナに聞いたところ、リュトヴィッツ王国の特産であるエメラルドだという。透明度が高ければ高いほど価値が高く、貴族はその透明度を競うのだそうだ。

エレオノーラの母も、小さなエメラルドのペンダントをいつもつけていた。



「へえ、他にどんなこと思い出したの?」



「リュトヴィッツ王国の紋章に覚えがありました。母の持ち物にあったような気がします。あと、ローゼンダールの都市名は聞いたことがあるところが多かったです。なので、ローゼンダールに住んでいたのかもしれません」



「ちょっとまって、持ち物に王国の紋章?」



「はい」



エレオノーラがうなずくと、アンナマリーは眉をひそめてじっと考えこんでいる。



「何に紋章が入っていたの?」

と、アンナマリー。



「母が亡くなる前、木でできた箱を預かっていたのを思い出したのです。その、木箱は装飾が施されていて、その装飾の中央に紋章がありました。」



「その中身は?」



アンナマリーの表情は変わらない、心なしか緊張しているようだ。その様子をエレオノーラは不思議に思いつつも、



「わかりません。開けないように、と言われていましたから、見たことがないのです。そのまま忘れていて、家を出るときに慌ててトランクに入れたような気がします。」



「ちょっとまって、あなた、家を出たの?もしかして家出?」



「あ、そうですね。どうでしょう…家を出ましたけど、家出ではなかったような…誰かに連れられていった、のかな…」



(ぼんやりとしていてわからない…誰に連れていかれたような気がするけど…)



また、頭の中にもやがかかったようで、混乱していた。



「それって、誘拐?!…って、大丈夫?顔が真っ白よ!」



アンナマリーがいつの間にか、心配そうな顔をしてエレオノーラを覗き込んでいた。



「あ、すみません、何か思い出せそうだったのですが…また引っ込んでしまいました」



「なんだか、あなたを見ていると危なっかしくて目を離せないわ」



はっとして、顔色がもとに戻ったエレオノーラをみて、ほっとした顔を向けるアンナマリーだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

さようなら、私を「枯れた花」と呼んだ貴方。~辺境で英雄を救って聖女と呼ばれたので、没落した元婚約者の謝罪は受け付けません~

阿里
恋愛
「お前のような見栄えの悪い女は、俺の隣にふさわしくない」 婚約者アレクに捨てられ、辺境へ追いやられたセレナ。 けれど、彼女が森で拾ったのは、アレクなど足元にも及ばないほど強くて優しい、呪われた英雄ライアンだった。 セレナの薬草が奇跡を起こし、王都を救う特効薬となったとき、かつて自分を捨てた男との再会が訪れる。 「やり直そう」と縋り付くアレクに、セレナは最愛の人と寄り添いながら静かに微笑む。 ――あなたが捨てたのは、ただの影ではなく、あなたの未来そのものだったのですよ。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

処理中です...